創業50年の老舗水道凍結防止装置メーカー ICT活用の経営改革と新規事業分野開拓で100年企業目指す 山清電気(長野県)

目次

  1. 創業者自らトラックで製品を売り込み、施工技術も提案
  2. 震災後の東北の仮設住宅に納入し、商圏を全国に拡大
  3. 総工費6億円で新本社工場建設、生産増強と生産性向上を実現
  4. 「あたためる価値創造企業へ」を経営目標に新たな成長に挑戦
  5. IT資産管理ソフトでのセキュリティー対策強化で新規取引を獲得
  6. 請求書発行の電子化で手作業ゼロ、切手代など約300万円削減 働き方改革にも
  7. 製造技術マニュアルの電子化や生産計画作成へのAI活用も検討
  8. 「伝統と改革」キーワードに既存事業の効率化と新事業分野開拓
  9. 就任3年間で経営課題にめどをつけ、100年企業への土台築く
中小企業応援サイト 編集部
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寒冷地で冬場に発生する水道管の凍結トラブルを未然に防ぐヒーターを主力に、玄関や階段の融雪マットなど寒冷・積雪地域の人々の生活を守る電熱製品を製造し、全国に販売する企業が長野県安曇野市にある。寒冷地の住環境を整える電熱製品一筋に創業50周年を迎えた山清電気株式会社だ。2023年6月に就任した木下正和代表取締役は、ICTを活用した経営改革に着手すると同時に、「あたためる価値創造企業」を目指し100年企業への挑戦を始めた。(TOP写真:平屋建てで生産性を高めた新本社工場)

創業者自らトラックで製品を売り込み、施工技術も提案

山清電気の創業は、1974年(昭和49年)12月。大手電熱メーカーに勤めていた伊藤敦祐氏が独立して一般家庭向けの水道凍結防止ヒーターの製造を始めた。冬場の気温が氷点下にまで低下する長野県のような寒冷地では、朝に水道管が凍結して水が出なくなるトラブルがよく発生する。最悪の場合は水道管が破裂することもあるため、寒冷地の住宅に普及し始めていた水道管を温めて凍結を防ぐ水道凍結防止ヒーターの製造に乗り出した。

創業者自ら製品の水道管結防止ヒーターをトラックに積んで水道工事業者を回り、製品を売り込んだという。その甲斐あって山清電気は製品品質に加えて、施工技術も提案できるメーカーとして認知され、徐々にシェアを高めた。

震災後の東北の仮設住宅に納入し、商圏を全国に拡大

創業50年の老舗水道凍結防止装置メーカー ICT活用の経営改革と新規事業分野開拓で100年企業目指す 山清電気(長野県)
山清電気の評価を高めた新製品「エコフィットヒーター」

二代目として社業を引き継いだのは、創業者・敦祐氏の甥(おい)にあたる伊藤恭彦氏。2011年3月に発生した東日本大震災後の仮設住宅建設に関連して同社の水道凍結防止ヒーターへの評価が高まり、全国的に販売を伸ばすことになる。「東北の仮設住宅ですから水道凍結防止対策が必要になるため、当社もかなり多くの注文をいただきました。それを水道設備関連の問屋さんを通じて納めるのですが、それによって全国規模の問屋さんの認知度が高まり、その後の売上と商圏拡大につながりました」と、当時営業を担当していた木下社長は振り返る。

2010年5月期の売上高約4億円が2012年5月期には1.7倍以上の7億円に拡大した。2009年に開発した安全回路と高耐熱被覆素材の採用による高い安全・断熱性を備えた上に、温度コントローラーとヒーターに設置した2つのセンサー採用によって省エネ性能を高めた水道凍結防止ヒーターの新製品「エコフィットヒーター」が同社の認知度向上に果たした役割は大きい。水道管は鉄製鋼管からライニング鋼管に変わり、今はポリエチレン配管に変化してきた。新製品はポリエチレン管用に開発したもので、時代の変遷にもマッチしていた。

総工費6億円で新本社工場建設、生産増強と生産性向上を実現

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水道凍結防止ヒーターの製造工程

2022年6月には総額6億円を投じて建設していた新本社工場が完成し、操業を開始した。同社は長野県の「地域未来投資促進基本計画」に基づく地域経済牽引(けんいん)事業として承認されており、同事業関連の「地域活性化・雇用促進資金」の適用によって日本政策金融公庫など3金融機関の協調融資を受けた。

新本社工場は敷地面積7000平方メートル、延べ床面積2500平方メートルの鉄骨平屋建て。「以前の工場は2階建てで、生産工程が分断されて生産ロスがあったため、新工場は平屋にして生産工程のつながりを良くし、生産能力を5%程度増強すると同時に生産性も5~10%向上させました」(木下社長)という。

「あたためる価値創造企業へ」を経営目標に新たな成長に挑戦

創業50年の老舗水道凍結防止装置メーカー ICT活用の経営改革と新規事業分野開拓で100年企業目指す 山清電気(長野県)
「100年企業を目指す」と語る木下正和代表取締役

創業家一族に後継者がいないことから2023年6月に、木下氏が三代目にして初の生え抜きトップとして代表取締役に就任した。「2024年5月期を目標としていた売上高10億円はすでに2022年5月期に達成しました。今年度は就任初年度でもあり、売上高を伸ばしたいとの思いはありましたが、記録的な暖冬の影響で売上は伸び悩み、前期を下回る10億円程度にとどまりそうです」。木下社長は忸怩(じくじ)たる思いを吐露するが、これも気象条件に大きく左右される製品を扱う企業の宿命だ。

「創業者から二代目と紡いでくれた山清電気の経営を引き継ぎ、私たちは100年企業を目指します」として、木下社長は「あたためる価値創造企業へ」という経営目標を掲げる。創業50周年を経て、新たな50年に向けた経営改革と気象条件に左右されがちな宿命から脱皮し、経営の安定化を目指す挑戦に乗り出した。

IT資産管理ソフトでのセキュリティー対策強化で新規取引を獲得

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ICT化に取り組む本社事務所

ICTを活用した経営改革はすでに始まっている。2024年3月に、情報セキュリティー対策に有効なIT資産管理ソフトを導入し運用を始めた。

「大手ハウスメーカーさんから(取引の)お声がけをいただいた際に、取引条件となるセキュリティーチェック項目に十分に対応できていないことが判明し、即刻IT資産管理ソフトの導入を決めた」(木下社長)。セキュリティー対策を強化したことで大手ハウスメーカーとの新規取引が始まった上、パソコン、タブレット、スマートフォンなど社内の情報機器の一元管理も可能となった。

「IT資産管理ソフトの導入によってICTに詳しい一部の社員に仕事が集中していたシステムの改善や情報機器の管理の平準化など、社内のICTリテラシーの向上が期待できますし、何といってもこれからは地方都市でもセキュリティー対応が取引を増やしていくカギになります」と、木下社長は導入効果を期待する。

請求書発行の電子化で手作業ゼロ、切手代など約300万円削減 働き方改革にも

創業50年の老舗水道凍結防止装置メーカー ICT活用の経営改革と新規事業分野開拓で100年企業目指す 山清電気(長野県)
請求書発行システムを操作している様子

同年4月には、請求書発行システムも導入した。従来は営業事務の社員2人で請求書・納品書の発行、封筒封入、郵送の業務をこなしていたが、今はすべてデジタルで対応できるため、手作業でこなしていた年間約3万5000件の請求書・納品書発送業務が不要となった。まだ運用を始めたばかりだが、請求書・納品書発行業務は9割の削減が見込まれるため、営業事務の人員は「2人から1.5人以下に減らせる」(木下社長)と見る。その分の紙や封筒、切手代合計の年間約300万円のコストも削減できる計算だ。請求書など紙の保管も不要になる。

人件費や発行コスト削減に加えて、木下社長は「業務の手間が省かれることは社員のストレスに関わり、働き方も大きく変わると思います」と話し、働き方改革にもつながることを期待している。

製造技術マニュアルの電子化や生産計画作成へのAI活用も検討

創業50年の老舗水道凍結防止装置メーカー ICT活用の経営改革と新規事業分野開拓で100年企業目指す 山清電気(長野県)
今後は製造部門のICT化を強化する

今後のICT化への期待も大きい。まずは製造部門について、高い技術を持つ技能者が積み上げてきた製造技術や技能を未来に継承していくために、製造手順をデジタル化して整備することだ。高度な製造技術をデジタルでマニュアル化し、社内で共有化するシステムを構築すれば、日本のモノづくり現場で問題となっている技能の伝承につながる。人間が行っている生産計画作成へのAI活用や、顧客からの意見や提案をデータベース化して活用することも検討する考えだ。

「伝統と改革」キーワードに既存事業の効率化と新事業分野開拓

創業50年の老舗水道凍結防止装置メーカー ICT活用の経営改革と新規事業分野開拓で100年企業目指す 山清電気(長野県)
本社事務所前の木下正和代表取締役

経営理念であり、経営目標である「あたためる価値創造企業へ」に向けたキーワードは「伝統と改革」だ。コア事業である水道凍結防止ヒーターと、その後に生み出した玄関融雪マットなどの融氷雪機器を伝統事業と位置づけて効率化を進める一方で、第3の柱として「あたためる価値を創造する」新事業分野開拓を狙っている。

新事業分野開拓の第一弾は、畜産ヒーターだ。動物の飼育環境を改善する床暖房のようなヒーターシートで、すでに新本社工場で生産を始めている。農業分野向けの電熱製品についても開発を進めている。いずれも季節に関係なく通年でニーズが見込める分野で、経営の安定化が狙いだ。

就任3年間で経営課題にめどをつけ、100年企業への土台築く

創業50年の老舗水道凍結防止装置メーカー ICT活用の経営改革と新規事業分野開拓で100年企業目指す 山清電気(長野県)
本社工場入口

気候に左右されるコア事業は、地球温暖化の進展によって大きな成長は見込めないかもしれない。同時に気候変動問題を背景に省エネニーズが高まっている。「省エネ性能を高めていくことももちろん重要だが、世の中には発熱素材もある。電気を使わないで凍結防止する仕組みを考えていく必要もある」(木下社長)と、将来を見据える。

ICTを活用した経営改革と、既存事業の効率化、新事業分野の開拓。これらの経営課題に対し木下社長は、「2023年6月の就任後3年間できちっとした形に仕上げていきたい」と話す。そこには「私の在任期間中に100年企業への土台を築いておきたい」とする強い思いがあるからだ。

企業概要

会社名山清電気株式会社
本社長野県安曇野市豊科高家1269-1
HPhttps://sansei-dk.co.jp
電話0263-88-8209
設立1974年12月
従業員数44人
事業内容水道凍結防止器の製造・販売、各種電熱器具の製造・販売など