相続手続きに戸籍関係の書類は欠かせません。
故人の配偶者の有無や親族関係などを正しく把握することは、決して不備のないように金融機関や公的機関が求めてくるのはもちろんのこと、残された家族にとっても一連の相続手続きのための大前提となります。
どのような書類が、どの手続きでなぜ必要なのかを詳しくみていきましょう。
戸籍関係の書類が必要な手続き
戸籍関係の書類(以下「戸籍など」)が必要となる主な手続には以下のものがあります。
・金融機関の名義変更
・証券会社の名義変更
・不動産の所有権移転登記(相続登記)
・自動車の名義変更
相続に伴う種々の名義変更を行うには、亡くなった方(被相続人)の財産の相続権者をすべて明らかにし、特定の相続人が特定の財産を相続するのであれば、他の相続人全員の同意を得る必要があります。
もし相続人の把握に抜かりがあると、名義変更が終わってから争いが起こるかもしれません。
金融機関などもしっかり確認しなかったとしてその責任を追及される恐れがあります。
そのような事態を避けるため、どの金融機関も慎重に手続きを進めるのです。
必要書類には何がある?
相続手続きに必要な書類は以下のとおりです。
①被相続人の出生から死亡まで連続したすべての期間の戸籍謄本
②相続人全員の戸籍謄本
③相続関係説明図
④(相続人が複数の場合)印鑑証明書
⑤同じく遺産分割協議書
①については、現在の本籍を表す戸籍謄本、過去の本籍を表す除籍謄本、改製原戸籍謄本(以下「原戸籍謄本」)が含まれます。
原戸籍は正式には「げんこせき」ですが、役所や法律専門家の間では「はらこせき」と呼ばれています。
「げんこせき」だと「現戸籍」と紛らわしいからです。
①は被相続人の相続人となり得る人物を確定するために取得します。
被相続人が過去に結婚歴があり、前配偶者との間に子供がいたり、聞いたことのない兄弟姉妹がいたりということがないかどうかをすべての戸籍記録でチェックするのです。
また、②は相続人と被相続人の関係を証明するために必要です。
戸籍の種類
実際に戸籍などを取得する際は「相続に使う」と言えば、役所の方で原戸籍や除籍を含めたものまでチェックして出してくれると思いますが、各戸籍の違いを知っておきましょう。
①戸籍謄本
その人の現在の本籍地を「一組の夫婦とその夫婦の子」という家族単位で証明する書類です。
子が結婚すれば、配偶者とともに新たな家族単位としての戸籍が作られ、子が一人だけなら元の籍に記載されるのは親夫婦のみとなります。
結婚後に子と親が同じ家に住み続ける場合でも、戸籍はそれぞれ別となります。
②除籍謄本
やがて年月が経ち、夫婦が二人とも亡くなり、戸籍の中で生存している人が一人もいなくなった場合、その戸籍を除籍謄本といいます。
③改製原戸籍謄本
戸籍法などの改正に伴い、戸籍の様式などが変更になると、私たちの戸籍情報は新様式に転載されますが、全ての情報が転載されるわけではなく、変更の時点で特に効力がないとされるものは、記載を省かれます。
新たな様式に変更する前の戸籍のことを原戸籍といいます。
最近では平成6年に改製がされています。
なお、除籍謄本も原戸籍謄本も、役所での保存期間は150年とされているので、少なくとも相続関係だけであれば問題なく取得できるでしょう。
また、戸籍「謄本」と「抄本」を間違えないようにしましょう。
戸籍抄本は、戸籍に記載されているうちの一部(例えば被相続人だけ)の人の情報を記載したものです。
相続手続きには、原則同じ戸籍に入っている全員の情報が記載されている戸籍謄本が必要です。
戸籍の請求方法
戸籍は被相続人など、必要な人の本籍がおかれている市区町村役所に請求します。
遠方であれば郵送も可能です。
ホームページから請求書をダウンロードできる自治体も多くあります。
必要な戸籍の本籍地、戸籍の筆頭者などの必要事項を書いた請求書と本人確認書類(被相続人と同一の戸籍でない場合、直系の尊属か卑属であれば請求可能)、切手を貼った返信用封筒と料金分の定額小為替を一つの封筒に同封して請求します。
料金については定額小為替以外(郵便切手や現金書留など)では受け付けてもらえません。
郵便局で必要な料金分の定額小為替を購入する必要があります。
ただ、同一自治体で複数の戸籍が出されることがあるので、分からない場合は多めの料金を入れておくのも良いでしょう。
もちろん足らない場合は役所から連絡があるので不足分を後から送ることもできますが、その分戸籍の郵送が遅れます。
ちなみに、相続手続きに使う戸籍などの書類は、被相続人が亡くなってから10日後以降に作成されたものでなければなりません。
手続きを急ぐあまり早すぎる取得をしないよう注意しましょう。
相続関係説明図とは
「相続関係説明図」とは、被相続人と相続人との関係が分かりやすく書かれている図面のことです。
不動産の名義変更の際に作成し、他の必要書類とともに法務局に提出すると、戸籍などの原本を返却してもらえます。
ところで、最近導入された「法定相続情報証明制度」(平成29年5月29日開始)は、この相続関係説明図をより広い相続手続きに使えるよう、申出に対して法務局で認証を与えるものです。
今後はこの新制度が利用されることが多くなるでしょう。
法定相続情報証明を取得するには
ここまで説明してきた方法で戸籍などを取得後、それらの資料を基に、誰が法定相続人か、また各相続人はそれぞれ被相続人とどのような関係にあるのかの一覧図を作成します。
引用元:法務局 「法定相続情報証明制度」
作成したら、申出書(正式名は「法定相続情報一覧図の補完及び交付の申出書」)に必要事項を記入し、戸籍などの原本と申出人の本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)のコピーとともに法務局へ申し出ます。
申出は、被相続人の死亡時の本籍地や最後の住所地を管轄する法務局はもちろん、申出人の住所地を管轄する法務局などでもできます。
書類に不備がなければ、認証したとの文言が付された一覧図の写しが交付されます。
写しは必要な通数分交付され、申出の翌年から5年以内であれば何度でも再交付が可能です。
交付も再交付も費用はかかりません(郵送費は別途必要)。
申出は相続人以外にも、弁護士、司法書士や行政書士など、一定の資格者による代理が可能です。
法定相続情報証明があれば戸籍などの書類は提出不要な場合も
これまでは戸籍などの原本を提出しなければ相続手続きはできなかったのですが、この新制度導入により、現在不動産や自動車などの相続登記や相続税の申告などの公的機関の手続きについては、一覧図の写しさえ提出すれば足りるようになりました。
大手の金融機関でもこの新制度を利用できるところが増えてきています。
これまでは各金融機関や法務局に原本を提示もしくは郵送しては返却してもらいを繰り返していた相続手続きが、必要枚数の一覧図をまとめて交付してもらえば並行して行うことが可能となったのです。
もちろん、相続財産の種類が少ない場合などは、これまでの相続関係図を使った登記手続きも引き続き利用可能です。
まとめ
法定相続情報証明制度が今後さまざまな機関でも利用することができるようになれば、相続手続きの負担の軽減が期待できます。
しかしその場合でも、一覧図作成と申出のため、必ず一度は戸籍などを取得しなければなりません。
被相続人が転籍を繰り返している場合など、出生から死亡までの全ての戸籍を揃えるのに時間がかかることもあります。
取得には余裕を持って取りかかるようにしましょう。
(提供:相続サポートセンター)