目次
- 設計と施工の両方に責任を持つアーキテクトビルダー
- オーケストラの演奏に例えるとアーキテクトビルダーは指揮者に相当する
- 2015年に衣・食・住の複合施設「暮らしの森」を開設 空間全体で都市的な創造性や開放性を醸成
- 子どもたちと保護者を対象に家づくりを体験できるイベントを企画
- デジタル技術に感じる大きな可能性 地域を元気にすることで会社を成長させていきたい
- SNSの普及に伴って観光客が100倍になった瀬戸内海の絶景地で、異業種と連携して宿泊施設「URASHIMA VILLAGE」を運営
- 新しい技術と伝統的な素材の組み合わせを重視して設計 ネットワーク環境の充実にも力を注いだ
- 異業種連携で市民大学も運営 地域の魅力を編集して付加価値を生み出す
- 社内業務の効率化に3D-CAD、施工管理システム、会計管理システムを活用
- ICTを活用して地域に軸足を置きながらグローバルに取り組む
瀬戸内海に面した香川県西部の三豊市は自然と歴史資産に恵まれた人口約6万人の地方都市だ。市の北西に突き出た荘内半島には美しい砂浜が広がる。その中の父母ヶ浜は近年、絶景スポットとして世界中から観光客が訪れる場所になった。情報の拡散に大きな役割を果たしたのがSNSだ。株式会社金丸工務店は、活性化の大きな可能性を秘めたこの地域で、半世紀以上にわたって、住宅や公共施設の設計・施工に取り組んできた実績を持つ。時間と距離の壁を埋めるデジタル技術に着目し、地域づくりを視野に建築業の枠を超えた多彩な活動に取り組んでいる。(TOP写真:金丸工務店が開設した衣・食・住の複合施設「暮らしの森」)
設計と施工の両方に責任を持つアーキテクトビルダー
金丸工務店の本社は、香川県三豊市内のJR本山駅から約1キロの幹線道路沿いに広がる衣・食・住の複合施設「暮らしの森」の一角にある。一級建築士の資格を持つ藤田薫代表取締役は、自らの役目を設計と施工の両方に責任を持つアーキテクトビルダーと位置付けている。洗練されたデザインと住みやすく安全な造り。金丸工務店は設計事務所と工務店双方の強みを生かして、この二つの特長を兼ね備えた住宅、施設の建築に取り組んでいる。常に「スモール イズ ビューティフル」と「ロングライフデザイン」のコンセプトを大事にしているという。
オーケストラの演奏に例えるとアーキテクトビルダーは指揮者に相当する
「お客様の価値観やライフスタイルを反映した上で、流行に左右されない普遍的なデザインにすることを心掛けています。建築をオーケストラの演奏に例えると、アーキテクトビルダーは、楽器の演奏者に相当する職人を束ねる指揮者だと思っています。演奏と建築の違いはあっても、携わる一人ひとりがベストなパフォーマンスを発揮できるように指揮を執るところは非常に似ているように思います」。金丸工務店の本社で取材に応じた藤田社長は仕事にかける思いを柔和な表情で話した。
デザインとともに機能も重視している。断熱性能の向上や再生可能エネルギーの導入などを通じて省エネルギー性能を高めたZEH(ネット・ゼロ・エネルギーハウス)の普及にも力を入れている。
2015年に衣・食・住の複合施設「暮らしの森」を開設 空間全体で都市的な創造性や開放性を醸成
藤田社長は大学卒業後、大阪府内の大手設計事務所に勤務した後、1995年4月に故郷の三豊市にUターンして、金丸工務店に入社した。創業者の後を継いで2003年8月から代表取締役を務めている。
金丸工務店は2015年、自然、風土、四季、文化を感じることができる地域に活気と潤いを与える場所として、自社のオフィス、ギャラリーと雑貨店、カフェ、料理教室といった複数のテナントで構成する複合施設「暮らしの森」を開設した。藤田社長は、空間全体で都市的な創造性や開放性を感じられるように設計したという。コロナ禍以降、ICTを活用して都市部のオフィスから離れた場所で、以前と同じように働きながら生活するライフスタイルが注目を集めていることを受け、地方での生活を求める都市部の人たちの視察の受け入れや情報発信にも力を入れている。暮らしの森は、そのコンセプトと取り組みに感銘を受けた若者が、金丸工務店を就職先として選択するなど人材採用面でも効果を生んでいる。
子どもたちと保護者を対象に家づくりを体験できるイベントを企画
暮らしの森では子どもたちと保護者を対象に家づくりに関わる職人の仕事を体験できるイベントを定期的に開催している。大工をはじめ水道、タイル、瓦といった様々な分野のプロの職人と一緒に家づくりを体験できることから注目を集め、毎回大勢が参加する。「イベントを通じて子どもたちに家づくりに関心を持ってもらいたいと思って企画しています。将来、参加した子どもたちと建築現場で再会できたら嬉しいですね」と藤田社長は微笑んだ。そのほか、家づくりについて学ぶセミナーも定期的に開催している。
デジタル技術に感じる大きな可能性 地域を元気にすることで会社を成長させていきたい
「地縁血縁が薄くなる中で、かつての大工の棟梁のように地域のまとめ役を担っていくとともに、これまでの建築業の枠を超えた新しいことに挑戦していきたいと考えています。デジタル技術の進化によって、誰もが動画や写真で世界に情報を発信できるようになり、三豊市でも新しい可能性が生まれていることを実感しています。地域を元気にすることで会社を成長させていきたい」と藤田社長は熱く語った。
SNSの普及に伴って観光客が100倍になった瀬戸内海の絶景地で、異業種と連携して宿泊施設「URASHIMA VILLAGE」を運営
金丸工務店は、まちづくりと地域活性化を視野に入れた多彩な活動に取り組んでいる。その一つが景勝地、父母ヶ浜(ちちぶがはま)近くでの宿泊施設の運営だ。
荘内半島の付け根に位置する父母ヶ浜は、地元の人を中心に親しまれていた海水浴場だったが、2010年代のSNSの普及に伴ってその美しい景色が世界に広く知られるようになり、年間約50万人が訪れる観光スポットになった。
SNSの普及前と比較して観光客が約100倍になった父母ヶ浜。その宿泊の受け皿として2021年1月に開業したのが、「URASHIMA VILLAGE(ウラシマビレッジ)」だ。瀬戸内海の絶景を望む約6,600平方メートルの敷地に、1棟貸しの宿泊棟3棟とミーティングなどができるラウンジ&レセプション棟を備える。荘内半島には古くから浦島太郎にまつわる伝説が各所に残り、ウラシマビレッジの目の前の無人島には浦島神社がある。
新しい技術と伝統的な素材の組み合わせを重視して設計 ネットワーク環境の充実にも力を注いだ
金丸工務店は、地元で運輸、飲食、流通などを営む10社と共同で、ウラシマビレッジを運営する瀬戸内ビレッジ株式会社に出資するとともに設計・施工を担当した。藤田社長はウラシマビレッジを設計するにあたり、新しい技術と伝統的な素材を組み合わせることを重視したという。県産材を中心に建てた宿泊棟、ラウンジ&レセプション棟は地形を生かして配置し、外装には伝統技法を使った「焼杉」を用いている。県産材を使った家具は一つひとつが大工の手作りだ。太陽光発電設備も完備し、電力は100%再生可能エネルギーでまかなっている。
ウラシマビレッジは、林野庁が主催する2021年度のウッドデザイン賞で最優秀賞を受賞するなど各所で高い評価を受けている。デザインと共に力を注いだのが、通信設備と情報セキュリティ機能の充実だ。最先端のオフィスと遜色のないネットワーク環境を整えることで、観光だけでなく都市部の企業のワーケーション需要も取り込んでいる。無線通信は宿泊棟の近くにある砂浜もカバーしているので、宿泊者は、自然の中でパソコンやスマートフォンを使って仕事に取り組むことができる。
異業種連携で市民大学も運営 地域の魅力を編集して付加価値を生み出す
ほかにも金丸工務店は、三豊市と隣接する観音寺市をフィールドに、19の企業・個人と共同で「瀬戸内暮らしの大学」という市民大学も運営している。地域全体で子どもを育む仕組みを作っていきたいとの思いを基に2022年4月から活動を開始した。「移住者を増やすには教育の充実が不可欠です。地方では難しいと諦めるのではなく、作り出すことで変化を生み出していきたいと思っています。行政ではできないことを民間で進めています」と藤田社長。様々な業種の企業、個人が連携して、ウラシマビレッジと同様にそれぞれの得意分野を生かしながら自然探求、食育、農業、ダンス、アート制作、写真撮影、介護など多彩な講座を企画している。
「地域を活性化するには、多くの人に移住したいと思ってもらえる魅力を創造することはもちろん、交流人口も増やしていかなければなりません。ほかの企業や団体と連携しながら経済波及効果を高めるための新しい企画をこれからも考えていきます。様々な地域の魅力を編集するように掛け合わせて新しい価値を作り出していきたい」と藤田社長はこれからの活動に意欲を見せた。
社内業務の効率化に3D-CAD、施工管理システム、会計管理システムを活用
金丸工務店は社内業務でもICTとデジタル機器を積極的に活用している。20代と30代が半分近くを占める中、設計技術を習得中の従業員でも使えるように間取りや屋根などのデータを入力するだけで3次元画像を瞬時に作成する機能を備えた3D-CADを導入している。現場作業では協力会社との間で必要な工程表、図面、写真などの情報を共有できる施工管理システムも活用している。
2015年から会計のデジタル化に取り組み、2023年1月にそれまで活用していた会計管理システムをクラウド化した。会計監査を依頼している会計事務所もアカウントを使ってクラウドストレージにいつでもアクセスして財務諸表を確認できるようになったので、以前は決算の直前に集中していた会計事務所とのやり取りに時間がかからないようになった。その分、時間を有効活用できるようになったという。
ICTを活用して地域に軸足を置きながらグローバルに取り組む
「デジタル技術の進化で仕事の取り組み方はどんどん変わっていくと思います。例えば、AIを有効活用すれば図面作成の時間が短縮できるようになるかもしれません。技術を活用することで時間を生み出して、新しい取り組みの企画や異業種ネットワークの拡大に使っていきたい。世界中の人たちとの連携を深めるためにICTやデジタル機器をこれからも有効活用していきます」と藤田社長は話した。
地域に軸足を置いてグローバルな視野で様々な取り組みを進めている金丸工務店。まちづくり工務店としてこれからも地域創生のロールモデルを作り出していくはずだ。
企業概要
会社名 | 株式会社金丸工務店 |
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本社 | 香川県三豊市豊中町本山甲853-6 |
HP | https://www.kanamarustyle.com |
電話 | 0875-62-4070 |
設立 | 1972年8月 |
従業員数 | 11人 |
事業内容 | 注文住宅、一般建築、リノベーション、増改築、介護リフォーム、宅地開発、まちづくり |