国や自治体が支援しているにも関わらず、事業承継はなぜ難しいのだろうか。近年では後継者難が深刻化している影響で、M&Aやアトツギベンチャーが増加傾向にある。事業承継が思ったように進まない中小企業は、自社に適した手法を冷静に判断したい。

目次

  1. 事業承継はなぜ進まないのか?
    1. 後継者不在が大きなハードルに
  2. 事業承継が難しい3つの理由
    1. 1.経営能力のある後継者が見つからない
    2. 2.株式の買取資金を用意できない
    3. 3.個人保証の引き継ぎに難色を示される
  3. 事業承継税制の複雑さも事業承継を難しくしている
  4. 事業承継の形は徐々に変化──M&Aやアトツギベンチャーの浸透
    1. 親族外を後継者にする事業承継型M&Aが増加
    2. アトツギベンチャー(ベンチャー型事業承継)も注目される
  5. 事業承継が難しい企業はなにを考えるべきか
    1. 後継者が見つからないときの選択肢を増やす
    2. 自社にコミットする専門家を探す
    3. 公的な支援制度を活用する
  6. さまざまなケースに備えて事業承継の選択肢を模索しよう
事業を継ぐことが難しいのはなぜなのか
(画像=琢也栂/stock.adobe.com)

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事業承継はなぜ進まないのか?

後継者不在が大きなハードルに

多くの企業で事業承継が進まない理由は、適任の後継者が見つからないためだ。後継者には経営のノウハウだけではなく、株式の買取資金や個人保証を引き継ぐ覚悟なども求められる。

中小企業庁の中小企業白書(2023年版)によると、企業の後継者不在率は2011年から減少傾向にあるものの、2022年時点では50%を超えている。

アトツギベンチャー
引用:中小企業庁「第2章 新たな担い手の創出

また、帝国データバンクが行った調査では、2023年の後継者難倒産は初めて年間500件を超えて、過去最高の件数を更新したことが公表されている。

参考:帝国データバンク「「後継者難倒産」動向調査

一般的に、経営者が年を重ねるほど事業承継は難しくなるため、後継者不在の企業は早めに対策を考える必要がある。

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事業承継が難しい3つの理由

ここからは3つの点に分けて、事業承継が難しい具体的な理由を解説しよう。

1.経営能力のある後継者が見つからない

若い親族が社内にいても、その人材が優れた経営能力をもっているとは限らない。決断力や危機管理能力など、経営者には特有のスキルや資質が求められるためだ。

帝国データバンクの調査によると、2023年の事業承継では「内部昇格」の割合が最も高かった。非同族を後継者候補にする企業が増えている事実からは、脱親族内承継の動きがうかがえる。

参考:帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2023年)

親族内承継を優遇する制度はあるが、だからと言って身内への承継にこだわり過ぎると、後継者を探す視野が狭まってしまう。

2.株式の買取資金を用意できない

親族外承継では、株式の買取資金が大きなハードルとなる。買取資金は企業価値に応じて高くなり、数千万円単位の資金が必要になるケースも存在するためだ。

先代経営者が負担する選択肢もあるが、この方法では贈与税がかかってしまう。仮に5,000万円分の資金を贈与すると、2,350万円の贈与税がかかるため、後継者の手元に残るのは2,650万円となる。

いずれにせよ、後継者にとって株式の買取資金は大きな負担になることが多い。特に数千万円の資金が必要になるようなケースでは、長期的な準備が欠かせないものとなる。

3.個人保証の引き継ぎに難色を示される

個人保証とは、会社が銀行などから融資を受ける際に、経営者が保証人になることである。中小・中堅企業の場合、基本的には個人保証をつけないと融資は受けられない。

これから会社を任せられる後継者にとって、個人保証は大きなリスクとなり得るものだ。もし経営が立ちいかなくなると、倒産とともに多額の債務を抱える可能性がある。

また、後継者が個人保証を受け入れたとしても、現経営者の担保が解除されるかは別の話である。後継者が相応の担保を用意できない場合は、資金調達が滞ることも考えられるだろう。

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事業承継税制の複雑さも事業承継を難しくしている

日本では2009年4月から、事業承継に伴う贈与税・相続税を猶予・免除する「事業承継税制」が実施されている。本制度は事業承継のハードルを下げるものだが、仕組みの理解が難しいため、活用の目途が立たないケースもあるだろう。

例えば、相続税対策として活用される持株会社や資産管理会社、不動産管理会社などは、一定の要件を満たさないと事業承継税制の対象にはならない。また、贈与税・相続税の猶予を受けられても、最終的に条件を満たせず免除されないケースもある。

2018年に制度が拡充されたことも、仕組みを複雑にしている要因と考えられる。拡充後は親族外承継も対象になったが、適用を受けるには特例承継計画の提出などが必要だ。

複雑な仕組みで悩んでいる経営者は、事業承継自体を含めて専門家に相談することを検討したい。

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事業承継の形は徐々に変化──M&Aやアトツギベンチャーの浸透

事業承継にはさまざまな問題があるからこそ、近年では事業承継の形が変化してきている。以下では注目されている手法として、事業承継型M&Aとアトツギベンチャーの概要を紹介しよう。

親族外を後継者にする事業承継型M&Aが増加

事業承継型M&Aとは、買収や合併などのスキームで事業承継を行う手法である。具体的には、外部の第三者に株式を売却したり、大企業と資本提携をしたりする方法が挙げられる。

中小企業庁の資料によると、事業承継型M&Aの国内件数は2012年頃から伸びており、2018年には過去最高となる544件を記録した。

身内で後継者を探すことが難しい企業にとって、事業承継型M&Aは有効な選択肢となり得る。参考として、以下では事業承継型M&Aのメリット・デメリットをまとめた。

<事業承継型M&Aのメリット>
・身内に後継者がいなくても会社を存続できる
・株式の売却で創業者利益を得られる
・資本提携などで経営体制を強化できる可能性がある

<事業承継型M&Aのデメリット>
・身内に事業承継をすることができない
・相手企業を探す必要がある
・スキームに関する知識が必要になる

一口にM&Aとは言っても、スキームによって売り手側のメリット・デメリットは変わってくる。契約内容にも左右されるため、事業承継型M&Aでは実績豊富な専門家を頼ることが望ましい。

アトツギベンチャー(ベンチャー型事業承継)も注目される

アトツギベンチャーとは、先代から承継した経営資源を活用し、イノベーション創出やIPOによるイグジットなどを目指す手法である。一般社団法人ベンチャー型事業承継が提唱した考え方であり、すでに国や自治体も後継者難の解決策として注目している。

参考:中小企業庁「~地域のアトツギの挑戦が地域の未来を創る~ 一般社団法人ベンチャー型事業承継について

これまでの事業承継と異なるのは、受け継いだ経営資源を時代に合わせてアップデートする点だ。例えば、生産プロセスやサプライチェーンを見直したり、既存事業とデジタル技術を掛け合わせたりすることで、新たなビジネスモデルを構築する。

以下では、アトツギベンチャーの主なメリット・デメリットをまとめた。

<アトツギベンチャーのメリット>
・次の世代にも有益な経営資源を残せる
・永続的に企業を存続できる可能性が高まる
・社会に新たな価値を提供できる

<アトツギベンチャーのデメリット>
・既存事業を十分に理解する準備期間が必要
・新規事業やイノベーション創出にも取り組む必要がある
・参考になる事例が少ない

現時点では参考例が少ないものの、北海道経済産業局は2020年から先進事例の公開数を増やしている。さまざまな規模・業種の事例が紹介されているため、興味のある経営者は参考にしてほしい。

参考:経済産業省 北海道経済産業局「「アトツギベンチャー」インタビュー

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事業承継が難しい企業はなにを考えるべきか

事業承継が難しい企業は、どのような対策を考えればよいだろうか。特に経営者が高齢に差しかかっている企業は、早急に計画を立てる必要がある。

そのヒントとして、以下では優先的に考えたい3つのポイントを解説する。

後継者が見つからないときの選択肢を増やす

身内や社内で後継者が見つからない場合は、視野を広げて選択肢を増やしたい。特に事業承継型M&Aは、どのような中小企業でも存続の可能性を高められる手法だ。

また、古い慣習を廃止して新たなものをとり入れると、事業承継に興味を示す後継者が現れるかもしれない。前述のアトツギベンチャーは、その分かりやすい例と言えるだろう。

後継者難の企業が事業承継を進めるには、これまでとは異なる視点をもつ必要がある。自社が置かれている状況を客観的に分析し、なにを優先すべきなのか今一度考えてみよう。

自社にコミットする専門家を探す

事業承継は難しいからこそ、自社にコミットする専門家を探すことが重要になる。

例えば、事業承継型M&AではM&A仲介会社を頼ることが多いが、相談先によって実績や得意分野は異なる。中小企業に特化した業者や大規模なM&Aに強い業者などがいるため、自社の規模・業種に合った相談先を見つけることが必要だ。

特に事業承継税制を活用する場合は、制度に詳しい専門家を見つけたい。相談をする企業側も最低限の知識をつけた上で、気になる点や疑問点を積極的に質問してみよう。

公的な支援制度を活用する

事業承継の支援制度は、前述の事業承継税制だけではない。国が実施するものに限定しても、以下のような制度がある。

<事業承継・引継ぎ補助金>
設備投資や販路開拓、設備廃棄、専門家への依頼などにかかる費用を補助する制度である。「経営革新事業」「専門家活用事業」「廃業・再チャレンジ事業」の区分があり、区分によって採択条件などが異なる。

参考:事業承継・引継ぎ補助金事務局「事業承継・引継ぎ補助金

<経営資源集約化税制>
M&Aによって生産性向上を目指したり、経営力向上計画の認定を受けたりした場合に、設備投資分の減税措置を受けられる制度である。株式譲渡の場合は、投資額の70%以下の金額を積み立てられる「準備金の積立制度」も用意されている。

参考:中小企業庁「経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)の活用について

上記のほか、企業によっては日本政策金融公庫から融資を受けたり、税金の特例を利用したりすることも可能だ。国や自治体の公式サイトを確認し、メリットの大きい支援制度は積極的に活用しよう。

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さまざまなケースに備えて事業承継の選択肢を模索しよう

事業承継が難しい理由は、その企業の背景や時期によって異なる。後継者候補の事情が途中で変わることもあるため、現経営者はさまざまなケースに備えることが重要だ。

まずは、自社の状況を整理することから始めて、どのような選択肢があるかを模索してみよう。

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文・片山 雄平
1988年生まれのフリーライター兼編集者。2012年からフリーライターとして活動し、2015年には編集者として株式会社YOSCAに参画。金融やビジネス、資産運用系のジャンルを中心に、5,000本以上の執筆・編集経験を持つ。他にも中小企業への取材や他ライターのディレクション等、様々な形でコンテンツ制作に携わっている。

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