目次
- なぜ斉藤総業では、他社の参考となるような「働き方改革」ができたのか?
- 2016年に始めた働き方改革、まずは専門家のヒアリングからスタートした
- 勤怠管理システム導入により、勤務状況の即見える化を実現 時間オーバー社員の対応も速やかに実施 有給休暇の積極取得奨励により家族との絆が深まった例も出てきた
- 社員が旅行など年間の予定を組みやすくするため、会社独自の「年間休日カレンダー」を作成、ホームページに公開し取引先を含め誰でも見えるようにした
- 工事原価管理システムで情報の見える化が進み、確認作業や担当者不在時も対応が可能 さらに工事ごとの収益が明確になり社員の収益意識が高まった
- 工事原価管理システムは社員の協力により〝自社仕様〟に組み立て、災害対策や事業の広域化のためにクラウド仕様へ
- 働き方改革を徹底することで「健康経営優良法人」5年連続認定 「ブライト500」2023年、2024年連続選出
- 一人の突破力と支援するトップ、理解して全面協力する社員のチームプレーで成果を上げた
社員が健康な生活を送っているだろうか? 社員が笑顔で働いているだろうか? 仕事が忙しくて家族や家庭を犠牲にしていないだろうか? モチベーション高く仕事に取り組んでいるだろうか? そのような課題を「働き方改革」と捉え実践し、その過程でデジタルを活用することで社員全員が気づきを共有。結果「健康経営優良法人」の認定を受け、2023年には全国で500社しか選ばれない「ブライト500」に選出されたのが株式会社斉藤総業だ。(TOP写真:社員の表情からが生き生きと仕事をしていることが伝わってくる)
なぜ斉藤総業では、他社の参考となるような「働き方改革」ができたのか?
他社の参考となるような「働き方改革」ができたのは、どんなことでも他人事にせず自分事として真剣に考え、解決案を試行錯誤しながら実施し、社員全員で最適解へ進むという姿勢と実践力にあった。2016年に中尾美紀専務取締役がテレビで、ある企業の女子社員が過重労働で自殺した、というニュースを見た。普通に考えれば他人事、でも中尾専務は他人事にできなかった。日頃から社員の体を気遣い声掛けもしているが、危機感を感じた中尾専務は斉藤一昭社長と相談して行動を起こす。「働き方改革」という言葉もまだそれほど聞かない建設業の働き方改革関連法が施行される8年前の2016年のことだ(働き方改革関連法は、大企業は2019年4月1日から、中小企業は2020年4月1日から施行。ただし建設業は2024年4月1日から)。
すぐ行動に移せたのは、斉藤総業の基本の考え方にあった。斉藤総業は千葉県船橋市を本拠地に、公共工事を主体に土木、舗装、外構などの工事を手掛ける建設会社だ。創業以来、「地域の皆様への貢献」を企業理念とし、事業領域を拡大してきた。また「従業員は家族」という考え方を基本として、様々な行事を開催し、社員同士のコミュニケーションやモチベーションを重視する会社だった。「働き方改革」推進は斉藤社長の日頃からの企業姿勢と合致していた。
2016年に始めた働き方改革、まずは専門家のヒアリングからスタートした
2016年当時は働き方改革といってもまだまだ認知が進んでおらず、中尾専務自身も「何から手をつければよいかわからなかった」。そこで、「働き方改革につながりそうな労務管理のセミナーに参加し、社会保険労務士や労働基準監督署の元職員、弁護士らの話を伺い情報収集に努めた」という。
勤怠管理システム導入により、勤務状況の即見える化を実現 時間オーバー社員の対応も速やかに実施 有給休暇の積極取得奨励により家族との絆が深まった例も出てきた
全員の働き方の現状把握をタイムリーに知り、すぐ手を打つことから始めた。そのためにはタイムカードや日報だと、月締め後にしか勤務状況が把握できず、対応が後手になる。社員が勤怠状況を入力したその日に現状を把握し、問題があれば詳細を確認して手を打つという仕組みが必要だった。ただ今までのやり方に慣れた社員にとっては入力を忘れたり、新しいことは面倒というどこの会社にもあるようなことで、全員に定着するまでは斉藤社長と中尾専務の粘り強い呼びかけが必要だった。
その結果、全員の勤怠管理専用アプリを搭載したスマートフォンで、現場や出先からも出退勤を打刻し、位置情報も記録できるようになった。また、残業や早退、休日出勤、有給休暇などの申請もでき、これらの情報は給与管理システムに反映されるため自動的に給与計算が行われ、管理部門の大幅な作業軽減にもつながった。
さらに働き方改革をより徹底するために、勤怠管理システムで月間の残業時間が10時間を超えるとアラート通知が社員本人と管理者に届き、現状把握と対応策を相談し改善するようにした。工事部の岩瀬建二主任の場合、通常は現場から午後5時頃に事務所に戻り、工事の見積などの業務に当たってきた。しかし、「社長に相談すると、『夕方からの作業でなく、現場はほかの社員に任せ、昼間に見積するように』と指示され、残業が減った」と話す。
勤怠管理システムは会社が取得を推奨する月1回の有給休暇にも活用され、同様にアラートが通知され、積極的に有給取得を促された。さらに毎週必ず行う、工程会議で工事進捗の確認だけでなく、誰がいつ有給を取るのかを社内で共有し、会話(コミュニケーション)をすることも有給を取りやすい風土醸成に一役買っている。その結果、ある社員は、今までやっていなかった子どもの参観日への出席ができ、子どもに喜ばれ家族の絆が深まった、という話も出てきた。いくら働き方改革とは言っても私用で休むのは気がひけると考える社員も多く、強制的にでも実施することで、社員の考え方や行動が変わり、仕事への取り組みも前向きになる。
社員が旅行など年間の予定を組みやすくするため、会社独自の「年間休日カレンダー」を作成、ホームページに公開し取引先を含め誰でも見えるようにした
斉藤総業は勤怠管理システム以外でも働きやすい職場環境を目指す仕組みを取り入れてきた。2019年以来「年間休日カレンダー」を作成し、毎年9月からの事業年度開始前に自社ホームページでも公開している。社員が旅行など年間の予定を組みやすくするため、連休になるように休日を設けた。
年末年始やゴールデンウィーク、お盆の時期は連続10日程度の休暇を設けた。工事部の岩瀬建二主任は働き方改革による効果について「長期休暇が取れるようになった」ことを第一に挙げる。さらに、「年間休日カレンダーがあると休みやすい。また、無理を言ってくる会社にも『この日は会社の年間休日カレンダーで休日と決まっている』と話すと、相手は理解してくれる」と休暇を取りやすい環境に変わっていった。
工事原価管理システムで情報の見える化が進み、確認作業や担当者不在時も対応が可能 さらに工事ごとの収益が明確になり社員の収益意識が高まった
斉藤総業では、改善すべき課題として①就業環境の改善、②業務の属人化の改善、③情報の共有化の三つを据えていた。1番目の課題は前述の通りだが、2番目3番目もシステム化が不可欠と判断した。1番目の働き方改革により、システムによる見える化の重要性を認識し、積極的に業務のシステム化を推進した。
属人化の改善と情報の共通化の改善については、工事原価管理システムを導入。見積から請求、仕入・日報から支払までを一元管理できる環境整備を狙って導入したもので、これまで業務ごと、担当者ごとに管理して属人化していた情報が一元管理でき、社員全員の情報の見える化・共有化が進んだ。
その結果、案件ごとに担当者に仕事の進捗状況や必要とする情報の所在場所などを確認する手間がなくなり、担当者が急に休んだ際も社内で対応できる上、退職者からの引き継ぎもスムーズになった。
最も大きいのが工事の利益率や赤字も確認できるようになり、分析機能を使って決算後に利益率の高い現場と低い現場を公表することで社員の収益意識が高まり、利益率の向上につながったことだ。
工事原価管理システムは社員の協力により〝自社仕様〟に組み立て、災害対策や事業の広域化のためにクラウド仕様へ
業務のシステム化は無駄な作業をなくすという観点からも働き方を改善するツールとしては効果的だ。ただ、中尾専務は「今のような環境がシステムを導入してすぐに実現できたわけでなく、社員の協力があって改善できた。システムは〝自分たち仕様〟に組み立てていくことが大事」とし、工事原価管理システムを導入した際には「会社の実情に合わせてシステムの〝増改築〟を繰り返してきた」と言う。
今後の広域での事業展開や災害時対策としてシステムのクラウド化を実施。2023年1月に国土交通省関東地方整備局から災害時の基礎的事業継続力(BCP)認定、さらに2023年10月には経済産業省による事業継続力強化計画(BCP)認定を受けることにもつながった。
働き方改革を徹底することで「健康経営優良法人」5年連続認定 「ブライト500」2023年、2024年連続選出
働き方改革は思わぬところで波及効果も生んだ。社員が健康に働ける環境作りに向けて取り組んできたことが協会けんぽ(全国健康保険協会)の担当者に認められ、経済産業省が制定した「健康経営優良法人」認定制度への申請を勧められ、2020年に初めて健康経営優良法人に認定された。
「当時は健康経営については全く知らなかった」と中尾専務は振り返る。ただ、チャレンジしようとの思いに駆られ、申請締切まで1ヶ月しかない中で申請書を作り上げた。その結果、2024年まで5年連続で認定され、2023年には中小規模法人部門の中で優良な上位500法人に与えられる「ブライト500」に選ばれ、2024年も連続して選定された。
健康経営への取り組みを中尾専務は「働き方改革とイコール」と位置付ける。働き方改革で最初に取り組んだ勤怠管理の徹底が健康経営を推進する基盤でもあったため、中尾専務は「働き方改革で取り組んできたことの積み重ねが健康経営優良法人の認定、さらにブライト500につながった」と語る。
健康経営へのその他の取り組みとしては社員のがん対策が挙げられる。がんと診断された場合に備えて団体がん保険に加入。治療後の復職までサポートする体制を整えている。そのほか、健康に関する社内イベントも毎月実施するなど健康経営の社内浸透に努めている。
一人の突破力と支援するトップ、理解して全面協力する社員のチームプレーで成果を上げた
斉藤総業の働き方改革は、中尾専務の「自分事」にする感性と突破力でスタートし、斉藤社長の後押しにより推進でき、徐々に社員の理解を得、更には社員の積極的な協力を得ることによって具体的な成果を上げた。その過程で社内のコミュニケーションは増し、会議で社員が活発に発言するなど企業風土を変えることができた。中尾専務は「人的資本が限られ、職場環境の改善を推進する側と社員の距離が近い中小企業だからこそ、現在の環境を構築できた」と話す。まさに少数精鋭企業によるチームプレーの成果と言える。今後の全員展開にも大いに期待したい。
企業概要
会社名 | 株式会社斉藤総業 |
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住所 | 千葉県船橋市夏見5-23-13 |
HP | https://www.saitousougyou.co.jp/ |
電話 | 047-423-4396 |
設立 | 1977年 |
従業員数 | 12人 |
事業内容 | 舗装工事、排水工事、構造物工事、河川工事などの公共インフラ工事。民間の外構、造成・解体工事など |