20年前から様々なICTシステムを導入し業務を効率化 市民のライフラインとなる水道を守る 大伸建設工業(岡山県)

目次

  1. 新設工事よりも経年劣化した管の補修工事などが中心に
  2. 公共工事の入札で活躍する積算ソフト 設計データをもとに見積書を素早く作成
  3. 予想しにくい入札金額 長年の「勘」が必要な局面も
  4. 受注から完成までに値上がる工事費 原価管理ソフトで費用の詳細や進行状況をチェックして見える化を行い管理
  5. 建設専用CADやA1サイズの広幅複合機。現場作業を陰で支えるICTシステムだ
  6. ICT機器・システムは、あるのが当たり前。業界でのサバイバルに心強いICT
中小企業応援サイト 編集部
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地面の下にはさまざまなパイプが走っている。水道、下水道、ガス、電気、電話……。どれも私たちの暮らしの足元を支えているライフラインだ。株式会社大伸建設工業はこのうち水道や下水道など、水にかかわる工事を中心に行っている。岡山県や総社市から受注し、50年以上にわたり公共工事の実績を地道に積み上げてきたが、「業界を取り巻く環境は厳しさを増している」と水田敬治専務取締役は話す。(TOP写真:新設工事の積算をする水田浩二社長(左)と打ち合わせをする水田専務)

新設工事よりも経年劣化した管の補修工事などが中心に

20年前から様々なICTシステムを導入し業務を効率化 市民のライフラインとなる水道を守る 大伸建設工業(岡山県)
公共事業を受注する苦心などについて語る水田専務

創業は1971年。水田専務の父、忠さんが、勤めていた水道工事会社から独立して約20人で会社を立ち上げた。高度成長期の後期で、水道工事も新設工事が多かった。まもなく水田さんと兄の浩二さんが相次いで入社、一家で会社を盛り上げていく。岡山県や地元・総社市が行う開発事業や学校の建設などに伴う上水道や下水道の敷設工事を中心に請け負ったに浩二さんが社長に、水田さんが専務に就任し、兄弟で会社を切り盛りしている。

しかし、事業環境は創業当時と比べると大きく変わった。「市の公共事業は1980年代後半の最盛期に比べると3分の1から4分の1に減っています。新規参入する会社がある一方で古い会社が辞めていっています」と水田専務は話す。最近は、工事も水道管の新設はほとんどなく、老朽化、経年劣化したものの補修や災害で破損したところの復旧工事が多いという。

公共工事の入札で活躍する積算ソフト 設計データをもとに見積書を素早く作成

公共工事の発注は、小規模なら随意契約で行われるが、それ以外は工事の規模により指名競争入札や一般競争入札で行われる。自治体は各参加事業者の応札データを比較して、想定していた設計金額に近く、かつ安い価格の事業者に発注する仕組み。自治体は最低金額も定めていて、それを下回ると安くてもはじかれる。

そこで活躍するのが積算ソフトで、大伸建設工業は10年以上前から使っている。設計書のデータを取り込み、資材や人件費などの数値を打ち込むと設計書に合わせた設計金額をはじき出してくれ、応札データが作られる。中規模までの工事なら集中すれば1日あればできるのではないかという。

予想しにくい入札金額 長年の「勘」が必要な局面も

20年前から様々なICTシステムを導入し業務を効率化 市民のライフラインとなる水道を守る 大伸建設工業(岡山県)
大伸建設工業本社で工事経費などをチェックする総務担当社員 原価管理ソフトが役立つ

問題は、他社もそれぞれ積算ソフトを導入していて、しばしば同じ金額で横並びとなることだ。その場合はくじ引きで受注会社が決められることになる。

発注の仕組みは岡山県と総社市で違っていて、県が設計金額を公表していないのに対し、総社市は設計金額を公表しているが、最低金額が予測しにくいのだという。設計金額の何%が最低金額となるという予測を立てるが、案件により変わるため積算ソフトで設計金額をはじき出した上で最低金額をいくらとみるか、長年の「勘」を頼りに推測して修正していくことになる。「この〝読み〟がわずかにずれ、500円1,000円の差で失格となったこともあります」(水田専務)

受注から完成までに値上がる工事費 原価管理ソフトで費用の詳細や進行状況をチェックして見える化を行い管理

受注したら実際の工事へ向けてより精密に見積もった材料費や人件費などを盛り込んで施工計画を立てるが、今は、受注してから完成するまでに工事費が上がってしまうことがひんぱんにある。そもそも自治体の設計書自体が2、3年前に作られていて、その時点からは1.5倍以上になっているのだ。

水田専務は「自治体は工事完成までに値上がった分は完成段階で清算すると言ってくれていますが、それでも管材メーカーの見積をとってコストに見合う施工計画にしなければなりません」という。施工計画は自治体に提出して認可を受ける必要があり、その兼ね合いも苦心するところだ。

その後、計画実施工程表、実行予算を作成し、現地で工事を行う中で必要に応じて修正していく。その中で重要となるのは「工程管理」「原価管理」「品質管理」「安全管理」だ。期日までに工事を完成させ、コストを抑え、求められる品質を保つ。そして安全に作業を進める。それらをきちんと管理していくことが大切だ。

利益率と直結する「原価管理」はこれも10年以上前から使っている原価管理ソフトが役立っている。現場監督が工事の実行予算をExcelで作成し、総務担当者に送る。総務担当者は原価管理ソフトに打ち込み、工事台帳を作成する。工事台帳で材料費、労務費、外注費、経費などを一覧できるため、工事ごとの費用の詳細や進捗状況をチェックしやすく、労災保険の申告や税務調査時などに提出する資料ともなる。「工事台帳をスムーズに作成できるので重宝しています」と総務担当者は感想を語る。

建設専用CADやA1サイズの広幅複合機。現場作業を陰で支えるICTシステムだ

20年前から様々なICTシステムを導入し業務を効率化 市民のライフラインとなる水道を守る 大伸建設工業(岡山県)
広幅複合機を操作する水田専務。A1サイズの施工図を扱う

現場の工事へ向けて、作業を助けてくれるICTソフトは建設専用CADシステムだ。自治体の設計図をこのシステムに取り込んで、現場に対応した施工図を作成する。現場の状況は工事区画にピンを打って、トランシットと呼ばれる測量機器で勾配などを測量したり、補修工事なら試掘して従来の管やガス管、電気関連のパイプなどがどこに埋まっているかを調べる。この施工図は、工事の規模によってA1サイズ(84.1×59.4センチメートル)の大きさになることもあり、通常の複合機ではスキャン出来ず、広幅複合機が必要だ。

施工図は工事の見取り図ともいえ、広幅複合機で読み取ったデータを分割してプリントアウトし、現地へ持っていく。工事の進捗に合わせて修正なども加え、最終的には完成図となり、広幅複合機でスキャンしてデジタルデータとして自治体へ提出する。

「創業した頃の工事は、手書きの設計図しかなく、事業者が自らの裁量で図面を引き、水道管を埋めていた。写真管理もなかった。ある意味楽な時代でしたが、現在いざ補修しようとするとどこに管があるか誰もわからないので、試掘が必要になります」と水田専務。デジタルデータとして提出した施工図は役所でも保存されるので、将来のメンテナンス工事にも役立つ。

20年前から様々なICTシステムを導入し業務を効率化 市民のライフラインとなる水道を守る 大伸建設工業(岡山県)
完成した下水道工事。総社市の竣工検査が行われる

ICT機器・システムは、あるのが当たり前。業界でのサバイバルに心強いICT

水道管の劣化にはかなりばらつきがある。管材は、50年ほど前は石綿管だったものがビニール管、鋳鉄管へと変わってきているが、工場などがあって水をよく使ったり、水圧が急激に強まったり止まったりする「ウォーターハンマー」現象の起きている場所、また土質などによっても劣化のスピードが変わるようだ。「短いケースでは5年くらいで水漏れが起きます」と水田専務は言う。

最近は耐震管が増えている。管の継ぎ手(ソケット)にコイルが入っていて、電気を通して融着させ強度を強めたり、200ミリメートル以上の太い鋳鉄製管はボルトでつないでいるが、揺れに応じて継ぎ目が動き、振動を吸収する。

ただ、管の種類は変わってきていても、工事の基本は変わらない。測量機器で測り、試掘。バックホーで掘削し、土工作業員が補助して配管工が管を埋める。これら現場の作業はまだ人の手による工法が中心だ。それをさまざまなICTシステムが陰で支えているのだ。どのソフトも10年以上前から導入されていて、それ以前との比較ができない。もうあるのが当たり前になっているという。「いずれにしてもこれがないと始まらない」(水田専務)。これからも、ICTにより建設業界は大きく変化する。大伸建設工業は更なるICT化に向けて前向きに取り組み、他社との差別化を進めるだろう。

20年前から様々なICTシステムを導入し業務を効率化 市民のライフラインとなる水道を守る 大伸建設工業(岡山県)
大伸建設工業本社

企業概要

会社名株式会社大伸建設工業
本社岡山県総社市三須1208-1
HPhttps://daishin-kk.jp/
電話0866-93-2762
設立1971年
従業員数10人
事業内容土木・設備工事業