目次
- 1997年に独立し5年後に法人化。神奈川県内で給・排水工事や空調設備工事で数多くの実績。サブコンの信頼得て営業かけずに業績伸長
- 効率的な人員配置で施工期間短縮。外国人技能実習制度を活用も慢性的な要員不足が悩みのタネ。ホームページ刷新して人材採用の強化へ
- 作業工具等の整理整頓を徹底。SDGsにも取り組む。原材料値上げ響くが「2、3年後には売上高5億円」の目標達成へ、ICT活用にも本腰
- 公共工事の電子納品制度に対応し、土木工事施工管理システムを導入。「作業効率は格段に上がった」と満足
- 原価管理システム導入で業務処理の一元管理目指す。既存ファイルとの整合に試行錯誤続くが、ICT活用はさらに広げる見通し
- 子息が入社し工事部部長として活躍。事業承継の不安なくなり、設備工事事業の拡大へ意欲衰えず
公共施設や大型商業施設などの衛生・空調設備工事を請け負う株式会社富樫設備工業は2020年に施工管理システムを導入し公共事業の電子納品に対応したことに続き、2023年夏には原価管理システムのクラウド利用を開始。見積から発注・原価管理、支払管理など業務管理の総合的な効率化と見える化に取り組んでいる。富樫勇仁代表取締役はまだ51歳と若いが、2024年1月には同業他社で“修業”を終えた子息が入社。次のステップへ飛躍の環境が整ってきた。(TOP写真:冷却水循環装置(チラー)配管バルブの取り付け施工)
1997年に独立し5年後に法人化。神奈川県内で給・排水工事や空調設備工事で数多くの実績。サブコンの信頼得て営業かけずに業績伸長
富樫勇仁社長が、勤めていた配管設備工事会社を辞めて独立したのは1997年。「子どもが成長してもっと稼ぎたくなったことと、何より自分の腕を確かめたかった」ためだ。当初は1人で、2ヶ月後には従業員を1人雇い、給排水管工事を中心に請負案件も次第に増加。施工能力の高さで順調に業績を伸ばし、2002年に有限会社富樫設備工業を設立、2022年には株式会社化した。
法人化を機に従業員も徐々に増え、地元の海老名市を中心に神奈川県内の総合病院や商業施設など大型施設の給・排水管工事、空調設備工事を数多く手がけるようになってきた。現在の事業内容は、給・排水管工事と空調設備工事がほぼ半々だが、電気設備にかかわる空調設備の比率が伸びているという。
ゼネコンから工事の一部を受注するサブコンが富樫設備工業の発注元になる。サブコンが受注した空調設備工事や給・排水管工事を同社が請け負って施工する仕組みだが、富樫社長は基本的に「営業はかけない方針」で事業を伸ばしてきた。「一つの現場が終わる頃には次の現場に行ってくれと依頼される」ため、新規営業の暇がないからだ。
効率的な人員配置で施工期間短縮。外国人技能実習制度を活用も慢性的な要員不足が悩みのタネ。ホームページ刷新して人材採用の強化へ
自社の強みを、富樫社長は「施工品質や現場の姿勢、例えば1週間と言われた工期を5日できちんと仕上げたり、(サブコンの)親方からの信頼を得られている」と説明する。納期を前倒しするといっても、残業時間を増やして無理に短縮するわけではない。
「(2024年問題で)ゼネコンやサブコンの就業管理も厳しくなって、時間になると現場の電気が消えるので残業はできない環境になってきた」。必要な現場に作業員を回すなど効率的なマンパワー管理と迅速な工程管理を行うことで、発注元から頼られる存在になってきた。とはいえ、現場に十分な作業員を配備するためには人材獲得が大きな課題でもある。富樫社長は「年中無休で採用活動をしていて、広告も出しているが、希望者が全く来ない」と嘆く。そのため2013年から外国人技能実習生を受け入れており、累計6人のベトナム人が同社で施工技術を学んだ。8年間継続した実習生もいるという。
2024年3月にはさらに2、3人増員する予定だが、富樫社長は「外国の実習生だけでなく、将来のために管理職になれる日本人の採用も強化しなくては」と危機感を抱く。ホームページを若い世代に訴求するようリニューアルする検討も始めた。
作業工具等の整理整頓を徹底。SDGsにも取り組む。原材料値上げ響くが「2、3年後には売上高5億円」の目標達成へ、ICT活用にも本腰
同社の作業工具置き場は整理整頓が徹底している。SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みも始めるなど旧来の3K(きつい、汚い、危険)的イメージの払拭に努めている。これも人材採用活動の一環だ。
コロナ禍で発注元の業績不振による影響はあったものの、2023年2月期売上高は1億9000万円、2024年2月期は2億3000万円と増収を見込む。原材料が約4割も値上がりしたため減益は避けられないが、富樫社長の表情は意外に明るい。「今期はぎりぎり黒字にできればという状況だが、来期は価格転嫁の目途がついたので大幅増益に転じる」見通しだからだ。
「2、3年後には売上高5億円には乗せたい」と意欲的な事業計画を立てる一方、ICT活用による業務効率化にも本腰を入れて業績拡大を下支えする考えだ。
公共工事の電子納品制度に対応し、土木工事施工管理システムを導入。「作業効率は格段に上がった」と満足
同社の施工案件の4割を占める公共工事では、設計や工事などの各業務段階の成果を電子データで納品することを義務付けられている。電子納品への対応を強化するために業界標準となっている土木工事施工管理システムを2020年に導入。同社の強みだった施工技術をさらに強化し、可視化を目指した。
各種ツールも充実しており、施工計画書作成支援システムや工程管理システム、3Dイラスト作成システムを追加。事務処理の効率化だけでなく現場での業務効率化とノウハウの共有につながった。操作は担当者にまかせているというが、「見ていると、作業効率が全然違っている」と富樫社長も効果に太鼓判を押す。
原価管理システム導入で業務処理の一元管理目指す。既存ファイルとの整合に試行錯誤続くが、ICT活用はさらに広げる見通し
事務処理全般の効率化を目指して2023年夏に導入したのがクラウド環境で利用する建設業向け原価管理システムだ。従来、見積書はエクセルで作成し、発注書や請求書作成の際に再びエクセルに転記していたが、同システムの活用によって一度入力したデータを次の処理へスムーズに流せるようなった。受注から請求書発行・会計仕分まで一気通貫する事で請求業務を効率化・脱属人化し、現場ごとに適切な原価管理が可能になった。
ただ、エクセルで作成していた既存の帳票類と整合を図るために現場の苦労は少なくない。担当の奥田美香子さんは、「このシステム一つですべての業務をカバーしたいが、今までの出面(でづら)管理をそのまま作成できないなど課題もある」という。出面とは、工事現場に出る従業員の1日当たりの人数を把握する建設業特有の用語で、同社では出勤表とスケジュール管理表を兼ねた1ヶ月単位の一覧表を作成している。
A4用紙1枚の一覧表で複数の現場に誰がどのように配置されているか一目で把握できるように工夫されている。しかし、導入した原価管理システムではその一覧表を従来通り出力することができず、同じデータを盛り込もうとすると複数ページにおよぶのが難点だという。請求書だけ出力する際の番号付加機能は開発会社に要望して追加してもらった。自社仕様に合わせたカスタマイズは今後も必要となりそうだ。
富樫社長はさらに勤怠管理システムを導入して、現在は手書きの作業日報をデジタル化し、クラウド環境で原価管理システムと連携したい考えで、システム支援会社と検討を始めた。
子息が入社し工事部部長として活躍。事業承継の不安なくなり、設備工事事業の拡大へ意欲衰えず
2024年1月に富樫社長の子息の恒輝氏が入社。工事部部長として施工管理システムや土木積算システムを駆使。事業全般の習得に汗を流している。
富樫社長は「無理やり誘ったわけではなく自分で入社を決めた。頑張っているようで社内の評判は悪くない」と恒輝氏の奮闘に目を細める。同社の経営理念は「お客様にいつまでも愛される、よい商品をつくる」 事業承継の不安がなくなり「60歳で引退したい」と笑うが、バイタリティあふれる人柄は地元でも知られている。設備工事の品質向上による「よい商品」の追求と事業拡大への意欲は当分衰えそうもない。
企業概要
会社名 | 株式会社富樫設備工業 |
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本社 | 神奈川県海老名市今里2-5-1 |
HP | https://www.togashi-setsubi.co.jp/ |
電話 | 046-259-6356 |
設立 | 2002年3月 |
従業員数 | 11人(2023年12月現在) |
事業内容 | 商業施設、病院、各種ビル工事の給排水、空調配管工事 |