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株式会社ワン・ハンドは群馬県高崎市を本拠に、「保険のハンズクラフト」の店舗ブランドで群馬県内と愛知県名古屋市、栃木県足利市に展開する5つの保険代理店を運営している。最大の特徴は複数社の生命保険・損害保険の商品を取り扱う「乗合代理店」として、多様化する顧客の求めに応じて各社の商品の強みを組み合わせ、いわば「手作り」の保険を提供する点にある。ブランド名もそこに由来する。一方、企業としては地場のそれぞれ独立した法人代理店が合流して成り立ってきた経緯から、保険代理店の業務に不可欠な顧客管理、行動管理、書類のデータ管理の3領域のシステム化を進め、社内品質の統一化を図っている。(TOP写真:「保険のハンズクラフト」の本店営業部で顧客に保険商品の内容を説明するワン・ハンドの社員)
生損保21社の保険を扱い5店舗を運営
ワン・ハンドは2020年4月の設立で、同年の7月に事業開始した。現在の取扱保険会社は損害保険12社、生命保険9社、少額短期保険1社で、特定の保険会社1社だけと委託契約する「専属代理店」と異なり、より幅広い商品の選択肢を顧客に提示できる。
拠点は高崎市の本店営業部に加え、群馬県内は館林市と伊勢崎市、さらに愛知県名古屋市と栃木県足利市の計5店舗を構える。カウンターを備えた店舗を多数展開する大型資本による「乗合代理店」が一般的に知られる中で、地場で「乗合代理店」を複数展開しているワン・ハンドは珍しいケースとされる。
これを可能にしたのは、ワン・ハンドのビジネスモデルにある。各拠点は元々、それぞれ独立した事業法人が地域密着で保険代理店を運営してきた実績があり、その法人が保険事業だけをワン・ハンドに譲渡し、現在のワン・ハンドの事業を形成してきた。ワン・ハンドの三友岳彦代表取締役は「イメージ的にフランチャイズ制度と似ているものの、1法人事業として5拠点を引き継ぎ、すべてワン・ハンドの社員として運営に当たっている」と話す。
集合体によるスケールメリットで体制整備や事業承継などの諸課題解消を
保険代理店を取り巻く環境は、金融庁から独自の社内規則や社内の仕組みを構築し、業務の健全かつ適切な運営を確保する体制整備を求められたり、保険会社への対応や内製化の確立といった課題を抱える。とりわけ規模の小さな地場の保険代理店1社でこれらに応えるのは難しい現状だ。さらに、保険募集人や店主の高齢化が進み、事業承継や若手の人材不足が大きな問題になっている。
そこでワン・ハンドは地場の保険代理店を束ね集合体としてのスケールメリットを引き出せば、これら諸課題の解決につながると判断し、独自のビジネスモデルの展開に踏み切った。地場の保険代理店がワン・ハンドに合流すれば、単独で人材を採用、育成してきたコストは削減でき、金融庁の求める体制整備にも対応できる。さらに、規模感が増した分だけ保険会社との交渉なども単独時にはなかったメリットが得られる。
もちろん、ワン・ハンドへの合流には条件があり、参加を希望する保険代理店には営業手法も統一した施策にのっとるなどワン・ハンドの基準ルールに従うことを求めている。
地場に根付いたプロフェッショナル人材に強み
一方で、地域に密着した地場の保険代理店を取り込むビジネスモデルは、そのままワン・ハンドの強みになっている。それは、合流した保険代理店は「いずれも保険業務に精通した経験豊かなプロフェッショナルで、地場に根付き顧客との密着度が高い」(三友氏)からだ。例えば、三友氏とともにワン・ハンドを立ち上げた名古屋支店は元々三代続く保険代理店で、伊勢崎支店は保険業に40年間携わっている。さらに、各拠点はそれぞれ特色があり、その強みを生かした保険営業につなげている。
事業面で現在、新規に力を入れているのは生命保険分野での営業強化だ。現在、ワン・ハンドは売上ベースで損害保険が8割、生命保険で2割という構成になっている。それは、合流した地場の保険代理店のほとんどが損害保険のスペシャリストであり、経験が豊富で顧客も多いためだ。
ただ、人口減少時代を迎え、今後は保険マーケットが縮小していくことを考えると、これら損害保険のスペシャリストには既存のマーケットに加えて、生命保険という新しい提案をしてもらうことが、この先数十年の事業継続を考えると重要と判断した。比較的社員の年齢が若い本店営業部は生命保険の比率が4割程度あり、「各拠点もこの水準に引き上げられるように、生命保険営業のスキルアップを図っている」(三友氏)。
このため、住宅メーカーとのコラボレーションにも取り組み、住宅展示場などでの住宅取得者の紹介を通じて火災保険はもちろん、ライフプランによって生命保険の見直しの提案につなげることに取り組んでいる。
ワン・ハンドは「法人、個人、生命保険、損害保険を問わず『総合保険代理店』という姿を目指しており」(三友氏)、生命保険の強化にはとりわけ個人分野へのアプローチが重要になる。そのためにこうした住宅メーカーとの取り組みを各拠点の若手社員の育成策とし、そこで得たスキームを各拠点に取り込み、生命保険分野の強化につなげようとしている。
顧客管理と社員の行動管理をシステム連携で一括管理
金融保険業は個人情報を扱っている以上、システムのセキュリティを重要視しなければならない。この点、三友氏も「今、一番気をつけているのは情報管理のシステムとそのセキュリティ」と語る。その上で「保険代理店に必要とされるシステムは顧客管理、行動管理、書類のデータ管理の3本柱」とも付け加える。
行動管理システムとしては保険代理店向けの営業支援・顧客管理システムを導入しており、このシステムを使って顧客管理のほか、日報管理や顧客との業務報告など社員の営業活動を一元管理している。さらにこれと並行して、「乗合代理店」ならではのツールとして多くの保険会社の代理店向けシステムにアクセスできる保険業界のネットワークインフラサービスを導入している。
保険代理店向けの営業支援・顧客管理システムと保険業界のネットワークインフラサービスは連動しており、ワン・ハンドは事業立ち上げ時点からこの2つを導入しており、業務の省力化や利便性向上につなげている。この点を三友氏は「保険会社単独のシステムではその会社の保険内容データしか確認できず顧客管理としては不都合なため、2つのツールを連動することでこの課題を解消している」と語る。
多店舗での情報共有に向けて書類データ管理をクラウド化
書類のデータ管理には、事業開始当初は本社営業部と名古屋支店の2拠点だけだったこともありNASを使っていた。さらに、拠点間でのデータ共有は電子メールでのやりとりだったため、データ量とセキュリティの両面で改善の必要性を感じていた。
拠点が増え、多拠点間で情報を共有する必要性が高まったことから、プライベートクラウドを構築して書類をデータ管理し、情報の共有化を図れるシステムに切り替えた。これまで書類は本社で保管しデータとして管理してたが、このシステム導入以降はインターネット経由で保管する形態に切り替えた。これによって、「作業効率はだいぶ向上した」(三友氏)。
また、このシステムを活用すれば外出先からもデータを確認でき、新型コロナ禍のさなかのテレワークでも役に立った。さらに、三友氏はこのシステムについて、「当社独自の事業継続計画(BCP)の観点からも重要」と話す。「能登半島地震のような災害があった際に拠点がストップしてしまってはいけない。お客様保護のためのBCPとして、どこにいてもデータにアクセスでき平常時と同じ業務ができるようにした」と言う。
一方、セキュリティ対策としてはファイアウォール機能に加え、ウイルス対策、迷惑メール対策など複数のセキュリティ機能を統合し多面的な脅威に対抗できるUTM(統合脅威管理)を導入し、セキュリティを担保している。
ワン・ハンドが展開するビジネスモデルにおいて、社内品質の統一を目指し取り組んできた顧客管理、行動管理、書類のデータ管理の3つのシステム化については、一連の施策によって現状はほぼ確立した。これをベースに2024年度内には群馬県内に新たに2~3店舗を開設する計画も進んでおり、2027年3月末に12拠点まで拡大する目標を掲げている経営ビジョンの実現に一歩近づく。
ワン・ハンドは2023年12月に国際標準化機構(ISO)が定める品質マネジメントシステムに関する国際規格ISO9001の認証を取得した。三友氏はこの点を「事務品質や、事務ルーチンや管理ルーチンの統一化を図った」としており、地場の保険代理店がワン・ハンドに合流する際の基準の透明化にもつながる。その姿勢は社内品質の統一化に向けたシステムの確立への取り組みにも反映されている。
企業概要
会社名 | 株式会社ワン・ハンド |
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住所 | 群馬県高崎市江木町1449番地1 |
HP | https://hoken-handscraft.co.jp/ |
電話 | 027-395-0131 |
設立 | 2020年4月 |
従業員数 | 27人 |
事業内容 | 生命保険・損害保険の代理店事業 |