シンガポール
(画像=MEzairi/Shutterstock.com)

日本M&Aセンターの初のASEAN海外拠点として、2016年4月にシンガポールに事務所を開設した。以来3年間の活動で得たシンガポールのM&A動向について記したい。

ASEANにおけるM&A件数推移

下の図を参照いただきたい。近年のアジアにおけるIn-Outの件数推移である。2018年はシンガポール企業の買収が53件と、最も多い。単年に限ったことではなく、ここ5年ほどは ASEANのM&Aにおいて最も日本企業による買収が多い国である。昨年のIn-Outをみても、事業会社に対する買収が盛んで、建設・設備工事・ITソフトウェア・教育・小売・食品卸・飲食と、様々な分野で実施されている。金額が公表されている27件のうち20件は決済額30億円未満の中堅中小規模の案件であった。

図1
(画像=Futureより)

シンガポールのM&Aポテンシャル

シンガポールでは、日本同様に事業承継問題による企業売却が多い。合計特殊出生率が2015年時点で1.20%と低いシンガポール(日本は1.44%)は、高齢化比率が2015年時点の17.9%から2050には40.4%(日本は33.1%から42.5%)と急速に増加する見込みである。すでにアジアの中でも高齢化が進んでいる国であり、後継者不在の課題を抱えている企業がすでに存在し、今後も増加が見込まれている。

一方でビジネス環境を見ると、世界銀行による制度的環境を比較評価した世界ビジネス環境ランキングでは世界2位(日本39位)、世界経済フォーラムによる世界競争力ランキングでは米国に次ぐ2位(日本は5位)でアジアにおいてビジネスを取り組みやすい国という圧倒的な評価がある。税理面では、シンガポールの実効税率が17%と低く、様々な優遇税制によりさらに低くなることがある。さらにシンガポールから日本の親会社への配当については、外国子会社配当益金不算入制度により95%が益金不算入となるためアジアの統括会社をシンガポールに置く傾向は引き続き強い。さらに、汚職認識度指数ランキングでは2位(日本は18位)とあり、クリーンで透明性の高い国として世界的に認識されている。

これは中堅中小企業でも同様で、財務情報は概ね適正に処理されいる傾向が強く、いわゆる粉飾等はあまり見受けられない。さらに外資規制も限定的であるため、書いて企業にとってはM&Aの検討を容易にする重要なポイントの一つといえる。

シンガポール・オフィスの活動状況

日本M&Aセンター海外支援室では、M&Aによる日本企業のシンガポール進出を支援している。シンガポール・オフィスのメンバーは役10名体制になり、半数はシンガポール人で構成されている。現在はシンガポール内の有力な会計事務所のネットワーク化を推進し、現地の有力事務所30以上と提携関係を構築した。これにより豊富な中堅・中小企業へのアクセスルートをつくることができ、現地で取得する譲渡案件の情報は量・質ともに格段に向上した。

実際、多くのオーナー経営者は日本と同様、事業承継や成長戦略という理由で自社の譲渡を選択肢の一つとして捉えている。異文化に慣れていることと、比較的親日であるため、オーナーは日本企業への譲渡に抵抗がさほどない。日本企業においても、先述のシンガポール企業の透明性・正確性から管理・運営面において非常に進出しやすい国と認識されている。さらにASEANへのゲートウェイとしての位置づけから、日本企業からの積極的なM&A検討は進んでいる。

現場で感じる課題は、中堅中小企業のM&A情報が、国境を超えて活発に行き交うことはまだ少ないことだ。後継者不足に悩むシンガポール企業のオーナーと、進出したい日本企業の仲介者の役割は、より一層重要になる。

弊社シンガポール・オフィスは、現在はシンガポールに加え、マレーシア、インドネシア、ベトナム、タイにおいて、現地企業の売却情報を開拓している。ASEANに成長機会を求める日本企業のクライアントにM&Aによる進出を支援するため、質・量ともに十分な情報提供を行うべく、直近で各国へのオフィス開設も計画にあるなど、さらに体制を強化していく方針である。

西井 正博(海外支援室 シンガポール・オフィス所長 株式会社日本M&A センター)
今井進一(海外支援室 課長 株式会社日本M&A センター)

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