目次
- 電気設備、制御、空調、環境を手掛ける企業でグループを構成 2001年には中国に進出
- 5つの社会にとってなくてはならない存在を目指す
- 75年を超える歴史の中で四国有数の電気工事会社に成長
- 1970年代から情報化投資に力を入れる 2017年6月にICT管理室を新設してグループ全体の基幹システムを一元化
- 現場の作業を効率化するシステムやアプリケーションを選択する権限は、現場に近い事業部門に委ね、裁量権を与えることで人材の能力向上を図る
- 国内外に広がる拠点間のコミュニケーションにWeb会議システムを活用
- グループの情報誌に生成AIが作成した文章を掲載 業務への活用にも強い関心を示す
- 後継者難に悩む地元の老舗企業の経営権を取得して、38歳の幹部社員を社長として派遣 地域の電気設備業界の活性化と人材育成の両立を図る
- ICTやAIの活用で総合エンジニアリングのビジネスモデルを強化する
香川県高松市に本社を置く三和電業株式会社を中心とする三和電業グループが、国内外に広がるグループ企業の相乗効果を発揮する上で、ICTとデジタル機器を有効活用している。飛躍的に進化している生成AIの活用も視野に、新しい技術を活用するノウハウを積極的に蓄積することでグループ全体の更なる飛躍を目指している。(TOP写真:CADを活用して電気設備の設計に取り組む様子)
電気設備、制御、空調、環境を手掛ける企業でグループを構成 2001年には中国に進出
三和電業グループは、電気を中心に通信、計装、消防、給排水衛生などの様々な設備を施工する三和電業株式会社、FAシステム開発、FAパッケージソフトの開発・販売、プラント総合設備を事業領域とする三和プラントエンジニアリング株式会社、クリーンルーム関連設備、空気調和設備に強みを持つ三和空調株式会社、太陽光発電設備工事を中心に環境分野の事業に取り組む三和エコ&エナジー株式会社で構成されている。2001年には中国に進出。江蘇省蘇州市で、現地に進出した日本企業の工場設備を施工する三つの有限公司を経営している。
5つの社会にとってなくてはならない存在を目指す
「われら技術の三和電業グループ社員たる誇りと自覚に燃え
日々の業務に限りない感謝の心を注ぎ
会社と一体となって行動し
いま この場をいきいきと生き抜き
而して5つの社会に貢献するをもって活力あふるゝ企業とならん」
三和電業グループは1981年に制定した経営理念を常に意識しながら、新たなことに挑戦する社風を大事にしているという。「社員一人ひとりが、5つの社会(お客様、協力者、社員・仲間、家族、自分自身)にとってなくてはならない存在となることを目指して技術の研鑽(けんさん)に取り組んできました。お客様の立場に立ち、お客様に喜んでいただくことを何より大事に考えています」と山地一慶代表取締役社長は話した。
75年を超える歴史の中で四国有数の電気工事会社に成長
グループの中心となっている三和電業は1948年に山地社長の祖父、十三男氏が創業した。75年を超える歴史の中で、一流顧客との取引を順調に拡大し、バブル経済の崩壊やリーマンショックといった厳しい時期を乗り越え、四国有数の電気工事会社に成長した。受注エリアは全国に広がり、香川県以外に東京都、大阪府、徳島県に四つの支店、福岡県、福島県に二つの営業所を構える。「広いエリアで勝負することで人材も会社も成長します。時代のニーズに合わせてグループ企業を立ち上げ、専門性を磨きながら挑戦を続けてきました」と山地社長はグループの歴史を振り返った。
山地社長は、2018年1月、38歳の時に、現在相談役を務める父親の山地真人氏から事業を引き継いだ。就任後は経営理念を何より大事に考え、グループ各企業が蓄積した技術を組み合わせて全体の相乗効果を高めることに主眼を置いてきた。就任当時に約80億円だったグループの年商は、2023年時点で約100億円に拡大している。「業績が好調なのは、先を見据えて事業を展開した歴代の社長と、日々頑張ってくれている社員のおかげです。社員一人ひとりが指示を待つのではなく、経営者意識と責任感を持って仕事に取り組むことを大事にしています」と山地社長。
1970年代から情報化投資に力を入れる 2017年6月にICT管理室を新設してグループ全体の基幹システムを一元化
グループ各企業の相乗効果を高める上で大きな役割を果たしているのがデジタル技術だ。三和電業は1970年代から情報化投資に力を入れてきた。1978年にIBM製の事務用コンピューター、1982年には施工管理業務の拡大に合わせて自社開発の積算システムを導入した。その後も1989年に社内LANを敷設するとともにCADの活用を開始。1993年には当時約50人の従業員全員にノートパソコンを支給した。山地一慶社長も、積極的に情報化に投資した歴代社長の姿勢を受け継いでいる。
三和電業は2017年6月にグループ全体のシステムやネットワークの運用・保守、情報セキュリティ、新たなICT活用計画の策定などの情報経営を担当するICT管理室を新設した。2018年には、それまでグループ企業ごとに個別に運用していた基幹システムを一元化した。本社から直接、各社・各事業部門の財務に関するデータをリアルタイムで把握できるようになったので、財務管理の業務効率が格段にアップしたという。
現場の作業を効率化するシステムやアプリケーションを選択する権限は、現場に近い事業部門に委ね、裁量権を与えることで人材の能力向上を図る
財務管理の面ではグループ全体で基幹システムを一元化したが、現場の作業を効率化するシステムやアプリケーションを選択する権限は、現場に最も近い事業部門に委ねている。事業部門は、お客様や現場の状況に合わせた形で様々な企業が開発したシステム、アプリケーションについての情報を集め、導入する機種やサービスを独自で判断している。これまで、ネットワーク上のサーバーで情報を管理する施工情報共有システム、建設図面の共有システム、図面管理、現場管理の情報管理アプリケーション、労務・安全衛生管理の書類作成をデジタルで効率化するシステムを導入し、活用している。
「部門単位で一定の裁量権を与えることは、人材の能力向上を図る上で大きな効果が見込めます。上から押し付ける形で現場の作業で使うシステムやアプリケーションを統一するよりも、現場の判断を尊重し、それぞれが最も使いやすいと思うものを選んでもらう方が、生産性を高める上で効果が高いと考えています」と山地社長は説明した。
国内外に広がる拠点間のコミュニケーションにWeb会議システムを活用
Web会議システムを使った時間の有効活用も進めている。2020年に発生したコロナ禍以降、使用頻度は一気に高まったという。コロナ禍の3年間、毎月開催している役員会や経営会議、毎年開催のグループ経営方針発表会などはWeb会議システムを使ってオンラインで開催した。コロナ禍が収束した後も、離れた場所から現場の様子を確認する遠隔臨場や、全国と海外に広がる拠点同士のコミュニケーションに積極的に活用している。1ヶ所に集合する手間と時間を省くことができるWeb会議システムは生産性の向上に大きな効果を発揮しているという。
「ICTとデジタル機器については、どのように業務で役立っているのか、検証することも大事にしています。システムや道具に振り回されることは避けなければなりません。目的意識を持って技術の変化に対してしっかりと対応できる人材を育成していきたい」と山地社長は話した。
グループの情報誌に生成AIが作成した文章を掲載 業務への活用にも強い関心を示す
山地社長は、データ学習を通じて文章や画像などのコンテンツを作成する生成AIに強い関心を持っている。情報を収集する中で、毎月発行しているグループ企業向け情報誌『SANWA』に掲載する社長巻頭言の一部を生成AIに作成させるという試みを2024年2月号で行った。「生成AIは今後、加速度的に進化する可能性があります。以前から遊び感覚で使ってはいたのですが、そろそろ本格的に活用を考えなければならない時期に来ているのではないかと考え、トライしてみました」と山地社長は試みの背景を話した。
過去に発行した複数号の内容を生成AIに学習させた上で、「生成AIの活用が建設業界で進む中での三和電業グループの取り組み」をテーマに、650文字の文章の作成を指示すると論理的な文章があっという間にできあがったという。データ分析と予測モデリングの活用、技術者のスキル向上のための教育プログラムの必要性、AIを活用した顧客とのコミュニケーション強化、人間とAIの協働強化といった今後の取り組みの参考になる情報が盛り込まれていたことに加え、修正の指示にもある程度的確な対応をしてくれたという。
「生成AIの自然言語処理能力が飛躍的に向上していることを実感できました。生成AIを活用することで、何でも相談できる社内用のチャットボットを作成したり、ベテランのノウハウを若手に効率的に伝授するといったことができるようになるかもしれません。人間と同じように信頼して本格的に現場管理などの業務で使用するのはまだ難しいと思いますが、技術は日々進化しているのでしっかりと情報を集めて活用を考えていきたい。巻頭言の執筆には毎月苦労しているのですが、生成AIが更に進化してその苦労から解放される日が来ることを楽しみにしています」と山地社長は明るい口調で話した。
後継者難に悩む地元の老舗企業の経営権を取得して、38歳の幹部社員を社長として派遣 地域の電気設備業界の活性化と人材育成の両立を図る
地域の経済活性化への貢献と人材育成にも力を入れている。三和電業は2023年6月、香川県西部に事業基盤を持つ創業100年の電気工事会社、株式会社久保電機の全株式を譲渡により取得し、経営権を引き継いだ。地元の業界団体の活動を通じて両社は以前から友好関係にあり、後継者難に悩む久保電機から三和電業に経営権譲渡の打診があったという。山地社長はグループに久保電機を迎え入れることで、同社が後継者難を解消し成長すれば、香川県内の電気設備業界の活性化にもつながると考え、経営権の引き継ぎを決断したという。
久保電機の新社長には三和電業の幹部、38歳の中川晃良氏が就任した。「ベテランの役員よりも若手を抜擢する方が、歴史を持つ久保電機の新しい可能性を拡大できると考えました。全く異なる文化を持った企業の舵取りをするのは大変と思いますが、きっといい仕事をしてくれると信じています。三和電業グループを新しい社長がどんどん生まれる青天井の組織にしていきたい。一人ひとりの社員が成長できるステージを用意することでグループ全体の成長につなげていきたいと考えています」と山地社長は力強く語った。
ICTやAIの活用で総合エンジニアリングのビジネスモデルを強化する
三和電業グループは2030年に年商170億円の達成を目標に掲げる。山地社長はICTやAIを活用することで電気設備、制御、空調、太陽光発電をそろえる総合設備エンジニアリングのビジネスモデルを強化し、更にとなり畑の事業領域にも対応できる総合エンジニアリング事業に発展させていきたいと考えている。「以前は取り組むことが難しかった事業が技術の進化によってどんどん可能になるに違いありません。ICTやAIを活用する技術とノウハウを蓄積することで、うまくチャンスをつかんでいきたい」と山地社長は先を見据える。
ICTやAIが建設業界に浸透し始めている。大きな変化は企業にとってピンチであると同時にチャンスでもある。変革期をチャンスととらえる三和電業は、これからも新しい技術を生かすことでグループ全体を進化させていくに違いない。
企業概要
会社名 | 三和電業株式会社 |
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本社 | 香川県高松市太田下町2580番地3 |
HP | http://sanwanet.co.jp |
電話 | 087-865-8585 |
設立 | 1953年12月(創業1948年) |
従業員数 | 約200人(社員数/グループ全体:日本人) |
事業内容 | 電気設備、通信設備、計装設備、消防施設、給排水衛生設備、空調換気設備、プラント総合設備、計装制御設備、光ネットワーク設備、FAシステム開発、制御盤の設計・製造、FAパッケージソフト開発・販売、空気調和設備、冷凍設備、クリーンルーム関連設備、HACCP関連設備、太陽光発電設備工事、環境整備工事、省エネルギー設備工事及びエンジニアリング ※グループ全体の事業内容 |