経営者仲間と協業し、多品種少量の精密加工技術に磨きをかける。膨大な図面管理の効率化と再利用に本格的に取り組む ついひじ製作所(群馬県)

目次

  1. 1967年にプレス加工事業を開始し1969年に法人化。医療冷蔵機器用部品を中心に製造品目を拡大。現社長は父に呼ばれて1997年に入社
  2. 経営を引き継いだのは入社27年後。プログラム開発の経験を生かしてCADシステムとNC機器を導入し、高度な板金・プレス加工を可能にした
  3. 大量のヒンジ製造に精緻な熟練技。図面のないユニット部品の複製は経営者仲間で知恵と技術を出し合い分担して製造。相互に協力する技術者集団を形成
  4. 売上高は順調に伸ばしてきたが、中国向け輸出減少の影響で先行きに危機感。他社にできないモノづくりの創意工夫と技術を磨き打開探る
  5. 2,400枚の図面データを保管し再利用可能に。図面をひもづけして体系化。2024年夏には完成見込む。工作機械との連動や外部発注にも活用を目指す
  6. 経営を引き継ぎ、筋肉質の企業に変えて収益増には報酬上乗せ。モノづくりを通じて個々が幸せにならねば。創業以来の無事故が自慢
  7. 東京の町工場から持ち込まれる部品は技術力の塊。中小企業にとって事業承継は大きな課題。将来ビジョン作りに欠かせない“仲間意識”
中小企業応援サイト 編集部
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群馬県南東部邑楽(おうら)町にある有限会社ついひじ製作所は、各種部品や建設資材などのプレス加工が事業の柱だ。創業者の父親から経営を引き継いだ築比地(ついひじ)章代表取締役は、CADやNC(数値制御)マシンを積極活用し、旧来型板金プレス加工業からの脱却を目指す。金型図面のデジタル化による一元管理で効率化と再利用を実現、多品種少量を得意とする精密加工技術に磨きをかける。(TOP写真:NC機器で多種多様な形状の資材や部品を生み出す)

1967年にプレス加工事業を開始し1969年に法人化。医療冷蔵機器用部品を中心に製造品目を拡大。現社長は父に呼ばれて1997年に入社

ついひじ製作所は築比地社長の父親、一利氏がいざなぎ景気のただ中の1967年に冷蔵庫用部品の板金・プレス加工などを目的に創業し、1969年には法人化。医療用冷蔵庫やショーケース、自販機用の各種部品、建設工事用資材など製造品目を広げるとともに、他社が手掛けにくい加工ニーズにも卓越した精密加工技術とプレス機活用の創意工夫で応えてきた。同社が製造する部品は外資系医療関連会社や電機、機械、自動車など大手メーカーの製品に組み込まれている。

築比地社長が入社したのは1997年。一利氏から「会社を手伝ってもらえないか」と言われ、それまで勤めていたCAD/CAM関連会社から転職した。入社後は、プレス加工の現場ひと筋で働いた。

経営を引き継いだのは入社27年後。プログラム開発の経験を生かしてCADシステムとNC機器を導入し、高度な板金・プレス加工を可能にした

経営者仲間と協業し、多品種少量の精密加工技術に磨きをかける。膨大な図面管理の効率化と再利用に本格的に取り組む ついひじ製作所(群馬県)
CADシステムを導入。数値制御と熟練技術の融合を図った

CADプログラム開発の経験を生かして、CADシステムやNC機器の導入を推進し、経営改善に貢献したが、代表権を引き継いだのは2020年。入社後27年が過ぎていた。いざとなると代表権を手放そうとしなかった父親から名実ともに経営を引き継ぐのに苦労したが「ようやく認められ、代表となった」と笑う。

現在、同社のプレス加工事業は医療用冷蔵機器関連が3割近く、ロボット関連が2割、自動車関連が1割、そのほか自販機関連、遊戯施設用両替機、建設土木用資材など多岐にわたっている。中でも大手電機メーカーの医療用冷蔵機器の部品は新型コロナ感染拡大によるワクチン冷却用に需要が拡大。「数ヶ月ごとに大量受注が来て、3交代でも間に合わず外注に出した」(築比地社長)ほどのフル稼働が続いた。

大量のヒンジ製造に精緻な熟練技。図面のないユニット部品の複製は経営者仲間で知恵と技術を出し合い分担して製造。相互に協力する技術者集団を形成

経営者仲間と協業し、多品種少量の精密加工技術に磨きをかける。膨大な図面管理の効率化と再利用に本格的に取り組む ついひじ製作所(群馬県)
ひんじ検査 電気コードを締め付けるヒンジは「ネジの締め付けと押さえ金具の可動範囲の精緻(せいち)さがカギ」と説明する築比地社長

0.04ミリメートル単位で締め付け金具の可動範囲を制御するヒンジ(ちょうつがい状部品)製造や、通常は大型プレス機を使う道路用フェンスの加工を小型プレス機で実現するなど「当社でしか作れないものが多い」(築比地社長)のが最大の強みだ。複数の部品で構成された設計図面のない古いユニット部品の複製など、ニッチな注文も請け負う。同社だけで作れなくても、同業他社や関連業界の中小企業経営者とのつながりを生かして知恵を出し合い分業できることも大きな強みとなっている。

ユニットを分解して各社が部品ごとに図面を起こして製造を分担、持ち寄って組み立て、要求仕様を満たしているか検査するという手間のかかる作業だが、出来上がりが評価されれば大量受注や新たな契約に結びつくケースも少なくない。「仕事を分けたり、逆にもらったりすることもある。中小企業経営者の集まりなどで知り合った仲間とのつながりに恵まれている」(築比地社長)。協業関係にある中小企業の従業員総数は200人以上。必要に応じて各社が技術を突き合わせて部品の集合体を完成させるための協同体となるわけで、いわば稲盛和夫京セラ名誉会長(故人)の唱えた「アメーバ経営」にも似た技術者集団を形成している。

売上高は順調に伸ばしてきたが、中国向け輸出減少の影響で先行きに危機感。他社にできないモノづくりの創意工夫と技術を磨き打開探る

経営者仲間と協業し、多品種少量の精密加工技術に磨きをかける。膨大な図面管理の効率化と再利用に本格的に取り組む ついひじ製作所(群馬県)
ひんじ検査1 中国向け輸出減の影響でヒンジ製造量も減少傾向だ

売上高は順調に伸び2023年4月期は2億円弱だったが、今期は顧客企業の中国向け輸出減の影響で減収は避けられない見通しだ。自動車用のヒンジはかつて月産15万~20万個生産していたが、現在は3万個に激減している。

築比地社長は「中国向けビジネスの今後が不透明なため、中小企業にとっては厳しい時代になる。原点はモノづくりなので、時代の流れに合わせて新たなニーズに応えられるようにしなければ先はない」と危機感を抱く。打開の鍵を握るのが、同社の最大の強みである「他社にできないものを造る創意工夫と技術」を磨くことだという。

工場ではわずか5人の熟練技術者がプレス加工に従事している。難しい要求にも応えられる少数精鋭のベテランだが、「多品種少量生産のため図面は膨大でこれまで手書き主体の図面管理は煩雑さを極めていた。図面データの一元管理やデータの再利用を目指して2023年4月に導入したのがNAS(ネットワーク接続型ストレージ)だ。

2,400枚の図面データを保管し再利用可能に。図面をひもづけして体系化。2024年夏には完成見込む。工作機械との連動や外部発注にも活用を目指す

経営者仲間と協業し、多品種少量の精密加工技術に磨きをかける。膨大な図面管理の効率化と再利用に本格的に取り組む ついひじ製作所(群馬県)
NASによる図面データ管理に完全移行すれば図面の再利用が容易になり、業務効率向上が期待されている

NASは、LANなどネットワーク上に置かれたハードディスク装置だが、CPUやOSを搭載しているため、単にデータを保存するだけでなく、データを管理・活用するための様々な機能を備えているのが一般的だ。「当社には部品の図面が約1,200点保管されているが、部品1点につき1~3枚の図面が必要なので、図面はざっと2,400枚ある。部分的に修正して再利用できれば、作業効率は格段に高くなる」と築比地社長。従来は製造する部品の形状がわずかに違っていてもゼロから線を引いていたが、保管されている図面をすぐに取り出して一部修正して流用できるようになれば納期短縮や製造コスト削減にもつながる。

NASで図面のデータベースを構築して、基本の図面に関連の図面をひもづけするためのアプリケーションを開発した。現在は「図面データの保管とひもづけを試行中」で、2024年夏には完成する見通し。「ゆくゆくはNC、プレス加工機と連動、外部発注にも活用したい」と考えている。

経営を引き継ぎ、筋肉質の企業に変えて収益増には報酬上乗せ。モノづくりを通じて個々が幸せにならねば。創業以来の無事故が自慢

経営者仲間と協業し、多品種少量の精密加工技術に磨きをかける。膨大な図面管理の効率化と再利用に本格的に取り組む ついひじ製作所(群馬県)
道路脇に建てるアルミ製フェンス資材の製造も、独自の工夫を重ねて小型プレス機で加工する

先代社長の時代には最大20人以上が現場で働き、「無理してでも黒字経営を続けていた」(築比地社長)が、築比地社長就任後は公認会計士のアドバイスも受けながら筋肉質の経営に転換。稼働率が高まり収益が上向けばその分、賞与など報酬面で従業員に報いてきた。築比地社長の自慢の一つが「創業以来の無事故」だ。日夜金属と格闘を続けるプレス加工では現場の従業員は怪我がつきものともいわれるが、同社は先代から無事故を続けており、発注元の大手企業から表彰も受けた。

熟練技術者による高度な板金・プレス加工は、「新しい技術の創出があってこそ」(築比地社長)で、一人ひとりの技術や能力を最大限に引き出す環境づくりを重要視している。その根底には「モノづくりを通じて個々が幸せでなければ生きている価値がない。各自が幸せにならなければ意味がない」という確固たる経営理念がある。

東京の町工場から持ち込まれる部品は技術力の塊。中小企業にとって事業承継は大きな課題。将来ビジョン作りに欠かせない“仲間意識”

経営者仲間と協業し、多品種少量の精密加工技術に磨きをかける。膨大な図面管理の効率化と再利用に本格的に取り組む ついひじ製作所(群馬県)
中小企業にとって厳しい時代に備え、新たなニーズに応えられる技術力向上を目指す=本社事務所(右)と工場

日々持ち込まれる部品製造の依頼には、事業承継を断念した東京都の町工場集積地で作っていた部品が増えてきたという。「月に2、3件ある。すごい技術力の塊で勉強になるものが多いが、高齢で続けられないケースが多いようだ」と残念がる。

54歳の築比地社長には公認会計士を目指す息子がいるが、後継ぎは期待していない。自らの事業承継については「まだ具体的に考えていないが、仕事関係で同じ考えを持った仲間がいるし、信頼できる人がいれば任せてもいい」と柔軟に考えている。しかし、「このままでは中小企業がどんどん潰れていく」という危機意識は強い。同じ仕事を続けてきた協業企業経営者との“仲間意識”が、将来ビジョンを描く上で欠かせない要素であることは確かだ。

企業概要

会社名有限会社ついひじ製作所
住所群馬県邑楽郡邑楽町大字中野3130-1
HPhttp://www.tsuihiji.com/
電話0276-88-1201
設立1969年12月
従業員数9人
事業内容医療冷蔵庫、ショーケース、自動車、自販機用部品のプレス加工など