目次
- 鉄鋼請負作業を行う会社と運送会社を経営 ダンプの帆立走行事故防止装置を自ら開発、「ヤマステック」設立のきっかけに
- ビジョンは「1件でも多くの災害や重大災害を防ぐこと」 仕様、構造設計、試験、開発までワンストップ 低価格かつ機能性を実現
- 自動車標準装備のミリ波レーダーを採用した衝突防止システム『MeRadar』を開発 「後付け」対応が強みに
- ロボット技術にも進出、アタッチメントを開発へ
- 無人駅の町に新しい産業 地域とともに成長できる会社を目指す
- 電子黒板の導入は、移動による “時間の空白”を埋めることができ、顧客との緊密な連絡、社内の決済遅延や商機の逸失を避けることができた
- 多様なICT機器を実際に使用しビジネスにすることで、一見関係ないICT活用ノウハウが山本社長の頭の中ではスパークする
「不注意」「誤認」「スキル不足」……。厳格な安全管理を実施している作業現場でも、ヒューマンエラーによるミスをゼロにはできない。ミスを防止するための装置やシステムへの潜在ニーズは高い。ヤマステック(千葉県東庄町)の山本貴夫代表取締役は、遠隔操作や制御、AIカメラなどあらゆる技術をつなぎ合わせるセンスと、最大1ヶ月程度という開発スピードを武器に、設立4年余りで全国の著名な大手企業から衝突防止や速度制限、盗難防止などの装置・サーバーシステムの受注が相次いでいる。(荷台の下げ忘れを防止する装置「帆立走行防止装置D-MAX」の紹介をする電子黒板)
鉄鋼請負作業を行う会社と運送会社を経営 ダンプの帆立走行事故防止装置を自ら開発、「ヤマステック」設立のきっかけに
山本社長は、茨城県鹿嶋市の製鉄所内で建設機械や大型ダンプを使用する作業の請負会社と運送会社の計2社を経営している。現場では、ダンプの運転手が荷台を上げたまま走行する「帆立走行」をして、信号機や表示板などにぶつかる事故が発生していた。うっかりミスをなくそうと、山本社長はさまざまな対策装置を試してみた。しかし、装置が高額だったり、効果が得られるものが市場になかった。
「それなら自分で作ってしまおう」。山本社長は2018年春、荷台の下げ忘れを防止する装置「D-MAX」を開発。荷台を上げた状態で走行した場合、設定した距離に達すると警告し、強制的にエンジンを停止させる仕組みだ。効果は絶大で、「事故がなくなった」という評判を聞きつけた元請会社や他社からの要望が相次ぎ、約300セットを納入した。「これまでの装置は、現場を知らない人が発案したから役に立たなかった。世の中の他の業種の現場や事業所でも同じ悩みがあるのでは」と考え、2019年5月に新会社「ヤマステック」を設立した。
ビジョンは「1件でも多くの災害や重大災害を防ぐこと」 仕様、構造設計、試験、開発までワンストップ 低価格かつ機能性を実現
ヤマステックのビジョンは、労働災害防止などに寄与する装置やシステムの開発・提供を行い、1件でも多くの災害や重大災害を防ぐことだ。山本社長は「うちは高度な技術なんて持っていない」と明かす。センサー、GPS、Wi-Fi、サーバーシステム、AIカメラなど既存のあらゆる機器を、分野を限定せずにつなぎ合わせることで、これまでにない装置・システムをつくり出す。驚くべきはスピードだ。取引先と打合せをした10分後には仕様の設計を考えついているという。
なぜそれほど早いのか。山本社長は「いかにデジタル技術が進んでも最後にモノを動かすのは『豆電球』と『電気』と『スイッチ』の3つだけ」と、例える。「必要なのは発想の転換なんです。大手のように付加価値や拡張性を求めない。単純に成果が出て安価であれば良いと語る。もともと文系で、専門分野がないという山本社長。物事をシンプルに考えることが、これまでにない画期的な発明を生み出している。
開発のモットーは「市場にはないが、こういう装置やシステムが欲しい」という要望に全て応えることだ。ヒアリングから仕様設計、基板回路設計、構造設計、試験までの開発に関わる全ての工程をワンストップで内製することで、迅速かつ効率的なサービス提供を実現する。山本社長の名刺には、「後付けで 個別システム構築を ローコストで」と記されている。高価格の装置・システムを少数の企業に一括提供するのではなく、車両などへの「後付け」を可能にするなど低価格かつ機能性の高い装置・システムを多くの企業に採用してもらうことを基本と考えている。
自動車標準装備のミリ波レーダーを採用した衝突防止システム『MeRadar』を開発 「後付け」対応が強みに
たとえば、ミリ波レーダーの技術。自動運転技術にしのぎを削る自動車産業では、新車にほぼ標準装備されている技術で、主に前方の車間距離や自動追従のセンサーとしての役割がある。自動車以外では、制御機能まで拡張すると高額になったり、制御手法に工夫が必要だったりすることからほとんど導入されていなかった。
しかし、ヤマステックはフォークリフトや重機、作業車両など向けの巻込衝突防止システム『MeRadar』を開発。ミリ波レーダーを採用し、これまで難しかった1.5メートル、3メートル、5メートルの距離に応じた警告灯の色や警報音を分けて接近を知らせることができる。7インチ防水タッチモニター、AIカメラ、LEDフラッシュと警告音を発するユニットをつなぎ合わせ、歩行者をAIカメラで検知し運転者、歩行者へそれぞれ警告する。
現在、路面電車や鉄道工事車両などの鉄道関連、港湾関連、大手建機メーカーなどで、『MeRadar』のデモ試験や採用検討が行われている。既存の車両にミリ波レーダー装置を自在に構築して「後付け」対応できるメーカーは少なく、ヤマステックの強みとなっている。
ほかにも、AIカメラにより歩行者を自動で検知して音声で退避や注意警告をする「AIボイス人車分離」は簡単に設置できると好評だ。音声は、用途や場所に応じて如何様にもカスタマイズできる。
ロボット技術にも進出、アタッチメントを開発へ
山本社長は、人に自動追従が可能な農業向けクローラー型ロボットを使って、人とロボットが一緒に農作業を行うスマート農業の分野にも進出。農林水産省のプロジェクトに参画し、ブドウ農家向けのロボットを多機能化するため、除草剤散布などの作業を支援するためのアタッチメント(作業装置)を製作・開発している。
無人駅の町に新しい産業 地域とともに成長できる会社を目指す
本社を山本社長の実家がある千葉県東庄町に設立したのには理由がある。同県北東部にある東庄町は、東京から約80キロメートル圏内、成田から約30キロメートル圏内の位置にあり、最寄り駅のJR成田線「笹川駅」は乗降客の減少から無人駅となった。町の基幹産業は稲作や畑作などの農業で、若者の就職先としては限られた企業しかない。山本社長は「新しい産業としてシステム開発や新装置の開発を手掛ける会社ができれば、地域に寄与できるのでは」と考えた。
実際、正社員はすべて東庄町およびその周辺に住んでおり、技術者は数名で、その他は、未経験、または新卒者だ。システム開発などの経験を積んでもらい技術やノウハウが向上することで、地域と共に成長できる会社を目指している。正社員の採用だけでなく、配線を揃えるなどの単純作業を内職として地域に住む人に提供し、副業収入が得られるようにした。テレワークの導入や残業をなくすなど、働きやすい環境を整備している。新築した本社事務所は山本社長自ら設計した。黒色の木壁が目を引くスタイリッシュな造りだ。
電子黒板の導入は、移動による “時間の空白”を埋めることができ、顧客との緊密な連絡、社内の決済遅延や商機の逸失を避けることができた
電子黒板の導入成果はすぐに現れた。ヤマステックとグループ会社2社は中小企業ゆえに経営や管理層の人材が少なく、山本社長が直接詳細な指示や確認をする必要がある。その手段として電子黒板を各事業所に置き、朝礼や打ち合せをリモートで行うことで、指示・伝達の精度と生産性が向上した。電子黒板上の画面に加筆ができ、その画面をそのままメール送信できる。
山本社長は「取引先とのリモートでの打ち合わせが増えたが、電子黒板の導入により目に見える形で協議や確認ができるようになった」と効果を打ち明ける。
中小企業の経営者は、事務所間の移動や出張が多く、不在時の決裁遅延や商機の損失、部下への指示の遅延が起きやすい。移動に伴う“時間の空白”を埋めることでより効率的、スピーディーな経営判断を下していきたいと考える山本社長にとって、電子黒板は救世主となりそうだ。
多様なICT機器を実際に使用しビジネスにすることで、一見関係ないICT活用ノウハウが山本社長の頭の中ではスパークする
Tシャツなどの衣類に直接プリントできるコンパクトなガーメントプリンターを導入したのは、仕事を効率的、スピーディーにして新規事業につながる芽を探すためだ。ガーメントプリンターを使用して、地元の学校の卒業記念品や贈答品、社内の販促物のデザインを考案し、プリント販売している。たとえば、切り絵作品、毛筆作品などをスキャンしてデザイン制作して布や他の素材にプリントする。
別途導入したオンデマンド印刷機では、カタログや取扱説明書、製品ラベル、ポスターなど製品の販売に関わる印刷物を内製化できた。
これらの新しいICTソリューションを使いこなせれば、従来の「機能性」だけにとどまらず、「デザイン」でも強みを生かせるようになる。山本社長は「先進的なソリューションに普段使いで触れていることで、よりクリエイティブで向上心を持った働き方を意識できるようになった」と期待を寄せた。
今後のICT活用について、山本社長は「発注業務や在庫管理においてICタグ管理システムを構築したり、テレワークを円滑に運用できたりするシステムなど、効果があるものは積極的に自社開発をして導入していきたい」と話す。
囲碁においても素人目には一見何の関係もないところに石を置く。それがやがて布石となって大きな意味を持つ。また「両利きの経営」という言葉があるが、「知の深化」に対しては現在の事業の深堀ということで周囲も理解を示すが、「知の探索」は一見現在の事業と関係ないので理解されにくい。しかし閉塞感があった日本の中小企業の飛躍には「知の探索」が求められる。そういう意味でもヤマステックの今後に注目し、その飛躍に期待したい。
企業概要
会社名 | ヤマステック株式会社 |
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住所 | 千葉県香取郡東庄町笹川い2112番地1 |
電話 | 0478-79-0758 |
設立 | 2019年5月24日 |
従業員数 | 6人 |
事業内容 | 安全対策と効率化のコンサルティング |