虐待を受けた児童を守る〝最後の砦〟児童養護・心理治療施設 ICTが「人が人をみる仕事」を支える 四恩の里(香川県高松市)

目次

  1. 親の虐待をはじめ多種多様な理由で家庭で適切な養育が受けられなかった子どもたちが、異なる年齢の8人で一つのユニットとして家族のように暮らす
  2. 子どもたちの心身の状態は、全職員が共有する そのため全職員が毎日Web会議で、支援情報の引き継ぎをする
  3. 個人情報などの流出を防いでくれる裏方、統合脅威管理システムは心強いし、実際にネット経由での情報交換に安心感が違う
  4. 支援を支えるICT化を模索して、会計処理やホームページの刷新に着手
  5. 「子どもたちが楽しく暮らせる施設に」。卒園後も続く交流
中小企業応援サイト 編集部
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人が生きていくには、時に「痛み」に向き合うことを求められる。でもそれが幼い子ども時代で、しかも親から受けるとしたら……。

様々な事情によって、家庭で適切な養育が受けられなかった子どもたちを生活・教育・心身の健康の面から支えることを使命としている社会福祉法人四恩の里は、1975年ごろ野田大燈理事長が香川県高松市に開設した座禅道場「喝破道場」が源流だ。脱サラで僧の修行を積んだ野田理事長が、登校拒否児童などの暮らす場として開設。

一時は約30人の子どもを預かり、自給自足生活などを通して子どもたちの〝社会復帰〟を支援していたが、引きこもりや発達障がいが社会問題としてクローズアップされる中、心の問題により力を入れようと1993年、社会福祉法人「四恩の里」を設立、児童心理治療施設「若竹学園」(高松市)を開設した。心の問題を抱える子どもたちの心理・生活・教育を支えるため臨床心理士や看護師らの医療チームが常駐し、園内に学校も備えた。現在は18人が暮らし、園内の学校に通っている。

その後、香川県が県立児童養護施設の民営化を図った際、受け皿として名乗りを挙げ、2004年に児童養護施設「亀山学園」をスタート。保護者からの虐待などの理由で、家庭で暮らせなくなった子どもを受け入れている。同園の傘下には小規模児童養護施設(グループホーム)「和みの家」、「まどかの家」も開設されている。(TOP写真:スケジュールボードの前で職員と話す野田大順園長(右))

親の虐待をはじめ多種多様な理由で家庭で適切な養育が受けられなかった子どもたちが、異なる年齢の8人で一つのユニットとして家族のように暮らす

虐待を受けた児童を守る〝最後の砦〟児童養護・心理治療施設 ICTが「人が人をみる仕事」を支える 四恩の里(香川県高松市)
幼い子に絵本を読み聞かせる職員。子どもたちにとっては少し年の離れたお姉さんという存在だ

「子どもたちは多種多様な理由でうちへ来ます。親から虐待をうけたり、親が精神疾患で子育てをできなくなったり、覚せい剤の使用などで服役しているなど、子どもたちより親の側に問題があるケースが多いですね」。亀山学園の野田大順園長が説明する。

発達障がいや知的障がいなどを有する子どももいるが、それらが軽度であることもあって、親がそれを理解せず虐待してしまう。髪を刈ってみたら頭に無数の傷があったり、背中に俗に〝根性焼き〟といわれるようなやけどの痕があったこともある。

亀山学園ではグループホームも含めて5歳から19歳までの44人が生活している。男子20人、女子24人。非常勤も合わせて約50人の職員が彼らを支える。子どもたちは異なる年齢の約8人が1ユニットとなり、4つの生活ゾーンで暮らす。朝起きると、それぞれのユニットで朝食を摂り、歯磨きなどの後、地域の学校へ通う。午後に帰れば、宿題などをした後、ゲームをしたり、学校の友達と買い物に出かけたり。普通の家庭と同じような生活だ。同じユニットの仲間は、幼い子にとってはお姉ちゃん、お兄ちゃん、年齢が上がれば友達。職員は少し年の離れたお姉さんという雰囲気だという。

子どもたちの心身の状態は、全職員が共有する そのため全職員が毎日Web会議で、支援情報の引き継ぎをする

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出勤している全職員が集まって子どもたちの様子を話し合う引き継ぎのミーティング。園外の2グループホームはWeb会議で参加

「子どもたちの心身の状態は、全職員が共有するようにしています。何かあった時、誰でも対応できるためです」と野田園長。1ユニットを職員3人が早出・遅出など交代で担当していて、子どもたちの様子はその日担当した職員がパソコン内の日誌に打ち込む。毎日午後に引き継ぎのミーティングを開いていて、出勤している全職員が職員室に集まる。「幼稚園でトイレの失敗があって、着替えを余分に持ってきてほしいと連絡がありました」「昨夜から発熱があるので、様子を見て病院へ連れて行った方がいい」など、体調に関することや保護者や関係機関との連絡事項、気になる言動など、子どもについての特記事項を報告し合う。高松市と丸亀市にある遠隔地の2グループホームからはWeb会議システムを通じて参加する。

学校のプリント類や出勤簿、保護者への遊戯会の連絡といった家庭支援など、職員間や保護者との連絡ではスマートフォンのコミュニケーションアプリが活躍する。「既読」のマークがつくので連絡がついたかどうかの確認にも便利だという。子どもの名前は〇で文字を伏せるなどして外部にはわからないよう注意を払っている。

個人情報などの流出を防いでくれる裏方、統合脅威管理システムは心強いし、実際にネット経由での情報交換に安心感が違う

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「支援情報が外部に流出することはどんなことがあっても避けたい」と話す野田園長

亀山学園に来る子どもたちは、原則親の了解の上で入所する。しかし、親の虐待などが発覚して、児童相談所などからの連絡でいわば緊急的に一時保護するケースでは、親が精神的に不安定で、子どもを奪い返しに来ることも考えられるので、子どもがどこにいるかは明らかにしていない。それでも「そこにいるはずだ」と亀山学園に電話がかかり、施設の施錠を厳重にするなど〝厳戒態勢〟を敷いたこともある。

そうした情報も含め、支援情報を保護する裏方として注目されるのは、無線LANの施設側の入り口で情報の内容にまで踏み込んで監視する統合脅威管理システムだ。2020年にルーターの更新に合わせて導入した。「子どもについての情報が外部に流出するようなことはどんなことがあっても避けたい。セキュリティが強化されたのは実感として何かあるわけではないのですが、安心感はあります。今日の引き継ぎでは、高松市内にある『まどかの家』の子どもの様子をインターネット経由でスクリーンに映していましたが、そんな当たり前の情報交換をいちいち心配しなくてもいいのはありがたいですね」(野田園長)

支援を支えるICT化を模索して、会計処理やホームページの刷新に着手

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「人が人をみる仕事だが、ICT化で補うことは検討すべき」と話す野田理事長

「私たちの仕事は人が人をみることです。そこは譲れない。ただ仕事のどんな部分をICTでどう補っていくかは検討していく必要があります」。と野田理事長。その考えを現場で推進していくのは理事長の長男でもある亀山学園の野田園長だ。現在、会計ソフトの導入を準備中だ。ほかにもホームページの刷新を進めていて、「誰に見てもらいたいかを明確にした内容にします。保育士や社会福祉士の資格取得のために実習に来る学生、福祉施設で働くことを考えている就活生、我々の活動に賛同して寄付を検討していただける人などに向けて、訴求力のあるホームページにしたいですね」という。

また「各職場がオンラインで常時つながっていて、画面でも見られるようなシステムがあるといいですね。『園長』と呼ばれて画面を見たら、高松の施設の職員の顔が映っているというように」と思い描いている。

「子どもたちが楽しく暮らせる施設に」。卒園後も続く交流

事業としての展望は、「和みの家」のような小規模施設をもう4ヶ所開設したいという。すでに1ヶ所建設中だ。「子どもが大規模施設ではなく、家庭に近い環境で暮らせるように」と国はいずれ大規模施設の入所人数を4人×4ユニット程度に抑える方針で、それに合わせて亀山学園も変わろうとしているのだ。「子どもたちはいろんな地域から来ていて、自分が慣れ親しんだ地域から隔離されている状態です。自分の住んでいる地域に近い施設なら、親しかった友達とも会いやすいですしね」と野田園長。

「私は愛されて育っていないので人の愛し方がわからない」。野田園長の胸には、ある卒園生のこんな言葉が重く刻まれている。「理想をいえば、私たちのような施設がない社会がいいのですが、それでも現実には、こうした施設が子どもたちを守る〝最後の砦(とりで)〟となっています」という。「とにかく子どもたちが楽しく暮らせるようにしたい。それがないと、自己肯定感を持てず、学校へ行っても友達と対等に付き合えなかったりする。亀山学園に来てよかった、と思ってもらえることが一番大切です」(野田園長)

職員は親にはなれない。それでも、卒園生が学園を〝実家〟と感じ、何かにつけ立ち寄ってくれるのがうれしい。今年も成人式を迎えた卒園生が晴れ着を着て、職員に見せに来てくれたそうだ。

虐待を受けた児童を守る〝最後の砦〟児童養護・心理治療施設 ICTが「人が人をみる仕事」を支える 四恩の里(香川県高松市)
5歳から19歳の44人が暮らす亀山学園

企業概要

法人名社会福祉法人四恩の里
本社香川県丸亀市柞原町602-1
HPhttp://4on.or.jp
電話0877-22-6729
設立1993年3月
従業員数64人
事業内容児童心理治療施設運営 児童養護施設運営