目次
- 香川県下のJRと「ことでん」の軌道工事をほぼ一手に担い、その技術を公共土木工事にも生かす
- 建設業システムの導入で、進行中の工事の収支が現場でも本社でも共有できるようになり、コスト意識が向上。「採算性への考えが共有できるようになった」
- バックホーにマシンガイダンスを取り付け、ICT施工へ 作業効率大幅上昇
- 写真管理アプリの導入で写真撮影作業が1人ででき、画像データの整理時間が大幅に短縮されて作業効率が格段に上がった
- 社会的信用の低下などを招くサイバー攻撃による被害を最小限に抑える等、ICT化を支えるネットワークのセキュリティ機器導入の安心感は貴重
- 軌道工事は「何より安全性を確保することが第一」 緊張感の持続を共有する それが小橋工業の精神的背骨であり強み
- 若い人の採用を念頭に ホームページとインスタグラムを立ち上げ まず小橋工業に興味を持ってもらうため様々なアイデアを検討
- 3Dレーザースキャナー、グループウェアの導入等、ICTによる社内の見える化とスピードUPを進め、即行動できる体制を整え、実際の災害等に備える
JRの前身、国鉄の時代以来の60年以上にわたる軌道工事と土木工事の実績を誇る香川県の小橋工業株式会社が新しい時代へ向けてICT化の動きを強めている。勤怠管理や予算管理のデータを現場と経理部門が共有し、工事現場作業でも順次マシンガイダンス機能を導入、人材確保を狙ってホームページを開設。その流れの根底にあるのは「安全性の追求」なのだという。(TOP写真:ことでん琴平線の軌道整正工事。マクラギ下面の緩んだ道床を締め固め、線路の歪みを整正する。運行ダイヤをにらみながらの工事だ)
香川県下のJRと「ことでん」の軌道工事をほぼ一手に担い、その技術を公共土木工事にも生かす
「人の力に全面的に頼る仕事は限界に来ている。今やICT化は積極的に取り組む事が必然だと思っています」。小橋工業の小橋憲治代表取締役社長はこう言いきる。
小橋工業は1963年、国鉄の線路補修や新線建設などを行う軌道工事会社で働いていた祖父、小橋勝見氏が独立して創業。1969年に高松琴平電気鉄道(ことでん)からの受注も受けるようになり、同時に旧国分寺町の公共土木建設工事も手掛け始めた。小橋社長が同社に入ったのは2007年、父の康紀氏が社長の時で、現業部門で2年働いた後、総務の安全管理担当に。その後専務を経て2020年、3代目社長に就いた。
「ことでん」の路線も含め、香川県の軌道工事はほとんど小橋工業が手掛けている。ただ、材料が支給であるため工事金額には含まれず、工事金額が小さいため完成工事高は一般土木工事ほど見込めないといい、完成工事高でいうと小橋工業の事業は軌道工事35%、高松市や香川県などから受注する土木建設工事65%といった比率になる。
建設業システムの導入で、進行中の工事の収支が現場でも本社でも共有できるようになり、コスト意識が向上。「採算性への考えが共有できるようになった」
ICT化の動きは小橋社長が入社して本格的に動き出した。システム導入前が、「経験則」と「勘」を頼りに、工事の単価を決定することなく工事を進めることや、資材の購入や外注依頼に価格の比較をすることなく発注をするなど、プロセスを簡素化し、正確性よりもスピードを重視する現場の管理を行っていた。しかし、リーマン・ショック後の厳しい経営環境の中で、「経験則」や「勘」を頼りにした工事管理から脱皮が必要と実感。日々の勤怠管理から工事ごとの出来高管理や予算・原価管理、支払管理などの会計処理までを一本化する建設業向けのシステムを導入した。
「工事に関する資料作成の手間が軽減されたほか、請求漏れの管理が容易になり、大きく省力化できた上に人的ミスの削減も図ることができました」と小橋社長。システムは、過去や現在進行中の工事データの管理を一元化していて、現場ごとの収支や利益が把握できる。現場ごとの経費についても、いつどこにどれだけ支払うかの確認が簡単に一覧できる。
中でも給与など労務管理以外のほとんどのデータを現場で工事を担う現場代理人(現場監督)も共有できるようになったのが大きいという。「それまで経理が行ってきた原価管理データを現場でも見られるようになり、請求書の仕訳を現場代理人が現場にいてもできるようにしたところ、現場の採算性に対する意識が大きく変わりました」(小橋社長)。現場代理人は資材や重機の費用、人件費などを見積もり、実行予算を立てるが、従来は「およそこれくらい」と、ともすれば〝どんぶり勘定〟的な傾向があり、最終的に所定の利益を確保できていなかったこともあったという。
重機や足場の賃料など工事に伴う費用の請求書は複数の工事のものが1枚に混在しており、以前は経理担当者が各工事現場に電話で確認して、現場ごとに仕訳していた。それを現場代理人が直接行うことで、工事別の原価や採算性が現場でも一目瞭然でわかるようになり、工事別の出来高や実行予算でもより正確な収支を把握、無駄なコストの削減につながったというのだ。
現場も同じ数字を共有し、コストに対する意識が高まり、実行予算の精度もぐんと上がりました」と小橋社長は話す。
バックホーにマシンガイダンスを取り付け、ICT施工へ 作業効率大幅上昇
現場作業のICT化では、2022年以降、測量の自動追尾装置のほか、バックホー2機に後付けマシンガイダンスを取り付け、ICT施工化に着手した。設計図をもとにデータを入力すると、衛星測位システムと連動して重機が掘削などの作業範囲を判断し、逸脱しそうになると警報を鳴らしたり動作を停止したりする。法面などの傾斜などの施工でも活躍している。一級土木施工管理技士でもある羽原賢総務営業部長は「熟練の作業員でなくても操作できる。作業効率がかなり上がりました」と話す。
写真管理アプリの導入で写真撮影作業が1人ででき、画像データの整理時間が大幅に短縮されて作業効率が格段に上がった
写真管理をサポートするアプリは、ひとつの現場で何千枚にもなる出来形の写真の整理を自動で行ってくれ、こちらも格段に作業効率を上げた。
従来は工事の進捗に合わせて、その場所や出来形などについて記した黒板と一緒に写真撮影し、それらを手で整理して役所への報告書に貼り付けていた。このアプリではスマートフォンの撮影画面に電子小黒板が表示され、撮影した写真は工事の段階や場所など工種別に自動で分類してくれる。その利便性についても、羽原部長は「現場のあちこちへ黒板を持っていかなくて済むし、従来なら何日もかかった写真整理作業が1日で可能となりました」と説明する。
社会的信用の低下などを招くサイバー攻撃による被害を最小限に抑える等、ICT化を支えるネットワークのセキュリティ機器導入の安心感は貴重
こうしたICT化で縁の下の力持ち的な役割を果たすとして、小橋社長が注目するのはネットワークのセキュリティ機能だ。ICT化が進むにつれて社外とのデータのやりとりが増えた。紙の書類をPDFにしてネットワークに接続したハードディスク(NAS)に保存し、現場代理人も共有していたが、NASの代わりにクラウドに保存するようになり、利便性を高めた半面、ネットワークのセキュリティリスクも気になっていたのだ。
請求書の仕訳が現場で行えるようになったのも、このセキュリティ強化への信頼が背景にあった。現場代理人は現場での仕事の後、NASに保存してある請求書データを見るために本社へ戻る必要がなくなり、残業が軽減された。コロナ禍を契機に本社に戻らず現場事務所で行う作業も増えており、月1回の各現場の現場代理人が集まる工程会議もオンラインで行うようになっている。
新しいセキュリティシステムは、通信の内容までチェックし、これまでのファイアウォールを通過してしまうサイバー攻撃にも対応できる統合型の脅威管理機器が中心となっている。小橋社長は「どこがどう変わったという目に見えるものはないけれど、逆に何もないのがセキュリティシステムのおかげともいえます。安心感は貴重です」と話す。
軌道工事は「何より安全性を確保することが第一」 緊張感の持続を共有する それが小橋工業の精神的背骨であり強み
軌道工事と土木工事の二本柱で事業展開している小橋工業では、これまで公共事業を中心に土木工事でICT施工の導入を進めてきた。今後は、土木工事で培ったICT施工のノウハウを軌道工事へも導入拡大していく。背景には、土木工事同様、軌道工事においてもICT施工の導入は、生産性や安全性の向上などの労働環境を改善し、就業者数の減少傾向が続く建設業界における持続的な人材確保に大きな効果をもたらすことが期待される。」と小橋社長は言う。
軌道工事は、昼間の場合だと列車が通過する合間を縫って行うため、十数分ごとに工事―中断―工事―中断といった繰り返しとなる。例えば、列車の通行でたわんだレールを補修する軌道整正の作業は、ジャッキでレールを元の状態に戻し、枕木の下の隙間にバラスを敷き詰めるのだが、ゲージ(水準器)などを見ながら数ミリ単位で“管理する”気の抜けない仕事。それを次に来る列車に注意しながら行う。
「何より安全性を確保することが第一なのです。大がかりな重機は適さず、信頼できる人の手が求められます」(小橋社長)。ちょっとしたミスが大きな鉄道事故にもつながりかねず、「ミスは企業の命取りになる」。そんな緊張感を絶えず心に言い聞かせているという。
売上面は土木部門の公共工事の方が多いが、企業としての精神的背骨は、軌道工事だという。軌道工事で培った、工事作業から出来上がった建設物までを貫く安全確保への信念。それが小橋工業の土木部門の強みともなっている。軌道と土木は全くタイプが違う工事だが、最近は意識的に両部門の人材連携を行っている。
若い人の採用を念頭に ホームページとインスタグラムを立ち上げ まず小橋工業に興味を持ってもらうため様々なアイデアを検討
ICT化を進めながらも、最後は人間力が決め手となる。その人材が集まりにくくなっているのが最近の土木建設業界だ。2023年に立ち上げたホームページも人材確保が大きな狙いで、ターゲットは若い世代。施工例や受賞実績などより、若い人向けにどんな会社か知ってもらうことに重点を置き「誰でも最初は初心者。まずは興味を持つことが大切」と呼びかける。若い社員の手でインスタグラムも立ち上げた。
「できたら出前授業をやりたいですね。『一日軌道工事体験をしてみませんか』というのもいいかもしれない」(小橋社長)。企業、現場を支える『人』を求めて、さまざまなアイデアが浮かぶ。
「ICT化の目的は、現場も総務部門もとにかく楽をしてもらいたいということにあります。ICT化を抜きに、これからの若い人の心をつかむことはできないのではないでしょうか」(小橋社長)
3Dレーザースキャナー、グループウェアの導入等、ICTによる社内の見える化とスピードUPを進め、即行動できる体制を整え、実際の災害等に備える
今後のICT化では、現場の写真を撮るだけで三次元データを得られる3Dレーザースキャナーの導入をすでに決めている。また、すでに導入済のペーパーレス化へ向けて、稟議や承認なども含め社内書類のやりとりをオンライン上でできるグループウェアも本格的な社内運用に向けて準備中だ。このことにより、様々な仕事の共有による見える化と格段上のスピード化を目指す。
「自然災害への対応が検討される中で、災害に強い、あるいは被災してもいかに早く立ち直るかが社会インフラにも求められている。それをバックアップするパワーを高める上でもデータ管理などをICTで効率的に行って事務量を減らすと同時にデータを即活用して、現場に生かす仕組みを作らなければならないと思います」小橋社長の言葉に力が込もった。
企業概要
会社名 | 小橋工業株式会社 |
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本社 | 香川県高松市国分寺町新名163番地 |
HP | https://kohashikougyou.co.jp |
電話 | 087-874-0312 |
設立 | 1963年4月 |
従業員数 | 43人 |
事業内容 | ・軌道の新設、改良、保守に関する施工及び管理 ・一般土木工事、鉄道土木工事の施工 ・上記に関わる調査、測量、施工等の業務 |