親が亡くなったことにより、親が住んでいた実家を相続によって取得したものの、すでに自身は独立しているため、その活用方法が見つからないという場合等、相続した不動産をやむを得ず売却するという場合もあるかと思います。
この記事では、そのような場合に注意しなければならない税金の問題について考えてみたいと思います。
相続した不動産を売却する場合にかかる税金
(1)譲渡所得税
相続によって取得した不動産を売却する場合に問題となるのが、譲渡所得税です。
譲渡所得税とは、不動産を売却した場合に得られた利益に対してかかる税金です。
これは相続物件に限らず、不動産等を売却した場合に関わってくる税金で、当該不動産の売却によって受領した代金から、当該不動産を取得した時に要した費用を引いた差額に対して一定の税率によってかけられます。
つまり、不動産の売却によって得た利益(儲け)に対して課せられる税金というわけです。
逆に、売却価格がその不動産を取得した時の購入価格よりも低い場合には、儲けがないため譲渡所得税はかかりません。
(2)譲渡所得税の計算方法
①儲け分の算定
まず、不動産の売却によって得られる利益(儲け分)を以下の算式によって計算します。
利益額=売買代金額−取得費−譲渡費用
・売買代金額
売却した代金の額です。
売却時に、すでに支払っていた当年分の固定資産税の清算金を買主から受領する場合には、その清算金の金額もこの売買代金額に含める必要があります。
・取得費
取得費とは、当該不動産を取得したときの代金額を指し、いわゆる購入したときの代金がこれにあたります。
土地の場合にはその購入代金額で問題ありませんが、建物については注意が必要です。
建物については経年劣化が生じるため、それを考慮する必要があるからです。
具体的には、建物の建築費用または購入した代金額から、原価償却相当額を差し引いた金額となります。
減価償却相当額は以下の算式で算定されます。
減価償却相当額=建物価格・建築費×0.9×償却率×経過年数
ここにいう償却率は、その建物の種類によって以下の数値となります(事業の用に供されていなかった場合)。
木造 | 木骨モルタル | (鉄骨)鉄筋コンクリート | 金属造(骨格材の肉厚3mm以下) | 金属造(骨格材の肉厚3mm超4mm以下) | |
償却率 | 0.031 | 0.034 | 0.015 | 0.036 | 0.025 |
また、取得費には、その取得の際に支出した、登録免許税、不動産取得税、印紙税、土地の測量費用、造成費、既存建物を取り壊した場合の取り壊し費用等も含めることができます。
ところで、当該不動産の取得から長期間が経過した場合には、取得費用を算出することが困難な場合があります。
このような場合には、以下の算式で計算した額を取得費とすることができます。
取得費=譲渡収入金額×5%
・譲渡費用
売却するための契約に貼付した印紙代(売主負担分)、仲介手数料、建物を取り壊した場合にはその費用等、その売却のために直接かかった費用をいいます。
②譲渡所得税の計算
上記①によって利益の額が算出されたら、これに税率を乗じて譲渡所得税の額を計算します。
この際の税率は、当該不動産を取得してから売却するまでの保有期間によって異なります。
・保有期間が5年以内の場合:税率=39.63%(所得税30.63%、住民税9%)
・保有期間が5年を超える場合:税率=20.315%(所得税15.315%、住民税5%)
なお、相続がなされた場合には、この保有期間は被相続人がその不動産を取得した時から通算して算定します。
相続時からの期間ではありませんので、注意が必要です。
特別の控除および特例
(1)被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例
相続・遺贈により取得した被相続人の居住用家屋および敷地を、2016年4月1日から2024年12月31日までに売却し、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得金額から最高3,000万円の控除を受けることができます。
<対象となる物件の要件>
①昭和56年5月31日以前に建築されたこと.63%(所得税30.63%、住民税9%)
②戸建て物件であること(区分所有建物登記がなされている建物ではないこと).315%(所得税15.315%、住民税5%)
③相続開始の直前において被相続人以外に居住していた人がいなかったこと
<特例を受けるための要件>
・①売却した人が、当該物件を相続または遺贈により取得したものであること
・②次のいずれかに該当すること
(ア)家屋については、一定の耐震基準を満たしていること、および、敷地とともに売却すること
(イ)家屋を取り壊して敷地のみを売却すること
・③相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
・④売却価格が1億円以下であること
・⑤売却した家屋・敷地について、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例や、収用等の場合の特別控除等の他の特例を受けていないこと
・⑥同一の被相続人から相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋・敷地について、他にこの特例を受けていないこと
・⑦売却先が、親子や夫婦等の特別の関係がある人でないこと。
(2)居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除
居住用財産を売却したときは、所有期間の長短に関係なく、譲渡所得から最高3,000万円の控除を受けることができます。
<要件>
①自らが住んでいる家屋、または、家屋とともに敷地(借地権を含む)を売却すること
自らが住んでいる必要があるので、自身が被相続人と同居していた家屋を、相続によって取得した後に売却するという場合等がこれに当たります。
なお、過去に住んでいた家屋の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要があります。
②売った前年および前々年に、被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例、または、マイホームの譲渡損失についての損益通算および繰り越し控除の特例の適用を受けていないこと
③売った年、その前年、前々年にマイホームの買い換えやマイホームの交換の特例を受けていないこと
④売り手と買い手が親子や夫婦等の特別な関係でないこと
(3)10年超所有居住用建物の軽減税率の特例
10年以上保有している自らの居住用財産を売却した場合において、一定の要件を満たす場合については、通常の税率よりも低い税率で譲渡所得税が計算されることになります。
<要件>
①日本国内にある自己が住んでいる家屋を売るか、または、家屋とともにその敷地を売ること
なお、以前住んでいた家屋・敷地の場合には、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることが必要です。
②売った年の1月1日時点において、家屋および敷地の所有期間がいずれも10年を超えていたこと
③売却した年の前年および前々年においてこの特例を受けていないこと
④売った家屋・敷地についてマイホームの買い換えや交換の特例など、他の特例を受けていないこと(ただし、マイホーム売却に関する3,000万円の特別控除の特例と本特例は重複適用を受けることができます)。
⑤親子や夫婦等、特別の関係のある人に対して売却したものではないこと
<税率>
譲渡所得の額に応じて以下の税率が適用されます。
なお、この際の譲渡所得の額の算出に際しては、居住用物件を売却した場合の3,000万円の特別控除を適用した後の譲渡所得の額について判断します。
譲渡所得の額が6,000万円以下の場合:14.21%(所得税10.21%、住民税4%)
譲渡所得の額が6,000万円を超える場合:6,000万円までの部分については14.21%、6,000万円を超える部分については20.315%
(4)相続財産の取得費の特例
相続した財産を一定期間内に譲渡した場合には、相続税額の内の一定金額を、譲渡所得税計算に際して取得費に参入することが認められています。
<要件>
①対象者は相続により財産を取得した者であること
②その財産を取得した者が相続税を課税されていること
③当該財産を相続開始のあった日の翌日から相続税申告期限の翌日以降3年を経過する日までに譲渡したこと
<効果>
以下の算式で計算した額を、取得費に加算することができます。
相続税額 × 当該譲渡した財産の価額 ÷ (相続税の課税価格 + 債務控除額)= 取得費加算する相続税額
まとめ
以上、相続した不動産を売却した場合にかかる譲渡所得税と、その軽減の特例等について見てきました。
ただ、これらの軽減特例や控除には、すでに見てきたように数多くの条件が定められています。
それらをしっかり理解して対応する必要があります。
ちょっとした期間の不足や、条件の理解が不十分だったために、特例を受けられないといった不利益を被ることのないように、しっかりと内容を理解する必要があります。
(提供:相続サポートセンター)