「スマート介護施設モデル事業」に採択 プロジェクト方式で課題に取り組み、介護ロボット・ICTを導入し成果 満寿会鶴ヶ島ケアホーム(埼玉県)

目次

  1. 認知症の父親の介護で高齢者施設の必要性を痛感 老健と特養を運営する2法人で地域包括ケアシステムを構築
  2. 今後は障害者のサポートにも注力
  3. 鶴ヶ島ケアホームが2021年埼玉県の「スマート介護施設モデル事業」に採択 プロジェクトチームを立ち上げ、課題を抽出 ハードルは高かったがやって良かった
  4. 複数のナースコールが朝食後の時間帯に鳴り響く問題が浮上 オペレーションの見直しと介護ロボット・ICTの導入による解決を模索
  5. 居室のドア上に3色の表示灯、天井には部屋番号を示す表示器を増設ナースコールの内容がひと目でわかる仕組みに
  6. インカムはコロナ禍でクラスター発生時に威力を発揮、なくてはならない機器になった
  7. ホームページ制作システムを刷新し、証憑電子保存サービスも導入
  8. プロジェクトチーム方式の業務改善が鶴ヶ島ケアホームの文化に
中小企業応援サイト 編集部
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医療法人社団満寿会は、介護老人保健施設鶴ヶ島ケアホーム、鶴ヶ島在宅医療診療所、鶴ヶ島耳鼻咽喉科診療所の3施設を擁し、埼玉県鶴ヶ島市周辺地域の医療・介護・福祉を包括的にサポートしている。このうち中核的施設である「鶴ヶ島ケアホーム」では、県の介護ロボット・ICT導入支援制度を活用。プロジェクトチームを立ち上げて課題の抽出から始めるという民間企業の業務改善の手法を用いて、ナースコール連動型の見守りロボットやインカムの導入による介護の質の向上と職員の負担軽減につなげた。ホームページ制作システムを刷新し、証憑電子保存サービスも導入するなどICTの活用にも積極的だ。(TOP写真:ベッドに設置された見守りロボットの情報をナースステーションのモニターでチェック。モニターは回転式なので廊下側からもナースステーション側からも確認できる)

認知症の父親の介護で高齢者施設の必要性を痛感 老健と特養を運営する2法人で地域包括ケアシステムを構築

満寿会の理事長、小川郁男氏は日本大学山岳部OBで、1978年に日本人として初めて北極点に到達した日大北極点遠征隊の一員だ。遠征隊に参加した当時、日大医学部の医局から派遣された病院で勤務医として働いていたが、北極遠征から帰国後の1979年から1981年まで南極越冬を経験した後に、1982年に生まれ育った鶴ヶ島市で「鶴ヶ島耳鼻咽喉科診療所」を開業した。

小川理事長は、鶴ヶ島市で長年に亘り往診医として地域の人々に頼られていた自身の父親が晩年認知症になり自宅での介護を余儀なくされた経験から、この地域に高齢者をケアする施設が必要と痛感。診療所を医療法人化するとともに、1993年に鶴ヶ島市で唯一の介護老人保健施設「鶴ヶ島ケアホーム」を開設した。さらに、10年後の2003年には内科、外科、リハビリテーション科のほかに訪問診療を行う往診部や入院施設も備えた「鶴ヶ島在宅医療診療所」も開設。満寿会の傘下に3施設を配して、診療所、施設、在宅のそれぞれが連携して地域包括的に高齢者をケアする態勢を整えた。ちなみに満寿会という法人名は、小川理事長の両親の名前にちなむ。

介護老人保健施設(老健)は、基本的に在宅復帰を目指す施設と位置づけられているので、地域包括ケアシステムを充実させるためには在宅復帰が困難な高齢者を対象とし、終の住み処ともなり得る特別養護老人ホーム(特養)が必要と感じ、2015年に社会福祉法人忠黎会を設立。2017年に特養「鶴ヶ島ほほえみの郷」を開設した。こちらの法人名は、小川理事長夫人の両親の名前にちなんだそうだ。

「スマート介護施設モデル事業」に採択 プロジェクト方式で課題に取り組み、介護ロボット・ICTを導入し成果 満寿会鶴ヶ島ケアホーム(埼玉県)
鶴ヶ島ケアホームの外観
「スマート介護施設モデル事業」に採択 プロジェクト方式で課題に取り組み、介護ロボット・ICTを導入し成果 満寿会鶴ヶ島ケアホーム(埼玉県)
正面玄関近くには観音像と高円宮憲仁親王殿下が2001年に視察された際の記念碑も

今後は障害者のサポートにも注力

満寿会・忠黎会グループは、地域の要望に応える形で2020年に障がい者に対するケアにも乗り出している。鶴ヶ島ケアホームや鶴ヶ島在宅医療診療所の空床を利用して、医療的ケア児の短期入所サービスを始めた。2023年には利用者の増加に伴い、忠黎会に「鶴ヶ島ほっこり村診療所」を開設。「重度心身障がい児・者」「医療的ケア児・者」をグループ挙げて支援するようになった。

今後のグループの方向について、鶴ヶ島ケアホーム事務室の小川一成氏は、「障がい者の方たちに重点を置いて取り組んでいこうという形で計画が進んでいます」と説明する。障がい者は18歳以上になると自立訓練になどの支援が必要になる。現在、鶴ヶ島ほっこり村診療所を利用している医療的ケア児らが18歳に達した時にそうしたニーズに対応できる新しいスペースを用意しておく必要があると見ているのだ。

鶴ヶ島ケアホームが2021年埼玉県の「スマート介護施設モデル事業」に採択 プロジェクトチームを立ち上げ、課題を抽出 ハードルは高かったがやって良かった

「スマート介護施設モデル事業」に採択 プロジェクト方式で課題に取り組み、介護ロボット・ICTを導入し成果 満寿会鶴ヶ島ケアホーム(埼玉県)
「スマート介護施設モデル事業の推進」に参加して良かったと語る小川一成氏

高齢者介護の中核となる老健の鶴ヶ島ケアホームは、3階建ての建物で、入所サービス、短期入所サービス(ショートステイ)、通所リハビリテーション(デイケア)、訪問看護サービス、居宅介護支援、障害サービス(ショートステイ)を展開。入所サービスの定員は108名で、通所リハビリは92名という規模だ。

鶴ヶ島ケアホームは埼玉県が2021年度に初めて募集した「スマート介護施設モデル事業」に応募した。介護ロボットやICTなどのテクノロジーを効果的に活用して介護の質の向上を図るとともに職員の負担軽減や働きやすい環境づくりを実現するというプロジェクトだ。モデル事業者に採択されると県が業務委託したコンサルタントのアドバイスのもと、民間企業の業務改善手法を用いて、改善すべき業務内容の洗い出しと、介護ロボット・ICT導入による改善計画策定・遂行を行い、その後の効果の検証・報告を経て年度末の成果報告会まで、約8ヶ月かけて取り組む仕組みだ。

初めての事業とあって、埼玉県下に約180施設ある老健の中から参加の意思が出なかったため、鶴ヶ島ケアホームの小川理事長が当時、県の老健協会会長も務めていたこともあり、周囲に背中を押される形で応募したのだという。

とはいえ、「私もまったく事情をわからないまま進めるのは嫌だったので、県の担当者に事業の内容を十分に説明してもらい納得してから始めました。プロジェクトチームを組んで課題解決に取り組むのは初めてのことで、かなりハードルが高かったのですが、最後の成果報告会まで漕ぎつけたので、チームを組んで取り組んだ甲斐があって、すごく良かったというのが一番の感想です。」と小川一成氏は振り返る。一成氏は郁男理事長の従弟で、満寿会設立直後に入職し、鶴ヶ島ケアホームの部長や事務長を歴任したあと、忠黎会の立ち上げにも関わったベテラン職員だ。

鶴ヶ島ケアホームは1階に食堂とリハビリテーションルームなどがあり、2階と3階に居室とナースステーションがある。プロジェクトチームは、介護職員で生活部部長の横田大介氏がリーダーとなり各フロアの職員ら数人を選抜し、そこに事務方から一成氏と総務課主任の鶴見翔吾氏が参加して編成。それぞれのフロア業務で忙しく変則勤務もある中、「LINEやチャットワークなどのSNSを利用してタイムリーな情報共有に努めました」(横田部長)という。

「スマート介護施設モデル事業」に採択 プロジェクト方式で課題に取り組み、介護ロボット・ICTを導入し成果 満寿会鶴ヶ島ケアホーム(埼玉県)
プロジェクトチームのリーダーを務めた横田大介生活部部長

複数のナースコールが朝食後の時間帯に鳴り響く問題が浮上 オペレーションの見直しと介護ロボット・ICTの導入による解決を模索

プロジェクトチームは、まず職員へのアンケートで課題を収集。それぞれの課題を記入した付箋をホワイトボードに貼り付けて因果関係図を描き、課題を「見える化」した。さらに見えてきた課題を文章化することで問題解決の道筋をつけるという手法をとった。

その結果、朝食後の時間帯に複数のナースコールが同時に鳴り響く、2階と3階は南北に約100mと長い上に吹き抜けの回廊になっており、手すりで視界を遮られるなどしてナースコールがどの部屋で鳴っているのかわかりづらいといった課題が指摘された。朝食後の口腔ケアとトイレ介助が1階食堂と2階で被らないようにオペレーションを改善する、ナースコール連動型の見守りロボットとインカムを新たに導入するといった解決策を図ることにした。同時に、施設内の一部でしか使えなかったWi-Fi環境も刷新、施設内全体で使えるようにした。

「スマート介護施設モデル事業」に採択 プロジェクト方式で課題に取り組み、介護ロボット・ICTを導入し成果 満寿会鶴ヶ島ケアホーム(埼玉県)
2階の回廊 ドア前のナースコール表示の視界の遮りが課題だった

ナースコール連動型見守りロボットは、4社の機器を実際に職員に試してもらった上で、職員の意見とコストを考慮して選定した。その結果、利用者の心拍、呼吸、体動、離着床、睡眠の状態がナースステーションのモニターから見守ることができて、コスト的にもリーズナブルな機種を採用した。(TOP写真参照)

居室のドア上に3色の表示灯、天井には部屋番号を示す表示器を増設ナースコールの内容がひと目でわかる仕組みに

「スマート介護施設モデル事業」に採択 プロジェクト方式で課題に取り組み、介護ロボット・ICTを導入し成果 満寿会鶴ヶ島ケアホーム(埼玉県)
ナースコールの表示灯 最初はドアの横しかなかったが、ドア上に増設、色で離床、ベッド、トイレとわかるようにした

最大のポイントは、従来は居室のドアの横にしかなかったナースコールの表示灯を居室のドアの上にも増設するとともに、赤(離床センサー)、緑(ナースコール)、黄(トイレコール)の3色で表示するようにしたことだ。

「スマート介護施設モデル事業」に採択 プロジェクト方式で課題に取り組み、介護ロボット・ICTを導入し成果 満寿会鶴ヶ島ケアホーム(埼玉県)
天井に設置された表示器

同時にエレベーター前の天井には、ナースコールをオンした居室の部屋番号を表示する表示器を増設した。これによりナースコールの視認性が向上するとともに、ナースコールをオンした理由もわかるので、職員が素早く対応できるようになった。「このプロジェクトをやることにより、現場サイドからこれは違うよねとか、ナースコールが鳴る要因は3種類あるよねといった意見が出て、メーカーさんを呼んでそうした意見をぶつけたりして実現しました。」(小川一成氏)

インカムはコロナ禍でクラスター発生時に威力を発揮、なくてはならない機器になった

インカムは3社から選定した。インカムについて、プロジェクトではイヤフォンやマイクとの相性が良いブルートゥース接続のアプリを採用したものの、実際の介護・介助業務を行う時にはイヤフォンやマイクが煩わしいことから、現在はスマートフォンにSIMカードを挿入したトランシーバー型のインカムを使っている。

インカムは導入した後で新型コロナウイルス感染症のクラスターが発生した際、職員間の連絡に大いに役立ったという。施設を閉鎖して一方通行にし、居室全体をビニールで覆い、職員は防護服で介護する中、スマートフォンの画像と音声でコミュニケーションを取れたからだ。SIMカード挿入タイプなので、救急車を呼んだり、救急車に患者と同乗して外部から連絡したりすることもできて、慌ただしい日々の中、とても重宝したそうだ。

「スマート介護施設モデル事業」に採択 プロジェクト方式で課題に取り組み、介護ロボット・ICTを導入し成果 満寿会鶴ヶ島ケアホーム(埼玉県)
SIMカードを挿入したスマートフォンに専用アプリを入れたインカム

ホームページ制作システムを刷新し、証憑電子保存サービスも導入

「スマート介護施設モデル事業」に採択 プロジェクト方式で課題に取り組み、介護ロボット・ICTを導入し成果 満寿会鶴ヶ島ケアホーム(埼玉県)
ホームページの管理人をはじめ介護ロボ・ICT導入を担当する鶴見翔吾総務課主任

鶴ヶ島ケアホームはスマート介護施設モデル事業と並行して、事務部門のICT化にも積極的に取り組んできた。2021年にはホームページ制作システムを刷新した。ホームページの管理人を務める鶴見主任は「従来のシステムは使い勝手が悪く、業者に頼まないとほとんど編集ができなかった。」とシステムを入れ替えた理由を説明。新しく導入したシステムは「編集の自由が利くし、カタログ製作もできるなど、汎用性がすごく高い」と評価する。従来の業者はメールでしか相談できなかったが、現在は電話で気軽に相談できるなど、カスタマーセンターの対応も素早いそうだ。

2023年9月には、改正電子帳簿保存法に対応するため、大手システム会社の「証憑電子保存サービス」を契約した。請求書などの証憑をスキャナ保存要件や電子取引要件に準拠したクラウドストレージに電子保存し、自動的に「取引先名」「取引金額」「取引日」の索引付けをしてくれるサービスだ。鶴見主任は「一番シンプルで使いやすいものを入れようと考えて選定したのですが、電子で送られてきたものはそのままパソコンからクラウドに入れ、紙で送られてきたものは複合機でスキャンして直接クラウドに飛ばせるので、簡単です」と話す。

プロジェクトチーム方式の業務改善が鶴ヶ島ケアホームの文化に

これらに続いて、現在、鶴ヶ島ケアホームで取り組んでいるのが電子カルテの導入だ。スマート介護施設モデル事業で習得したプロジェクトチーム方式の業務改善手法を使って、検討を続けている。プロジェクトチームのメンバーはスマート介護施設モデル事業の時と同じ。この業務改善手法は鶴ヶ島ケアホームの文化となりつつある。

「機器を導入するだけでは何も変わりません。それを使いこなす人間が成長することが、新たな介護、スマートな介護となるのではないでしょうか。」スマート介護施設モデル事業の成果報告会で、プロジェクトチームリーダーの横田部長が最後に締め括った言葉だ。

企業概要

施設名医療法人社団満寿会 介護老人保健施設鶴ヶ島ケアホーム
住所埼玉県鶴ヶ島市脚折1877
HPhttps://www.manjyukai.or.jp
電話049-271-5121
設立1993年5月
従業員数約200人
事業内容  介護老人保健施設として、入所サービス、短期入所サービス(ショートステイ)、通所サービス(デイケア)、訪問看護サービス、居宅介護支援、障害サービス(ショートステイ)を実施