自立型と認知症対応型の二つの高齢者福祉施設を運営 デジタル化で入居者に安心・快適な生活を 陽気会(長野県)

目次

  1. 法人理念は「神人和楽」の教えに基づくプラス思考
  2. 自立型のケアハウス「ケア・あずさ」は自前の食事提供にこだわり
  3. 認知症の受け皿に「グループホーム稲穂」を開設 小規模施設で家庭的な雰囲気を重視
  4. 地域との交流に多目的施設を開設
  5. 介護記録のデジタル化で職員の業務負荷を軽減 音声入力で高齢職員にも対応
  6. ベッドセンサーで入居者の見守りを支援するシステムを導入
  7. ホームページのリニューアルで採用面を強化
中小企業応援サイト 編集部
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社会福祉法人陽気会は、長野県松本市で軽費老人ホームのケアハウスと認知症対応型共同生活介護のグループホームという対象者の異なる二つの高齢者施設を運営する。「福祉は何でも屋」として、職員に常に「気転」「気配り」「気働き」という三つの心がけを説いてきた創設者の意思を受け継ぎ、小規模施設ならではの家庭的な雰囲気で入居者が安心・快適な生活が送れる福祉サービスの提供に重きを置いてきた。

その一環として、グループホームに見守り支援のベッドセンサーシステムと介護記録システムを導入し、デジタル化による職員の業務負担軽減に努めることで福祉サービスの向上につなげようとしている。(TOP写真:認知症対応型共同生活介護の「グループホーム稲穂」でタブレット端末に向かって介護記録を入力する職員)

法人理念は「神人和楽」の教えに基づくプラス思考

陽気会は1995年7月の設立で、翌1996年5月に軽費老人ホームのケアハウス「ケア・あずさ」を開設した。創設者の高橋百喜氏(前理事長)は、松本市周辺に高齢者施設がなかったことから法人の設立、施設の開設に踏み切った。

宗教家である高橋氏は、神により創造された人間は与えられた生の限りを「陽気」に過ごす権利と義務を自覚し、全うすることを目的とする「神人和楽(しんじんわらく)」という教えに基づき法人理念を制定した。それは、入居者、従事者の別なく互いに助け合い学び合い前向きに明るく物事を受け止める心を養い、プラス思考のもと「陽気」に過ごす努力を積み重ね、その行き先に社会全体が明るく陽気に満ちてくるとする理念だ。陽気会はその教えにある「陽気」から名付けた。

自立型のケアハウス「ケア・あずさ」は自前の食事提供にこだわり

自立型と認知症対応型の二つの高齢者福祉施設を運営 デジタル化で入居者に安心・快適な生活を 陽気会(長野県)
定員いっぱいの30人の高齢者が入居する「ケア・あずさ」

最初に手掛けた「ケア・あずさ」は老人福祉法に基づく軽費老人ホームで、自治体の助成で有料老人ホームより低い金額で利用できる高齢者施設だ。さらに3タイプある軽費老人ホームの中で「ケア・あずさ」は食事と生活支援が付くケアハウスで、介護の必要がなく自立して生活ができる60歳以上の高齢者を対象とした「一般型」に当たる。

定員は30人で、地上3階建ての施設には24室の個人居室と3室の夫婦居室を備える。現在、70歳代から100歳まで定員いっぱいの30人が入居している。自立型のため、ここから仕事に出かけたり、外部のデイサービス、デイケアを利用する入居者もいる。

「ケア・あずさ」の一つの特徴としては、調理人7人を職員に抱え、自前で3食の食事を提供している点にある。髙橋利明施設長は「県内で食事を自前で作って提供する施設はかなり少なくなってきており、外部に委託している施設がほとんどだ」とし、「業者に委託した料理にはない、その都度、地元などの食材を使い、温かい家庭料理の延長のような形で提供することを心がけている。限界がくるまで自前での食事にこだわりたい」と語る。

認知症の受け皿に「グループホーム稲穂」を開設 小規模施設で家庭的な雰囲気を重視

自立型と認知症対応型の二つの高齢者福祉施設を運営 デジタル化で入居者に安心・快適な生活を 陽気会(長野県)
少人数の入居者に抑え家族的雰囲気を大切にする「グループホーム稲穂」

一方で、2005年4月には新たに認知症対応型共同生活介護の「グループホーム稲穂」を開設した。その背景には「ケア・あずさ」の入居者の高齢化が一段と進んだという事情があった。髙橋施設長は「一日でも長く元気で自立した生活ができるようにと立ち上げた『ケア・あずさ』も10年近くが経ち、入居者の高齢化も進み、認知症を患う入所者も増えてきた」と当時の状況を振り返る。

「ケア・あずさ」の入居者が認知症で自立した生活が送れず介護が必要になった場合、他の介護施設に移ってもらわざるを得なかった。ただ、認知症の進行を遅らせるにはなるべく住み慣れた場所で、しかも日頃から交流があり見慣れた人との関係を保つことが重要。そのため認知症対応型共同生活介護の施設を設けることが「ケア・あずさ」の入居者にとっての最良の選択になると判断、「グループホーム稲穂」の開設に踏み切った。立ち上げ当初は「ケア・あずさ」からの入居者を優先的に受け入れてきたものの、現在は松本市周辺の希望者も入居している。

「グループホーム稲穂」の定員は9人で個人居室9室をそろえ、入居者は家庭の団らんを楽しみながら、自宅で過ごすのと同様の雰囲気で生活できるような運営に取り組んでいる。構想の当初には現在の定員の倍程度の規模にする案もあったものの、「10人を超えるような規模になるとグループができてしまうこともあり、グループホームの良さが失われてしまう。家庭的な生活に少しでも近づけたいことから定員は9人に抑えた。経営よりは入居者に寄り添う形を優先した」(髙橋施設長)。

地域との交流に多目的施設を開設

陽気会は高齢者施設の運営に加えて地域との交流にも熱心に取り組んできた。毎年8月には地域の住民に声掛けしたりチラシを配って夏祭りを催してきた。さらに敷地内に地域住民が使用でき、災害時の避難所としても活用できる多目的施設「ふれあいホール」を開設した。

しかし、完成したのはコロナ禍が広がる直前の2019年であり、現在は「ケア・あずさ」「グループホーム稲穂」の合同行事に使っているだけで、「地域の方にはまだ使われていない。そこはちょっと悩ましい」と髙橋施設長は悔しがる。夏祭りもまだ声掛けできないままでいる。

介護記録のデジタル化で職員の業務負荷を軽減 音声入力で高齢職員にも対応

自立型と認知症対応型の二つの高齢者福祉施設を運営 デジタル化で入居者に安心・快適な生活を 陽気会(長野県)
「高齢の職員が多く介護記録のデジタル化にはなかなか踏み切れなかった」と語る「ケア・あずさ」の髙橋利明施設長

一方で、陽気会は2023年から業務のデジタル化を加速している。業務改善に向けては「グループホーム稲穂」に課題が多く、特に職員に多くの負荷がかかっていた介護記録業務のデジタル化を図った。しかし、これまでの手書きの作業を一気にデジタルに切り替えることにはためらいがあったのも事実だ。この点を髙橋施設長は「介護記録関係業務の改善はだいぶ前から考えていた。ただ、何しろ高齢の職員が多くシステムの操作に不安もあり、なかなかデジタル化には踏み切れなかった」と振り返る。

それでも高齢な職員にも対応した音声入力も可能な介護記録システムの導入に踏み切ったのは「職員の若干の入れ替えもあり、IT(情報技術)補助金も活用できることから、タイミング的に今しかないと判断し、思い切って導入した」と髙橋施設長は語る。

高齢者介護施設にとって介護記録の記入業務には多くの時間を割かれ、職員の負担は大きい。入居者の体調管理のほか入居者個々のケアプランを立てなければならず、「手書きの場合は職員間でどれだけ正確に情報共有ができていたか心配があった」と髙橋施設長は語る。実際、介護記録には入居者個々のファイルのほか全体のファイルがあり、さらに体温や排せつの状況も記録しなければならない。その各データが介護記録システムに一つに収められたことでこの課題は解消され、その結果、職員の残業時間の減少にもつながった。

定員9人の小規模施設であり、介護記録システムはタブレット端末、ノートパソコンの各一台の配備で済み、「帳票類もシステムにひとまとめにできたことから、特にケアマネージャーの業務がかなり軽減できた」(髙橋施設長)という。

ベッドセンサーで入居者の見守りを支援するシステムを導入

自立型と認知症対応型の二つの高齢者福祉施設を運営 デジタル化で入居者に安心・快適な生活を 陽気会(長野県)
9部屋すべてに設置したマット型見守り支援介護システム

また、「グループホーム稲穂」は認知症対応型のため、入居者の就寝中の状況を管理しなければならない。夜間は職員1人で9人の入居者を管理するため肉体的はもちろん精神的な負担もあり、職員の負担をいかに解消するかが課題だった。そこで2023年暮れにベッドセンサーで入居者の就寝状況などを把握できるマット型見守り支援介護システムを導入した。

これまではベッドの両サイドにセンサーを取り付け赤外線が反応する簡易型のシステムを活用してきたが、全室でなく設置が必要な入居者だけに設置していた。このため職員が定期的に各部屋を見回ってきた。この状況の改善に向け、導入した見守り支援介護システムは9室すべてに導入した。さらに入居者の状況はタブレット端末で確認でき、異常があれば音で知らされるため、見回りの回数も減った。心拍数なども測定、管理でき、管理する職員の安心感にもつながる。

ただ、導入後間もないことから「入居者個々に合わせた設定などにより、活用しながら改善していっている段階」と髙橋施設長は話す。

ホームページのリニューアルで採用面を強化

陽気会のデジタル化への取り組みとしては、2024年2月にホームページをリニューアルし、採用情報関係を充実していく考えだ。また、今後について「ケア・あずさ」は個室部屋のため「入居者の安全・安心を考えれば、入居者が倒れた場合などを想定してセンサーなどで入居者を見守るシステムを考えないといけない」と髙橋施設長は語る。ただ、かつて監視カメラの設置を検討したことはあったものの、プライバシーの問題から入居者が反対し取りやめた経緯もあり、「プライバシーも考慮しながらどんな対策ができるか研究していきたい」という。

企業概要

法人名社会福祉法人陽気会
住所長野県松本市梓川梓2516-6
HPhttp://youkikaiazusa.com/
電話0263-78-2940
設立1995年7月
従業員数22人
事業内容 軽費老人ホームケアハウス「ケア・あずさ」、認知症対応型共同生活介護「グループホーム稲穂」の運営