女性と海外人材の積極活用で描く建設会社の新しい姿 人材の多様性が活力を生み、企業文化をデジタル技術で醸成する  横田鋼業(香川県)

目次

  1. ICTやデジタル機器を活用することで、一人ひとりの負担を減らして働きやすい環境を作りたい
  2. 一人で始めたアンカー設置専門の建設会社が20年で従業員28人の会社に成長 他社が真似のできない仕事に取り組む
  3. 墨出し、測量へと仕事の幅を広げ、競争力が高いビジネスモデルを構築した
  4. 2015年から鉄骨加工業に進出 年齢を重ねた古参従業員の受け皿を作りたいとの思いがあった
  5. 企業を存続していく上で大事なのは人材 10年以上前から女性と海外人材の活用に力を入れてきた
  6. 設計やバックオフィスの業務で女性が活躍 業務効率化のために3D-CADなどのシステムを活用
  7. 「測量女子」の採用、育成を強化 オフィスだけでなく現場でも女性活躍のフィールドを広げる ガテンな建設業界のイメージを変えていきたい
  8. 2014年から海外人材の活用を開始 技能実習生の受け入れにあたっては従業員の賛同を重視した
  9. 技能実習生は貴重な戦力として定着 日本語能力試験の受験をサポートするなど育成にも力を入れる
  10. 2018年からは高度外国人材の雇用も始める 将来の幹部候補として期待をかける
  11. スケジュール、現場写真、図面の共有でもデジタル技術を活用 多様性を重視した企業文化の構築にこれからもデジタル技術の活用を進める
中小企業応援サイト 編集部
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少子高齢化の進行や労働規制の拡大によって人材確保が大きな課題となっている建設業界。その状況下、ICTやデジタル機器を活用しながら女性、海外人材が働きやすい職場環境づくりを進めている建設会社が香川県高松市にある。アンカー施工と鉄骨加工を主力事業とする横田鋼業株式会社だ。若手の海外人材を積極的に受け入れていることから会社の年齢構成は、20代が5割を占める。女性従業員の割合も3割と業界平均より1割以上高い。人材の多様性が会社の活力につながり、将来の成長軌道を描きやすくなるという好循環を生んでいる。(TOP写真:女性や海外人材を積極的に活用している横田鋼業。オフィスでは女性の姿が目立つ)

ICTやデジタル機器を活用することで、一人ひとりの負担を減らして働きやすい環境を作りたい

女性と海外人材の積極活用で描く建設会社の新しい姿 人材の多様性が活力を生み、企業文化をデジタル技術で醸成する  横田鋼業(香川県)
横田鋼業の横田雅博代表取締役

香川県高松市郊外の工業団地の一角にある横田鋼業株式会社の本社。そのオフィスは、パソコンで設計や文書作成の仕事に取り組む女性従業員の姿が目立つ。その中の一人はベトナム出身でエンジニアとして採用した高度外国人材。多様性は横田鋼業が何より大事にしている価値観だ。

「課題が多いからといって手をこまねいているだけでは何も変わりません。人口減少が加速するこれからの時代、建設会社が存続していくには、女性と海外人材が活躍しやすい環境と企業文化をいかに構築していくかが鍵を握ります。ICTやデジタル機器を活用することで、一人ひとりの負担を減らして働きやすい環境を作り、働く人に選んでもらえる企業にしていきたいと考えています」。取材に応じた横田雅博代表取締役は快活な口調でそのように話した。

一人で始めたアンカー設置専門の建設会社が20年で従業員28人の会社に成長 他社が真似のできない仕事に取り組む

女性と海外人材の積極活用で描く建設会社の新しい姿 人材の多様性が活力を生み、企業文化をデジタル技術で醸成する  横田鋼業(香川県)
アンカーを調整する作業の様子

横田社長は2003年8月、建材業界での十数年間の会社勤めを経て、横田鋼業を35歳の時に創業した。自宅の一室を事務所に、一人でアンカー設置専門の建設会社を立ち上げてから20年。横田鋼業は従業員28人を擁する地元でキラリと存在感を放つ企業に成長した。

「アンカーは建物を支える樹木の根っこのような大切な役割を果たしています。建材会社で日々仕事に取り組むうちに、精度をとことん追求してアンカーを設置する仕事に生涯を捧げたいと思うようになり、理想を実現するには起業が一番の近道と思ったんです。他社が真似のできない仕事を通じて、お客様に価値を認めていただく会社にしたいという思いを創業当初から持ち続け、従業員にも伝えています」と横田社長は話した。

墨出し、測量へと仕事の幅を広げ、競争力が高いビジネスモデルを構築した

女性と海外人材の積極活用で描く建設会社の新しい姿 人材の多様性が活力を生み、企業文化をデジタル技術で醸成する  横田鋼業(香川県)
光波測量機を活用して測量に取り組む様子

創業間もない頃からアンカー設置の作業だけでなく、設置の基準となる墨出しの技術も磨き、測量についても積極的に光波測量の機械を活用して精度を高めることに努めた。「仕事の幅を広げるのは大変でしたが、あえて挑戦しました」と横田社長。継続的な取り組みが、一連の工程を一括受注する競争力が高いビジネスモデル「基礎複合受注」を生み出し、受注件数の拡大につながっていった。創業5年後の2008年にリーマンショックが起こったが、アンカー設置工事という必要性が高い分野で専門技術を磨いたことが奏功し、厳しい外部環境の中でも業績を拡大することができたという。

2015年から鉄骨加工業に進出 年齢を重ねた古参従業員の受け皿を作りたいとの思いがあった

女性と海外人材の積極活用で描く建設会社の新しい姿 人材の多様性が活力を生み、企業文化をデジタル技術で醸成する  横田鋼業(香川県)
本社と併設した鉄骨加工の工場の様子

2015年から鉄骨の加工事業にも乗り出している。新規に加工事業を立ち上げたのは、創業間もない頃から苦楽を共にしてきた古参従業員が年齢を重ね、屋外での現場作業がきつくなった時の仕事の受け皿を作りたいとの思いがあったからだ。孔空け、切断加工などを自動で行う工作機械、溶接ロボット、門型クレーンなどの設備を順次導入して生産体制を強化した。徐々に鉄工所の下請けとしての仕事が増え、本社に併設した工場はフル稼働の状態が続いている。鉄骨加工はアンカー設置事業との相乗効果も高い。現在、売上高に占める鉄骨加工事業の割合は4割程度だが、今後、アンカー設置事業を上回る規模に拡大していきたいという。

女性と海外人材の積極活用で描く建設会社の新しい姿 人材の多様性が活力を生み、企業文化をデジタル技術で醸成する  横田鋼業(香川県)
鉄骨加工用の工作機械
女性と海外人材の積極活用で描く建設会社の新しい姿 人材の多様性が活力を生み、企業文化をデジタル技術で醸成する  横田鋼業(香川県)
工場で活用している溶接ロボット
女性と海外人材の積極活用で描く建設会社の新しい姿 人材の多様性が活力を生み、企業文化をデジタル技術で醸成する  横田鋼業(香川県)
工場の外に設置している門型クレーン

企業を存続していく上で大事なのは人材 10年以上前から女性と海外人材の活用に力を入れてきた

「企業を存続していく上で大事なのは人材です。従業員みんなが安心して長く勤め続けることができる環境づくりをこれからも重視していきたい。従業員数を増やすことで一人ひとりが余裕を持って働くことができるようにしていきたいと考えています」と横田社長は話す。現在の多様な人材が活躍する職場環境は一朝一夕で実現したものではない。10年以上前から生産年齢人口の減少に伴ってあらゆる業界で人材獲得のハードルが高くなることを見越して女性と海外人材の活用に力を入れてきた。従業員には有給休暇や産休、育児休暇の取得を奨励し、家庭の事情による遅出や早退を気兼ねなく行える職場の雰囲気づくりを大事にしているという。

設計やバックオフィスの業務で女性が活躍 業務効率化のために3D-CADなどのシステムを活用

女性と海外人材の積極活用で描く建設会社の新しい姿 人材の多様性が活力を生み、企業文化をデジタル技術で醸成する  横田鋼業(香川県)
3D-CADシステムを活用して鉄骨のデザインに取り組む様子

横田鋼業では、CADを使った鉄骨やアンカーボルトの設計のほか、原価管理、見積、請求書の作成といったバックオフィスの業務で女性が活躍している。設計を担当する従業員の業務効率を高めるために鉄骨の設計に特化した3D-CADシステムを2017年から導入している。数値を入力するとその結果が、平面、側面、3Dの図面にリアルタイムで反映される機能を備えているので、ミスや手戻りが少なく快適に設計できるという。横田社長自身、創業間もないころからCADを使っており、自らの経験を元に会社の業務内容に合わせた3D-CADシステムを選んだという。

バックオフィス業務では、これまで使っていた汎用型の会計システムから、建設業界に特化した原価管理、見積、発注、請求書発行などの業務を連動できるシステムに変更することを決めた。「新しいシステムで業務を効率化することで担当者の負担を減らすことができます。それだけではありません。顧客別だけでなく現場単位でも損益管理できる機能が備わっているので、これまで以上に経営状況を把握しやすくなります」と横田社長は明るい表情で話した。

「測量女子」の採用、育成を強化 オフィスだけでなく現場でも女性活躍のフィールドを広げる ガテンな建設業界のイメージを変えていきたい

女性と海外人材の積極活用で描く建設会社の新しい姿 人材の多様性が活力を生み、企業文化をデジタル技術で醸成する  横田鋼業(香川県)
現場で測量の仕事に取り組む女性従業員

オフィスだけでなく現場でも力仕事以外の墨出し、測量といった業務で女性が活躍できるフィールドを拡大していきたいと考えている。2023年、墨出しと測量業務の専任者として女性を1人採用した。今後、海外人材も視野に入れて「測量女子」の採用と育成を積極的に進め、女性だけで構成する測量ユニットの結成を目指したいという。「現場での女性の活躍は、会社全体に大きなプラス効果を生み出してくれます。現場で女性をサポートしてくれるICTやデジタル技術を導入していきたいと考えています。ガテン系でアナログな建設業界の印象を覆す働き方のモデルを作っていきたい」と横田社長は意欲的に語った。

2014年から海外人材の活用を開始 技能実習生の受け入れにあたっては従業員の賛同を重視した

女性と海外人材の積極活用で描く建設会社の新しい姿 人材の多様性が活力を生み、企業文化をデジタル技術で醸成する  横田鋼業(香川県)
横田鋼業で働く海外人材のみなさん

横田鋼業は時代の変化に柔軟に対応をしながら、海外人材の受け入れと育成を進めている。2014年から海外技能実習生の受け入れを始め、現在、ベトナム、インドネシア、フィリピンから来日した11人が働いている。技能実習生の受け入れを決断するにあたり、横田社長が重視したのが、従業員の賛同だった。当初は、言葉や文化の壁に伴う現場での意思疎通への不安から受け入れに前向きでない意見も出たが、横田社長は、技能実習生が事前にしっかりとした日本語の研修を受けて来日することや、会社にとって人手不足の解消につながる必要な取り組みであることを丁寧に説明することで、同意の輪を広げていった。技能実習生のための宿舎も本社の近くに新築した。

技能実習生は貴重な戦力として定着 日本語能力試験の受験をサポートするなど育成にも力を入れる

受け入れを始めると技能実習生は当初想定していた以上に熱心に働いてくれた。「受け入れ前の不安はすぐに解消しました。みんな意欲的で仕事内容の飲み込みも早いので、現場のリーダーもすぐに日本人と同等の戦力として技能実習生を頼りにするようになりました」と横田社長は振り返った。来日前に習得した日本語に磨きをかけてもらおうと日本語能力試験の受験を奨励し、受験費用を会社で負担するなど日々の勉強をサポートしている。資格の取得もサポートし、取得後は手当の支給も行っている。10年にのぼる技能実習生の受け入れを通じて人事面での評価制度も確立しており、他の会社から技能実習生の育成についてアドバイスを求められることも多いという。

2018年からは高度外国人材の雇用も始める 将来の幹部候補として期待をかける

2018年からは高度外国人材の雇用も始め、現在2人が在籍。将来の幹部候補として育てていきたいと考えている。今後、ICTやデジタル機器は、言語や文化の壁を越えてコミュニケーションを円滑にする上でも活用が期待できると考えている。「海外人材は会社にとって欠かせない存在になっています。一人ひとりが様々な思いを抱いて来日しているので、コミュニケーションをしっかりと取って意見や要望をできる限り反映するようにしていきたい。横田鋼業で働いたことをきっかけに将来は母国と日本との架け橋になってほしいと考えています」と横田社長は話した。

スケジュール、現場写真、図面の共有でもデジタル技術を活用 多様性を重視した企業文化の構築にこれからもデジタル技術の活用を進める

女性と海外人材の積極活用で描く建設会社の新しい姿 人材の多様性が活力を生み、企業文化をデジタル技術で醸成する  横田鋼業(香川県)
横田鋼業の本社の外観

多様な従業員の間の情報共有でもデジタル技術を活用している。現場の予定管理はデジタルでスケジュール表を作成し、オフィスのパソコンや現場にいる従業員のスマートフォンから閲覧、入力できるようにしている。また、セキュリティ機能を備えた企業向けのビジネスチャットサービスを活用して、現場写真や図面の共有を行っている。2019年にリニューアルしたホームページに加え、インスタグラムも活用して若い人材をターゲットにした自社の情報発信も積極的に行っている。

「今後、ICTやデジタル機器が進化することで、これまで以上に現場の仕事が効率化し、従業員間のコミュニケーションも促進できるのではないかと楽しみにしています。新しい取り組みに挑戦し、技術を磨き続けることで日本の建設業界に貢献していきたい」と横田社長は力強く語った。ICTやデジタル機器を活用することで、多様性を重視した企業文化の醸成につなげている横田鋼業。デジタル技術の進化がその挑戦を着実に後押ししていると強く感じた。

企業概要

会社名横田鋼業株式会社
本社香川県高松市西植田町120-11
HPhttp://yokota-kk.jp
電話087-887-3331
設立2011年6月(創業2003年8月)
従業員数28人
事業内容各種アンカー工事、杭頭補強工事、デッキ貼り工事、鉄骨鍛冶工事、墨出し(光波測量)