年明けになると、事業をしている人を中心に確定申告を意識する時期になる。確定申告を行う際によく聞く言葉に「青色申告」と「白色申告」がある。これらは事業を行ったり、不動産の賃貸をしたりする人にとっては必ず耳にする言葉であるが、どのようなものだろうか。ここでは、それらについて解説する。
目次
青色申告とは?
国税庁のパンフレットでは、青色申告について以下のように説明している。
青色申告は、日々の取引を所定の帳簿に記帳し、それに基づいて正しい申告を行うことで、税金の面でさまざまな特典を受けることができる。
分かりづらいので、もう少し細かく説明すると、
1.「日々の取引を所定の帳簿に記帳」
毎日事業を行っている際の金銭等のやり取りを、決められた方法で年間を通じて記録していくこと。
2.「その記帳に基づいて正しい申告を行う」
確定申告の際には、帳簿の記録を元に申告書を作成して税務署に申告を行う。
3.「税金の面でさまざまな特典を受けることができる」
記録し続けるのも、それを元にした申告書を作るのも骨の折れる作業ではあるが、その見返りに税金を減らすことができる。
なお、後述するが、青色申告を行う際には届出が必要となるので注意が必要だ。
白色申告とは?
青色申告と一緒に説明される白色申告とは、どのようなものだろうか。
白色申告は、青色申告のような決まった方法とは異なる簡単な方法で作られた記録を元にして申告する方法である。青色申告とは違い、事前の届出は不要だ。比較的簡単な記録方法で問題ないため、税金上の特典がなくても選択する人もいる。
青色申告がお得!
では、青色申告と白色申告のどちらを選べばいいのだろうか。答えは、言うまでもなく「青色申告」である。その理由を以下で説明する。
実は青色でも白色でも手間が変わらない
青色申告では決まった帳簿を作成する、つまり記録をすることが求められる。一方、白色申告も青色申告ほどではないものの、帳簿を作ることが求められているのだ。帳簿の作りやすさには違いはあるものの、帳簿を作らなければならないという点は同じである。
また、青色申告の帳簿を作るためのソフトウエアが充実しているため、帳簿の付け方、ソフトウエアの扱い方を学べば、税理士に依頼することなく、青色申告を適用する際に求められる帳簿を付け、これに基づいた申告書を作成することは可能である。
青色申告では簡単な帳簿でも認められる場合があるため、積極的に白色申告を選ぶ必要はない。
同じ手間なら青色がいい
また、先程も述べたとおり、青色申告を適用したときには、税金の面でさまざまな恩恵を受けることが可能だが、白色申告ではこれらを受けることができない。
例えば、青色申告では最高で65万円の控除制度、利益の金額を減らすことができる制度があり、全額使えた場合は少なくとも3万円程度の所得税が減税される。
青色申告における6つのメリット!
青色申告を行った場合には税金を減らすことができる特典があると先述したが、それらにはどのようなものがあるのか、代表的なものを説明する。
メリット1.青色申告特別控除
青色申告のメリットとして真っ先に挙げられるのは、青色申告特別控除である。青色申告特別控除には、65万円のものと10万円のものがある。
65万円の青色申告特別控除は、「①正規の簿記(一般的には複式簿記)を使って帳簿の作成を行うこと」「②この記録に基づいた貸借対照表と損益計算書を作成して、確定申告のときに申告書とともに提出すること」で受けられる。なお、令和2年以降はこれに電子申告などの条件が加わり、そうでない場合は控除額が55万円に減額される。
10万円の青色申告特別控除は、65万円の青色申告特別控除の条件を満たしていない場合に対象となる。帳簿を作成し、これに基づいた損益計算書を確定申告の際に申告書とともに提出することによって受けられるものだ。65万円と10万円の青色申告特別控除は、作る帳簿の難易度や提出する書類が異なるという点で違いが見られる。
メリット2.青色事業専従者給与
通常、事業を行う際に家族を従事させて給与を支払った場合、その給与は必要経費にできない。ところが、専従者給与の届出を行った上で支払った場合は、その届出の範囲で必要経費にすることが可能だ。
白色申告を適用する場合もこのような制度はあるが、高くても配偶者の場合は年間86万円、配偶者以外の家族の場合は50万円までとする制限がある。その反面、青色申告を適用した上で専従者給与を支払う場合は、届出をした範囲内であれば、支払額の全額を必要経費にできる(ただし、過大な部分は認められない)。
これにより、家族に所得を分散させることが可能となり、家族全体の税金額を少なく抑えられる。
メリット3.純損失の繰越しと繰戻し
事業を行った結果、赤字になることがある。この場合、通常バイトをした場合の所得を相殺できることもあるが、それでも損失が残る結果になることもある。青色申告の適用をしている場合は、このような場合に前後の年に発生した税金を緩和する措置がある。
まず、最終的に損失となった場合は損失を3年間繰越しでき、この間に出た所得と相殺できる。その結果、将来の税金を減額することも可能だ。これは「純損失の繰越し」と呼ばれている。
次に、最終的に損失となったが、その前年に青色申告をして収益が出ている場合は、申告すれば過年度分の税金の一部が償還されることがある。こちらは「純損失の繰戻し」と呼ばれるものだ。
メリット4.少額減価償却
通常、10万円以上の備品を取得した場合は即時に費用にできず、「減価償却」といって何年かに分けて費用化することが求められる。この処理は、固定資産の減価償却費の計算を毎年行うため、手間がかかる点は否めない。
そこで、30万円未満の物品を取得した場合は、減価償却をせずに取得時に一括して費用にすることが認められている。費用を一括して行うことで、減価償却費の計算をする必要がない。また、多く収益が出た年にこれを適用することによって、収益を一時的に圧縮することができるのだ。
ただし、この方法を使った場合に注意すべきことが3つある。1つ目は、市区町村役場などには年1回の償却資産税の申告があるが、その際に届出を提出しないといけない。つまり、償却資産税の対象となり、税金を支払うことになる。2つ目は、収益を圧縮することができると先述したが、圧縮できるのは1年限りであり、翌年は減価償却費が出ない分、利益が増加し、その分の税金がかかることだ。収益が多く出たため、税率が上がる場合に使うのが効果的である。3つ目は、手続き上の面が挙げられる。この制度を適用したことを申告書に書き、対象となった固定資産のリストを保管することが必要だ。
メリット5.低価法
在庫などの棚卸資産が、型落ちなどの理由で価値が低下することはよくあるだろう。青色申告を適用している場合、棚卸資産の金額を時価まで下げておき、棚卸資産の評価を下げて、現状を表している価格まで下げることが可能である。また、それによって損失を計上し、先行して利益を下げることも可能だ。
メリット6.貸倒引当金
取引先が倒産などによって支払いができなくなることがあるが、貸倒引当金を計上することで、将来起こり得る支払不能のリスクに備えることができる。
所得税の場合、期末現在の売掛金、貸付金のうち、貸金の帳簿価額の5.5%以下を貸倒引当金として計上することができ、計上した分(前期も計上した場合はその差額)を費用として計上できる。また、破産の申し立てなど一定の事象が発生した先については、決まった金額について繰り入れることが可能である(前期も計上した場合はその差額)。
白色申告から青色申告にする方法は?
青色申告を適用していない、白色申告またはこれから事業を始めたい人が青色申告をするにはどうすればいいのだろうか。
実は届出1つで済む
青色申告を適用したい場合は、届出用紙を提出するのみで済む。ただし、提出には期限があるので注意したい。
原則として、適用したい年の3月15日までに提出す届けとが必要だ。一度届出た後は、取り消しの届出を出さない限り翌年以降も適用される。ただし、これから事業を始めたい人はその限りではなく、事業を開始した日から2ヶ月以内に提出すれば青色申告の適用が受けられる。
また、青色申告の適用を受けた人が亡くなった場合、事業を引き継いだ人が青色申告をするためには別途締め切りが設けられている。
青色申告を維持するためにはどうすればいい?
青色申告の適用を受けるには届出を提出すればいいが、維持が難しい場合もある。
帳簿の作成は必須
青色申告は帳簿の作成を前提としている。すなわち、毎年必ず帳簿を作っておく必要があるのだ。また、帳簿は作るだけではなく、提示を求められる際に見せられるよう、きちんと保存する必要がある。帳簿には真実を記録し、仮装や隠蔽をしてはいけない。
これらのことを行わなかった場合は、青色申告が取り消される場合もある。一度取り消された場合、1年間は青色申告の再申請ができなくなる。
簡単な帳簿でも可能
青色申告の適用は、本来求められている正規の簿記にのっとる必要はなく、簡便な方法で作られたものであっても差し支えない。
ただし、簡便な方法で作成する場合は、青色申告特別控除の控除額が65万円ではなく10万円となるので、注意が必要だ。
青色申告は毎年必要になる!
青色申告は、毎年期限内に申告したほうがいい。なぜなら、利益が出た場合はもちろんのこと、そうでない場合も損失となった場合にも、他の所得と相殺したり繰越したりすることができるからだ。
また、申告しなかったからといって、すぐに青色申告が取り消されるものではないにしても、毎年の申告は必要となるだろう。
文・中川崇(公認会計士・税理士)