「BtoBビジネスにおいて、ECサイトを活用すべきか迷っている」
「BtoB企業のECサイトの成功事例を知って、参考にしたい」
BtoB企業でECサイトの運営を検討されている方のなかには、上記のような悩みを持つ方も多くいらっしゃいます。
本記事では「BtoB企業がEC化するメリット・デメリット」や「BtoB ECの成功事例」を中心に解説します。記事を読めば、BtoB企業がEC化するべきかどうかの判断に役立つため、BtoB企業の方はぜひお読みください。
目次
BtoBにおけるECとは?
BtoBにおけるECとは、企業間における電子取引のことです。BtoBは「Business to Business」の略であり、企業間取引を指します。ECは「Electronic Commerce」の頭文字を取っており、インターネット上で物・サービスを売買する電子商取引のことを指します。
これまでECの主流は、一般消費者を対象としたBtoCが中心でした。
しかし、インターネット環境とパソコンやスマートフォン、タブレットが普及するにつれ、時間や場所を問わず取引が可能である便利さから、BtoB商材を販売している企業でもECの利用が増えています。
「販路拡大による売上アップ」や「業務効率化」を図るという点で、ECの活用は多くのBtoB企業にとって取り組む価値のある施策です。
BtoB ECの種類
BtoB ECの種類は、大きく分けて「クローズドBtoB型」と「スモールBtoB型」に分けられます。
クローズドBtoB型
クローズドBtoB型は、登録している会員以外はサイトに入れない仕組みのECです。
「ID・パスワードでログインしないとページが表示されない」「URLを知っている人しかアクセスできない」といった制限をかけているのが一般的です。既存の取引企業以外はECサイトを閲覧できないため、製品情報や価格情報の機密性が保てます。
またBtoBの取引では、取引額の大小で割引率が左右されるケースがあるため、取引先に応じて割引率を変える処理が必要です。
クローズドBtoB型のECサイトでは、取引先の企業によって「表示する商品を変更する」「パーソナライズした販促情報を配信する」といった工夫が可能なため、既存顧客のリピート購入率を高めながら受注業務が効率化できます。
スモールBtoB型
スモールBtoB型のECは、全ての企業が閲覧・取引できるオープンなECサイトです。既存顧客だけでなく、遠方の取引先や取引金額の少ない顧客などの「営業活動の優先度が低い顧客」や、これまで取引がなかった「新規顧客」などとの取引につなげられます。
クローズドBtoB型と異なり、企業ごとにサービスの違いはありません。BtoC ECと近いため、ECサイトが構築しやすいケースが多いです。
スモールBtoB型では新規顧客の獲得も目指せるため、幅広い層からの受注が期待できます。一方でターゲットが広いため、戦略・販促に工夫が必要です。
国内BtoB ECの市場規模・EC化率
経済産業省の公表によると、 2022年のBtoB ECの市場規模は420兆2,354億円であり、前年比12.8%増となっています。またEC化率は37.5%であり、前年から1.9%増えました。
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | |
EC市場規模 | 352兆9,620億円 | 334兆9,106億円 | 372兆7,073億円 | 420兆2,354億円 |
EC化率 | 31.7% | 33.5% | 35.6% | 37.5% |
参考:経済産業省「令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」
2020年からEC市場規模・EC化率のいずれも右肩上がりです。なかでも、EC化率が高い業種は「輸送用機械器具製造業」や「食料品製造業」「電気・情報関連機器 製造業」であり、輸送用機械器具製造業のEC化率は最も高い76.7%でした。
また2022年は、コロナショックが落ち着いてきたこともあり、消費者の外出機会増加に伴う外食・ホテル需要が増加しました。これにより業務用食品市場規模が拡大。EC化の動きも加速し、食料品製造業のEC化率は3.5%増の70.7%となっています。
BtoC寄りの売り方をするECサイトが増えている
2010年代まで、BtoBのECでは「既存顧客向けの卸」という役割を果たすことがほとんどでした。しかしコロナ禍を受けて対面での取引が減ったことで、「新規・既存問わずに販売する」という形を取るBtoB ECの手法が主流になりつつあります。ECの使い方がBtoC寄りになっているといえます。
この場合、顧客管理は厳密ではなく割引設定も少ないです。そのため、マーケティング戦略の面でもBtoC ECサイト寄りの戦略策定が必要になります。
BtoB ECとBtoC ECの違い
BtoB ECとBtoC ECは取引相手だけでなく「ECサイトの機能面」でも違いがあります。以下の項目から、BtoB ECならではの機能を紹介します。
・販路管理
・掛率管理
・決済管理
・見積もり
販路管理
BtoC ECの場合、アクセスしたユーザーは掲載商品の全てを閲覧・購入できます。一方でBtoBの場合、取引先ごとに異なる商品が掲載できます。そのため「特定の顧客のために生産している商品」や「取引金額の大きい企業のみに販売している商品」などがECサイトを通じて販売できます。
さらに「扱うのに免許が必要な商品」や「ライセンスが必要な商品」などを扱うケースもあるため、取引先ごとに掲載商品が設定できるBtoB ECでは「特定の取引先にしか表示したくない商品」の販売も可能です。
futureshopには、ECサイトで購入可能なユーザーを限定できる「会員機能」があります。
引用:futureshop「会員機能」
アクセス制限が設けられるため「卸売り会員専用」や「有料会員専用」といったECサイトとして活用できます。さらに、非会員でも購入可能にして「非会員には定価で販売」「会員には定価より安い会員価格で販売する」といった設定も可能です。
詳しい機能は以下のページをご確認ください。
⇒futureshop「会員機能」
掛率管理
BtoC ECの場合、基本的に販売相手によって価格を変えないため「一物一価」で管理します。一方BtoB ECの場合、同じ商品でも販売量などによって異なる販売価格を設定します。例えば「業務用の文具」などは大量に注文するほど割安になります。
そのため「取引先ごとに販売価格の掛率を設定する」といったシステムが必要です。
決済管理
BtoC ECの場合、一般消費者が対象のためクレジットカードや後払い、Amazon Payなどの決済方法が一般的です。一方BtoB ECの場合、上記に加えて「掛け売り」や「銀行振込」などが必須です。
なかでも掛け売りは、納品済みの商品を翌月にまとめて請求します。売り手・買い手の信用をベースとして取引するため「過去の取引実績」や「与信」を重視します。与信状況によっては決済方法を限定するケースもあり、取引先ごとに利用できる決済方法の設定が必要です。
見積もり
BtoC ECでは個人の消費者が購入するため、見積もりの機能は不要です。一方BtoBでは、企業の担当者が取引先企業の見積書を取得したうえで、社内承認を得たあとに購入に至ります。そのため、BtoB ECにおいて見積もり機能は必須の機能です。
カート機能において違いが大きいのは「顧客ごとに掛け率を変えられるか」や「決済管理が可能か」「見積もり機能があるか」といった部分です。
BtoB企業がEC化する3つのメリット
BtoB企業がEC化するメリットは次の3つです。
・受注業務が効率化できる
・新規顧客が獲得できる
・受注機会が増加する
受注業務が効率化できる
電話やFAX、ホームページからの問い合わせなどで受注する場合、担当者が受注情報をシステムに手動で入力する必要があります。また「電話での聞き間違い」や「FAXの文字が判別できない」などのヒューマンエラーが発生する可能性があります。
受注業務をECで行う場合、取引相手が入力したデータをもとに対応するため、受注情報の手入力が不要です。また受注情報の人的なミスが減るため修正作業が少なくなります。その結果、受注業務の効率化につながります。
新規顧客が獲得できる
ECサイトはインターネット環境さえあれば誰でも閲覧できるため、Web経由での新規顧客の獲得に貢献します。
BtoBにおいては「電話でアポイントを取って営業先に出向く」「商品カタログを持参して飛び込み営業する」といった方法が、新規顧客を獲得する営業方法の主流でした。この場合「営業活動に人件費・交通費などのコストがかかる」「足が運べる範囲しかアプローチできない」といった課題がありました。
BtoB ECではECサイトを通じて、自社で扱う商品を地域を問わず閲覧してもらえます。新しく集客チャネルが増えるのがメリットです。
「これまでアプローチできなかった企業に情報を届けられる」「ECサイトを見た企業から発注してもらえる」といった可能性が高まり、営業活動に多くのリソースを割かずに新規顧客の獲得が目指せます。
受注機会が増加する
電話のみで受注する場合、営業時間外は注文を受け付けていないため、買い手側は思い立ったタイミングで注文できないことから、売り手側は受注機会を逃す可能性があります。
一方ECサイトでは、24時間・365日注文を受け付けられるため、買い手側は日時を問わず注文できます。そのため受注機会が増加し、売上アップが期待できます。さらにECサイトでは複数の商品を掲載しているため、新たに商品を購入してもらえるきっかけになる可能性もあります。
買い手側が注文したい商品だけでなく、ほかの商品にも興味を持ってもらえる可能性があるため、BtoB ECは受注機会の増加につながります。
BtoB企業がEC化する2つのデメリット
BtoB企業がEC化するデメリットは次の2つです。
・導入コストが発生する
・既存顧客へのフォローが必要
導入コストが発生する
BtoC ECサイトと比べると、BtoB ECサイトの構築には導入コストが大きくなる傾向があります。初期費用は最低数万円程度から最大数億円程度と、構築方法によって大きく差があります。
BtoBでは、独自の商習慣・業務フローがあるケースが多く、標準的なECサイトでは対応できない可能性があります。この場合、独自にシステムの構築が必要になるため、ECサイト構築費用が高額になりやすいです。
またECシステムの導入にあたって、社内全体の業務フローも見直す必要があります。そのため、関係部署の調整も含めた導入コストが発生する点がデメリットです。
既存顧客へのフォローが必要
これまで電話やFAX、メールなどで受注していると、なかには「慣れ親しんだ発注方法」から「ECサイト経由での新たな発注方法」への変更に難色を示す既存顧客もいます。
最悪の場合、取引中止に至る可能性があるため「ECサイトにおける発注時のマニュアルの準備」や「デモサイトを活用した操作方法の説明」といった方法で、既存顧客に対してフォローする必要があります。
既存顧客を取りこぼさずに新たな受発注の体制を整えるために、既存顧客へのフォローは丁寧に行いましょう。
すべてのBtoB企業がECを導入すべき理由
すべてのBtoB企業がECを導入すべき理由として、現代のビジネス環境の変化が挙げられます。
現在BtoB企業では、いまだに電話やFAXで受注している企業が多いのが実情です。また自社サイトに、問い合わせフォームのみ設置し「メールで受発注に関してやり取りする」といった方法で十分だと感じている企業も存在します。
これまではビジネス手法として機能してきたものの、アナログな仕組みだけでは新規顧客の獲得が難しい時代に変化しています。
現在、多くの顧客はインターネットを通じて仕入れ先を探しており、いくらコンテンツマーケティングに注力しても、注文方法がレガシーな場合、効果は薄れてしまいます。BtoB EC導入のきっかけについて「『顧客からの要望』が全体の3割を占める」というデータもあります。
参考:インプレス研究所「BtoB物販企業におけるBtoB-EC(ウェブ受発注)導入率は18.5%、非導入の4割が前向き」
ビジネスの成功にDX化が大きく貢献する現代において、EC導入を見送っている企業は不利になる可能性が高まります。
またBtoB企業においてEC化が進まない要因として、経営者の考え方が追いついていないパターンが多くみられます。コロナ禍によって「電話しにくくなった」「メールでのやり取りが減った」といった背景もあり、ビジネス上のコミュニケーションも変化しています。
BtoBだからこそレガシーな方が多く、EC化が進みにくい側面があります。そのため、BtoB企業の経営者は「時代に合ったビジネスモデル」をいま一度考える必要があります。
BtoB ECサイトの構築方法
BtoB ECサイトは、おもに以下の3つの方法で構築できます。
・SaaS型
・パッケージ型
・オープンソース型
SaaS型
SaaS型は、クラウド上のプラットフォームを複数のEC事業者が利用する方法であり「ASP」とも呼ばれます。ECに必要な機能やサーバー環境が整っており、即日~3か月程度の短期間でECサイトが構築できます。またベンダーがシステムの保守・運用・セキュリティ対策を担うため、ECサイトの運営に注力できます。
一方で機能のカスタマイズ性が低く、デザインの自由度もプラットフォームによって異なります。そのため「業務フローが特殊」「大規模なビジネスを展開したい」といった企業には不向きな方法です。
以下の記事では、ASP(SaaS型)でECサイトを構築するメリットや注意点を解説しています。有料サービス・無料サービスの違いも紹介しているため、ASPに関して興味のある方はぜひお読みください。
⇒ECサイトをASPで構築するメリットと注意点は?構築方法徹底比較!
パッケージ型
パッケージ型は、ECサイトに必要な機能がパッケージ化されているソフトウェアです。標準機能で足りない部分をカスタマイズできるため、ゼロから構築せずに自社の要件に合わせたECサイトが構築できます。また標準機能がベースのため、開発内容によっては3か月程度で構築可能です。
一方、カスタマイズ可能な範囲はベンダーによって異なります。そのため、自社の要望が「システムの標準機能・拡張性で実現できるか」を確認したうえで、ECサイトの構築先を選ぶ必要があります。
オープンソース型
オープンソース型は、ソースコードが公開されているソフトウェアです。ソースコードを自由に改変して機能を追加実装できるため、開発の自由度が高いのが特徴です。また、第三者が開発・公開しているプラグインを活用し、機能がカスタマイズできます。
カスタマイズ性が高い一方で、構築後もシステムの保守・運用管理が必要です。またオープンソース型はソースコードが公開されているため、サイバー攻撃にあうリスクが高く、脆弱性が発見されるたびに対応できる体制が欠かせません。
そのためオープンソース型でECサイトを構築する場合は「社内エンジニア」や「外部パートナー」の長期的な確保が必要な点に注意しましょう。
BtoB ECの成功事例
ここからは、BtoB ECの成功事例をご紹介します。
チームワークアパレル
引用:チームワークアパレル
チームワークアパレルは、飲食店や販売店のユニフォームを中心に販売しているECサイトです。プリント・刺しゅうなどのカスタマイズからロゴの制作まで対応しており、オリジナリティの高いユニフォームを提供しています。
スタンダードな商品と、カスタム加工が可能な商品の両方を販売しています。ECサイトの相談フォームが充実しているのが特徴であり、店舗の「客単価」や「客層」「店舗イメージ」などを顧客に入力してもらい、店舗ごとの特徴に合わせたユニフォームを提案しています。
ポロシャツやエプロンなどの標準的なアイテムだけでなく「作務衣」や「ベスト」「ウィンドブレーカー」などへのプリント・刺しゅうも可能であり、幅広い企業のニーズに応えているBtoB ECサイトです。
卒塔婆屋さん
引用:卒塔婆屋さん
扱う商品の特性から、EC化するのは難しいといわれていた「卒塔婆屋さん」は、シュリンクするしかない業界のなかでBtoB ECサイトの運営を始めました。
卒塔婆業界では「1年分の卒塔婆を年に2回、計2000本」を取引先に納めることが一般的だったなか、塔婆屋さんは1本から注文できる「ばら売り注文」を開始しました。
「寺での保管場所に困る」「納期まで時間がかかる」といった顧客の問題を解決した結果、商品代金より送料の方が高いにもかかわらず、多くの顧客に購入されています。
アスクル
引用:アスクル
事務用品をはじめとした多種多様なオフィス用品を扱う「アスクル」は、独自の流通体制に強みがあります。
商品の注文受付・発送などはアスクルが担当し、顧客開拓や債権回収などは代理店が担う体制を構築しています。創業当初から代理店と連携する「独自のビジネスモデル」を展開しており、効率のよいシステムを確立しています。
モノタロウ
引用:モノタロウ
モノタロウは、製造業や工事業などの現場に欠かせない工具を中心に販売しているECサイトです。2024年2月時点で2,217万点もの商品を扱っており、顧客の幅広いニーズに応えています。
これまで工業製品は「大量発注する大企業」に卸すのが主流であり「小口発注したい中小企業」は、ECを利用しにくい状況でした。そこでモノタロウは、商品を1点から購入できるシステムを導入しました。その結果、これまで取りこぼしていた中小企業の顧客を獲得し、ECサイトを成功させています。
熊本馬刺しドットコム
引用:熊本馬刺しドットコム
熊本馬刺しドットコムは「株式会社利他フーズ」が運営する熊本県産の馬刺をはじめとした、九州の食品を販売するECサイトです。
当初はBtoB・BtoCのいずれも同一のECサイトで運用していたものの「業務効率の悪さ」や「BtoB特有の掛け払い」に対し、課題を感じていました。そこでBtoCと切り分けてBtoB ECを始めたところ「掛け払いの自動化」をはじめとした機能の充実により、業務効率が大幅に改善されました。
まとめ
BtoB企業は電話やFAX、メールで受注している企業が多いものの、多くの企業がインターネットで仕入れ先を探しているため、EC化には「新規顧客の獲得」をはじめとした多くのメリットがあります。
本記事で紹介したBtoB企業がEC化するメリット・デメリットや成功事例を参考に、自社ビジネスにおけるECサイトの活用を検討してみましょう。