相続税だけに限らず、所得税や消費税といった国税は、納税すべき税額を納税者自身で計算し、申告する「申告納税制度」が採用されています。
これに対し、固定資産税などのように市区町村や行政機関が税額を計算し、税額を確定する制度を「賦課課税制度」といいます。
申告納税制度では納税者自身が税額の計算をおこなうため、税額が正しく計算され納税されているかという点には不透明な部分があります。
そのため、納税者の税務申告が正しく行われているかを、税務署が定期的に確認することがあり、これを「税務調査」といいます。
相続税の申告においても、相続財産の漏れを税務署が発見した場合や、計算に誤りがある場合などは、税務調査がおこなわれる場合があります。
この記事では相続税の申告における税務調査やその注意点について解説していきます。
務調査とは
相続税の税務調査の発生率はかなり高い
相続税における税務調査の発生時期の目安は、相続税申告書を提出後約1~2年といわれています。
しかし、中には相続税申告書を提出してから3年後や、5年後に税務調査がある場合もあります。
つまり、2年を経過したからといって安心することはできず、5年を経過すれば税務調査が発生する可能性としては非常に低くなるということです。
所得税や法人税などの税務調査の発生率は、数%といわれていますが、相続税における税務調査の発生率は10%~20%といわれています。
さらに、税務調査によって申告漏れを指摘される確率はそのうちの80%と非常に高い数字となっています。
このことから、税務調査がある場合というのは、税務署が何かしらの相続財産の申告漏れや、計算に誤りがあるということを把握した状態で税務調査をおこなっている、ということがわかります。
相続資産の申告漏れには注意(名義預金など)
税務調査があった場合の申告漏れを指摘される確率が80%ということですが、一体どのような相続財産の申告漏れが多いのでしょうか。
平成28年事務年度分の統計をみると、相続財産のなかで一番申告漏れが発生しているのは、現金や預金などになっています。
その割合も約4割と、非常に多い割合を占めています。
特に申告漏れになりがちなのが、名義預金などです。
名義預金とは、亡くなった被相続人以外の名義となっているが、実際には被相続人が管理や使用していた預金のことです。
つまり、ただ名義だけが被相続人以外になっているだけ、という解釈になります。
相続財産を評価する際には、名義が誰なのかではなく所有者が誰なのかが重要で、その資産が被相続人のものなのか、それとも被相続人以外のものなのかを判定します。
そうなると、名義預金は、あくまでも名義は被相続人以外だが実質的な所有者は被相続人と判断され、相続財産として相続税の課税対象資産となります。
調査によって不足税額等が発生した場合
税務調査があった際は、高い確率で申告漏れや計算の誤りを指摘されますが、具体的にそのような場合にはどうなるのでしょうか。
税務調査において相続税の不足税額などが発生した場合には、不足分の税金と合わせて延滞税などのペナルティが課せられます。
ペナルティにはいくつかの種類があり、一般的な税務調査では、会計上のミスや故意的ではない申告漏れの場合、延滞税や過少申告加算税が課せられることがあります。
期限までに申告・納税をおこなわなかった場合には、無申告加算税が課せられます。
過少申告加算税や無申告加算税については、税務調査がある前に申告書を提出すれば、それぞれの金額に違いが生じてきます。
そして、意図的に所得を減らすことや資産などを隠すなど、故意的に税金を安くしようとすれば、重加算税という重いペナルティが課せられます。
修正申告と更正の請求
相続税だけに限らず、所得税や法人税などの税金を定められた申告・納付期限までに納めていた場合に申告後に税務調査があり、計算の誤りや漏れがあって本来納める税金よりも少なく納付していたことが発覚した場合には、税務署に「修正申告」をおこなうことになります。
それに対し、自分で、あるいは税務調査にて、計算誤りや過大計上などにより、本来納める税金よりも多く納付していた場合には、税務署に対し「更正の請求」をおこなうことになります。
修正申告とは
相続税の申告及び納税を定められた期限内におこなったうえで、申告後に申告漏れなどの誤りがあることに気づき修正後の正しい申告をおこない、不足分の税額を納めることを「修正申告」といいます。
修正申告には、2種類あり、1つは、自分で誤りなどに気づき、税務調査が入る前に修正申告を行う場合、もう1つは、税務調査において申告漏れや誤りが発覚し、税務署から修正申告を促される場合です。
両方とも、同じ修正申告なのですが、修正申告をおこなう場合には、本来、期限内に納めるべき納税額が不足していた、ということですので、延滞税や過少申告加算税などが発生することがあります。
そのうち、過少申告加算税については、税務調査が入る前の自発的な修正申告の場合と、税務調査における修正申告とでは違いがあり、自発的な修正申告の場合は過少申告加算税がかかりません。
無申告加算税についても、自発的な修正申告の場合と税務調査における修正申告の場合とで、利率が異なります。
延滞税 | 納期限に遅れて納税したとき | 年9.0% |
過少申告加算税 | 期限までに、申告納税したが、不足がある場合 | 5%・10% (10%・15%) |
無申告加算税 | 期限までに、申告課税しなかった場合 | 10%・15% (15%・20%) |
重加算税 | 仮想隠蔽など、故意に税金を逃れようとしたとき | 35%・40% |
更正の請求とは
相続税の申告及び納税を定められた期限内におこなったうえで、申告後に相続財産の過大評価や誤計上などがあることに気づき、修正後の正しい申告をおこない過納付分の税額を還付してもらうことを「更正の請求」といいます。
更正の請求には期限があり、原則として申告期限から5年以内となっています。
しかし、申告期限時に未分割の相続財産があり、その未分割の相続財産を分割した場合や、遺言書などが発見された場合は、その事由が発生した日の翌日から4ヵ月以内であれば、更正の請求をおこなうことができます。
また、これらの場合は、申告期限から5年を経過した場合でも更正の請求をおこなうことができます。
税務署による更正処分
納税者である人が自ら誤った申告を修正する修正申告に対し、税務署が課税処分を直接おこなうことを更正処分といいます。
この2つの大きな違いは、納税者の意思です。
修正申告は、納税者が自らおこなうものですので、修正申告をおこなうとその申告に対し意見や文句を言うことはできません。
それに対し、更正処分は、税務署が一方的に課税処分を下すものですから、意見や文句などがあれば裁判所などに申し立て、裁判をおこなうことができます。
しかし実際には、税務調査官も更正処分ではなく修正申告を勧めるケースがほとんどですので、よほどのことがない限りは更正処分がおこなわれることはありません。
まとめ
相続税の申告は、被相続人の1つ1つの財産を、それぞれの評価方法で評価しなければなりません。
そのため、計算の誤りや計上漏れなどが発生する可能性というのは、非常に高いです。
もし、多額の相続財産が申告漏れになっていれば、税務調査があれば意図的に隠したのではないかと思われても、おかしくはありません。
そのため、相続税申告をおこなう際には、提出する前にもう一度、申告漏れや計算の誤りがないかを確認することが大事になってきます。
申告後においても再度見直し、申告漏れなどがあればすみやかに修正申告をおこなうようにしましょう。
(提供:相続サポートセンター)