目次
長野県小諸市に本社を置く大栄製作所は、サクションロールのようなオンリーワン製品を生産する中で、従業員の定時退社による省電力や太陽光発電を活用し、脱炭素への貢献にも力を入れている。サクションロールは工業用部品で、「液晶テレビでは反射を防ぐためにガラスパネルの上に光学フィルムを貼ります。その光学フィルムに反射防止用の液を塗る工程などでサクションロールが使われます」と、塩川秀忠代表取締役社長は説明する。(大栄製作所の本社工場のソーラー蓄電池システム)
サクションロール製造で日本有数
サクションロールとは、フィルムやシートといった部材を吸着して押し出す機能を持ったローラーで、2本のローラーで製品を挟んで流す場合とは違って表面にローラーが接触することがないため、製品への影響を抑えられる。ローラー自体がフィルムやシートなどを吸い付けて送り出す構造となっており、製造には精密な設計や加工が求められる。「そうした特殊なローラーを作っているのは、日本でも5、6社くらいではないでしょうか」(塩川社長)
他にはない技術を持ち、様々な製造現場で必要とされる製品を送り出していることもあって、「再来年の3月まで仕事を受注しています。中国経済がもう少し元気になってくれば、需要も増えてもっと仕事が増えるのではないでしょうか」(塩川社長)。
省電力にも熱心で、残業ゼロに加え太陽光発電も実施
こうなると、日々の残業時間も結構な量になるのかと思いきや、「当社は基本的に残業ゼロでやっています。多くても年間で2時間ぐらいです」(塩川社長)。言葉通りに、就業時間の午後5時を過ぎると従業員は仕事を止めて帰宅の途につき、工場も電気が落とされる。
ムダにエネルギーを使うこともないエコロジカルな操業スタイルだが、同社ではこれに加えて、工場の屋根にソーラーパネルを設置して太陽光発電も行い、工場での利用や外部への販売を行っている。「ソーラーパネルの発電量は100キロワットで、このうち70キロワットを自家用に使って、30キロワットを売電しています。2024年度にはもう50キロワットほど追加したいと思っています」(塩川社長)。本社や工場がある浅間山の南麓は日本でも日照時間が長く、太陽光発電に適している。地の利を生かして環境負荷の軽減に努めている。
CO2排出量の“見える化“サービスを導入し、CO2排出量を可視化
ただ、太陽光発電の利用が環境に良いことはわかっていても、具体的にどれくらい環境負荷を減らせているのかはわからなかった。そこで同社では2023年夏からCO2排出量を“見える化“できるオンライン上のサービスプラットフォームを導入した。
「電気料金の請求書をもとに購入した電力量を入力すると、どれくらいのCO2を排出したかを算出してくれる仕組みです」(総務部社長付の赤岡正彦氏)。年間を通じてすべての電力を太陽光発電で賄えるわけではないため、工場の操業には電力会社から来る電気も使っている。ただ、太陽光発電を使えばそうした電力の購入を減らすことができる。過去に購入していた電力量と比較することで、現在のCO2排出量が過去に比べてどれくらい少なくなったかもつかめる。
こうした取り組みに関連して、同社では太陽光パネルでの発電が、CO2排出量の削減にどれくらい貢献しているかをグラフで把握できるような仕組みを取り入れた。太陽光発電を操作する機械には、太陽光パネルで発電している電力量やバッテリーへの充電量、工場で使っている電力量などを表示する機能がある。「このデータをもとにCO2排出量を算出して、グラフ化できないかと社長に言われ、取り組みました」(赤岡氏)
グラフ化により太陽光発電によるCO2削減量を推定
太陽光発電の機械を提供しているメーカーに問い合わせ、発電量のデータを取り出して独自に処理する仕組みを構築した。データ自体は発電量からCO2排出量を割り出したものとなるが、電力自体は太陽光発電によるもので、結果としてそれだけのCO2排出を削減したと受け取ることができる。これをグラフ化して目に見えるようにすることで、CO2排出量の“見える化“サービスと併せてCO2排出量削減に対するスタンスを、社内外に示せるようになった。
CO2排出量の“見える化“サービスはガスなど電気以外のエネルギーにも対応していることから、「今はまだ電気だけですが、いずれは会社全体でどれくらいのCO2を排出しているかを把握して、改善につなげるための指標にしたいと考えています」(赤岡氏)と前向きだ。
既に社会全体で、CO2排出量削減を含めた環境対応への取り組みが、製品やサービスを選ぶ上で重要な指標となる時代が来ている。時代に先駆けて"見える化“を進めて社外にアピールしつつ、社内でもよりいっそうの削減に向けて施策を打っていく。すでに工場内の照明を電力消費量が少ないLEDに置き換えた。「事故を防ぐために工場は明るくしておく必要がありますが、LEDでも十分な明るさを得られるとわかりました」(塩川社長)
財務・会計ソフトのクラウド化で手作業を減らし事務作業の負担を軽減
財務・会計に関しても、手書きの帳票を打ち込んでいた作業をやめて、最初からクラウドサービスに入力するように改めて手書きをなくすことで、経理などを行っている担当者の負担を減らした。「当社の場合、経理や外注などを担当している従業員が4人しかいないのですが、それで億円単位の仕事をこなせるようになりました」(塩川社長)。これなら、工場と同様にオフィス部門も残業ゼロでこなしていける。経営状況の把握も容易になって、次にどのような施策を打ち出すかを決めやすくなる。
DXによる恩恵を受け、推進している部分も多くあるが、一方で事業継承のために熟練工の技術を映像で残し、教育に役立てるようなことは行っていない。「記録を残してしまうと、技術を盗まれてしまう心配がありますから」(塩川社長)と、特別な技術を持った会社ならではの理由を説明する。その分、先輩が後輩をみっちりと鍛えて、次の戦力にするような取り組みには余念がない。そのためには、新しい人材の確保であり、長く勤めてもらう環境の整備が必要となる。
独立リーグの野球チーム「信濃グランセローズ」や社会人野球チーム「千曲川硬式野球クラブ」の支援等地域貢献を行う
残業ゼロも大きな魅力だが、それに加えて同社は、「年間の休日も122日でボーナスも年3回支給しています。定年も65歳で、60歳を過ぎても給料は減らさず昇給するようにしています」(塩川社長)。恵まれた職場環境だけに、「募集をかければ1人2人といった就職希望者が来てくれます。それでも若い人は、他にやりたいことがあるのか辞めてしまう人もいます」(塩川社長)。
会社の魅力を高めて人材の確保や定着につなげるため、同社では独立リーグの野球チーム「信濃グランセローズ」や社会人野球チーム「千曲川硬式野球クラブ」をスポンサーとして支援し、地域とスポーツに貢献している。小諸市を舞台としたTVアニメ『あの夏で待ってる』が2012年に放送されて評判となり、若いファンが小諸を訪れるようになった時は、まだ何もグッズがなかったことを残念に思い、アニメのポストカードを印刷して提供しました(塩川社長)。ファンが感謝の意を示そうと、大栄製作所の本社に記念撮影に来たそうだ。
小諸商工会議所会頭として地域発展の道を探る
こうした地域貢献への意識を、2022年11月に小諸商工会議所の会頭に就任後は、大栄製作所で取り組んできたDX化の経験も活かしながら、商工会議所におけるDX化を推進し、地域の発展を推進しようと頑張っている。「会議では紙を使わずタブレットに資料を配信するようにしました」(塩川社長)。紙類の削減につながり環境負荷の軽減にも貢献できる。
今は、「VR(仮想現実)のような技術を使って、小諸の産業や商品を見せるオンライン展示会が開けないかと考えています」(塩川社長)。近隣の上田市や佐久市では産業展をリアル開催して地域をアピールしているが、小諸市では行っていなかった。「それなら、他がやっていない仮想空間での展示会を開いて、全国の人に見てもらったり、学校から生徒たちにアクセスしてもらったりして、小諸のことをもっと知ってもらえればと思っています」(塩川社長)
内閣府が提供している地域経済分析システムに「RESAS」というものがある。「これで小諸市の地域経済循環率を見ると、2018年は78.9%で、入ってくる所得より出ていく支出の方が多くなっていました」(塩川社長)。近隣の軽井沢町が観光による収入もあって134.4%とそれだけ地域にお金が戻って潤っているのとは対照的。こうした状況を変えるため、小諸市だけでなく佐久市や東御市、御代田町といった近隣の自治体の商工会議所とも連携し、地域全体で盛り上げ方法を探ろうとしている。
地域が活性化すれば人口も増え、大栄製作所で働きたいという人も増えるだろう。VRのような新規性のある取り組みは、会社でも何かに使えるかもしれない。地域と会社のためになるDXの探求をこれからも続けていく。
企業概要
会社名 | 株式会社大栄製作所 |
---|---|
本社 | 長野県小諸市加増868-1 |
HP | https://daieiss.co.jp/ |
電話 | 0267-22-7137 |
創業 | 1972年9月 |
従業員数 | 60人 |
事業内容 | 一般ロール、特殊精密ロール、サクションロール及びフローティングロールの設計製作、機械装置、試験機器、省力機械 |