目次
- 原点は千曲川の河川敷での石材加工 砕石事業を足場に生コン、建設事業に進出
- ガソリンスタンドの多店舗展開で第二の飛躍 新規事業で本場の讃岐うどんを長野で展開
- M&Aでつないだ事業拡大の歴史 ガソリンスタンドの「40年問題」をきっかけに多店舗展開へ
- フード事業進出で多角化経営に弾み 現社長肝煎りの讃岐うどん店を出店
- 創業者精神を継承しつつ、ブランディングに新機軸を打ち出す 砕石現場が緑地に戻るCMを流しSDGsへの貢献を伝える
- 業務革新にデジタル投資は惜しまず 勤怠管理システムを一新
- できるところは率先してデジタル化を推進へ 遠隔事業所のためWeb会議導入 砕石重機にはICT建機採用
- 次なる成長ステップへ 新たなカバーエリアも種まき期から収穫期へ
株式会社塩沢産業は長野県の東部に位置する東御市を本拠に、エネルギー、建材、フード、観光の4事業を通じ、50年を超えて地域社会を支えてきた多角経営の企業だ。その歴史の過程で業容を拡大してきた原動力は時代の変化、社会のニーズを読み取る挑戦を恐れぬ姿勢にある。次の新たなステージに向けても「always dream(常に夢)」を追い求め、企業ブランディングの推進や新卒採用、さらに事業・業務面での積極的なデジタル投資に取り組んでいる。(TOP写真:塩沢産業の根幹を支えてきた砕石事業(塩沢産業のホームページから))
原点は千曲川の河川敷での石材加工 砕石事業を足場に生コン、建設事業に進出
塩沢産業は、創業者で現在、終身名誉会長の塩澤義國氏が1969年に長野県内を流れる千曲川の河川敷で塩沢工務店を立ち上げ、採石した石を割って石垣や土留めに使われる間知石(けんちいし)と呼ぶ石材の加工を手掛けたのが原点だ。
翌1970年には有限会社塩沢産業を設立し、高度経済成長期で加速するインフラ整備に向けて路盤材などに用いる砕石事業に進出する。その後、生コンクリート事業に参入し、1985年には株式会社に組織変更し、舗装・土木工事を手掛ける建設事業にも手を広げた。現在、これら建材事業全体で県内に11ヶ所の採石工場、生コン2工場、さらに塩沢グループ傘下で共同企業体のアスファルト・コンクリート合材1工場を展開する。
ガソリンスタンドの多店舗展開で第二の飛躍 新規事業で本場の讃岐うどんを長野で展開
建材事業に次いで塩沢産業を第二の飛躍に導いたのはエネルギー事業で、1990年にガソリンスタンドをオープンし、現在、長野県東部「東信地域」に12店舗を展開している。このほか、1994年に開設したキイロスズメバチの巣でできた芸術作品を約1,600点展示する蜂の芸術館「蜂天国」による観光事業、さらに2019年に新規事業として本場の讃岐うどんを提供する「うどん天国『麺天』」を運営するフード事業に乗り出した。
M&Aでつないだ事業拡大の歴史 ガソリンスタンドの「40年問題」をきっかけに多店舗展開へ
塩沢産業の発展の過程をさかのぼると、M&A(企業の合併・買収)を通じて事業拡大につなげてきた歴史がある。特に砕石事業はそれぞれの地域の事業者が山を掘り崩して成り立ってきたものの、何らかの事情で事業継続が困難になるケースも多く、こうした事業を引き継ぎ事業を拡大してきた。塩沢産業の山口英俊代表取締役社長はこの点を「当社にはM&Aへの抵抗は全くなく、M&Aによって事業を拡大してきた歴史的事実がある」と話す。
これはエネルギー事業にも当てはまる。ガソリンスタンド「オートライフ塩沢」は、創業者の「何か地域に貢献できることはないか」という思いから、1990年に現在の本社近くに「東御店」をオープンした。ただ、エネルギー事業への本格進出は2013年以降で、その後、多店舗展開を加速していく。
そのきっかけとなったのは2011年の消防法改正で、ガソリンスタンドには設置から40年以上経過した地下貯蔵タンクに改修が義務付けられた。改修には1億円を超える費用がかかることから廃業に追い込まれる事業者が続出した。そこで塩沢産業は閉鎖した店舗を引き継ぎ、地域に安くガソリンを提供することで地域貢献できると、多店舗展開に乗り出す。この結果、エネルギー事業は車検整備やタイヤ販売などを含め、現在、総売上高の63%を占め、祖業の建材事業をしのぎ、塩沢産業の収益を支える柱に育っている。
フード事業進出で多角化経営に弾み 現社長肝煎りの讃岐うどん店を出店
さらに多角化経営に弾みをつけたのはフード事業だ。創業者は「後継者となる人間は事業を立ち上げることが経営者として必要だ」とし、当時、山口氏を含め8人の副社長に新規事業の検討を指示した。そこで山口氏は「本場の讃岐うどんをそのまま長野へ」のコンセプトを打ち出した讃岐うどん店の出店を提案し、それが採用された。
山口氏は自ら香川県の名店「さぬき麺業」に1週間、修行に出向き、さらに新規事業立ち上げに向けほぼ2年間尽力し、自身も麺の手打ちができるまでになった。
2019年9月に東御市にオープンした「うどん天国『麺天』」は「醤油から出汁の材料まですべて香川から取り寄せている」(山口氏)ほど本物へのこだわりがあり、2019年3月に社長に就任した山口氏にとって、まさに〝肝煎り〟の事業だ。2024年夏までに新たに佐久市に店舗を開設する予定で、フード事業を第3の柱に育て上げたい意向だ。
創業者精神を継承しつつ、ブランディングに新機軸を打ち出す 砕石現場が緑地に戻るCMを流しSDGsへの貢献を伝える
山口氏は社長就任以降、社風として受け継がれてきた「礼・恩・義」を重んじる創業者精神を継承しつつ、時代の変化を恐れず、事業拡大を目指すことに取り組んできた。それと同時に、事業を進める上で大切にしていることとして「人」「環境」「地域貢献」の3つキーワードを挙げる。その上で、企業ブランディングへの取り組みや初の新卒者採用、さらにはデジタル投資と立て続けに新機軸を打ち出してきた。
就任後、第一に取り組んだのが企業ブランディングだ。砕石事業は一般的には「きつい」「危険」「汚い」のいわゆる「3K」を代表する業種であり、さらに社会的には自然を破壊しているといった悪いイメージが付きまとう。山口社長はこの点を「環境にかかわる砕石業界は地域にはなかなか受け入れがたい存在であり、地域に貢献しながらなんとか砕石業者への理解を得たいと願っていた」と話す。その上でブランディングを進めるには「当社の仕事の内容を堂々と、ありのままの姿をしっかり情報発信することに努めている」と力を込める。
そのためホームページを一新し、テレビコマーシャルを打ち、YouTubeでの動画配信にも積極的に取り組んでいる。実際、テレビコマーシャルは「業界ではまずありえない、実際の砕石工場の映像を流した。さらに原石を採取した跡地は必ず緑化事業を施し、自然に戻している姿を発信した」(山口社長)。
その成果は採用活動に表れ、会社創設以来初となる新卒者の採用にこぎつけた。社長就任以降、学校側への働きかけや学生をインターンシップ(就業体験)に受け入れてきた結果で、2023年は高卒2人、大卒1人、2024年春には高卒2人が入社見込みとなっている。
このほか、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)について長野県への登録を完了したほか、環境に配慮した事業者として環境省による「エコアクション21」の認証も取得し、「環境にやさしい企業」としての企業価値向上に取り組んでいる。さらに、2024年3月末の「健康経営」取得を目指しており、企業を支える財産である「人」の育成を通じ、次なる成長につなげる道筋を描いている。
業務革新にデジタル投資は惜しまず 勤怠管理システムを一新
一方で、デジタル投資も惜しまない。直近においては2023年7月に勤怠管理システムを全面刷新した。塩沢産業は現在、県内の広範囲に31ヶ所の事業所を展開し、220人の社員を抱えている。それまでのシステムではそれぞれの事業所単位で管理し、企業全体としての管理が行き届かなかった点が、勤怠管理面の課題となっていた。
さらに、もう一つの課題は直行・直帰する社員の労務管理であり、各社員が現場でどういった業務に当たっているかを正確に把握できず、労務管理面や業務遂行の面で「非常に頭を悩ませていた」(山口社長)。
それまでの勤怠管理はIDカードで運用するシステムであり、勤務形態の異なる社員の働き方に必ずしも沿った打刻ができないといった不備があった。さらに、少し遅刻しそうになった場合に事業所にいる人に代わりに打刻を頼むといった事例もあり、各事業所任せになっていた面も否めなかった。この点、新たに導入した勤怠管理システムは手のひら静脈認証を採用したことで本人による正確な打刻につながった。この結果、導入後は打刻漏れは月5件程度にとどまり、大幅に減ったという。
また、新システムはスマートフォンによって出退勤の打刻ができるほか、各種申請も可能となった。これによって「直行・直帰する社員の行動もスマートフォンによるGPSでの出勤管理ができるようになり、これまで難しかった労務管理の見える化が図れるようになった」(山口社長)。また、管理部門が実施していた代理申請業務もなくなり、管理部門の業務負担も軽減された。一方、社員にとっても新システムへの更新は、就業・残業時間などがリアルタイムで把握でき、自らの働き方を考える上でプラスに作用してくる可能性がある。
できるところは率先してデジタル化を推進へ 遠隔事業所のためWeb会議導入 砕石重機にはICT建機採用
デジタル投資について、山口社長は「当社はDX(デジタルトランスフォーメーション)に前々から取り組んでいる」とし、「できるところは率先してデジタル化を加速していく」と積極的だ。今回の勤怠管理システムの導入に当たってはさまざまな候補の中から費用対効果も勘案し、「簡素で自由度があると判断し、一気に更新に踏み切った」と言う。
従来は対面だった本社での会議も「遠く離れた事業所からだと移動に1時間以上かかるのは非効率」として、2021年4月に新本社屋が完成したのを機にWeb会議に切り替えた。さらに現在は、伝票類をスキャニングし完全ペーパーレス化を目指した独自の業務管理システムの構築に取り組んでいる。
現場では2023年に砕石用の重機1台にICT(情報通信技術)を導入し、GPSと3Dデータ入力のトータルステーション(測量機器)、さらにドローンを連動し、経験の浅いオペレーターでも熟練者並みの作業をサポートできるようになった。これにより若手の技術力不足をカバーすると同時に作業効率化につなげ、順次導入拡大を目指している。
次なる成長ステップへ 新たなカバーエリアも種まき期から収穫期へ
塩沢産業は今後の事業強化策として現在、根幹事業である建材事業の基盤について、事業展開地域の拡大などを通じて揺るぎない土台を構築することに注力している。実際、2024年1月には県南部「南信地域」の砕石工場を傘下に収め、これにより建材事業はこれまでの県北部「北信地域」と「東信地域」に加えてカバーするエリアが拡大した。山口社長は「事業基盤拡充に向けてM&Aなどに新たな種をまいており、2024年はそれを刈り取れる」と次の成長ステージを見据える。
企業概要
会社名 | 株式会社塩沢産業 |
---|---|
住所 | 長野県東御市加沢430-2 |
HP | https://www.shiosawa-group.jp/ |
電話 | 0268-63-6155 |
設立 | 1970年12月 |
従業員数 | 220人 |
事業内容 | 建設資材(砕石・生コン・アスコン)製造販売、土木施設・燃料、蜂天国、うどん天国麵天 |