倒産の危機を乗り越え、関東一円に1日4,000食を提供。学生寮等のワンストップビジネスモデルとICT活用で今後の成長曲線を描く ライフインフーズ(群馬県)

目次

  1. 建設工事現場の宿舎向け需要が急減。資金繰りに奔走
  2. 事業で作った借金は事業で返すしかない、と3年で2億の借金を完済。「決算数字は正確に申告」が教訓に
  3. 新設大学の運動部寮を用意し、大学に貸し出すと同時に厨房備品、食材、調理スタッフを派遣し、食ベースの学生寮運営のワンストップビジネスモデルを確立
  4. 一人でも多くの人に、手間をかけずに美味しい料理を届けたい、という思いを込めて「食で、笑顔と命をつなぐ」というキャッチフレーズを考案
  5. 「食で笑顔と命をつなぐ」の実践のため、「クックチルド」を中心としたセントラルキッチン設備棟を建設。当面4,000食、3年後に1万食を目指す
  6. 60代以上の従業員が65%占め、今後の人手不足に危機感。ICTによる業務効率化にも注力
  7. 各種情報処理システムの統合・連携が今後の課題に
中小企業応援サイト 編集部
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食事・食材提供会社のライフインフーズ株式会社(群馬県伊勢崎市)は2023年8月、創業40周年を迎えた。創業から数年後には倒産寸前の経営危機に直面したこともあったが、大学の運動部寮という独自のマーケットを開拓して成長路線に復帰。現在は「食で笑顔と命をつなぐ」をキャッチフレーズに、関東一円の学生寮や福祉施設などに1日約4,000食の食事・食材を提供している。さらなる発展を期して、2025年完成をめどに大規模設備投資にも着手した。同時にICT活用による業務効率化も進めており、最近は販売管理システムをクラウド化したほか、献立を簡単に作成できる給食情報システムを導入した。(TOP写真:給食情報システムで献立を作成)

建設工事現場の宿舎向け需要が急減。資金繰りに奔走

「私一人で2億円近い借金を抱え、倒産するか、それとも夜逃げをするかというところまで追い詰められました」。2023年11月に社長の座を長男に譲り、ライフインフーズ代表取締役会長に就任した田沼啓一氏は、経営危機に瀕した時のことを鮮明に覚えている。

田沼会長はもともと食事・食材提供事業を行う大手企業で、営業部門の管理職として勤務していたが、部下の失敗をかばって上司と衝突したことから退職。自分の身の振り方も決まっていないのに、2人の部下がどうしてもついてくると言うので、それまでと同じビジネスで生計を立てようと考え、自宅のある伊勢崎市で創業した。1983年8月、田沼会長が33歳の時だった。

「サラリーマン時代から自宅の一部を本屋にして、妻に経営を任せていたので、その土地と建物をそっくり担保にして原資を作り、営業で育ってきたから顧客さえ獲得できれば何とかなるだろうと、ゼロベースから始めました」(田沼会長)

倒産の危機を乗り越え、関東一円に1日4,000食を提供。学生寮等のワンストップビジネスモデルとICT活用で今後の成長曲線を描く ライフインフーズ(群馬県)
創業当時を振り返る田沼啓一代表取締役会長

飛び込み営業で販売先を開拓する一方、材料を仕入れて、販売先の食数に応じた献立表付きの食材を作り、配達する。折しも1998年の長野五輪開催に向けて、上信越自動車道や長野自動車の各区間が次々と着工されていた。そうした道路工事の現場をはじめとして、主に建設工事現場の宿舎向けを中心に売上を伸ばした。

年商規模の拡大に伴い、資金調達手段を増やそうと旧店頭市場での株式公開に向けて5ヶ年計画も描いた。その矢先に経営が傾き始めた。トンネル工事の新工法登場などにより、建設現場で働く人の数が急激に減り始め、同社の売上に響くようになったのだ。その後のバブル崩壊も追い打ちをかけた。経営が傾くと一人また一人と従業員が辞めていく。最後は田沼会長一人で資金繰りに追われる毎日。それでも、「倒産も夜逃げもできませんでした。自分と妻の両方の父親に保証人になってもらっていたからです」。

事業で作った借金は事業で返すしかない、と3年で2億の借金を完済。「決算数字は正確に申告」が教訓に

田沼会長は「サラリーマンに戻ったら2億円の借金はとても返せない。事業で作った借金は事業で返済するしかない。一人では返済できなくても、20人、30人の仲間の力を借りれば返済できるはず」と奮起。自宅などの土地、建物をすべて売り払い、従業員を新たに募集して、事業を建て直した。結果、3年ほどで借金を完済する。その間、狭いアパート暮らしを余儀なくされたが、家族に約束した通りに3年後には新しい家に引っ越すことができた。1989年1月、昭和天皇崩御の前日のことだった。

資金繰りを懇請した際、二つの金融機関の支店長が異口同音に語った条件が忘れられない。「数字だけは正直に申告してほしい」。田沼会長はそれ以来、この言葉を守り、「今に至るまで当社はずっと明朗会計でやってきました」と笑う。

ちなみに最初に食事・食材提供会社を創業した後、4年後の1987年8月に今のライフインフーズを設立。ライフインフーズは工事現場宿舎に調理スタッフを派遣して現場で調理した食事を提供したり、厨房機器一式を調達・提供したりする業務委託事業を担当していた。その後、両方の事業をライフインフーズに一本化している。

新設大学の運動部寮を用意し、大学に貸し出すと同時に厨房備品、食材、調理スタッフを派遣し、食ベースの学生寮運営のワンストップビジネスモデルを確立

事業再建の柱となったのが学生寮向けの委託給食事業だ。新設されて間もない大学の野球部に飛び込み営業をした際、まだ学生寮がなく、監督が寮を欲しがっていることを知ったのがきっかけ。田沼会長は大学周辺の空き物件を探し歩いて、大手企業が所有したまま使われなくなっていた寮を見つける。その大手企業の本社に出向いて直談判し、新たに不動産賃貸専用の子会社を作って借用。学生寮として大学に貸し出すとともに、ライフインフーズが食材の配達と調理スタッフの派遣を行い、寮生に食事を提供するというビジネスモデルを構築した。

それからは大学、高校の野球部やサッカー部、陸上部などアスリートのための寮や合宿所にターゲットを定め、飛び込み営業に加え、ベースボールマガジン社発行の各種雑誌に定期的に広告を掲載。運動部監督同士の口コミでも同社の評判が広がり、次々と取引先を開拓することができた。

現在、立教大学野球部、関東学院大学陸上競技部、亜細亜大学陸上部など約40ヶ所のアスリート寮・合宿所と契約。アスリート寮に続いて開拓した介護・福祉施設は約80ヶ所にものぼる。食材の配達から、調理スタッフの派遣、厨房備品・食器類の提供、さらには施設の管理や清掃まで顧客のニーズに応じてワンストップで対応できるのが同社の特徴で、アスリート寮・合宿所は調理スタッフの派遣も行う委託給食事業が多く、介護・福祉施設は献立表付き食材の提供が中心だという。

このほか、顧客には病院や一般の社員寮などもあり、地元でレストランも経営。栄養士が施設ごとに最適な献立を考案し、それに沿った食材を伊勢崎市の本社工場から冷凍車で週2回ずつ、関東各地の施設に配送する。食材は、新鮮な野菜や肉類、魚類はもちろん、湯煎して使う「クックチルド」(調理した料理を急速冷却することで美味しいまま保存でき、配達先で再加熱して提供する調理法)や解凍して使う「クックフリーズ」という調理済み食品も販売している。

倒産の危機を乗り越え、関東一円に1日4,000食を提供。学生寮等のワンストップビジネスモデルとICT活用で今後の成長曲線を描く ライフインフーズ(群馬県)
本社工場。仕入れた食材をチェック
倒産の危機を乗り越え、関東一円に1日4,000食を提供。学生寮等のワンストップビジネスモデルとICT活用で今後の成長曲線を描く ライフインフーズ(群馬県)
本社工場。配送先別に食材を仕分け

一人でも多くの人に、手間をかけずに美味しい料理を届けたい、という思いを込めて「食で、笑顔と命をつなぐ」というキャッチフレーズを考案

倒産の危機を乗り越え、関東一円に1日4,000食を提供。学生寮等のワンストップビジネスモデルとICT活用で今後の成長曲線を描く ライフインフーズ(群馬県)
「食事は楽しくないとダメ」と話す田沼健太郎代表取締役

「ライフインフーズ」という社名に対し、「食で、笑顔と命をつなぐ」というキャッチフレーズを考案したのは田沼健太郎代表取締役だ。父、啓一氏の跡を継いで2023年11月に専務取締役から昇格した。「建設現場から学生寮、福祉施設と顧客先を広げてきて、2022年からは幼稚園も対象となるなど、当社は幅広い年齢の方々に食事を提供しています。その食事って何だろうと考えた時に、やっぱり安全で楽しいものじゃないとダメだと思いました。それで『笑顔』がまずキーワードとして浮上。もともと社名は生活や家庭と食事をつなぐという意味なので、それをさらにワンステップ進めていこうという気持ちを込めて、『命をつなぐ』としました」(健太郎社長)

「食で笑顔と命をつなぐ」の実践のため、「クックチルド」を中心としたセントラルキッチン設備棟を建設。当面4,000食、3年後に1万食を目指す

「食で、笑顔と命をつなぐ」の実現のために、次の40年をにらんで新たなステップに進めるための大規模な設備投資計画も着々と進められている。伊勢崎市内に新たにセントラルキッチンを整備し、「クックチルド」を中心に1日3,000~4,000食を生産するというものだ。「製造能力さえ持てれば、1日4,000食程度なら1年も経たないうちに販売先を確保できる」(田沼会長)という。すでに土地と建物は確保。既存の延床面積200坪の建物をリニューアルしてセントラルキッチンにする計画で、2024年3月に着工し、2025年4月の稼働を目指す。

「クックチルド」を中心に増産するのは、福祉施設などが賃上げによる人件費負担増に対応して、なるべく人の手をかけないで、しかも美味しい食材を望むようになると読むからだ。「学校と福祉施設のほかに、もう一つ柱となる販路が生まれればいいなと思っているのですが、そうした新しいマーケットも含めて、これからは他社よりも付加価値の高いクックチルドの存在が重要になってくると考えています」と健太郎社長は説明する。

そうなると1日3,000~4,000食では収まらない。「セントラルキッチン稼働後、3年の間に1日1万食まで増やそうと、社長と相談しています。それだけの規模になれば群馬県内で最大手になると思います」(田沼会長)

60代以上の従業員が65%占め、今後の人手不足に危機感。ICTによる業務効率化にも注力

大規模設備投資に踏み切るもう一つの狙いは人手不足対策だ。同社の定年年齢は65歳だが、定年を過ぎても再雇用制度で働き続ける従業員が多く、パートを含めた全従業員210人のうち60代以上の人が65%を占める。「3年後、5年後にはその労働力がなくなってしまうという危機感があります。今後予想される人手不足を解消するためには2人でやっていた現場の仕事を1人でやるとか、2時間かかっていた作業を1時間でできるようにするなどの工夫をするしかありません」(田沼会長)。

当然、ICT活用による業務効率化にも力を入れている。最近は30年以上も前から使っている販売管理システムをオンプレミス型(自社サーバー利用)からクラウド型に更新した。すでに社内の無線LAN環境は整備されているので、今後、会計システムなど他の情報処理システムも順次クラウド化していく予定だという。

2022年の暮れには新しい試みとして、給食情報システムを導入した。2023年3月から食材提供を始めた幼稚園の献立を作成するためだ。栄養計算ソフトを搭載した同システムなら食事の摂取者の条件に適した献立を簡単に作れるほか、予定献立表や調理指示書など各種の帳票を出力できる。献立に必要な食材の発注管理機能もオプションでつけられるが、まだそこまでは行っていないという。

「給食情報システムはかなり活躍しているのですが、当社の発注管理システムには連携していないので、栄養士の手で発注管理システムに入力し直す必要があります」(健太郎社長)。今後、幼稚園向けの献立作りを通じて、業務効率化の効果が大きいと判断すれば、現在は栄養士がエクセル等で作成している大学や福祉施設向けにも同システムが使われていくことになりそうだ。

各種情報処理システムの統合・連携が今後の課題に

健太郎社長によると、各種システムの統合・連携は今後の同社の大きな課題となっている。セントラルキッチンの新設・稼働のタイミングに合わせて、会計システムをはじめ、発注管理、販売管理、在庫管理、勤怠管理、給食情報等の各種システムの統合・連携をいかに有機的に進めて、より業務効率アップ効果の大きいシステムに仕上げていくかを検討していくことになる。

倒産の危機を乗り越え、関東一円に1日4,000食を提供。学生寮等のワンストップビジネスモデルとICT活用で今後の成長曲線を描く ライフインフーズ(群馬県)
本社の事務部門。各種情報処理システムの統合、連携が今後の課題だ

今後の夢は「従業員にきちんと利益還元していくことと、地域貢献です。ここ伊勢崎でずっと育ってきたので、〝食〟で何か貢献したい」と語る健太郎社長。「そのためにも、具体的な目標を掲げ、しっかりと数字を上げていかないといけません」と締め括った。

倒産の危機を乗り越え、関東一円に1日4,000食を提供。学生寮等のワンストップビジネスモデルとICT活用で今後の成長曲線を描く ライフインフーズ(群馬県)
ライフインフーズの本社社屋

企業概要

会社名ライフインフーズ株式会社
住所群馬県伊勢崎市下植木町624-3
HPhttps://lifeinfoods.jp
電話0270-23-3838
設立1987年8月
従業員数210人
事業内容  委託給食(学生・運動部寮・福祉施設、工事現場宿舎の食事提供)、食材販売(福祉用献立表付食材販売、クックチルド、クックフリーズ販売)