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埼玉県秩父市にある精密部品メーカーの有限会社マシックスは半導体製造装置、空気圧機器、食品加工機械などに使われる部品を受託加工する一方、最近はオリジナルブランド商品の市販という新領域への進出を目指している。少数精鋭経営を貫こうとICTによる業務効率化にも熱心で、属人化しているエクセルによる各種管理を社員間で共有できるクラウド型業務支援システムの活用へと順次移行しつつある。同時にクラウド型の勤怠管理システムを導入、今後新たに採用する人材も含めて社員のフレキシブルな働き方に柔軟に対応できる仕組みを構築した。(TOP写真:製品事例=ホームぺージより)
半導体製造装置、空気圧機器、食品ロボットなどに使う精密部品が主力。とくにアルミ材加工に強み
マシックスの創業者で現在代表取締役会長の冨田健司氏は、ある部品会社の中国現地法人の経営を任されていたが、1996年12月に「有限会社トミタ」を設立して独立。当初ベアリングメーカーとして出発したが、すぐに、精密部品の受託加工メーカーとして成長していこうと決断、翌1997年4月に社名もマシックスに変更した。社名は、同社の部品が使われる「マシン(機械)」と部品を加工する「マシニングセンター」、それに創業時の社員数である「シックス(6)」を組み合わせた。ちなみにマシニングセンターというのは万能型の切削加工機械である。
主に半導体製造装置や空気圧機器、油圧機器、食品ロボットなどに組み込まれる精密部品を製造しており、中でも、空気圧制御技術を使う機械や食品ロボット関係の部品を得意としている。空気圧制御技術というのは空気圧を使って「押す」「持ち上げる」「つかむ」「運ぶ」などの動きを「どのくらいの力で、どのくらいの速さで、どのくらいの距離を動かすか」という〝制御〟を担う技術なので、各構成部品には精密さが要求される。最終製品としては、電車やバスの乗降ドアの開閉機構や食品の梱包機械、自動車の洗車機、製造ラインの組み立てロボットや塗装ロボットなどがある。一方、食品ロボットというのはごはんを茶碗に盛り付ける機械など、近年、外食チェーンなどが省人化・省力化を目指して導入しつつある各種自動化機械のことだ。
加工する材料はステンレス材、アルミニウム材、樹脂材などを対象としているが、とくにアルミニウム材が大半を占めるという。
単に受注図面通りに加工するのではなく、顧客にコスト低減や品質向上につながる提案をする
「お客さまから図面をいただいて、図面通りのものを納めればそれでOKかもしれませんが、当社はそれだけではなく、いただいた図面に対して『こういう工夫をすればコストをこのくらい下げられます』『こう強度を上げられます』といった、お客さまとwin-winの関係でいられる提案ができるように心掛けています」。マシックスの特色をこう説明するのは、冨田恵利子代表取締役だ。冨田会長の長女で、創業時から役員の一人に名を連ね、2021年12月に社長に就任した。
冨田社長はこうも語る。「十数人の社員で、1ヶ月に何百点もの部品の製造をこなす多品種小ロット生産なので、いかに効率よく低コストでできるかということを常に考えています」
大胆な経営改革を断行し、最新鋭の加工機械も導入
2012年には、冨田社長と池上良和常務取締役ADV事業部事業部長の2人が中心になって、大胆な経営改革に取り組んだ。「それまでは、何が何でも来た注文をその通りにこなす、間に合わなければ人も増やして人海戦術で作ればいいということで、生産効率などは一切考えていませんでした。今後、人件費も上がることを考えると、新しいやり方に変えていく必要があると考えたのです」
まず、仕入れから出荷まで各工程を見直し、無駄を徹底的に排除した。「例えば、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)活動の一環として、いったん工場から機械を全部外に出して、社員の動線を考えて最適な配置に入れ直すというところから始めました。それまでは購入した順に機械が並べられていて、工場内が迷路のようになっていたのです」(池上常務)
国のものづくり補助金を活用して最新鋭の加工機械も導入。「人手に頼らず、機械を使い切ろうということで、お客さまにも相談しながら技術の習得に努めました。また、社内で切削工具を設計するなどして、サイクルタイム(完成品ができるまでの所要時間)をぎゅっと絞りました」(同)。従来は忙しさに紛れて残していなかった各種製品の生産履歴もきちんと残すようにした。
ちなみに、同年発足したADV事業部の「ADV」は「advanced(先進的)」を意味する。既存の製造事業部とは違う視点に立ってものづくりを考えるという発想から名付けられた。これらの改革の結果、「社員が2、3人減少しても大丈夫なくらい効率化できました」(池上常務)。
経営理念「〝楽〟を創造する」を制定
経営改革と同時に新しい経営理念も生まれた。「〝楽〟を創造する」というものだ。「洗濯機にしろバイクにしろ、世の中の便利なものを発明した人は、面倒くさいことをいかに楽にするかという発想が原点になっていると思います。それを頭で考えるだけではなく、ゼロから作り上げるという意味で『創造』という言葉を使いました。昨日10分かかった作業を今日は9分で終わらせるためには何をすべきか、ということを常日頃から考えて、楽しく進めていけたらいいなと思います」と冨田社長。
池上常務が後を継いで語る。「この言葉は、楽をしたい、楽しい、何かを創りたい、など社員一人ひとり解釈が異なると思います。それで良いと思うのです。お客さまにも覚えてもらいやすい良いキャッチフレーズだと思います」
「エクセルの属人化問題」解消へ、クラウド型業務支援システムを導入
経営改革の一環として、エクセルを使って生産管理や業務管理を行う仕組みにした。冨田社長が独学で作り上げたものだが、10年を経た今、エクセルを使う企業に共通する課題が同社にものしかかっている。エクセルの操作を自動化する機能であるマクロに不具合が生じると、マクロを作成した人しか修正や再設定ができなくなるという、いわゆる「エクセルの属人化問題」だ。
このため、マシックスでは2023年2月、業務内容ごとに専用アプリを作成して、アクセス権を付与された社員同士で共有・管理できるクラウド型業務支援システムを導入。エクセルを使って管理していた作業を順次、クラウド型業務支援システムに移行していくことにした。
「これまでに注文書発行と(製品の)不良分析をクラウド型業務支援システムに移行しました」と語るのは冨田萌伊(めい)さん。冨田社長の長女で、2023年2月に入社すると同時に、移行作業を専門的に担当するようになった。
まず注文書発行と不良分析を移行。クラウド型なので外出先からも利用可能に
萌伊さんによると、注文書発行アプリはシステム会社の帳票作成プラグインを使って作成。「エクセルを使っていた時と比べると件数や金額、取引先を簡単にグラフ化できるので、月々の注文書の発行状況がひと目でわかるようになりました」と言う。不良分析のほうはまだアプリの開発段階にあり、完全には稼働していないが、従来は生産管理を担当している人にしか理解できなかった不良率の数字や損失金額などが、やはりグラフ化によって誰にでもわかる資料として作成できるようになったそうだ。
「いちばん大きいのはクラウド管理できるようになったことですね。これによって、私が出社できない場合でも、ほかの人が注文書を発行できます。また、外注した顧客先で注文内容について確認する際に、持参したタブレットに注文書を表示することも可能です」と萌伊さん。萌伊さんはクラウド型業務改善ツールに関する社外のセミナーなどがあれば積極的に参加し、「今後、順次、業務アプリを増やしていきたい」と言う。冨田社長は「エクセルを使っていても、バージョンアップされるたびに使い方が変わってしまう。それならノーコードで誰でもいつでも使えるシステムに移行したほうが良いと思いました」と語る。
勤怠管理システムと給与計算ソフトも導入。3日を要していた就業時間管理・給与計算が半日に
マシックスではクラウド型業務支援システムと同じタイミングで、勤怠管理システムも刷新した。従来の紙に印字するだけのタイムレコーダーを、ICカードの社員証をタッチすれば出退勤を打刻できて、一緒に導入した給与計算ソフトにも連動しているシステムに置き換えたのだ。「従来は毎月エクセルに手入力していたのですが、タイムレコーダーの印字がズレて読みにくいこともあり、給与計算のための集計作業も含めると3日くらいかかっていました。それが今は半日もあれば済んでしまいますし、事前にカードを作成する手間もなくなりました」。給与計算など経理事務を担当している柴崎さんの話だ。
新しい勤怠管理システムと給与計算システムは、有給休暇の消費状況や、金額や扶養家族の状況に応じた社会保険料などを自動的に算出し、各種の表やグラフで表示することができる。
「給与明細は紙で社員に渡していますが、今後は各自のスマートフォンに表示できるようにしていきたいと思います」と語る柴崎さん。「もともと社員個々の働く時間についてかなり融通を利かせてくれる会社なので、さまざまな時間帯があるのですが、(新システム導入によって)それに対応するための時間管理もとても楽になりました」とも強調する。
フレキシブルな働き方に対応、二拠点生活者を募集へ
実はマシックスは、社員によるフレキシブルな働き方とAI(人工知能)を活用した徹底的な自動化を推し進めることで、人口減少に伴う人材採用難が予想される中、少数精鋭経営で乗り切っていこうと考えているのだ。
池上常務が語る。「この秩父地域は〝第二の軽井沢〟と呼ばれる別荘地です。二拠点生活の1ヶ所として移住する人も多いので、その中から1週間のうち1日とか半日でも働きたいという人を募集していきたい。生産設備を自動化しておけば、管理者はそういう短時間労働の社員に自宅から指示することも可能になります」
オリジナルブランド「ibee」を製品化、拡販目指しホームページも刷新へ
もう一つのマシックスの夢は自社オリジナルブランド製品の事業化だ。「半導体関連業界は浮き沈みが激しい。その他の取引先も含めて偏った産業に依存していては将来的に厳しくなります」(冨田社長)と新規事業を模索してきた。
具体的にはアルミニウム材を使った手すりや棚、傘立てなどのインテリア類や立体パズル、自動車用シフトノブといった、得意の加工技術で作るおしゃれな小物類を製品化していくことだ。インテリア類に使うアルミの棒はどんな形状にもつなげられるように工夫されている。ブランド名は「ibee」(イビー)。2024年からホームページで広くアピールしていく方針だ。
企業概要
会社名 | 有限会社マシックス |
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本社 | 埼玉県秩父市下吉田1915 |
HP | https://masix.jp |
電話 | 0494-72-6089 |
設立 | 1996年12月 |
従業員数 | 10人 |
事業内容 | 金属加工、樹脂加工、精密部品加工 |