多様な胡蝶蘭を開発 オンライン販売とFAX&電話受信のデジタル活用で成長路線へ マルイ洋蘭開発センター(群馬県)

目次

  1. マルイ洋蘭は、台湾の苗元と独占契約をし、すでに流通の多い白の大輪ではなく、中大輪サイズや、敢えてカラーの胡蝶蘭で食い込みを狙った。
  2. 現在、国内胡蝶蘭事業者の多くは温暖な台湾他アジアから苗を輸入し、栽培していて「幸せが飛んでくる」花としてお祝いギフトに不動の地位を確保している。
  3. 以前より新品種開発には取り組んでいるが、2020年からは日本国内でフラスコに上げるようになった。
  4. 宅配に合わせた品種改良を進め、2019年にはホームページをリニューアル。個人向け販売を強化している
  5. 1日多数のFAX注文。複合機のFAX受信データを保管しパソコン画面で確認可能に。受注トラブルを防止でき注文急増に備える
  6. 通話途中でも最初から録音できる「もどって録音」活用。電話対応での行き違いなど撲滅し、顧客の的確な対応が可能になった
  7. 電力等値上げによるコスト負担増すが、ポストコロナの経済回復追い風に販路拡大。新たな顧客層開拓も
中小企業応援サイト 編集部
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チョウが羽を広げたような花が連なる華やかさと日持ちの良さで幅広い人気がある胡蝶蘭(こちょうらん)。開業祝いや冠婚葬祭などで贈られる大輪の白い胡蝶蘭が知られているが、ピンクや紫、黄色など世界には約20万種以上の胡蝶蘭があると言われている(そもそも胡蝶蘭は日本人が付けた呼び方で、正式名称はファレノプシス)。株式会社マルイ洋蘭開発センターは新品種開発に取り組みながら中規模事業者としては珍しい年間約20種もの胡蝶蘭を販売。物価値上がりのあおりで需要が漸減傾向にある生花市場の中、注文FAX受信データの保管や電話対応で「もどって録音」を活用して営業強化と新品種開発を推進。攻めの経営に挑む。(TOP写真:大輪の胡蝶蘭はお祝い事に欠かせない花として定着している)

マルイ洋蘭は、台湾の苗元と独占契約をし、すでに流通の多い白の大輪ではなく、中大輪サイズや、敢えてカラーの胡蝶蘭で食い込みを狙った。

多様な胡蝶蘭を開発 オンライン販売とFAX&電話受信のデジタル活用で成長路線へ マルイ洋蘭開発センター(群馬県)
色とりどりの胡蝶蘭を栽培、業務用から個人向けまで全国に販売している

マルイ洋蘭開発センターは2009年4月、世界文化遺産の富岡製糸場にほど近い群馬県富岡市で設立された。母体は商社、マルイ物産で、2000年に洋蘭部門として始まり、当時は白い胡蝶蘭主体の日本市場が大手に占められていたため、カラーの胡蝶蘭で市場に食い込みを狙った。2012年に就任した伊早坂栄作代表取締役は「当初は生花市場に相手にされなかったが、珍しい色の胡蝶蘭を扱っていると評判になり知名度も上がってきたので本格的に事業展開することにした」と設立経緯を説明する。

日本の洋蘭市場は500億円前後で推移しており、単価の高い胡蝶蘭はその7割以上を占める。ギフトとして定番の大輪系のほか、中輪系、ミディ系など花の大きさによる区分があり、大輪系は法人用慶弔ギフト、小型の胡蝶蘭は個人向けギフトが主な用途だ。

現在、国内胡蝶蘭事業者の多くは温暖な台湾他アジアから苗を輸入し、栽培していて「幸せが飛んでくる」花としてお祝いギフトに不動の地位を確保している。

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「コロナ禍で、お祝い事がなくなり、業績も急激に落ち込んだ。需要が激減したことや、苗の輸入が困難になった事で、店じまいをする生産者もあったが、当社は何とか持ちこたえると、外出を控えた人たちから、会えなくなった人への贈答品としての需要が高まり、業績は逆に良くなった。」と話す伊早坂栄作社長

生花市場全体は新型コロナの感染拡大で大幅に減少したが、胡蝶蘭は法人用途では冠婚葬祭やイベントの減少といった影響はあったものの、個人用途では贈答用としての需要が高まり途中から大きな落ち込みはみられなかった。輸入生花が届かない事で国産の生花が動いたともいえる。生花は8割近くが市場を通して売買されるが、最近は個人向けギフトを中心にネット販売などの直販比率が高まっている。「幸せが飛んでくる」の花言葉通り、胡蝶蘭は贈られた人を豊かな気持ちにさせるギフトとしての地位は不動といえる。

胡蝶蘭を含む洋蘭は東南アジアなど亜熱帯地域で自生している植物のため、苗の段階では温暖な環境が必要で、台湾は最大の苗生産国だ。日本の洋蘭業者も多くは台湾からの苗輸入に依存している。「マルイ洋蘭開発センターは台湾の大手苗生産業者と20年以上の親密な取引関係があり、当社の大きな強みとなっている。設立当初より少量多品種の栽培に力を入れてきたことで、多様なニーズにこたえられた事が奏功したとも思う」(伊早坂社長)

以前より新品種開発には取り組んでいるが、2020年からは日本国内でフラスコに上げるようになった。

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品種改良の過程で生まれた不揃いや発色漏れ、メリクロン不採用の他、製品として不採用、一部の不具合がある胡蝶蘭はアウトレットコーナーで格安販売し、廃棄量削減にも寄与している

伊早坂社長は2020年から日本の培養業者と協力して新品種開発に取り組んできた。「この3年間で100回ほど交配を試みた。1交配で200種ほど生まれるが、そのうち3、4種の良い株が残ればいい」(同)という手間のかかる作業だが、交配作業で蓄積した成果は同社の財産でもある。

同社が取り扱う胡蝶蘭は年間約20種以上。年に3、4種は入れ替えており、全国でも有数の多品種を誇る。広さ2,650平方メートルの広々とした温室には品種改良の成果もあり、大きな白い大輪のほか色とりどりの胡蝶蘭の鉢が整然と並んでいる。また、品種改良や通常栽培の過程で出現した1輪だけ発色が悪いなど“規格外”の花は格安のアウトレットコーナーに並び人気商品となっている。出荷量は年間15万株前後で、県内では最大規模という。

宅配に合わせた品種改良を進め、2019年にはホームページをリニューアル。個人向け販売を強化している

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宅配サイズで見映えがよく高級感のある胡蝶蘭も品種改良を重ねて商品化した。写真は冬期用にアルミ箔で暖房対策した段ボール

宅配需要の増加に合わせて、宅配サイズに合わせた品種改良にも長年取り組んできた。「宅配可能なサイズで見映えが良く高級感のある胡蝶蘭を商品化している」(同)のも同社の強みとなっている。

販路は大手通販業者を通じての出荷が大半だが、2013年には独自でのネット販売を開始。比率はまだ全体の1割にも満たない状況だが、2019年にはホームページをリニューアルしてオンラインショップ「E-ハナらん.com」を立ち上げた。

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個人向けオンラインショップ「E-ハナらん.com」 多様な品種の胡蝶蘭を用意

1日多数のFAX注文。複合機のFAX受信データを保管しパソコン画面で確認可能に。受注トラブルを防止でき注文急増に備える

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FAXデータ保管機能の活用で、大量のFAX注文でも安心の業務簡素化

ホームセンター経由の注文も増加しており、今後は取扱店舗の全国展開が予定されているため受注体制の人的強化が課題となっている。

2021年に入れ替えた複合機に、顧客からFAXで送られてくる注文を自動でデータとして保管され、パソコン画面で確認できる機能を付加した。注文の有無や内容を再確認する際に威力を発揮している。FAXの注文は現在、1日約30件以上、年間1万件前後に上る計算だ。

安達千佳子専務取締役は「以前は『送ったはず』『届いていない』など年に数回程度のトラブルが発生していたが、確実なデータ保管ができるようになって、お客様にきちんと説明できるようになった」と効果に満足そうだ。今後はFAX受信の内容による仕分け機能の活用やペーパーレス化も検討していくという。

通話途中でも最初から録音できる「もどって録音」活用。電話対応での行き違いなど撲滅し、顧客の的確な対応が可能になった

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電話での問い合わせや直接注文の増加に対応。販路拡大に備える

2023年9月に導入したのはビジネスフォンの「もどって録音」機能だ。メモリーに通話内容が一時録音されるため、通話の途中でもスイッチ一つで最初からの録音が可能になる。電話での注文は原則受付てはいないが、注文内容の確認、クレーム対応に欠かせない機能として活用されている。「電話での問い合わせを受けながらメモしても聞き洩らしや聞き間違いが心配だが、再確認できれば間違いを防げるしトラブル防止にもなる」(安達専務)。今後、電話対応が殺到しても混乱することなさそうだ。

胡蝶蘭は栽培管理、適切な温度湿度管理や鉢に植えこみ仕立作業、季節に応じた発送まで人手による緻密な作業が不可欠なだけに、「人がいないとやっていけない」(伊早坂社長)事業だ。だからこそ、極力働きやすい環境に配慮している。正社員の就業時間は午前8時から午後5時だが、パートタイマーは一律午前9時から午後3時までとしていて、子どもがいる従業員などは出退勤の時間を都合によって柔軟に対応し、急な休みも取りやすくしている。胡蝶蘭を扱う従業員にも幸せが舞い込むよう、「従業員中心」を経営方針に据えている。

電力等値上げによるコスト負担増すが、ポストコロナの経済回復追い風に販路拡大。新たな顧客層開拓も

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本社 約2,650平方メートルの温室で開花した多種多様な胡蝶蘭が全国に出荷される

同社の2023年8月期の売上は前期比微減だった。物価高で家計が圧迫されたことや円安による苗や肥料、備品などが軒並み値上がりし、24時間稼働するエアコンの電気代も約2倍に跳ねあがり、大幅コスト増となった。しかし、伊早坂社長が「今期は業績を引き上げたい」と期待するように、直販比率の高まりは利益率向上に寄与しそうだ。ポストコロナの経済回復や企業の景況感の好転も、景気に左右されやすい胡蝶蘭ビジネスには追い風となりそうだ。

設立15周年となる2024年は販路拡大と注文トラブル撲滅で営業力を増強。長年蓄積してきた新品種開発ノウハウで新たな顧客層開拓も視野に入れる。

企業概要

会社名株式会社マルイ洋蘭開発センター
住所群馬県富岡市妙義町下高田75
HPhttps://www.e-hanaran.com/
電話0274-67-0828
設立2009年4月
従業員数約30人
事業内容胡蝶蘭の栽培・販売、苗の卸販売、観葉植物・スタンド花・フラワーアレンジメントの販売など