目次
- 内航専門の海運会社 石油製品の輸送で日本の産業を支える
- 安全のための新設備の導入で自動化を進め、乗組員と関係企業の安全と安心を常に優先
- 船内勤務は職住一体。船員全員がチームとなって仕事に取り組む
- 時間の効率的な使い方は海運業界の重要なテーマ
- クラウド型業務支援ソフトを活用して業務に必要なアプリを自社で作成
- 船内での文書の作成と本社への送信の手間が半分以下に
- 従業員の平均年齢が業界では若く、業務のデジタル化はスムーズに進んだ
- 2隻体制への移行に伴う業務の増加をICTでカバー「これほど便利になるとは思いませんでした」
- デジタルによる情報発信で若い世代にアピール 船上業務のデジタル化は若い世代に好評
- DXで海運業界をより働きやすく魅力的に 社員の半数は、介護・流通・建設からの転職
愛媛県今治市の海運会社、大東汽船株式会社がクラウド型業務支援ソフトを活用して業務に必要なアプリを自社作成し、船内勤務時の文書作成業務を効率化している。海運業界は少子高齢化と労働時間の規制強化で慢性的な人手不足に悩まされている。海をフィールドに職と住が一体となった船内の働く環境をICTとデジタル機器の活用でより良くするだけでなく、情報発信を強化することによって人材確保にもつなげていきたいという。(TOP写真:大海原を進む大東汽船のタンカー船「新幸丸」)
内航専門の海運会社 石油製品の輸送で日本の産業を支える
大東汽船は、瀬戸内海に浮かぶ伯方島(愛媛県今治市)を拠点とする内航専門の海運会社だ。ガソリン、灯油、軽油などの白油と呼ばれる石油製品を輸送するタンカー船を2隻所有している。1隻は2015年5月竣工の新幸丸(総トン数998トン)。もう1隻は2021年8月に購入した2013年9月竣工の陽幸丸(総トン数592トン)。北海道から沖縄に至る日本の海をフィールドに事業を営んでいる。
石油会社の委託を受けたオペレーター会社の依頼を受けて2隻のタンカー船は常に石油製品を全国各地に移送しており、母港の伯方港に戻るのは2年に1回程度という。1回あたりの移送期間は1日から2日程度。従業員の居住地も全国に散らばり、船内勤務はローテーションで行っている。
安全のための新設備の導入で自動化を進め、乗組員と関係企業の安全と安心を常に優先
日本内航海運組合総連合会によると、国内の貨物輸送の44%(輸送活動量ベース)が内航海運(国内貨物の海上運送)で、石油製品、鉄鋼、セメントといった国内産業の根幹を支える物資では8割を占めている。船での輸送は環境への負荷が小さく、輸送効率にも優れていることから内航海運へのニーズは年々高まっているという。
馬越広幸代表取締役は「石油製品を取り扱う上で何より重視しているのは安心と安全です。全従業員が一丸となって荷主である石油会社、取引先であるオペレーター会社に安全運航を提供していきたいと考えています」と話した。大東汽船の安全、安心を重視する姿勢はISM(International Safety Management Code=船舶の安全航行と汚染防止のための国際管理コード)を取得していることにも表れている。
タンカー船には自動制御装置など最新の設備機器を導入し、白油の積み込みや積み下ろしは陸上のパイプラインと船を接続して行う。荷役に関する全般的な制御を行う荷役制御室では、コンピューターで積み付け計算、バルブの開閉、残油回収を実施。自動化システムで誤作動の防止と省力化を図っている。「単に資材を運ぶだけでなく常に時代の変化に柔軟に対応しながら新しい設備を整えていきたいと考えています」と馬越社長。
船内勤務は職住一体。船員全員がチームとなって仕事に取り組む
大東汽船では一隻のタンカー船に8人が乗り込む。船内勤務は職住一体。従業員は、寄港地などで休日を取得し、2ヶ月ほど続けて船内勤務を担当した後は20日前後まとまった休みを取ることができる。船内の居住区は全て個室で勤務時間外はプライバシーを確保して過ごすことが可能だ。専門の料理人が調理する船内での食事は会社が負担しており、生活に必要なものはすべてそろっているという。「船内では一人ひとりが役割を担い、一体となって仕事に従事しています。航海の間は24時間一緒に過ごすことになるので、人間関係を大事にすることを何より大切にしています」と馬越社長は話した。
時間の効率的な使い方は海運業界の重要なテーマ
航海中の船には船長、航海士、機関士、甲板部員、食事の用意を担当する司厨部員が乗り込む。乗組員は航海中、交代で24時間それぞれが決められた時間に見張りや操船、保守整備などの業務を行い、港に到着すれば、荷物の積み下ろしや搬入作業に携わる。それだけでなく船内の安全パトロールや船内での異常発生や地震、津波などの災害発生に備えた様々な訓練も行わなければならない。2022年4月には、働き方改革を目的とした改正船員法が施行されたこともあり、海運業界にとって時間の効率的な使い方は重要なテーマになっている。
「安全管理の高度化、最適な保守管理、人手不足に対応するための省力化を図る上で海運業界は積極的にDXを進めていく必要があると感じています。大東汽船も効率的に人材を活用する上で業務のデジタル化には力を入れています」と馬越社長は真剣な表情で話した。
クラウド型業務支援ソフトを活用して業務に必要なアプリを自社で作成
社内業務のデジタル化推進は、社長の長男で取締役を務める馬越康友さんが担っている。康友さんはクラウド型業務支援ソフトを活用して業務に必要なアプリ作成を一人で担当。2022年7月にソフトを導入してから約2ヶ月で船員評価、業務報告、内部監査、緊急対応訓練、休暇申請など35種類のアプリを作成し、文書作成業務のペーパーレス化を実現した。康友さんは本社での管理業務だけでなく、ローテーションで新幸丸、陽幸丸の船長も勤める。現場での豊富な経験は従業員目線の使いやすいアプリを作成する上で大いに役立っているという。
ソフトには社内業務に必要なアプリをプログラムの専門的な知識や技能がなくても作成できる機能が備わっている。「取引先のオペレーション会社がクラウド型業務支援ソフトを使い、業務改革に大きな成果を上げていたのでぜひとも導入したいと思ったんです。プログラムの専門的な教育を受けたことはなかったのですが、当初想定していたよりアプリは簡単に作成できました。直感的に操作できる上にソフトの販売会社のサポートもしっかりしていたので導入前、仕事の合間に3ヶ月ほどかけて使い方を訓練すると使いこなせるようになりました」と康友さんはにこやかに話した。
船内での文書の作成と本社への送信の手間が半分以下に
クラウド型業務支援ソフトと共にクラウドストレージを導入したことで、アナログだった船内での文書作成業務のデジタル共有化が実現した。航海中、タンカー船で職務に就く従業員は毎月、職務交代時の記録、訓練、点検など20種類以上の報告文書を作成して本社に送信しなければならない。クラウドストレージを導入するまでは手書きで文書を作成してFAXで送信していたという。
「航海中のFAX送信は、陸上での送信と違って本社で受信が完了するまで時間もかかりますし、通信環境などの制約もあります。その点、インターネット上にあるデータ保管庫であるクラウドストレージを使えば、ほぼリアルタイムで船内と本社で情報を共有できます。文書もパソコンのアプリを起動してフォーマットに従って打ち込めば簡単に作成できるようになったので、作成と送信にかかる時間は半分以下になりました」と康友さんは効果を説明した。
以前は、本社で勤務する際、タンカー船からFAXで送られてくる文書をファイルにとじて保存していたが、クラウド型業務支援ソフトを導入してからはその作業が必要なくなった。過去の紙文書も複合機のスキャン機能を活用してデジタル化を進めている。検索機能を使うことで必要な文書もすぐに見つけることができるという。
従業員の平均年齢が業界では若く、業務のデジタル化はスムーズに進んだ
大東汽船の従業員の平均年齢は30代後半。業界平均より10歳ほど若い人材がそろい、デジタル機器の活用に積極的なこともあり、業務のデジタル化はスムーズに進んだという。船員の勤務記録はクラウドで保存しているので、記録を受け取る取引先のオペレーター企業もリアルタイムで確認できることから「業務が楽になった」と非常に喜ばれているという。
2隻体制への移行に伴う業務の増加をICTでカバー「これほど便利になるとは思いませんでした」
「2021年から2隻体制になったので労務管理などの業務は増えているのですが、アプリのおかげで負担を感じることなく乗り切ることができています。これほど便利になるとは思いませんでした。現状に満足することなくこれからも業務のデジタル化を推進していきたい。集約可能なアプリは集約して、さらに効率的に作業を進めることができるようにしたいと思っています」と康友さんは抱負を語った。
デジタルによる情報発信で若い世代にアピール 船上業務のデジタル化は若い世代に好評
康友さんは、業務のデジタル化は人材募集の面でも追い風になると大きな手応えを感じている。海運の仕事に関心を持っている人を対象にしたセミナーでも、業務のデジタル化について話をすると若い人たちからの反応は非常にいいという。若い世代には紙よりもデジタルで情報発信する方が会社に関心を持ってもらいやすいと考え、会社紹介のパンフレットは配布せず、QRコードから会社のホームページにアクセスしてもらうようにしている。
DXで海運業界をより働きやすく魅力的に 社員の半数は、介護・流通・建設からの転職
大東汽船は他業界からの人材の受け入れと育成に力を入れている。船内で勤務するには海技資格の取得が必要なことから、奨励金制度を設けるなど従業員の資格の取得を支援している。未経験者の海運業界への転職は他の業界と比較して容易ではないが、大東汽船の従業員の半数は、介護、流通、建設など他の業界から転職してきた人たちだ。最初は船酔いの洗礼を受けるが、すぐに慣れて全員、船内での生活を楽しみながら仕事をしているという。
「内航海運は、仕事のやりがいはもちろん、日本の沿岸の様々な景色を見ることができたり、港に寄港している間に周辺を観光したりと、様々な場所に出かけることが好きな人にとってはうってつけの職場です。乗船中の休憩時に趣味の釣りを満喫している人もいます。内航海運を若い人に自らの進路として選択してもらえるようにICTやデジタル機器を活用することでより働きやすく、魅力的な業界にしていきたい。情報発信にも力を入れていきたいですね」と馬越社長は明るい表情で話した。
ICTやデジタル機器を積極的に活用する姿勢を打ち出す大東汽船。日本の産業の根幹を支える海運業界におけるDXのロールモデルとしての役割にも期待がかかる。
企業概要
会社名 | 大東汽船株式会社 |
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本社 | 愛媛県今治市伯方町伊方甲1418番地1 |
HP | https://www.daitokisen.jp |
電話 | 0897-73-0433 |
設立 | 1971年8月 |
従業員数 | 20人 |
事業内容 | 船舶を活用した石油などの物資の運搬 |