建設業界の人手不足と2024年問題にはICTの積極的な活用で対応。地域密着をモットーに協力会社の仲間たちと共存共栄を図る 節和建設(茨城県)

目次

  1. 2003年に入社後、父から引き継いだ会社を建設中心にシフト。2005年度の一般競争入札制度の開始とともに、工務のデジタル化を図る
  2. 入札に対応すべく積算ソフト導入で作業効率がアップ。しかし、膨大な現場写真データの管理、工程管理や書類作成作業に追われ、入社して20年余り休日も休めなかった
  3. クラウドソフトの活用で業務効率が目に見えて改善。日報管理、工事台帳の作成、原価管理、売上請求管理、労務管理にも対応。スマートフォンでの入力も可能
  4. 社員に支給したスマートフォンで現場や出先からも日報入力が可能に 出勤表や出面表の帳票として出力も可能 自動集計だから転記や集計時のミスもなし
  5. 非対面で完了検査が実施できる遠隔臨場の配信システムの導入により、現場に立ち会うことなく完了検査が実現 発注側にも好印象
  6. 今後は測量ソフトが付属したICT建機を導入したい。若手社員も3人ほど雇用して育成し、地域の仲間たちとの共存共栄を目指す
中小企業応援サイト 編集部
全国の経営者の方々に向けて、経営のお役立ち情報を発信するメディアサイト。ICT導入事例やコラム、お役立ち資料など「明日から実践できる経営に役立つヒント」をお届けします。新着情報は中小企業応援サイトてお知らせいたします。

慢性的な人手不足に悩む建設業界。それに加え、建設業では時間外労働の上限規制が大企業に次いで中小企業にも適用される、いわゆる「2024年問題」が目前だ。

建設業界は工程管理表や報告書の作成など、工事以外の事務作業が多い。監督者は現場から帰社してからこうした作業にあたり、膨大な記録写真の管理にも時間を要していた。しかし、近年ICTの発達と普及により、建設業界におけるこれらの事務作業の手法は姿を変えつつある。また、地元密着の中小規模の建設業では、少ない人手でも飛躍的に作業効率が向上し、業績アップにつながっている事例も見られる。

今回はこうした取り組みに意欲的な茨城県の建設業、有限会社節和建設を紹介する。同社は一般競争入札の開始を機にICT導入を積極的に進め、生産性の向上によって業績アップも実現。地域密着をモットーに、元請けとして地元の協力会社と共存共栄を図るべく邁進(まいしん)している。(TOP写真:同社では完了検査を非対面で実施できる遠隔臨場の配信システムを導入)

2003年に入社後、父から引き継いだ会社を建設中心にシフト。2005年度の一般競争入札制度の開始とともに、工務のデジタル化を図る

建設業界の人手不足と2024年問題にはICTの積極的な活用で対応。地域密着をモットーに協力会社の仲間たちと共存共栄を図る 節和建設(茨城県)
建築業を営む父から会社の経営を引き継ぎ、土木工事業へとシフトした専務取締役の宇津野和良氏

茨城県つくば市の田園地帯に拠点を構える節和建設。地元密着の建設業として公共工事を中心に土木から上下水道管工事、舗装工事など幅広く手掛けており、元請けとして地域の協力会社と協働することにより、お互い共存共栄の関係を築いている。

土木の専門学校で学んだ宇津野専務は、卒業後に他企業で3年間勤めて経験を積み、2003年に家業に入社。大工だった父親が経営する家業は建築業だったが、病を発症した父に代わって経営を引き継ぐことに。これを機に建築業から土木工事業へと業務転換し、節和建設を設立した。

「自分が会社を引き継いで土木専門に転換してから、必要な機材をそろえていきました。折しも周囲の同業他社でも世代交代が進んだ時期でもありましたし、一般競争入札制度も始まったので、時代の変わり目を感じましたね」と話す宇津野専務。2005年に始まった一般競争入札では総合評価方式が取り入れられており、談合を払拭しようとする建設業界の大きな転換期だったともいえる。つまり節和建設のような企業が工事業績の評価によって元請けとして地域の協力会社を牽引していける時代になったのだ。

入札に対応すべく積算ソフト導入で作業効率がアップ。しかし、膨大な現場写真データの管理、工程管理や書類作成作業に追われ、入社して20年余り休日も休めなかった

建設業界の人手不足と2024年問題にはICTの積極的な活用で対応。地域密着をモットーに協力会社の仲間たちと共存共栄を図る 節和建設(茨城県)
2018年に導入したクラウドの写真管理ソフトにより、事務所でも写真がリアルタイムで確認でき、現場記録写真の管理や報告書作成作業が格段に楽になった

公共工事に参入する以上、必要とされる作業は会社規模の大小を問わない。しかし、積算や報告書、工程管理表の作成など、作業は膨大でマンパワーも作業時間も必要だ。しかし、現状では少人数で対応するしかない。そこで、宇津野専務は作業効率を向上するために、ICTのソリューションを積極的に導入することにした。

まずは一般競争入札の開始に伴い積算ソフトを導入。経験と手間を要していた積算作業の省力化と時短化につながった。さらに、入札・落札後の測量や図面設計管理、施工管理、検査・納品までの施工管理業務を支援するソリューションシステムも導入し、工程管理が楽になったという。しかし、報告書の作成は現場から帰社してから行っており、写真の分類や管理も手間がかかる。宇津野専務の労働時間は増えていった。

「会社に入って20年ぐらいは、休日もほとんど休めなかったですね」(宇津野専務)

クラウドソフトの活用で業務効率が目に見えて改善。日報管理、工事台帳の作成、原価管理、売上請求管理、労務管理にも対応。スマートフォンでの入力も可能

建設業界の人手不足と2024年問題にはICTの積極的な活用で対応。地域密着をモットーに協力会社の仲間たちと共存共栄を図る 節和建設(茨城県)
建設業向けのクラウド型業務支援ソフトを導入し、工事台帳の作成や勤怠管理も効率化した

そんな宇津野専務の多忙な日常を大きく変えたのがクラウド型ソリューションの登場だ。建設現場では施工済み箇所の出来形を記録写真として残していくが、従前は現場での撮影後に事務所に戻ってから写真データを手動で拾い出して整理するという手間を要していた。そこで同社が2018年に導入したクラウド型写真管理アプリは業務時間の短縮化に大きく貢献した。

このアプリを搭載したスマートフォンを使えば出来形の実測データの記録と工事写真が撮影でき、クラウド上で同期できる。電子黒板機能も使えば現場に黒板を持っていく必要もなくなるため、危険な箇所でも安全に撮影ができることもメリットだ。何より、スマートフォン1台で対応できるので機動性も高い。先に導入した施工管理システムとも連携しており、写真データの連携もスムーズになった。そのため、同社では現場社員にスマートフォンを支給して各自に入力を託しているという。

社員に支給したスマートフォンで現場や出先からも日報入力が可能に 出勤表や出面表の帳票として出力も可能 自動集計だから転記や集計時のミスもなし

建設業界の人手不足と2024年問題にはICTの積極的な活用で対応。地域密着をモットーに協力会社の仲間たちと共存共栄を図る 節和建設(茨城県)
建設業向け業務支援システムはスマートフォンによる入力・操作にも対応。現場で入力ができるため、作業効率がアップした

さらに2023年には建設業に特化した業務支援システムを導入した。このシステムには現場の日報管理や工事台帳の作成、原価管理、売上請求管理、仕入先管理、労務管理機能、グループウェア機能まで搭載されており、クラウドによる情報共有が可能だ。

スマートフォンに搭載したアプリを使った日報入力も行えるため、現場からの直帰も可能となり就業時間の短縮にもつながった。日報はシステム内で集計され、出面表や出勤表の帳簿として出力もできる。何より自動集計なので、転記ミスや集計ミスも防ぐことができる点もメリットだった。

こうしたクラウド型ソリューションの導入により、宇津野専務が抱えていた書類作成業務は飛躍的に効率化され、会社で次の仕事の準備もできるまでに余裕が生まれたという。

非対面で完了検査が実施できる遠隔臨場の配信システムの導入により、現場に立ち会うことなく完了検査が実現 発注側にも好印象

建設業界の人手不足と2024年問題にはICTの積極的な活用で対応。地域密着をモットーに協力会社の仲間たちと共存共栄を図る 節和建設(茨城県)
遠隔臨場の撮影・配信システムでは現場と発注者の事務所を結んでリアルタイムで材料確認、段階確認、確認・立会の各検査項目の確認や管理ができる。受注者・発注者双方の日時調整の手間や移動時間の削減にも貢献。録画データの保存もできる

さらにもう一つ同社が課題としていたのが、現場での完了検査の立会に要する調整や移動時間の効率化だった。折しもコロナ禍で世の中では非対面のニーズが高まっていたこともあり、同社では、映像の配信による完了検査を行う遠隔臨場の導入を試みていた。しかし、問題となったのが画像を撮影するウェアラブルカメラが高額であったことと、作業の邪魔になるということだった。加えて発注者との映像送受信のために新規に通信契約が必要なこともネックとなっていた。

そこに登場したのが、スマートフォンを使って撮影・配信・録画ができる遠隔臨場に特化した配信システムだった。このシステムでは検査時の録画データがクラウド上に自動保存され、配信先では転送した電子黒板を確認しながら検査ができる。遠隔臨場の対象検査である材料確認、段階確認、確認・立会をこのシステムを通じて発注者、受注者双方が管理できるという利便性も高かった。

また、このシステムはスマートフォンで撮影できるため、高額なウェアラブルカメラの購入や新規の通信契約も不要。しかもスマートフォンなら作業の邪魔にもならなかった。遠隔臨場によって発注者の現場での立会検査が不要となり、日時の調整や移動時間の削減にもつながったことから、生産性の向上はもちろん、発注者にも好印象をもたらしたという。

今後は測量ソフトが付属したICT建機を導入したい。若手社員も3人ほど雇用して育成し、地域の仲間たちとの共存共栄を目指す

建設業界の人手不足と2024年問題にはICTの積極的な活用で対応。地域密着をモットーに協力会社の仲間たちと共存共栄を図る 節和建設(茨城県)
ICTの導入によって、現場と事務所とがリアルタイムでつながり、昼間に事務所での作業も可能になったと話す宇津野専務

これまで書類作成や工務管理、積算などの管理業務にICTを積極的に導入し、生産効率を飛躍的に向上させてきた宇津野専務だが「どこまで投資をしたらいいのか悩む」と漏らす。それでも、「将来的には測量機能がついたICT建機を導入したいですね」と意欲的だ。建設業界では重機のデジタル化が進んでおり、現場作業と図面、報告書作成のためのデータなどが連動すればなお業務の効率化が進むだろう。しかしICTのソリューションは単体ではその力を十分に発揮できない。中小企業においてはICT導入にあたり、経営目標に応じてそれぞれのソリューションを効果的に連動させる運用システムの構築が必要である。

今後も県内の公共工事を中心に、地元のニーズに応えようと意気込む宇津野専務。元請けとして協力会社を束ね、共存共栄していくためにも、ICTソリューションの活用は大きな力となるだろう。

企業概要

会社名有限会社節和建設
本社茨城県つくば市高良田387
HPhttps://www.setsuwa-kensetsu.co.jp/
電話029-847-6868
設立1991年12月
従業員数8人
事業内容  土木工事、建設工事、大工工事、とび・土工工事、石工工事、管工事・鋼構造物工事、舗装工事、内装仕上、水道施設工事