目次
- 専門分野で一番を目指す 従業員が幸せでなければ顧客満足度を高めることはできない
- 地域コミュニティの要の商店街を守り、困りごとを解決する企業として貢献したい
- 先を見据えて人材確保に尽力 ICTで魅力的な職場に
- バックオフィスの業務を効率化することで時間の余裕を生み出し、現場に集中する
- 2020年からのコロナ禍をきっかけに業務のデジタル化を加速 基幹業務、勤怠管理等をどこからでも入力できる環境へ
- 2021年9月にクラウド型業務支援ソフトを導入 20以上の申請業務を社内で開発し、スムーズに決裁が完了
- クラウドストレージを導入し、デジタル化した様々な書類をいつでもどこでも共有できるようになったので時間のロスがなくなった
- 育児や介護 従業員のライフステージの変化にしっかりと寄り添う
- 幅広く人材を募るために採用専用のホームページを設置
- デジタル改革は通過点 会社のバージョンアップを続ける
身近な買い物の場所として親しまれている商店街。その通りを覆うアーケードを専門に企画、設計から施工、メンテナンスまで一貫対応できる技術と実績を備えた企業が兵庫県尼崎市にある。創業から70年を超える歴史を持つ株式会社八洲(やしま)だ。得意分野に特化した安定したビジネスモデルをICTの活用で更に強化しようとしている。特に力を入れているのが働きやすい環境づくりだ。
専門分野で一番を目指す 従業員が幸せでなければ顧客満足度を高めることはできない
商店街のアーケードは、雨や強い日差しを遮るだけでなく、入口のデザインで独自の魅力を発信し、買い物客を引きつける役割も持っている。アーケードを備えた商店街の割合は西高東低で四国では4割、関西、中国の各地方では3割を占めているという。
八洲の社名は「日本」の古くからの呼び名「八洲」に由来する。1951年に木材販売業からスタートし、1960年代に鉄骨に事業領域をシフトする過程で商店街のアーケード関連工事に携わり始めたという。「社名に恥じないように社会に貢献できる企業であり続けたいと思っています。社会の役に立てない企業は存続できません。専門分野で一番の企業になることを目指して事業に取り組んでいます。また、従業員が幸せでなければ、顧客満足も高くすることはできません。従業員が満足して働くことができる環境を作ることが何より大事と考えています」。假屋博志代表取締役は八洲の理念について快活に語った。
地域コミュニティの要の商店街を守り、困りごとを解決する企業として貢献したい
假屋社長は2008年、40歳の時に父親から事業を継承して社長に就任。自ら制定した経営理念「専門分野で一番の企業になることを目指す」に基づいて事業を展開してきた。
「大型ショッピングセンターが増加し、消費者のライフスタイルも激しく変化する状況下、商店街をめぐる環境は順風とはいえません。地方を中心に“シャッター通り”になっている商店街が増え、店主の高齢化も進んでいます。しかし、その一方で商店街は地域コミュニティの要としての重要な役割も果たしており、アーケードを含めた設備の維持管理を誰かが担っていかなければなりません。商店街を守り、困りごとを解決する企業として役に立ち続けることが八洲の使命と思っています」。表情を引き締めて假屋社長はそう話した。
現在、商店街アーケードのメンテナンスが事業の8割を占め、京阪神地域を中心に全国から毎年400件近い依頼がある。商店街アーケードのメンテナンスでは京阪神地域でトップシェアを誇る。市場規模は拡大していないが、同業他社が減っていることもあり、その分安定した受注件数を維持しているという。
先を見据えて人材確保に尽力 ICTで魅力的な職場に
假屋社長は、コロナ禍が落ち着き、インバウンドの増加に伴って観光産業が活性化するなど日本経済に明るい見通しが生まれる中で、商店街のビジネスチャンスも拡大するとみている。企画や設備への投資に力を入れる商店街が増えれば、その分増加する受注に対応しなければならない。先を見据える中、人材の確保が大きなテーマになっている。假屋社長は、働く人に選んでもらえるよう特に女性と若者が存分に能力を発揮できる環境を作っていきたいと考えている。そのための鍵と考えているのがICTとデジタル機器だ。
「業界全体が高齢化し、人手が不足しています。この傾向は今後、ますます加速するでしょう。会社の若返りを図る中、仕事の進め方をデジタル化していかないと、若い人にとって魅力的な職場にはなりません」と假屋社長は力を込める。
バックオフィスの業務を効率化することで時間の余裕を生み出し、現場に集中する
「現場の写真の撮影と保存一つとっても、デジタルカメラやスマートフォンが普及したことで、フィルム式のカメラを使っていた時とは比較にならないほど、作業が効率的に行えるようになりました。このような事例は枚挙にいとまがありません。デジタル機器やICTを有効活用すれば、仕事の属人化を解消し、一人ひとりの従業員に大きな負担をかけずに会社を成長させることが可能になると思っています」(假屋社長)
文書の作成や社内の承認といったバックオフィスの業務を効率化することで時間の余裕を生み出し、商店街の現場に集中できる体制を作っている。「アーケードの屋根、柱、看板のメンテナンスや路面の補修といった現場の仕事は人間が携わらなければなりません。お客様とコミュニケーションをとったり、より効率的に現場で作業ができる方法を考えるなど、人間だからこそできる生産的な仕事に使う時間を増やしていきたい」と假屋社長は話した。
2020年からのコロナ禍をきっかけに業務のデジタル化を加速 基幹業務、勤怠管理等をどこからでも入力できる環境へ
2020年9月、書類の申請、承認業務を電子化するワークフローシステムの導入を手始めに紙中心だったバックオフィス業務をデジタル化していった。同年初頭から世界で広がったコロナ禍が、以前から情報を集めながら考えていた業務のデジタル化を加速するきっかけになったという。
2021年3月には、スマートフォンなどの端末から出勤時間と退勤時間を入力できる勤怠管理システムを導入した。以前は従業員が紙のタイムカードで記録した勤務時間を集計して給与計算システムへ手入力していたため手間と時間がかかっていたが、勤怠管理システムを導入したことで作業が効率化された。従業員も、会社支給のスマートフォンから出退勤を入力できるようになったので、現場と自宅との直行直帰がしやすくなった。以前から残業は少なかったが更に働きやすくなったという。
2021年9月にクラウド型業務支援ソフトを導入 20以上の申請業務を社内で開発し、スムーズに決裁が完了
更に同年9月には、プログラムの専門的な知識がなくても社内業務に必要なアプリを作成できる機能を備えたクラウド型業務支援ソフトを導入。20以上の申請業務用アプリを社内で作成し、より効率的に決裁が完了するようにした。「紙中心のアナログからデジタルに代わったことで格段に仕事がしやすくなりました。例えば以前は、現場から『必要な資料を探してほしい』と依頼があった時、作業の手を止めて時間をかけて探さなければなりませんでしたが、今は検索機能ですぐに見つけることができます。業務をデジタル化したことで、必要と思っていたけれども実は無駄だった作業を洗い出すことができました」と業務推進部の榎元真奈美係長は笑顔で話した。
クラウドストレージを導入し、デジタル化した様々な書類をいつでもどこでも共有できるようになったので時間のロスがなくなった
2023年からクラウドストレージ式のファイル共有サービスの本格活用を始めている。以前は社内に設置しているサーバーにデータを保存していたので社外から接続するのに制約があり、使い勝手が悪かったという。
クラウドストレージは、インターネットに接続できる通信環境と端末があればどこからでも会社のデータにタイムラグなしでアクセスできる。容量の拡張が容易で、システム運用の負担も軽減できるといったメリットもある。「いつでもどこでも書類の申請、承認、決裁ができるので業務の停滞を防ぐことにつながっています。承認権限を持った上司が会社に戻ってくるのを待つといった時間のロスがなくなりました」と榎元係長。
育児や介護 従業員のライフステージの変化にしっかりと寄り添う
假屋社長は従業員のライフステージの変化にしっかりと寄り添っていきたいという。従業員は、高齢の親を病院に連れて行ったり、子どもを保育園に送り迎えするなど家族のために多くの時間を使っている。「いい仕事をするには家庭での心配ごとがなくなることが何より大事です。ICTとデジタル機器を積極的に活用して、いつでも柔軟に家族のために時間を使えるように職場環境を整えていきたい。これまで以上に、いつでもどこでも本社にいるのと同じように仕事ができるようにしていきます。時間を有効活用することで自己実現の時間も増やしてほしいと思っています」と假屋社長は意欲を見せた。
幅広く人材を募るために採用専用のホームページを設置
幅広く人材を募るために2023年12月から自社ホームページと連動した採用専用のホームページを設けた。会社概要、福利厚生、仕事内容、各種手当、企業年金や退職金などの制度、職場の雰囲気、選考フローを豊富な写真とともに説明している。「ホームページを通じて会社のありのままの姿を知っていただけたら。新しい人材に会社の技術とノウハウをしっかりと伝えていきたい」と假屋社長は話した。現在、全体の約4割を占める女性従業員の割合も増やしていきたいという。
デジタル改革は通過点 会社のバージョンアップを続ける
「デジタル面での改革を進めてきましたが、まだまだ通過点と思っています。技術の進歩で社会の変化がスピードアップする中、守りの姿勢では会社の未来は厳しいものになるでしょう。若い人材が希望を持てるように会社をバージョンアップしていきたい。ベテランから若手まで幅広い年齢層の従業員が関わり合うことで、相乗効果を高めていきたい」と假屋社長は先を見据える。
地域にとって活性化の鍵を握っているとされる商店街。デジタル化が進むこれからの時代は、専門分野で強みを持つ八洲にとって大きなビジネスチャンスをもたらすはずだ。着実にDXを進める次の一手に注目したい。
企業概要
会社名 | 株式会社八洲 |
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本社 | 兵庫県尼崎市東本町1丁目71-9 |
HP | https://www.jp-yashima.com |
電話 | 06-6487-0111 |
設立 | 1963年1月(創業1951年5月) |
従業員数 | 23人 |
事業内容 | アーケード設計・施工・メンテナンス事業、建築工事業、タイル・屋根・鋼構造物工事業、塗装工事業、建築資材の販売、木枠梱包業 |