職人気質がもたらすICT化への遅れ、3代目社長が果敢に克服 顧客情報のデータ化で顧客支援と業務時間を劇的に削減 石坂長電舎(長野県)

目次

  1. 手書き情報をデータ化、作業内容を機器に貼り付け故障を未然に防ぐ
  2. 専用アプリで文書や図面を外出先から閲覧、顧客に安心を提供
  3. 「何でも解決してくれる」職人気質、口コミで仕事が舞い込む
  4. 人材採用に注力、100年企業へ インスタで若者に訴求を目指す
中小企業応援サイト 編集部
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長野県長野市にある職人気質を受け継ぐ小さな企業が、ICT化の波に果敢に立ち向かっている。「どんな機械でも修繕対応できる」をモットーにしたエキスパート集団が抱えていた課題が、手書きや人力に頼る業務の非効率さだ。そこで、3代目社長のリーダーシップのもと、ICTの導入と効果的な活用に注力。専用アプリで外出先からデータを閲覧したり、コンプレッサーの保守作業をデータ化するなど、顧客サービス向上にも成功し、緊急出動の減少や顧客のトラブル対応能力向上に貢献している。(TOP写真:インタビューに答える前川綾子代表取締役社長)

1951年に長野市に創業した有限会社石坂長電舎は、当初はモーター販売や修繕に従事していた。しかし、事業を徐々に拡大し、現在ではモーター・コンプレッサー・ブロワの販売修理を主力とし、汎用旋盤などの生産設備を駆使してシャフトやスリーブの製作修繕・改良も行っている。長年にわたる加工経験と図面作成のノウハウを駆使し、顧客からの信頼を得てきた同社にも、悩みがあった。それは、職人気質がもたらすICT化への遅れだった。

手書き情報をデータ化、作業内容を機器に貼り付け故障を未然に防ぐ

創業一族で3代目の前川綾子社長(55歳)は2018年7月に専務に就任し、翌年5月から社長に就任した。当時、納品書を手書きでつくるなど、社内の業務はアナログの極みだった。前川社長は金融機関勤務の経験から、人力に頼る業務に違和感を覚えており、「ICT化は絶対に必要だったがお金を生むものではない。(先代社長までは)雑用に時間を取られなくなかったため、改善を先送りしていた」。しかし、前川社長の就任により、ICT化への挑戦が始まった。

前川社長はまず、手書きの顧客情報のデータ化に着手した。その一例が保守作業のデータ化だった。石坂長電舎は長野県北信地域の顧客が保有する約300台のコンプレッサーの保守業務を担当しており、以前は作業をデータ化していなかったため、社員の記憶だけに頼っていた。そこで、コンプレッサー1台ごとに作業日時や内容の履歴をデータ化し、さらにその内容をコンプレッサーごとのわかりやすい場所に貼り付けた。その結果、ユーザーが設備のメンテナンスに以前にもまして関心を持ってくれるようになり、整備を定期的に実施することで、年に数回あった深夜の緊急出動がなくなった。前川社長は「当社も資料を効率的に整理でき、円滑な対応ができている。いい循環になってきた」と話す。

職人気質がもたらすICT化への遅れ、3代目社長が果敢に克服 顧客情報のデータ化で顧客支援と業務時間を劇的に削減 石坂長電舎(長野県)
職人気質で顧客の要望に応える石坂長電舎の社員

専用アプリで文書や図面を外出先から閲覧、顧客に安心を提供

さらに2022年1月から、システム支援会社の担当者とともに業務の棚卸しを行い、データのバックアップ機能の向上にも目を向けた。2022年5月には、セキュリティシステムを導入。専用アプリを活用することで過去の修理・整備や据え付け工事の記録がデジタル化され、全社員が社外でもデータを検索できるようになり、効率的な作業や営業活動が可能になった。

たとえば、ある食品工場でのモーター保守作業を行った際の出来事。衛生上の問題で、工場内に立ち入りができなかったが、現場で社員が保管されていた過去のモーターの据え付け作業の写真をスマートフォン画面で確認し、作業工程を顧客に提案できた。前川社長は「コンプレッサー内部の写真だけでなく、過去の仕事の見積書の数字がわかれば、お客様に自信をもって説明できる。お客様にも安心してもらえる」。〝職人〟集団の大きな進歩だった。

これまでは業務日報や社員が現場で撮影した写真データなどを、前川社長が毎晩、1時間かけてUSBメモリに取り込んで更新する作業をしていたが、現在では社員が直接コンピューターに保存しており、更新作業にかける時間がなくなった。空いた時間を活用し、前川社長はインボイス、電子帳簿保存法などへの対応に充てているという。

職人気質がもたらすICT化への遅れ、3代目社長が果敢に克服 顧客情報のデータ化で顧客支援と業務時間を劇的に削減 石坂長電舎(長野県)
摩耗したモーターの軸の修復作業。職人技がさえる

「何でも解決してくれる」職人気質、口コミで仕事が舞い込む

石坂長電舎の強みは「何でも屋」だ。長年の加工経験を駆使し、モーターやコンプレッサーなどほとんどの修理に対応している。たとえば、大手メーカーでは次々に新機種を投入するため、旧機種の部品を取り寄せるには時間かかかったり、すでに欠品になっていたり、メーカー自体が廃業、もしくは部品が生産終了になっているケースもある。機械に不具合が発生したとき、メーカーや販売代理店に問い合わせたものの、部品欠品やメーカー廃業していた時に、どこに問い合わせてよいかわからない経験をした人も多いだろう。

しかし、石坂長電舎の社員には職人気質がある。「これしかやりません」という制限を設けず、どんなメーカーの機種でも対応している。製造・販売していない部品でも自社でつくるなど、試行錯誤して不具合を改善するという。機械設備の寿命をより長く保つため、決して諦めず、持てる知識や技術を集結して修理や調整にあたっている。前川社長は「部品1個だけを作って納品するときもある。儲かる仕事ではないですよ」と笑うが、積極的に営業をしなくても「石坂長電舎に言えば何でも解決してくれる」と、口コミで仕事が増えているという。

職人だった祖父、父の後継者となった前川社長は現場の経験こそないが、「技術を知らない分、社員に仕事を任せており、私がお客様と社員の間の円滑なコミュニケーションを取りたい」と言い切る。顧客の詳細な要望に応えられる修理、保守作業は、どんなに自動化が進んでも需要があり、「誠実にコツコツやっていけば仕事はなくならない」(前川社長)とみる。

職人気質がもたらすICT化への遅れ、3代目社長が果敢に克服 顧客情報のデータ化で顧客支援と業務時間を劇的に削減 石坂長電舎(長野県)
前川綾子代表取締役社長と佐々木晴一専務(写真右)。協力して会社経営を支える

人材採用に注力、100年企業へ インスタで若者に訴求を目指す

100年企業にするために、人材採用にも力を入れている。刷新したホームページのキャッチフレーズは「『動』を生み出すエキスパート集団」。「すばらしいエンジニアとの成長の日々が待っています」「お客様へ感謝し、感動を与える人となることを目標に戦い続ける社員」をホームページ内で紹介するなど、会社の思いを伝えている。工場長でもある佐々木晴一専務取締役(58歳)はホームページで「やればやるほど楽しい仕事。トライしてみてうまくいかない部分は調整し、その中で解決策を見つけていく。すべてがぶっつけ本番で挑んでいます」と、やりがいを述べる。

画像や動画を使って企業の魅力を訴求できるインスタグラムの活用も視野に入れる。前川社長は最近、個人のインスタグラムで趣味のピアノを弾いているところの動画を初めてアップした。将来はビジネスアカウントをつくり、若者の採用活動を強化するつもりだ。

これからも石坂長電舎は、伝統と技術を生かしつつ、時代の要請に柔軟に対応し続けていく決意だ。職人気質を貫きながらも、進化を続ける姿勢が、顧客からの信頼を築いている。

職人気質がもたらすICT化への遅れ、3代目社長が果敢に克服 顧客情報のデータ化で顧客支援と業務時間を劇的に削減 石坂長電舎(長野県)
地域密着型企業を目指す石坂長電舎の本社

企業概要

会社名有限会社石坂長電舎
本社長野県長野市青木島町綱島769-1
HPhttps://i-chodensya.co.jp/
電話026-285-5826
設立1951年
従業員数5人
事業内容モーター、コンプレッサー、ポンプの修理・販売