目次
- 会社設立当初は妻と二人 水トラブルの緊急対応を積極的に引き受けていた
- 実績を蓄積し技術力を磨き、公営住宅の貯水槽や水道設備の維持管理を引き受けるようになった しかし報告する写真は容量が大きく送信できず、毎回事務所に帰るため時間がかかっていた
- VPNを導入し高崎市の営業所から本社にデータ転送、閲覧もできるようになった 画像管理もExcelから画像管理ソフトへ切り替え、省力化が大幅に進んだ
- 営業所との業務連絡はLINE、スケジュール管理は専用ソフトで仕事ぶりを把握
- 入札の積算・見積のために積算システムを導入 短時間で見積書作成
- 積算・見積専任の従業員を採用。慣れれば2~3日かかっていた作業が半分に
- ICTによる業務の効率化で働き方改革を行い、新たな人材確保につなげる
- 群馬県ではプロジェクトだけが持つ「衝撃波清洗浄」による洗浄もあり事業は順調に推移
- 後継者として娘婿が入社。これからの魅力ある事業展開を託す
生活に欠かすことのできない水。群馬県前橋市に本社を置く有限会社プロジェクトは、マンションや工場、ビルなどに水道水を供給するための貯水槽をメンテナンスしたり、設置工事を行ったりする会社だ。県内の公営住宅も数多く受け持っている。(TOP写真:プロジェクトの事業内容を伝える看板)
会社設立当初は妻と二人 水トラブルの緊急対応を積極的に引き受けていた
起業は2006年。代表取締役の近藤雄一郎氏が、神奈川県横浜市にある給排水施設の管理や施工を行っていた会社で働き、その後10年ほど、プラント設備大手の下請け管理業務を経験してから、出身地の群馬県に戻って立ち上げた。「横浜では、住宅供給公社が管理している数百棟の建物の維持管理を行っていました」(近藤社長)。屋上に置いてある貯水槽を開けて清掃したり、不具合を直したりしていた。今の事業は、その頃の経験を生かしたものとなる。
起業した当初は、電気で地面を温めて雪を溶かすロードヒーティングの事業も行っていたが、ボイラー方式が中心となっていったことから手じまいし、今の事業へとシフトしていった。当時は従業員も近藤社長と妻しかおらず、取引先も多くはなかったが、「水が出なくなることは時間を問わず起こります。そうした時に、緊急対応するところがあまりなかったので、当社で積極的に引き受けていきました」(近藤社長)。
実績を蓄積し技術力を磨き、公営住宅の貯水槽や水道設備の維持管理を引き受けるようになった しかし報告する写真は容量が大きく送信できず、毎回事務所に帰るため時間がかかっていた
実績を積み、水道工事や電気工事に関する資格に基づいた技術力も見せて、次の仕事を受注するようになっていった。その結果、前橋市だけでなく高崎市や渋川市にも営業所を置いて、貯水槽や水道設備の維持管理を一手に引き受ける会社へと成長した。今は6人のスタッフが群馬県内の各地を回って作業を行っている。こうなってくると、大変なのが情報の共有化だ。同社では現在、前橋市の本社事務所が手狭なため、高崎市内に置いた営業拠点に従業員を移し、そこから現場に行くようになっている。このため、「報告書や現場の写真をやりとりする時に、営業所から本社まで来てもらう必要がありました」(近藤社長)。
建設工事や設備のメンテナンス、貯水槽の清掃といった業務を行った後、どのように作業を行ったかを画像で記録し、提出する必要がある。メールでやりとりするには画像などのデータは大き過ぎて手間がかかる。だからといって、本社に設置してあるパソコンに直接USBメモリなどからデータを移すとなると、行き来の時間が発生する。USBメモリの紛失といったセキュリティ面での不安もぬぐえない。
VPNを導入し高崎市の営業所から本社にデータ転送、閲覧もできるようになった 画像管理もExcelから画像管理ソフトへ切り替え、省力化が大幅に進んだ
そこで同社では、VPN(仮想プライベートネットワーク)を導入して、営業所のパソコンなどから本社のパソコンにデータを入れたり、同じデータを見られたりするようにした。「今は、それぞれの営業拠点でパソコンにデータを入れてもらえば、本社の方でも確認できます」(近藤社長)。画像の管理も、以前はExcelのシートに貼り付けて管理していたが、現在は工事現場用の画像管理ソフトを使うようになった。「画像を加工して貼り付ける手間や、ファイルネームを一つひとつ付けていく手間が省けました」(近藤社長)
営業所との業務連絡はLINE、スケジュール管理は専用ソフトで仕事ぶりを把握
本社と営業所や現場が離れていて、従業員と直接顔を合わせる機会も少なくなったため、連絡やスケジュールの管理も、ネットワーク上でできるようにした。業務連絡は、LINEを使ってメッセージをやりとりする。スケジュール管理は、ネット上にあるコミュニケーションアプリを使用。「以前に使っていたサービスは、誰の予定なのかわかりませんでした。今は利用者や内容に合わせて色分けして管理できるので、見やすい上に間違えることもなくなりました」(近藤社長)
大手システム会社が提供しているサービスも試してみたが、「皆が使いこなせるようになるまでには時間がかかりそうだと感じました。トップが使いこなせても、全員が使いこなせなければサービスとして役に立ちません」(近藤社長)。業務に合わせたカスタマイズはできなくても、すぐに使えて事業に必要なサービスを得られるのなら、そちらを選ぶ方が効果的だという判断も、中小企業のICTには必要と言える。
ただ、ビジネスチャットについては、クライアントの方でLINE WORKSを使うところが増えていて、対応が求められるようになっている。「今は個人のスマートフォンからLINEで自由にアクセスしていますが、セキュリティ面を考えてクライアントがLINE WORKSの使用を求めてくるようなら、導入を考えなくてはいけません」(近藤社長)。ここでLINEを活用した経験があれば、そうした移行もスムーズに行く。今は無償版のLINEをとことん試して経験を積み、必要に応じてLINE WORKSにアップグレードしていく段階を踏んでの導入も、小回りの利くチームワークならではだ。
入札の積算・見積のために積算システムを導入 短時間で見積書作成
バックオフィスの方も省力化に乗り出した。工事費や作業費の積算業務のシステム化だ。「起業してから頑張ってきて、入札に呼んでもらえる機会が増えてきました。その際に費用をしっかりと積算して、提出する必要が出てきました」(近藤社長)。以前も見積などで積算は行っていたが、それほど詳細に記述しなくても良かったため、手作業で間に合っていた。これが入札となると、「一つひとつ細かく記入していく必要があります」(近藤社長)。
数千万円といった金額になる案件について積算を行っていると、3~4日と時間がかかってしまう。「皆で手分けをして作業していましたが、それでは現場に負担をかけてしまいます。自分も含めて現場を見に行くことが本来の仕事ですから、積算だけに時間を割いていられません」(近藤社長)。そこまでやっても取れない案件はあって、作業も費用もムダになっていた。
「面倒だと入札を何度も辞退していたら中小企業にとっては死活問題。入札に対応した精度の積算を行えるようにした上で、手間も費用もかからない方法はないか」(近藤社長)。そう考えて、積算や原価管理を行えるシステムを2023年秋に導入した。
積算・見積専任の従業員を採用。慣れれば2~3日かかっていた作業が半分に
ポイントは、現場で工事の仕事を長く経験したことがない人でも扱えるところだ。「工事に必要な部材などがあらかじめデータとして設定されているため、そこから選んで挿入し、現場から上がってきた価格を入れていくだけで、積算結果が出るようになっています」(近藤社長)。現在はこのシステムを専任で扱う担当者を採用し、慣れてもらっている最中とのこと。「本格的に扱えるようになれば、2~3日かかっていた仕事も半分でできるようになります」(近藤社長)
ICTによる業務の効率化で働き方改革を行い、新たな人材確保につなげる
ICTによる効率化を、現場でもバックオフィスでも進めていくことで、目指している働き方改革も行える。起業の時こそ社長が夜中にも現場に行って作業するような緊急対応を行い、他にはないサービスだからと信頼を得ていったが、「今も必要なら自分が対応しますが、従業員にはしっかりと休みをとってもらっています」(近藤社長)。年間休日は113日あって、これも今後増やしていきたいと考えている。そうすることによって、新しい人材の確保にもつなげていける。
群馬県ではプロジェクトだけが持つ「衝撃波清洗浄」による洗浄もあり事業は順調に推移
貯水槽の清掃というとどこかきつい仕事のような印象を持たれがちだが、同社のホームページを見るとスマートなデザインで貯水槽の清掃の業務が担っている仕事の意義も感じ取れる。衝撃波清洗浄という、圧縮空気を使って水道管の中で固まってしまった汚れを破壊して流し出す方法です」(近藤社長)。こうした最先端技術への前向きなスタンスを示すことで、新しい技術を学びたい人に関心を持ってもらえる。
事業自体は順調に仕事が入っていて、限られた従業員数で多くの仕事をこなさなくてはならない。効率化を進めるのも、そうした中で従業員にしっかり休んでもらうためだと言える。ただ、公営住宅の老朽化なども進んでメンテナンスの仕事は増えており、新築に伴う施工の仕事もあるため、「協力会社を増やして、求められる仕事に対応していければと考えています」(近藤社長)。
後継者として娘婿が入社。これからの魅力ある事業展開を託す
その先については、「娘の婿が会社に入ってくれたので、何をしていくかは任せたいですね」(近藤社長)。社長自身は水道関係に詳しく、貯水槽の洗浄にも通じていたため今の事業を始めたが、後継者は電気が専門のため、電気工事関係の事業にも進出していくことも考えられそう。中小企業の場合、創業者から次の世代への事業継承も常に課題となっているが、同社では創業者が現役のうちにしっかり事業を固め、効率化も行った上で次代へと渡すことで、次のステップへと進みやすくなった。
積算業務の効率化や情報の共有化といったICTへの取り組みは、娘婿が入社したことから大きく進みそうだ。そうすることで働き方改革は一層進み、若者にとって更に魅力的な会社になっていくことを期待したい。
企業概要
会社名 | 有限会社プロジェクト |
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住所 | 群馬県前橋市総社町総社1083-3 |
HP | https://www.project-g.jp/ |
電話 | 027-289-2533 |
設立 | 2006年2月 |
従業員数 | 6人 |
事業内容 | 上下水道維持管理業務/水処理施設設計施工維持管理/電気計装設計施工維持管理/建築設備設計施工維持管理/機械器具設置工事/貯水槽清掃管理業務 |