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有限会社直工房は、群馬県高崎市で特装車両向けの内装木工品や特注家具などを製造する企業だ。主力の車両向け内装品は主に救急車が対象で、入札の関係上、繁忙期と閑散期が極端であるため、年間を通じた作業の平準化を目指している。一方、木に触れ、そのぬくもりや良さを感じてもらう「木育」の活動に賛同し、社会貢献として子どもが手にする木工製品の受注・販売にも力を入れる。その一環としてEC(電子商取引)サイトを開設。車両向けでは実際の使用者と関わる機会がない社員が購入者の反応に直接触れられる新たな販売手法を導入し、社員の励み、さらには働きがいにつなげようとしている。(TOP写真:木工用のCNCマシニングセンターを備えた直工房の工場)
主力は特装車両向けの内装木工品 キャンピングカー需要の急増でコロナ禍の影響を逃れる
有限会社直工房は直井一幸前会長が1993年、特注家具の製造・販売・取付を目的に設立し、2023年でちょうど創設30年を迎えた。その後、2004年には特装車両向け内装木工部品と家具の製造に着手し、現在の高崎市矢島町に工場を移転した。現在、直工房を率いるのは直井氏の長女で2017年に事業継承した人見絢子代表取締役で、新型コロナウイルス禍を挟んだ6年間、「お客様第一」に、社会貢献、社員の幸せの追求に努めてきた。
ただ、日本全体がコロナ禍に見舞われたにもかかわらず、直工房は事業面で「影響はほとんどなかった」と人見社長は振り返る。コロナ禍でいわゆる「三密」を避けてキャンプなど屋外での楽しみ方が広がり、これを追い風にキャンピングカーの需要は急増した。これを受けて、まだコロナ禍のさなかの2020年にキャンピングカーの内装を手掛けることになり、これが幸いした。
この結果、救急車に加えてキャンピングカーの内装が加わり、2023年の事業収入全体に占める車両関係の比率は85%程度まで上昇している。2023年もキャンピングカー向けの受注は堅調で、2024年の年明けにも45台分が追加されるなど引き続き伸びが期待できる。
「木育」ビジネスで企業としての社会貢献に注力 ECの第一弾は「つながるたまご」「こどものための いす」
半面、「コロナ禍で次から次に会社が潰れ、飲食店や美容院の経営が成り立たない現状を目の当たりにすると、当社はコロナ禍の影響を受けなかっただけに、ここは事業面でも社会貢献に向き合わなければならないとの思いが募った」と人見社長は語る。
具体的な取り組みは「木育」に沿ったビジネスの展開だ。群馬県は地域材を活用した子育て環境を整備する「ウッドスタート宣言」をし、直工房はこれに賛同し、人見社長自身と社員1人が群馬県の「木育インストラクター」の資格を取得している。直工房としてはこの活動が群馬県産木材の普及促進につながるほか、木との触れ合いによって子どもばかりでなく大人にもその良さを実感してもらおうと、現在、「木育」ビジネスに力を入れている。
直工房の事業に占める「木育」関係の割合は3%程度に過ぎず、人見社長は「木育への取り組みはある意味、社会貢献であって、利益は度外視している」と話す。それでも子どもが手にする木工製品を開発し、新たにECサイトを通じた販売で「木育」ビジネスを前に進めようとしている。
新たに開発した木工製品は「つながるたまご」で、既に商品化した「こどものための いす」とともに、第一弾として2023年12月中にも運営開始するECサイトへの出品を予定している。このほか、人見社長が会員となっている「群馬県ウッドクラフト作家協会」が開いた展示会で好評だった商品をECサイトに出品することも考えている。
特に「つながるたまご」については群馬県が実施している「ぐんまちゃんのこども支援プロジェクト」に協賛企業として登録しており、群馬県のマスコットキャラクター「ぐんまちゃん」のロゴを商品に使用して、売上の一部を県に寄付して県の子ども関連施策の運営に役立てる。
ECサイトを開設し、欲しいと思った方が簡単に購入できるようにしたかった
直工房の場合、現在でもホームページから商品は購入できる。ただ、今回ECサイトの開設にこだわったのは購入する際の購入者の負担や手間を減らしたいという思いがあったからだ。ホームページからの購入の場合、受注するとメールで代金の振込をお願いし、入金を確認した上で製作に入る。
人見社長は保育士の経験があり、現在は母親という立場から、「小さな子どもを持つ保護者に販売する商品。その保護者の方が、時間を割いて赤ちゃんを抱っこして銀行まで出かけるのは大変で、お客様に寄り添った対応でない。今の時代にも合っていないし、ECなら面倒な手間もいらず、簡単に購入できる」とECサイト開設を決断した動機を語る。
EC開設を社員たちの「自ら考え、モノを作る」動機付けにつなげる
さらに、導入の理由はもう一つある。人見社長は「製品を作ってすぐにサイトに載せられるわけで、社員にとっては自分たちが考え作り上げた製品を販売するツールが一つ増えることになる。それで社員たちが『これは一つやってみよう』となれば」と語り、ECサイトの開設が社員のモチベーション(動機付け)につながることに期待する。
その背景にあるのは繁忙期と閑散期の作業量に極端な差があることだ。年間を通じた作業の平準化が、直工房が現在抱える最も大きな経営課題となっている。救急車の内装でもキャンピングカーの内装にしても、直工房による営業活動の有無にかかわらず年間で扱う数量は決まっている。主力の救急車向けの内装は入札での受注であることから、「特に3~5月は仕事が少なくなる。この間をどう埋めていくかがずっと課題となっていた」(人見社長)。
このため、これまでも「木育」や新商品の開発に取り組んできており、ECサイトの開設に踏み切ったのも「閑散期を利用し、社員たちが自ら考え、モノを作り、自分たちの商品を販売できれば、と考えた」(同)からだ。
自社ホームページ自体は2018年頃に立ち上げており、2023年8月にリニューアルした。新しい機能を備えたワイド画面に移行し、デザインも修正を加えた。さらに販売の窓口を広げるため、追加でECサイト構築を支援するサービスとの連係を決めた。
ホームページの開設、リニューアルにしても、その狙いはECサイト開設の狙いと共通する。事業の7%程度を占める特注家具の仕事は別として、主力の特装車両向けの内装木工品は、発注者が直接使うエンドユーザーではなく、直工房の社員は使用者の反応に直接触れることはない。その結果、「お客様との距離が離れていきかねず、それでは社員たちがお客様の気持ちに向き合えない。『お客様第一主義』の力が弱くなるのでは」と人見社長はかねてから懸念してきた。
こうしたユーザーの反応が確かめられない環境にあっては、社員が「手ごたえがない」と感じても不思議ではない。この点を踏まえ、人見社長は「自分の作った商品にどれだけアクセスがあるか社員たちが自分の目で確認できれば、それが励みになると思い、ホームページを開設した」という。
ネット社会の大きなポテンシャル=独自の技術を持った直工房
直工房のもう一つの可能性は、元々持っている他社にはない技術「車両向けに木をベースにした特殊な内装」。コロナ後のライフスタイルの変化や電気自動車によってもたらされる車両内の空間の活用等を考えると非常に大きなアドバンテージを持っている(厳しい品質が要求される車両への実績がある)。他社の例では、自社の優れた技術をホームページでアピールし、個別の問い合わせを歓迎することで、様々な問い合わせが入り、それがヒントになってビジネスモデルが大きく変わるケースも出始めている。独自の技術をアピールしたホームページの活用法にも期待したい。
2024年4月に「残業ゼロ」を目指す 課題は年間を通じた業務の平準化
直工房は働き方改革にも取り組み、2024年4月からの「残業ゼロ」を目指している。大きな経営課題である車両向けの内装で極端な繁忙期と閑散期がある現状を改善するのが前提となるのは言うまでもない。この点は「取引先様に調整をお願いしているが、まずは自分たちの工程や勤務状況を見直す必要がある」と話す。
実際、11、12月は救急車向けの仕事が最盛期を迎える上に、キャンピングカー向けの受注が増えていることもあって、残業時間は伸びてしまった。子育て中の社員や、これから子どもを持ちたい社員、またプライベートを充実させてこそ、仕事を頑張る力が湧いてくるという考えから、人見社長は「繁忙期と閑散期の平準化し、残業がない状態にしたい」と、「残業ゼロ」の実現に並々ならぬ強い意欲をにじませる。
「お客様第一」に向けた社員自らが自らを磨く姿を強みに
直工房は「考え、学び、善く生きる人生が誇りと喜びにあふれ、輝きますように」を経営理念に掲げる。その中に、「私たちは、社員同士はもちろん、お客様との関わりの中で自らを成長させ、人として本当に幸せになることを目指していきます」とある。
この理念に重なるように、人見社長は「会社は当然利益を追求しなければならない。しかし、仕事の根本は、仕事を通じて人の役に立つとか、喜んでもらえるとか、そういった仕事こそ誇らしく価値がある」と語る。お客様の利益を第一に考え、社員が自らを磨き上げる、そんな姿が直工房の強みと言えそうだ。
企業概要
会社名 | 有限会社直工房 |
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本社 | 群馬県高崎市矢島町285-1 |
HP | https://naokobo.jp/ |
電話 | 027-381-5314 |
設立 | 1993年 |
従業員数 | 8人 |
事業内容 | 特装車両内装木工品および特注家具製造、リメイク家具の製造・販売、木工教室運営 |