素材プレス加工を基盤にクリーンな事業分野で発展する異色企業  宇都宮産業(群馬県)

目次

  1. 自動車関連分野で事業基盤を築き、自動車大手にも製品を納入
  2. 縫製加工、フィルター販売など派生的に広がった多彩な事業形態
  3. 「人を大事にする」創業者精神を踏襲し、新経営体制に移行
  4. ホームページを充実し、分かりやすく正確な企業情報を発信
  5. 200社の取引先を抱え、2010年代前半から販売管理業務、給与計算のシステム化で業務改善を進める
中小企業応援サイト 編集部
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株式会社宇都宮産業は、群馬県伊勢崎市で創業時からのフェルト、ウレタンといった素材のプレス加工を手始めに、それに付随して派生した事業を広げ、業容を拡大してきた。現在はプレス加工に加え、縫製加工のほかクリーン機器や空調用などのフィルターの販売、さらに設備工事まで、多岐にわたる事業を展開している異色の企業だ。

2023年4月に移行した新経営体制下で「人を大事にする会社」として培ってきた技術の強みを生かし取引先が増える一方、「人と地球にやさしいクリーンな事業の発展」を目指し、共通項の「環境」を軸に多様な事業へとつないでいく。(TOP写真:群馬県伊勢崎市にある宇都宮産業の本社・工場)

自動車関連分野で事業基盤を築き、自動車大手にも製品を納入

素材プレス加工を基盤にクリーンな事業分野で発展する異色企業  宇都宮産業(群馬県)
宇都宮産業の基盤事業であるプレス加工事業を支える同社最大の油圧自動全抜きプレス機

宇都宮産業は、創業者で現在顧問の宇都宮貢氏が1992年に設立した。当初は自宅の敷地に設けた作業場で、ウレタンで成形した部材の補正・補修を手掛け、その後、自動車関連分野でのプレス加工により現在につながる事業基盤を築いた。

具体的には不織布、フェルト、スポンジのシート部材の型抜きやポリカーボネート樹脂を使ったサンバイザー部のプレス加工のほか、ウレタンなどを使った自動車の内装向けの防音材や防振補強材の型抜き・裁断加工などを手掛け、現在も宇都宮産業の屋台骨を支える主力事業となっている。これらは群馬県がお膝元のSUBARUのほかトヨタ自動車、ホンダの二次下請け企業を通じて納入している。

縫製加工、フィルター販売など派生的に広がった多彩な事業形態

素材プレス加工を基盤にクリーンな事業分野で発展する異色企業  宇都宮産業(群馬県)
縫製加工の作業場。縫製加工の事業はプレス加工の拡大に向けて派生的に手掛けることになった

プレス加工した製品は自動車関連にとどまらず、創業以来の実績をベースに空調、家電、住宅、日用品など様々な分野に広く納入している。さらに、製品によっては素材をプレスで型抜きした後に縫製加工し、納入するケースもある。ただ、縫製加工もあらかじめ職人やミシンをそろえて全く新しい事業として取り組んだわけでなく、プレス加工事業を拡大していく過程で派生的に手掛けることになったという。

宇都宮産業が現在のように多岐にわたる事業を展開するようになったのは、素材のプレス加工を通じた事業上、あるいは取引先との関係から派生的に広がった経緯がある。

空調用・水処理用のフィルターの販売も古くからの大阪に本社を置く取引先との関係から始まった。この取引先は自動車関連以外の分野でウレタンやゴムなどの素材を加工しており、協業を持ちかけられたのをきっかけに宇都宮産業が自動車関連以外でのプレス加工に着手することになった。さらにこの取引先はフィルターも扱っており、手薄だった関東での販路を宇都宮産業に託した。

フィルターの中には空気清浄機やクリーンルームのメインフィルターとして用いられるHEPAフィルターといった高性能の製品があり、宇都宮産業はそこからクリーンブースやクリーンルームなどクリーン機器の販売に取り組む。これも販売にとどまらず設備工事を伴うため、建設業の許可を取得し、排気ダクト設置や工場内の間仕切りといった施工にまで事業を広げた。まさにプレス加工を起点に派生的に多岐にわたる事業を拡大してきた歴史を物語る。

ただ、クリーンルームや設備工事は常に注文が入るわけでないため、事業構造はやはり祖業であるプレス加工から始まった加工・製造を一番の主役と位置付けている。取引先は200社程度あり、常時取引があるのは数10社。中には大手の素材メーカーから原材料を支給され、メーカーの販売する製品向けにプレス加工で中間加工してメーカー側に納めるという形態も多いという。

「人を大事にする」創業者精神を踏襲し、新経営体制に移行

素材プレス加工を基盤にクリーンな事業分野で発展する異色企業  宇都宮産業(群馬県)
2023年4月に就任した剣持泰士代表取締役は「社員同士の横のつながりを強め、理想型の組織に近づけたい」と抱負を語る

会社設立から30年を超え、2023年4月に宇都宮産業は経営面で大きな転換点を迎えた。創業者の宇都宮貢氏に代わって、剣持泰士氏が代表取締役に就任したからだ。剣持氏は社外人材で宇都宮産業の事業とは無縁で、全くの門外漢が経営の旗振り役を担うことになった。

就任に至る経緯について剣持氏は「自分は保険代理店を経営していて、その税理士が宇都宮産業の担当だったことで、税理士を通じて打診された」と話す。宇都宮産業については全く知らず、唐突な要請に驚いたのは言うまでもない。しかし、宇都宮氏と何度か面談しているうちに「気持ちが入ってきて、じゃ、やってみましょうかとなった」と剣持氏は振り返る。

代表取締役を引き受けた最大の理由は「社員の平均年齢が40歳そこそこの若い会社であり、次の代にいかにつないでいくかが私に与えられた使命と感じたから」という。就任して受けた宇都宮産業の第一印象は「一つの完成形というか、出来上がった組織。しっかり経営されてきた会社」という評価だった。

現在の従業員数は正規社員24人で、多岐にわたる事業をこなすには難しい人数と思われるかもしれない。しかし、剣持氏によると「かなりのレベルで互換性が利く人材がそろっている」とし、定番品の自動車関係は毎日最小限の人員を配置しなければならないものの、それ以外は柔軟に配置を替えフレキシブルな対応を可能としている。

例外的な作業が入った場合などは現場の判断で必要な日数の作業工程を組むようにしており、そこは「素直な心で対立を恐れず、調和を乱さず」との社是が社員間に浸透していることを裏付ける。また、剣持氏が代表取締役に就いて驚いたのは残業がほとんどないこと。働き方改革の推進が叫ばれる中で、就業時間の中でいかに仕事を終わらせようという考え方が定着している。家庭で家事や子育てに追われる女性が社員の6割を超えることも作用しているようだ。

代表取締役就任に当たって剣持氏は社員に向けて「基本的に前任者の路線を踏襲していく。世の中の情勢は変わりその時々に応じて対応していかなければならないが、大元の本質は今まで通り変わらない」と話したという。組織運営に当たっては「企業は人」という基本的な考え方は創業者と共有しており、「『人を大事にする会社』を続けていき、社員同士の信用による横のつながりを強め、そのうえで相乗効果、生産性向上につなげ、理想型の組織に近づけたい」と今後を見据える。

事業運営については「全く新しい分野を開拓することはない」としながらも、「熟練の社員が若手を指導し、会社で機能している技術的な強みを生かし、今はパイを広げることに注力している。現状維持で良しとすると会社は伸びない。ある程度の拡大を考えていって、その結果、現状維持ができるくらいの気持ちでいる」と語る。その意味で、人材の採用にも動いており、2023年2月に男性1人を中途で、4月には新卒の女性1人を採用しており、今後も随時増員していく方針だ。

素材プレス加工を基盤にクリーンな事業分野で発展する異色企業  宇都宮産業(群馬県)
宇都宮産業では定時で仕事を終わらせる考え方が定着している。社員の女性比率は6割を超える

ホームページを充実し、分かりやすく正確な企業情報を発信

一方、対外的な企業情報の発信も怠らない。ホームページは10年以上前に開設し、作成ソフトは順次バージョンアップし、現在も最新バージョンを活用している。剣持氏は「当社はBtoB(企業対企業)の事業なので、ホームページを通じて一般の人に閲覧してもらい、商品をアピールしていく必要はあまり感じていない」と言う。

しかし、宇都宮産業と新規に取引を始める場合に取引先からすればホームページの存在は取引の判断材料になる。このため、「当社がどんな事業をしていて、どんな製品を扱っているかを正しく理解してもらえるようなわかりやすいホームページになっていれば取引先は安心感を持てる」とし、その時々に応じたリニューアルの必要性を説く。

フィルターをはじめ「環境」が共通項の事業を手掛けており、前々から「クリーンなイメージ」をホームページ上で打ち出している。さらに「当社にはまだまだハードルは高いにしても、ホームページからEC(電子商取引)サイトや何かを売り込んでいく時代が来るかもしれない」とその先も見据えるほか、人材採用活動にも活用している。

200社の取引先を抱え、2010年代前半から販売管理業務、給与計算のシステム化で業務改善を進める

素材プレス加工を基盤にクリーンな事業分野で発展する異色企業  宇都宮産業(群馬県)
本社1階のプレス加工の作業場。取引先は200社程度、アイテム数も多く、販売管理業務の効率化は不可欠だ

現在地に本社・工場を移転した10年程前から販売管理ソフトや給与計算ソフトを導入し、販売管理や社内の業務改善を進めてきた。宇都宮産業の場合は特に取引先が200社程度、しかも製品のアイテム数もかなり多く、煩雑な伝票入力の簡略化はもちろん、販売管理から仕入・在庫・生産管理までの一連の業務をトータルに処理できる販売管理業務のデジタル化は不可欠だった。

剣持社長は販売管理、給与管理システムの導入について「当時は社員も仕事も増え、さらに取引先が増えて、それらの管理が必要になり、導入に至ったようだ。現在の取引先の数などを考えれば、その当時に導入していなかったらどうなっていたかと思う」と適切なシステム導入を評価する。直近でも法制度の改正に対応し、最新のバージョンアップを図っている。

業務管理のデジタル化に対して、剣持氏は「徐々に進めていきたい」と話す。現状で宇都宮産業は「基本的な事業形態を崩さず、今手掛けている仕事のキャパシティを増やしていき、そのためには設備投資もする」(剣持氏)ことに重点を置いている。「その結果、社員数が倍になり、第二工場を設けられるようになれば、デジタル化の効果もわかりやすく見出せてくる」(同)と、将来のデジタル化推進を視野に入れる。

企業概要

会社名株式会社宇都宮産業
住所群馬県伊勢崎市市場町2丁目950
HPhttps://utsunomiyasangyou.biz/
電話0270-20-8910
設立1992年2月
従業員数24人
事業内容プレス加工、縫製加工、クリーン機器販売、フィルター販売、設備工事