健康経営の推進で創業146年の長寿企業に新しい風を吹き込む建設会社 常陽建設(茨城県)

目次

  1. 国の公共事業を中心に河川工事に強み ICT施工もいち早く採用
  2. 土木業の担い手作りに注力 専門学校の学生向けに現場見学会実施筑波大との連携で様々な提案を受け、10年備蓄できる「JOYO水」を近隣市町村に寄付
  3. 6代目が取り組む「多様性を循環できる組織づくり」 一番力を入れたのが「社員は宝」、だから健康経営の推進
  4. スマートウォッチを支給しホームページ内に社員の健康管理を可視化するページを作成 更に人間ドック、脳ドックの実施 休職の場合の所得を補填する保険にも加入
  5. 健康経営優良法人認定制度で「ブライト500」を目指す 社員の健康情報を管理・分析できるシステムを導入
  6. 「『和』する心」で、社員一人ひとりが主役の会社に ダイバーシティ経営のスタートに立ったばかりと自戒を忘れない
  7. 全社を挙げて表現力・発信力の向上を進め、企業価値の向上と建設業の魅力アップに挑戦
中小企業応援サイト 編集部
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常陽建設株式会社は茨城県取手市にを本拠に、国の公共事業を中心に土木工事、河川工事を主体に事業を展開している。創業は1877年で、146年の長い歴史の中で築き上げてきた信頼と実績をベースに、地域に貢献する建設会社として地歩を確立してきた。一方で、先端のICT(情報通信技術)を活用した施工をいち早く採り入れるなど技術と創意工夫のものづくりへの挑戦は怠らない。2022年4月に6代目社長に就いた女性経営者の飯田竹世代表取締役は社員一人ひとりの「人間力」向上を目指し、働き方改革の一環として健康経営を推進するなど、長寿企業に甘んじることなく新しい風を吹き込んでいる。(TOP写真:常陽建設が施工した国土交通省関東地方整備局下館河川事務所が発注した小貝川右岸中内築堤工事)

国の公共事業を中心に河川工事に強み ICT施工もいち早く採用

健康経営の推進で創業146年の長寿企業に新しい風を吹き込む建設会社 常陽建設(茨城県)
茨城県取手市にある常陽建設の社屋。近くには創業のきっかけとなった一級河川の小貝川が流れる

常陽建設は1877年5月創業の「笹屋組」が前身だ。取手市内を流れる一級河川の小貝川の流域は堤防が決壊するなどたびたび水害に見舞われ、地元の復旧工事のために立ち上げた。戦時中に一時事業は中断したものの、戦後の1949年10月に株式会社として常陽建設を設立し、今日に至っている。

施工実績は地元の茨城県はもとより埼玉県、千葉県、東京都と広範で、国の公共事業を中心に請け負い、特に創業時から培ってきた河川工事に強みを持つ。技術面ではICTによる施工をいち早く取り入れ、2013年ごろからドローン(無人飛行機)を活用した施工を手掛けるなど先駆的な取り組みを展開している。

従業員数は現在24人。30年程前までは100人程度を抱えていた。建設不況を背景に、作業員を雇用して施工する「直営」から協力会社を下請けとする形態に切り替えたためこの規模となった。現在は社員が3人1組体制で技術管理・指導を徹底しながら数社の協力会社を使っている。

土木業の担い手作りに注力 専門学校の学生向けに現場見学会実施筑波大との連携で様々な提案を受け、10年備蓄できる「JOYO水」を近隣市町村に寄付

健康経営の推進で創業146年の長寿企業に新しい風を吹き込む建設会社 常陽建設(茨城県)
筑波大との連携で生まれた災害用備蓄飲料水「JOYO水」を保管している倉庫

土木業の担い手作りにも力を入れる。専門学校の学生を中心に現場見学会を開催しており、2つの専門学校は授業に組み込んでいるほどだ。参加者はこの10年間で累計1,000人を超えた。

さらに、筑波大学芸術系の原忠信研究室と連携し、建設業のブランディングを実施し、自らの企業価値のみならず寄贈は土木業の魅力向上に取り組んだ。この中のブランド定義ワークショップでは学生側から「一つに統一しない3パターンの作業服」や現場見学のガイドブック、常陽建設の仕事ぶりを紹介するラップミュージック「Joyo Rap」(現在は自社ホームページに掲載)など7つの提案を受けた。中でも河川工事と関連性の高い防災への対応として「非常用」と社名の「常陽」をかけた10年間保存できる災害用備蓄飲料水「JOYO水」は3万本を作り、近隣の市町村などに寄贈する。

6代目が取り組む「多様性を循環できる組織づくり」 一番力を入れたのが「社員は宝」、だから健康経営の推進

健康経営の推進で創業146年の長寿企業に新しい風を吹き込む建設会社 常陽建設(茨城県)
健康経営の推進のため社内に設けた本格的なジム

この長寿企業を率いるのが2022年4月に就任した飯田社長だ。前身の笹屋組から数えて6代目に当たる。就任とほぼ同時に取り組んできたのが「多様性を循環できる組織づくり」を目指すダイバーシティ(多様性)経営と働き方改革の推進だ。

「就任してからほぼ1年半の間、働き方改革に沿って一番推し進めてきたのは健康経営だった」と飯田社長は振り返る。その理由は「社員は宝であり、社員がいなくなったら会社は成り立たない。その意味でも社員一人ひとりのパフォーマンスはすごく大切になる」として、先代の父親がよく語っていた「社員を大切にする心」が健康経営推進へと突き動かした。

スマートウォッチを支給しホームページ内に社員の健康管理を可視化するページを作成 更に人間ドック、脳ドックの実施 休職の場合の所得を補填する保険にも加入

健康経営で真っ先に取り組んだのは社員全員へのスマートウォッチの支給だった。社員には既にスマートフォンを所持させており、健康チェックを連動できるからだ。また、社内にはアスレチックマシンを備えた本格的なジムを設置し、社員が気軽に利用できる環境を整えた。

さらに、毎朝の体調管理も取り入れた。直近でこれに効果的に機能しているのが企業の健康経営を支援するホームページソリューションで、2023年6月から本格的に活用している。これは2022年9月に自社ホームページをリニューアルした際に導入を決めていたもので、社員が現在の気分・調子や体調・体温を入力することで、日々のデータの分析をもとにアドバイスが表示され、セルフチェックが可能となる。いわば社員が自らの健康状態を可視化できるのが特徴で、社員の健康保持、メンタルヘルスにもつながる。

健康経営への取り組みについては、既に従来の一般的な定期健康診断から全社員を対象にした人間ドックの検診に切り替え、脳ドック検診も全社員に実施している。

また、社員がケガや病気で長期にわたり休職した場合に所得を補償する「GLTD保険」と呼ばれる団体長期障害所得補償保険に加入している。これは社会保険で補えない所得の喪失を補償する保険で、1年半支給される傷病手当金が切れた後でも保険金が支給されるほか、所属していた会社を退職し転職するまで補償される。

飯田社長はこの点について「GLTD保険に加入していれば、働けなくなった場合を不安視する社員に安心感を与えることができる。会社として社員に対して『安心・安全な場所』をつくり、提供することを狙った」と語る。

健康経営優良法人認定制度で「ブライト500」を目指す 社員の健康情報を管理・分析できるシステムを導入

健康経営の推進で創業146年の長寿企業に新しい風を吹き込む建設会社 常陽建設(茨城県)
6代目の飯田社長はソリューション導入で健康経営の更なる高みを目指す

こうした一連の健康経営への取り組みの結果、常陽建設は2023年3月、日本健康会議から従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する「健康経営」の取り組みが優良であるとして「健康経営優良法人2023(中小規模法人部門)」に認定された。

健康経営を支援するソリューションの活用は結果的に、取得を目指していた「健康経営優良法人2023」の認定後となった。ただ、常陽建設は健康経営で更なる高みとなる「ブライト500」(経済産業省が設計した健康経営優良法人認定制度における中小規模法人部門の上位500社に与えられる称号)を目指しており、このソリューションの採用に踏み切った。

それまでは社員の健康管理はスケジュール管理や日報などに使う業務管理グループウェアで対応してきた。しかし、このままでは単なる日報にとどまりデータ分析やアドバイスもできないことから、より広範囲で社員の健康情報を管理・分析できるこのソリューションでの管理に切り替えた。活用して間もないことから飯田社長は「今後、どう運用するかは次の課題」とし、常陽建設の健康経営への取り組みはこれを踏み台に新たな段階に入る。

「『和』する心」で、社員一人ひとりが主役の会社に ダイバーシティ経営のスタートに立ったばかりと自戒を忘れない

健康経営の推進で創業146年の長寿企業に新しい風を吹き込む建設会社 常陽建設(茨城県)
社屋の玄関に設けられた「意見箱」

常陽建設が健康経営を含めダイバーシティ経営と働き方改革を推し進めるベースにある考えは、社訓の「『和』する心」にある。飯田社長の祖父に当たる常陽建設の創設者、飯田栄造氏が掲げた社訓であり、栄造氏の語録には以下のようなくだりがある。

「聖徳太子は『十七条の憲法』の第一条に『和』をもって貴しとなすと定められ、人が生活していく上で、『和』が大切であることは千三百余年もの昔から教え伝えられており、『和する心』は、人生を素直にし・健康づくり・愛和の家庭、明朗な職場等々あらゆる生活の基盤になります。『和』なくして物事はまとまらないと言っても、過言でないと思います。」

飯田社長は「この社訓の精神が会社の根底にあるからこそ146年も続いたと感じている」と社訓への思いを語る。これを踏まえ、常陽建設は「安心・安全」を経営方針に掲げ、「個人の良さと個性を大切にして、技術と創意工夫のものづくりで、『安全・安心』に社員一人一人が主役となり、助け合いながら成長できる会社作りを目指します」と明記する。

この経営方針に沿って、常陽建設は「この会社の環境が共同性を創造していくと多様性につながると考え、今、多様性を循環する組織づくりに取り組んでいる」(飯田社長)。具体的な施策としては、社屋の玄関に「意見箱」を設け、業務改善や日頃感じていることなど社員の屈託のない意見などを「私の提案」として募っている。現在、40件程度の提案があり、「採用、不採用に分け、採用できる提案はすぐ実行に移している」(飯田社長)。

また、毎週、Web会議を使って開く工事関係者全員が参加する工程会議では、通常の工事の進捗状況やスケジュール管理などの連絡・報告を終えた後、全員が今週の「良かったこと」「悪かったこと」などをひと言話す機会を必ず設けている。飯田社長はこれらを通じて「社員が本音を話せる場の環境を整えている」と言う。

一方で、社員一人ひとりの「人間力」の向上にも力を入れている。一例は「寺子屋」と呼ぶ勉強の場の設置だ。建設業は土木一級・二級といった資格がものをいう世界であり、社員の成長と可能性を伸ばす機会と捉え、時間を気にせず資格受験を目指す社員が集まって受験に臨める場として活用している。

しかし、ダイバーシティ経営を標榜しながらも、現状はまだ多様性を受け入れる前の準備段階と飯田社長は認識している。飯田社長の言葉を借りると「多様性を受け入れる前に欠かせないのは、人はそれぞれ自分を理解することが一番大切で、自分に大切な価値観があるように他人にも大切な価値観がある。その意味で、今は自分との価値観の違いを否定せず、受容できる場づくりに努めている」。このため、社員には仕事における会話の際は力の押し合いとなるテニスのラリー型でなく、ボールを受け取り合うキャッチボール型とするように徹底している。

全社を挙げて表現力・発信力の向上を進め、企業価値の向上と建設業の魅力アップに挑戦

飯田社長は「今の時代は『表現の時代』、『発信の時代』になってきている。このため、社内みんなで何とか表現力や発信力を上げていこうと取り組んでいる」と話す。ホームページをリニューアルし、健康経営支援ソリューションを取り入れた理由も、ダイバーシティ経営や健康経営推進による働き方改革に取り組み、企業価値の向上に努めている姿を外部に発信するのが狙いだ。それは企業としての魅力を高め、人材の獲得や育成にもつながってくる。

建設業には往々にして「危険」「きつい」「汚い」のいわゆる「3K」のイメージが付きまとう。その結果、担い手不足は深刻だ。しかし、生活基盤には不可欠な存在であり、魅力を引き出す努力は業界に共通する課題である。その意味で、ものづくりを通じ「愛を地図に残す仕事」に向き合う長寿企業の常陽建設に新しい風を吹き込む飯田社長の挑戦は続く。

企業概要

会社名常陽建設株式会社
住所茨城県取手市藤代357-8
HPhttps://www.joyokk.com/
電話0297-83-5115
設立1949年10月
従業員数24人
事業内容土木工事業、建築工事業など