ラスクの専業製造受託からオリジナルブランド展開のカギは、ICTの導入で経営効率化を推進 ティンカーベル飯田(長野県)

目次

  1. 現社長が脱サラして創業、ラスクメーカーの協力工場としてスタート
  2. スーパーや土産品店など独自の販路を開拓
  3. 直販用の食パンを開発し、オリジナルブランド「□屋(しかくや)」を創設
  4. オリジナルブランド創設を機にホームページを開設。ネット通販を準備中
  5. 生産現場の機械化と事務部門のICT化で年商1億円の壁突破。その後さらに5割アップ
  6. クラウド型の販売管理システムを導入。得意先と商品のABC分析をチェック
  7. 栄養成分分析・食品表示作成ソフトを導入。独自商品の拡販に備える
  8. 商品名のラベル印刷は、オンデマンドプリンターを導入
  9. 地域に貢献し、従業員を守る
中小企業応援サイト 編集部
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長野県飯田市でラスク(焼き菓子の一種)を生産している株式会社ティンカーベル飯田は製造受託専業から脱し、次の成長を目指そうとしている。製造受託先以外の独自の販路を開拓するとともに、食パンなど独自の製品を開発・販売して、オリジナルブランドを確立することで、収益拡大を目指す。そのために販売管理システムや栄養成分計算・食品表示作成ソフトなどのICTを相次ぎ導入し、経営の効率化を進めている。(TOP写真:オリジナルブランド「□屋」の看板と食パンの直販店舗)

現社長が脱サラして創業、ラスクメーカーの協力工場としてスタート

ティンカーベル飯田は、長野県松本市に本店を置くティンカーベルの協力工場として設立。創業者で現在も代表取締役を務める牧野聡氏がラスクの材料を供給する会社の営業担当者として同メーカーに出入りしていた際に、ラスク工場を経営しないかと持ちかけられたのがきっかけだ。

牧野社長はもともと独立志向が強かったことから、パンやケーキの作り方を学んだり冷凍のパン生地を作って販売するなど研究を重ねてから、出身地の飯田市で、まず個人事業主として独立。その後、地元商工会議所の無担保・低金利融資制度を活用して2011年2月に独自資本で会社を設立し、本格的な工場の稼働にこぎ着けた。牧野社長が38歳の時だった。

ラスクの専業製造受託からオリジナルブランド展開のカギは、ICTの導入で経営効率化を推進 ティンカーベル飯田(長野県)
脱サラして起業した牧野社長

スーパーや土産品店など独自の販路を開拓

それから12年。松本市のメーカーにラスクを供給するための製造受託事業を主軸としつつも、独自にラスクの販路を開拓してきた。関東圏や中部圏のスーパーや土産品店が中心だ。ラスクは牛乳やハチミツ、チョコレートなどで味付けするが、納入先のスーパーや土産品店によって、牛乳の産地を指定してきたり、地元産のトマトやレモンを味付け用の材料として送ってきたりする。そうしたさまざまなニーズに「小ロットから大ロットまで、柔軟に対応できるのが当社の特徴です」と、牧野社長は胸を張る。

ただ、2020年以降のコロナ禍による全国的な観光産業の低迷に伴い、土産品店向けの売上が減少し、スーパー向けの比率が高まっているという。そのぶん、売上高はほぼ変わらないのに利益率が下がったそうだ。

直販用の食パンを開発し、オリジナルブランド「□屋(しかくや)」を創設

現在生産しているラスクは、ティンカーベルブランドかスーパーなどのOEM(相手先ブランドによる販売)でしか販売できない。そこで、ティンカーベル飯田が目指しているのは、ラスク以外の商品の開発・販売によるオリジナルブランドの確立だ。

2018年には「□屋(しかくや)」というブランドを作り、食パンの直販を始めた。ラスク工場の駐車場に小さな店舗を構え、食パンに加え、ラスクの規格外品も売るようにした。「食パンの一斤サイズをイメージしたデザインなのですが、あえて読みづらくしたので、最初は『くちや』とか『ろや』とかいろいろ言われました。一体何屋なのかと思わせることで、クルマで通りかかった人なども気になるようで、注目されました」と、牧野社長はブランド名に込めた狙いを語る。

食パンはラスクの材料として、もともと同社の工場で生産しているが、単独の商品として売り出すために牧野社長が新たに開発した。「温度を高くして短い時間で焼くと柔らかくなるとされているのですが、そうすると焼き足りないということもある。何度も試行錯誤しながら研究し、新しいオーブンも入れて、当社独自の焼き方を開発しました」

ラスクの専業製造受託からオリジナルブランド展開のカギは、ICTの導入で経営効率化を推進 ティンカーベル飯田(長野県)
試行錯誤を重ねて開発した食パン

午前10時半頃に開店し、食パンが売り切れ次第、閉店する。5年経った今も昼過ぎには閉店となる人気のパン屋さんだ。「もともと評価いただいている生地を使い、飽きられないように甘くしないで、ミルクを多めに入れています。ちょっと炙(あぶ)って食べるとミミまで美味しいと、お客さまは言ってくれます」(牧野社長)。

オリジナルブランド創設を機にホームページを開設。ネット通販を準備中

□屋というオリジナルブランドができたので、企業ホームページ作成ソフトを契約、ホームページも開設した。今後、□屋ブランドのラスクなどをホームページで通信販売していく計画だ。このため、ティンカーベルブランドとは材料の配合が異なるラスクを開発している。ネット通販を担当するのは牧野社長の長男で、大学を出て入社したばかりの牧野竜也さんだ。竜也さんはすでにLINEヤフー for Businessを使った食パンの予約販売を担当している。クレジット決済で予約した顧客は□屋の閉店後も食パンを受け取ることができる仕組みにしたのだ。

生産現場の機械化と事務部門のICT化で年商1億円の壁突破。その後さらに5割アップ

「売上を伸ばすためには、ある程度の機械化が必要でした」。牧野社長は年商400万円からスタートして順調に成長してきた同社が1億円の壁にぶち当たり、横ばい状態が続いた頃のことを振り返る。2019年前後に思い切って設備投資したことにより、年商1億円を超えるようになり、現在はさらにそこから5割ほどアップしているという。

クラウド型の販売管理システムを導入。得意先と商品のABC分析をチェック

生産現場の自動化、機械化だけでなく、ICTによる事務部門の効率化も進めた。その一つが2019年10月の消費税率改定に備えてその前年に導入した、クラウド型の販売管理システムだ。それまで使っていたシステムを新消費税率の10%と新たにできた軽減税率制度に対応させようとすると、更新費用がかなりかかることがわかり、目の前の税率改定だけでなく将来まで見据えた継続性のあるシステムにしようと考えた。クラウド型なので、2023年10月からのインボイス制度(適格請求書等保存方式)にも容易に対応できた上、今後の消費税率の改定もアップグレードするだけで済むと見ている。

牧野社長が同システムで特に重宝しているのが得意先と商品のそれぞれを売上によってランク分けするABC分析(重点分析)だ。「何種類ものラスクを納めている問屋さんの場合、どの商品が売れているかを把握し、売れていない商品があれば、そろそろ味を変えてみませんかと提案しなければいけない」(牧野社長)からだ。ほぼ毎日、ABC分析をチェックしているという。

ラスクの専業製造受託からオリジナルブランド展開のカギは、ICTの導入で経営効率化を推進 ティンカーベル飯田(長野県)
販売管理システムのABC分析をほぼ毎日チェック

2022年1月の改正電子帳簿保存法施行に伴い、請求書などの証憑類をクラウドストレージに保存するサービスの利用も始めた。同法はメールなど電子で送受信する取引書類は紙で印刷して保存せずに、電子ファイルのまま保存することを義務化しているためだ。牧野社長は「毎月使っているけど、簡単な仕組みなので本当に使いやすいサービスです」と語る。

栄養成分分析・食品表示作成ソフトを導入。独自商品の拡販に備える

ラスクの専業製造受託からオリジナルブランド展開のカギは、ICTの導入で経営効率化を推進 ティンカーベル飯田(長野県)
食品表示ラベルプリンター

さらに2023年には栄養成分計算・食品表示作成ソフトを導入した。食品の包装に貼る、商品名、原材料名、製造所名などの食品表示や栄養成分表が記載されたラベルを作成するためのソフトだ。同社は1日当たり約7万枚のラベルを使うが、従来は、大半は製造受託先からメールで送られてくるものを印刷するだけでよかった。独自商品のシールについては自社で栄養成分を計算し、印刷会社にシール作成を依頼していた。だが、ネット通販のスタートなどで今後、独自商品を本格的に開発・販売していく予定にあることから、新たに同ソフトを導入した。

新たに導入したソフトは、直観的な操作で関連法規に則った表示を作成できる上に、法改正に合わせて適切なタイミングでプログラム更新を行う仕組みだ。このため、「すごく安心だなと思って導入しました」(牧野社長)。

商品名のラベル印刷は、オンデマンドプリンターを導入

ラスクの専業製造受託からオリジナルブランド展開のカギは、ICTの導入で経営効率化を推進 ティンカーベル飯田(長野県)
ラスクの包装に貼られた商品名ラベル

商品の包装の裏側に貼る食品表示のラベルとは別に、表側に貼る「ミルクラスク」「はちみつラスク」といった商品名のラベルを印刷するために、オンデマンドプリンターも導入した。従来は複合機で印刷していたが、より高速に印刷したいと考えた。大量に印刷する場合は印刷会社に依頼するが、「小ロットのものに関しては自社で印刷すればロスがないので、コストが多少高くても安全ということで導入しました」(牧野社長)。販促用パンフレットの作成など、今後は長男の竜也さんらにラベル印刷以外の活用法も考えてもらう方針だ。

ラスクの専業製造受託からオリジナルブランド展開のカギは、ICTの導入で経営効率化を推進 ティンカーベル飯田(長野県)
商品名ラベルを印刷するために導入したオンデマンドプリンター

地域に貢献し、従業員を守る

ティンカーベル飯田は地域貢献の取り組みにも熱心だ。近隣の中学校の生徒による職場体験を受け入れたり、商業高校の文化祭でパンの仕入れ、販売を勉強するための模擬店の運営に協力したり、あるいは地域のお祭りにラスクを安価で提供したりしている。最近は、会社近くの山に生息するモリアオガエルがモデルのシンボルキャラクター「モーリーくん」のパンを高校生と一緒に開発した。

「飯田という地域で十分に存在感があって、大いに地域貢献ができる会社になり、恩返ししたいというのが一番の夢です」と牧野社長。最後に「今いる従業員には土日も出勤だ、残業だと無理して働いてもらった時期がありました。だからこそ、従業員を絶対に守っていきたいと思います」と強調した。

ラスクの専業製造受託からオリジナルブランド展開のカギは、ICTの導入で経営効率化を推進 ティンカーベル飯田(長野県)
「無理をさせた従業員を絶対に守る」と牧野社長

企業概要

会社名株式会社ティンカーベル飯田
本社長野県飯田市上郷別府3333-7
HPhttps://shikakuya.co.jp
電話0265-49-0812
設立2011年2月
従業員数20人
事業内容菓子製造業・販売業