中小企業のためのインボイス実務の始め方

目次

  1. インボイス制度開始後の、登録事業者の経理処理
  2. 登録事業者の経理処理の概要
  3. 売り手としての経理処理(販売の際の経理処理)
  4. 買い手としての経理処理(仕入・発注の際の経理処理)
  5. インボイスの発行や保存に対応する経理システムとは?
  6. インボイス制度の経過措置と特例措置
  7. まとめ

インボイス制度開始後の、登録事業者の経理処理

インボイス制度が開始になると、適格請求書発行事業者(以下、「登録事業者」という。)は、インボイス制度に対応した経理処理を行わなければなりません。
本記事では、登録事業者が、どのように経理実務の準備をすればいいのかについて解説します。 「その前に、そもそもインボイスってどんな制度なの?」という点から知りたい方は、「中小企業のためのインボイス入門」からお読みください。

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登録事業者の経理処理の概要

売上を計上する際は、適格請求書に記載された金額が売上高となるように仕訳処理を行い、適格請求書は保存しておく必要があります。 また消費税の課税事業者は、消費税額を計算する際に仕入にかかる消費税の金額を集計し、仕入税額控除の計算を行います。
売上にかかる消費税額から仕入税額控除の金額を差し引いて計算された金額を、税務署に納付しなければなりません。
この仕入税額控除の計算を正しく行わないと、仕入税額控除が認められず、消費税の納税額が大幅に増えてしまう可能性があります。
登録事業者になる場合は、適格請求書の保存など、これまでとは違う処理が必要となるため、仕入税額控除が問題なく受けられるように、経理処理を進める必要があります。

ただ、インボイス制度が導入されたら、まずは登録事業者になるかどうかを判断しなければなりません。
消費税の課税事業者である場合は、基本的に登録事業者になることに支障はありません。
一方、免税事業者である場合は、取引先の意向なども踏まえて、登録事業者になるかどうかを判断する必要があります。
そして登録事業者になることを決めた事業者は、税務署に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出します。
登録事業者の登録が完了した後は、社内で適格請求書を作成できる体制や、インボイスに沿った形で経理処理ができるような体制を構築しなければならないのです。

ここからは、インボイス制度によって登録事業者となった後、売り手として売上を計上した時と、買い手としての仕入を計上した時の双方の立場で、登録事業者としてどのように処理を進める必要があるのかを確認していきます。

売り手としての経理処理(販売の際の経理処理)

売り手として消費税の課税売上を計上した場合、どのような処理を進めるのでしょうか。
売上が発生したら、登録事業者は売上先に適格請求書を交付しなければなりません。 また、業種によっては納品書などの書類も交付することとなります。
これらの書類は、売上先の事業者が適格請求書として保管しておかなければなりません。
登録番号や適用税率、消費税額などを記載しなければならないため、記載漏れがなくこれらの書類を発行できるかを確認しておく必要があります。

適格請求書の記載事項と記載例は、国税庁のホームページで確認できます。

適格請求書
①適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
②取引年月日
③取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
⑤税率ごとに区分した消費税額等
⑥書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
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なお、この適格請求書1枚に対して、消費税の端数処理は1回のみ行うものとされます。
商品ごとに端数処理を行うと、消費税額が多くなったり少なくなったりして正しい計算とはなりません。
適格請求書の合計金額から消費税の計算を行うようにするなど、必ず正しい計算方法となることを確認しましょう。

取引の形態や支払方法によって、売上先に請求書を交付する場合と、納品書を交付する場合とがあります。
請求書を交付するのは、1か月分など一定期間の売上をまとめて相手に請求する場合です。
一方、売上が発生するたびに請求したり現金を受け取ったりする場合は、納品書を交付することがあります。
この場合、納品書を適格請求書とすることもできますが、必ず登録番号などの項目を記載しなければなりません。
また、納品書を適格請求書とする場合は、取引の都度消費税額を計算するため、請求書を交付する場合と消費税額が変わることとなります。

なお、消費者に対する売上が中心の事業者は、必ずしも適格請求書を発行する必要はありません。
消費者は適格請求書を使って仕入税額控除の計算をする必要がないからです。
ただ、個人相手に売上が発生する場合であっても、その人が個人事業主で消費税の計算をしなければならない場合はあります。
そのため、個人に対する売上が中心の課税事業者でも、登録事業者となっておく方がその後の取引を継続しやすいといえます。
また、小売業や飲食店業、タクシー業などの業種では、取引のたびに相手の氏名を確認することができないため、適格請求書ではなく適格簡易請求書を発行することができます。

適格請求書(適格簡易請求書を含む)を発行した登録事業者は、交付した適格請求書の写しを保存しておかなければなりません。
この写しに記載された金額に基づいて、登録事業者は売上を計上することとなります。

買い手としての経理処理(仕入・発注の際の経理処理)

登録事業者は、取引の売り手となると同時に買い手にもなります。
仕入や外注費、そのほかの費用など、消費税の課税取引に該当する支払を行うと、基本的に先方から適格請求書を交付されます。

ただし、課税取引を行ったからといって、すべての場合で適格請求書が交付されるとは限りません。
適格請求書を発行できるのは、税務署で登録を行った登録事業者だけだからです。
登録事業者になっていない事業者、あるいは一般消費者から仕入を行った場合は、適格請求書の交付を受けられません。

また、買い手の事業者となった場合に、適格請求書が必要になるとは限りません。
本則課税により消費税の計算を行う場合は、適格請求書を必ず保管しておかなければなりませんが、簡易課税制度を利用している場合は、仕入税額控除の計算を実際の仕入金額から計算するわけではないため、適格請求書を保管しておく必要はありません。

(1)仕入先・外注先が適格請求書発行事業者である場合の対応

仕入先や外注先が登録事業者である場合は、適格請求書を受け取ることとなります。
交付された適格請求書は7年間の保存義務があり、税務調査などで求められれば、税務署に提示しなければなりません。

また本則課税事業者は、仕入税額控除の計算を行うために、消費税率や消費税額に基づいて仕訳処理を行う必要があります。
この場合、帳簿の記載項目はこれまでと違いがありません。
ただ、3万円未満の公共交通機関や従業員への日当・通勤手当などは、適格請求書を保存しなくてもいいとする特例があります。
ただし、この特例の適用を受けるには、その旨を帳簿に記載しなければなりません。

(2)仕入先・外注先が適格請求書発行事業者ではない場合の対応

仕入先や外注先が登録事業者でない場合、支払先の事業者から適格請求書の交付を受けることはありません。
ただ、登録事業者でない事業者や一般消費者からの仕入については、その仕入の時期により消費税額の80%あるいは50%の仕入税額控除が受けられる経過措置が設けられています。
この経過措置の適用を受けるためには、帳簿に経過措置の適用を受ける旨を記載したうえで、仕入税額控除の計算を行います。
経過措置の対象になる仕入と、それ以外の仕入については明確に区分し、金額を集計しなければならないため、注意しましょう。

インボイスの発行や保存に対応する経理システムとは?

インボイス制度の導入により、経理処理や事務処理においてこれまでとは違う注意点が新たに発生しています。
どのような経理システムを導入する必要があり、どのような点に注意する必要があるのか、解説します。

売上計上に必要なシステム

登録事業者は、売上を計上する場合、基本的に適格請求書を発行しなければなりません。
適格請求書に記載された金額に基づいて、売上高とそれにかかる消費税額の仕訳処理を行う必要があります。

適格請求書を発行する場合、書面で作成し、その書面を交付する方法があります。
このほか、電子データを作成し、その電子データを売上先に交付することもできます。これを「電子インボイス」といいます。電子データとは、具体的には、以下のようなものです。

①光ディスク、磁気テープなどの媒体
②EDI取引により提供する電子データ
③電子メールにより提供する電子データ
④インターネット上のWebサイトを通じて提供する電子データ

書面で適格請求書を作成・交付した場合は、その書面の控を保存しておく必要があります。
書面のコピーを保存するか、PDFなどの電子データにして保存することができます。
電子データを作成・交付した場合は、その電子データで保存しておくか、データを印刷して保存しておくことができます。
(注)今回はインボイス(消費税法)の記事なので、その内容からは外れますが、所得税法、法人税法においては、2024年1月から電子取引データはデータのまま保存することが義務化されます(紙のみでの請求書等の保存は、所得税法、法人税法においてはNGとなります)。

請求システムと経理システムが連動している場合は、適格請求書の金額を入力することで、売上高に計上される金額が自動的に処理されます。
一方、請求システムと経理システムの連動がない場合には、適格請求書の金額を見ながら、経理処理を行うこととなります。

仕入計上に必要なシステム

登録事業者が消費税の計算を行う際に仕入税額控除の適用を受けるためには、適格請求書を保存しておく必要があります。
適格請求書を保存していなければ、仕入税額控除の適用は受けられなくなります。
もし、後から税務署の指摘を受けると、多額の追徴税額が発生するほか、延滞税や加算税などのペナルティも発生してしまいます。 絶対に、適格請求書を紛失しないようにしましょう。

電子帳簿保存法との関係

電子帳簿保存法は、2024年1月から適用開始が予定されている、税務上の書類の保存に関する法律です。
売り手と買い手の間で、請求書や領収書など、電子データのやり取りがあった場合、その電子データを印刷して保存することはできなくなり、そのデータのまま保存しておくことが求められます。
現在は、受け取った電子データを紙に印刷して保管することも認められますが、電子帳簿保存法が適用されると、そのような保管方法は認められないのです。

電子帳簿保存法への具体的な対応策は以下のコラムで解説しています!

電子帳簿保存法「電子取引データ保存」に向けた事務処理体制や保存ルール見直しのポイント
電子帳簿保存のメリットと設備投資や導入のポイント

インボイス制度の経過措置と特例措置

インボイス制度が開始されると、登録事業者以外からの仕入について仕入税額控除ができなくなります。
小規模な事業者には登録事業者にならない選択をする事業者も多いと想定され、その影響は取引先にまで及びます。
そこで、インボイス制度の開始に合わせて、多くの経過措置や特例が設けられています。

免税事業者からの仕入れに係る経過措置

免税事業者は登録事業者になることができず、適格請求書を発行することはできません。
そのため、免税珠業者から仕入を行っている事業者は、インボイス制度の開始と同時に仕入税額控除の金額が大きく減少し、消費税の納税額が大きく増える可能性があります。
そこで、免税事業者から仕入を行う場合、2023年10月1日~2026年9月30日までの仕入については、課税仕入にかかる消費税額の80%が控除できる経過措置が設けられます。
また、2026年10月1日~2029年9月30日は、課税仕入にかかる消費税額の50%が控除できることとされます。

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適格請求書等保存方式における特例

インボイス制度では、登録事業者から買い手の事業者に対して、適格請求書を交付しなければならないこととされています。
しかし、取引の内容によっては適格請求書を交付することが困難であるため、その交付義務が免除される特例が設けられています。

適格請求書の交付義務が免除される取引には、以下のようなものがあります。

・3万円未満の公共交通機関による旅客の運送
・卸売市場において行う生鮮食料品等の譲渡
・農協等に委託して行う農林水産物の譲渡
・3万円未満の自動販売機による販売
・郵便切手を対価とする郵便サービス

これらの取引を行うと、買い手の事業者に適格請求書が交付されないため、帳簿の保存だけで仕入税額控除の適用を受けられます。

課税仕入れに係る支払対価の額が1万円未満である場合の特例

消費税の基準期間(個人事業主の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度)における課税売上高が1億円以下、あるいは特定期間(個人事業主の場合は前年の1月1日~6月30日、法人の場合は前事業年度開始の日から6か月間)における課税売上高が5,000万円以下である事業者が対象となる特例です。
対象となる事業者は、2023年10月1日から2029年9月30日の間に行う課税仕入の対価の額が1万円未満である場合、帳簿の保存のみで仕入税額控除の適用が認められます。
少額の備品や消耗品の購入、従業員が使った高速料金の立替精算など、幅広く対象となる取引があります。

2割特例(免税事業者の課税事業者成りの場合)

これまで免税事業者として消費税の納税をしていなかった事業者がインボイス制度の導入を機に課税事業者となると、その納税負担はかなり大きくなります。
例えば、税込み売上高990万円の免税事業者が課税事業者になると、90万円を納税しなければならなくということです。
そこで、免税事業者が登録事業者となったことにより納付しなければならない消費税の金額を、売上にかかる消費税額から8割を控除した2割の金額とすることで、その負担を大きく減らす特例が設けられます。
上記の例では90万円の2割の18万円だけ納税すればよいことになります。
なお、この特例が適用されるのは、2023年10月1日~2026年9月30日の属する事業年度とされています。
売上にかかる消費税額から納税額を計算するのは、簡易課税制度を利用した場合と同様です。
8割の消費税額が控除できること、そして仕入に関する経理処理が省略できることは、初めて消費税を負担する事業者にとって大きな負担軽減となります。

まとめ

インボイス対応実務のキモとなるのは、適格請求書の発行と保存です。請求書のフォーマット変更のためには、請求システムの変更も必要となるため、準備には早めに着手しましょう。

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記事執筆
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