ヤマト運輸は、2024年1月 末で小物・薄物荷物の配達業務を日本郵便に移管するため、業務を委託している個人事業主らとの契約を終了した。 ヤマト運輸と日本郵便は、今回の移管を手始めに今後「物流2024問題」に向けて協業を進めていくと見られる。

物流2024問題に向けた協業の序章 ヤマト運輸が薄物・小物荷物の配送を日本郵便に移管
(画像=AkioMic/stock.adobe.com)

「ネコポス」などの事業移管で約3万人と契約終了

2024年1月末、ヤマト運輸は「クロネコDM便」「ネコポス」といった小物・薄物荷物の仕分けや配達業務に従事していた約3万人の従業員との契約を終了した。これまで両サービスの配送について、約2万5,000人の個人事業主に委託、また両サービスの仕分け業務には、約4,000名のパート社員が従事していた。

ヤマト運輸が2つのサービスを日本郵便へ移管すると発表したのは、2023 年10月のことだ。カタログやダイレクトメールを配送する「クロネコDM便」は、「クロネコゆうメール」、受取ポストに投函する「ネコポス」は「クロネコゆうパケット」と日本郵便の類似サービス名を含めた名称に変更された。ヤマト運輸は集荷だけ行い、配達は日本郵便が行っている。

かつてヤマト運輸と日本郵便は、小型・薄物の荷物をめぐって熾烈なシェア争いを繰り広げ、日本郵便は、ヤマト運輸にシェアを奪われた。しかし宅配便が本業であるヤマト運輸にとって小型・薄物荷物は宅配便とは勝手が違い、現場に負荷がかかっていたようだ。仕分け方法は、宅配便とは異なり、配達・ポストへの投函も宅配便のドライバーではなく外部への委託に頼っていた。

今回の連携は、キャパシティの限界を感じたヤマト運輸側から持ちかけたという。

今後は冷蔵・冷凍トラックの共同利用も

ヤマト運輸が日本郵便と連携を行った背景には「物流2024年問題」があるといわれる。物流2024年問題とは、2024年4月からトラックドライバーの年間残業時間が上限960時間に制限されることにより、輸送能力が低下し「ほしいときに荷物が届かない」といった問題が起こることだ。

ヤマト運輸と日本郵便は今後、冷凍・冷蔵トラックや郵便ポストの共同利用、郵便局でのヤマト運輸の荷物受取などを構想しているという。ドライバー不足や荷物の再配達問題の解決につながるものとしては、これらの施策が「本丸」である。今回の事業移管の目的は、ヤマト運輸の合理化であり日本郵便との協業の取り掛かり的な意味づけのようにも思える。

ヤマト運輸にとって今回の移管により、個人事業主に支払っていた委託料よりも日本郵便に支払う委託料を低く抑えることができれば、コストカットと連携強化という2つのメリットを得られる。一方の日本郵便にとっても、かつてヤマト運輸に奪われた利益を取り戻せるチャンスになるだろう。

流通業界における持続可能な経営

ヤマト運輸の薄物・小物荷物の日本郵便への移管は、物流2024年問題の直接的な解決策ではない。しかし同業他社の持つ物流網や資産の助けを借りながら自社の不足を補って持続可能な経営を行おうとする流れは、ヤマト運輸と日本郵便に限らず、流通業界において他社間でも進むだろう。今後の動きに注目したい。

文・せがわ あき
会計事務所に10年勤務。その後、会計ソフトメーカーでの勤務を経て、現在は会計・税務・金融などをテーマにライティング活動を行う。会計事務所では、顧問先の会計業務や融資支援に従事。融資のための提出資料作成や融資・資金繰りのアドバイスなどを行う。会計ソフトメーカー時代には、お客様対応業務に加えてソフト開発にも携わり、お客様の声を製品に反映させる仕事に従事。

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