2023年を振り返って ChatGPT、キャッシュレス、資産形成、人材確保など

2023年も終わりを迎えようとしています。金融とデジタルの視点で社会を観察し、情報を発信するオクトノット編集部でもいろいろな変化を感じた1年でした。社会の動向に沿って2023年を振り返ります。

目次

  1. 生成AIの隆盛とAIガバナンス
  2. 量子コンピュータの認知向上
  3. キャッシュレス決済の普及
  4. 資産形成を後押しするテクノロジー
  5. 人材不足の処方箋
  6. 終わりに

生成AIの隆盛とAIガバナンス

2023年は生成AIに注目が集まった年でした。2022年11月にサービスを開始したChatGPTはたいへんな勢いで広まりました。検索サイトに工夫してキーワードを入力して検索するスタイルから、少し詳しい人にお願いや質問をするように文章を入力することで、かなりの精度の回答を得て作業を進めることが多くなりました。業務の効率化が期待されていますが、いまだ強力なユースケースは出ているとは言えません。しかし生成AIの利用で私たちが何かを調べることは明らかに効率化しています。

一方で生成AIの利用に慎重な姿勢をとる企業も増えてきており、2023年3月頃から国内外の金融機関を含む多くの企業で生成AIの利用を禁止する動きも出てきました。これに対し、ChatGPTを提供するOpenAIは、かねてより提携関係にあったMicrosoftと共同でAzure OpenAI Serviceを提供しました。このサービスは、企業の機密情報を保護しながら生成AIである程度の品質の回答を利用することができるサービスで、多くの企業が採用を決定するようになりました。Microsoftは2023年7月にMetaと生成AIで提携を発表しており生成AIの中心的なプレイヤーとなっています。

生成AIの利用が進むなか、AIガバナンスについても関心が高まっています。2010年代から始まった第三次AIブームで業務にもAIが使われることが多くなりました。企業で利用されるAIは、学習データの性質がモデルに反映されることもあり、社会的、倫理的な振る舞いが問題視されることもありました。このほかAIの利用による機密情報の漏洩や、他社の知的財産権等の権利侵害なども問題になります。

AIの挙動を適切にコントロールしたうえで社会活動に役立てるため、政府や業界団体、学術団体、企業などがAIのガイドラインを公表しています。AIガバナンスに対する取り組みは注目を集めており、AIの利用は、ガイドラインで提示された「原則」を、企業の業務として「実践」していくフェーズに入っています。

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Octo Knot(オクトノット)|AIガバナンスとは? AI時代におけるリスク管理の必要性と企業の取り組み方
技術の日進月歩とともに、AIは私たちのビジネスや生活のあらゆる場面に浸透しています。仕事や暮らしが便利になる一方で、AIの利活用にまつわる問題が顕在化。その流れから、金融機関をはじめ各企業において「AIガバナンス」の取り組みの強化が進んでいます。AIガバナンスがなぜ必要なのか、各国の動きや企業の取り組み事例とともに紹介します。

量子コンピュータの認知向上

2023年3月に理化学研究所が国産初の量子コンピュータの稼働を始め、量子コンピュータの認知が高まりました。量子コンピュータは、これまでのコンピュータが使っていた「電圧」による0か1のビットの表現ではなく、「量子ビット」を使い、1ビットで持てる情報量を膨大に増やすことができます。この量子ビットを使った量子コンピュータは、スーパーコンピュータで1万年かかる計算処理を200秒で実行したという発表もあり、その性能が期待されています。

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Octo Knot(オクトノット)|21世紀のほこ×たて!? 量子コンピュータとセキュリティの未来
既存のコンピュータよりも圧倒的な処理速度を持つことで、社会や経済を大きく変えると言われている「量子コンピュータ」。その一方で、量子コンピュータの登場によって、現状のデータ暗号化技術が脅威にさらされる可能性も指摘されています。まさに『ほこ×たて』とも言える両者は、今後どうなっていくのか。量子コンピュータの開発を担当するNTTデータの矢実貴志さんと、金融業界の暗号セキュリティの専門家であるNTTデータの阿久沢佑介さんの2人が語り合いました。

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Octo Knot(オクトノット)|量子コンピューターとは? しくみを図解でわかりやすく解説
量子力学の現象を利用して並列計算を実現する量子コンピュータは、従来型コンピュータより高速な計算が可能なため、現在各国でハードウェアの開発と適用に向けた研究が繰り広げられています。金融分野では暗号の危殆(きたい)化と、市場/信用リスク計算やデリバティブプライシングで利用されるモンテカルロシミュレーション(※1)への関心から、メガバンクを中心にいち早く活用に向けての取り組みが進んでいます。本コラムでは、量子コンピュータの基本的なおさらいと、金融業界をはじめとした社会的な影響などについてお話します。(※1)シミュレーションを何度も繰り返し、主に統計的に最も確率の高い解を得る計算手法。

この量子コンピュータの実用はしばらく先のようですが、ひとたび実現されたらこの高速な処理能力により大きなセキュリティリスクが発生します。量子コンピュータを使えば、インターネットで使われているRSA暗号や楕円曲線暗号などが簡単に解かれてしまうのです。これに対して「耐量子計算機暗号」という量子コンピュータを使っても解読が困難な暗号の標準化も進められています。「耐量子計算機暗号」のうち「格子暗号」が有力であり、オクトノットにも「格子暗号」について解説した記事があります。

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Octo Knot(オクトノット)|量子コンピュータが解読する暗号通信!次世代の格子暗号とその仕組み
量子コンピュータは、これまでスパコンでも困難だった計算が高速に行えるなど、さまざまな分野での応用が期待されています。一方で、その性能の高さにより現在一般的に利用されている暗号が解読できてしまうリスクも指摘されています。現在の量子コンピュータで実現している量子ビットの規模では、いまだ現在主流の暗号の解読にはいたっていません。今後の量子コンピュータの技術進歩を見越し、NIST(米国立標準技術研究所)は2030年までに新しい暗号方式へ切り替える計画を進行しています。本記事では、量子コンピュータによる暗号技術への影響、新しい暗号方式への切り替え計画、新しい暗号方式の1つである格子暗号の仕組みについてお伝えします。

キャッシュレス決済の普及

キャッシュレス決済もいっそう普及しました。新型コロナウイルス感染症の脅威も落ち着き、会食の会計や精算にキャッシュレス決済が使われることも多いです。2023年4月に経済産業省が、2022年のキャッシュレス決済の比率が36.0%であったと発表しました。2018年4月に経済産業省が発表した「キャッシュレス・ビジョン」で掲げた目標「2025年までにおよそ倍の4割程度、将来的には世界最高水準の80%の達成」に近づいています。こうした状況をまとめた記事を公開しています。

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Octo Knot(オクトノット)|キャッシュレス決済比率、2022年は36%。日本のキャッシュレス化は順調か?
2023年4月に、経済産業省より2022年のキャッシュレス決済比率が36.0%であったと発表されました。年間取扱高は100兆円の大台を超えて、111兆円にまで拡大しました。これらの情報はニュース報道などでも紹介されていたため、ご存じの方も多いのではないかと思います。一方で、この実績の背景で忘れてはならないのが、2018年4月に経済産業省が発表した「キャッシュレス・ビジョン」に端を発した一連の金融サービス業界の活動です。キャッシュレス・ビジョンが発表されて今年で5年を迎えますが、このキャッシュレス決済比率36.0%という実績は、どのような成果によって成されたのでしょうか。また、この拡大したという流れをどう評価するべきなのかについてご案内したいと思います。

また、クレジットカード決済やデビットカード決済、QRコード決済など、さまざまな種類に分かれるキャッシュレス決済について、利用者、店舗の視点で整理した記事も公開しています。この記事では、利用者や店舗にとって、どのキャッシュレス決済がおすすめなのかをまとめています。さらにキャッシュレス決済の普及が進む現在において、金融機関が着手すべきことについて提言しています。

2023年を振り返って ChatGPT、キャッシュレス、資産形成、人材確保など
Octo Knot(オクトノット)|利用者・店舗におすすめのキャッシュレス決済は?まさに今、銀行が取り組むべきことも解説
クレジットカード決済やデビットカード決済、QRコード決済など、さまざまな種類に分かれるキャッシュレス決済。「還元率が改悪されたから他のサービスを利用したい」「お客様がどのサービスを利用しているか分からない」などと思いながら、どのキャッシュレス決済を利用・導入すれば良いのか迷っている利用者・店舗も多いのではないでしょうか。また、多様なキャッシュレス決済が普及する中、銀行も今何をすべきか試行錯誤していることでしょう。そこで本記事では、利用者や店舗にとって、どのキャッシュレス決済が最適であり、おすすめなのかを深掘りしていきます。最後にはキャッシュレス決済の普及が進む現在において、銀行が着手すべきことについても提言しています。

資産形成を後押しするテクノロジー

2024年から導入される新しいNISA。大きな特徴は非課税保有期間が無期限化したこと、非課税投資枠が大幅に拡大したことです。政府が資産所得倍増プランを掲げ、あらためて「貯蓄から投資」へ転換を促す機運が高まるなか、投資に対するデジタル技術の活用も実現されています。2023年5月にリリースされた「ALTERNA(オルタナ)」もその一つ。ブロックチェーンを活用したデジタル証券として、個人投資に新たな選択肢をもたらすことが期待されています。

※記事執筆時点ではデジタル証券は新しいNISAの投資対象とはなっておりません。

「ALTERNA」を通じた不動産投資は、自分が大家さんになってテナントからの賃貸収入を配当として受け取る仕組みになっています。これまで、不動産分野は、個人向けの金融商品組成がなかなか上手くいっていなかった領域でした。個人投資家を対象として、小口化とある程度の流動性を確保するためにブロックチェーン技術を使って発行されるデジタル証券であるセキュリティトークンを活用していることが特徴的です。

2023年を振り返って ChatGPT、キャッシュレス、資産形成、人材確保など
Octo Knot(オクトノット)|デジタル証券が切り拓く投資の未来 アセットマネジメント新時代へ
昨今、政府が資産所得倍増プランを掲げるなど、あらためて「貯蓄から投資」へ転換を促す機運が高まりつつあります。そうしたなかで注目されているのが、投資分野におけるデジタル技術の活用です。2023年5月にリリースされた「ALTERNA(オルタナ)」もその一つ。ブロックチェーンを活用したデジタル証券として、個人投資に新たな選択肢をもたらすことが期待されています。今回はそんな「ALTERNA」を立ち上げた三井物産デジタル・アセットマネジメントの上野貴司さんと丸野宏之さん、金融・デジタル分野のビジョンメイキングに携わるNTTデータの山本英生さんが、金融とデジタルの可能性について語り合いました。「ALTERNA」を通じた投資体験の変革のその先に、アセットマネジメントの新たな世界像も見えてきました。

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Octo Knot(オクトノット)|個人の投資を変えるか!? デジタル証券「ALTERNA」がスタート
2023年5月22日、三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社(以下、MDM)が、個人投資家をターゲットとした新たな資産運用サービスとして「ALTERNA(オルタナ)」の提供開始を発表しました。MDMは、大手商社の三井物産と、気鋭のテック系スタートアップとして知られるLayerXなどとの共創によって生まれたジョイントベンチャー。大手商社による金融事業参入の観点でも注目が集まる新サービス。オクトノット編集部も記者発表を取材してきました。

資産形成においては「BaaS」も重要なキーワードになっています。さまざまな業種の企業が、自社のサービスと銀行の機能を組み合わせた新サービスの創出に挑戦しています。企業の活動に金融の機能を組み込む「Embedded Finance(組込型金融)」とともに金融と非金融の融合をあらわすキーワードになっています。2022年12月に開始した「dスマートバンク」は、三菱UFJ銀行とNTTドコモの業務提携により誕生したサービスです。

日常生活に欠かせない携帯電話の利用と金融サービスを組み合わせることでポイントの付与などのサービスが行われます。dポイントによるポイント投資をサポートするほか、お任せ資産運用などのサービスとの連携もあります。金融サービスへの強力な顧客接点となるスマートフォンを利用し、投資を積極的に行う環境も整備されつつあります。

2023年を振り返って ChatGPT、キャッシュレス、資産形成、人材確保など
Octo Knot(オクトノット)|NTTドコモ dスマートバンクの仕掛人と語る Embedded Financeの最新動向
昨今、さまざまな業種の企業が、自社のサービスと銀行の機能を組み合わせた新たなサービスの創出に挑戦しています。こうしたトレンドを象徴するキーワードが「Embedded Finance(組込型金融)」です。銀行による金融機能の提供をあらわす「BaaS」とともに盛り上がりを見ています。この分野には日本航空の「JAL NEOBANK」や、東日本旅客鉄道の「JRE BANK」など、大手企業からも続々と参入が相次いでいます。2022年12月に開始した「dスマートバンク」もそのひとつ。今回は「dスマートバンク」を立上げたNTTドコモの色川さんと、キャッシュレス界隈で活躍の幅を広げるNTTデータ経営研究所の大河原さんが、Embedded Financeの最新動向を語り合いました!

人材不足の処方箋

雇用の流動化が進むなか、企業の経営者、人事部門、また現場のみなさまはそれぞれの立場で、人材の育成や採用にお悩みを抱えていることでしょう。オクトノットでは2023年に「人材不足への処方箋」をテーマに記事を公開しています。NTTデータ社内での社内公募による人材流出の防ぎ方として、“新しいことに挑戦する”というミッションを持った常識外れの組織を作り、運営する取り組みが記事になっています。

2023年を振り返って ChatGPT、キャッシュレス、資産形成、人材確保など
Octo Knot(オクトノット)|シリーズ「人材不足への処方箋!」~第1回 常識外れが人材流出を防ぐ
優秀な人材を獲得したい経営者や人事部門の方は、常に採用や育成に悩んでいるでしょう。でもちょっと視点を変えると、人材確保しておく方法は他にもあるのです。オクトノットでは「人材不足への処方箋」と題し、人材不足の解決に取り組むNTTデータ コンサルティング&マーケティング事業部の近藤さんに、人材に対する新しい考え方をシリーズでご提案いただきます。1回目のテーマは、「新しいことに挑戦するミッションを持ったチームは、個人のキャリア確認を促し、組織へのエンゲージメントを高める」ことに着目した人材流出を防ぐ秘策の実体験のお話です。チームに社内公募で異動された山本さんと近藤さんの会話に人材流出を防ぐヒントあり!目から鱗が落ちること間違いなしです。

また、オープンで自律的なキャリア形成についての回では、「社員がキャリアと向き合うことは、組織へのエンゲージメントを高める作用があるため、最終的には転職を抑止する効果につながる」などの産業・組織心理学研究の仮説が、組織内で運用されている実態が生々しく語られています。

2023年を振り返って ChatGPT、キャッシュレス、資産形成、人材確保など
Octo Knot(オクトノット)|シリーズ「人材不足への処方箋!」~第2回 キャリアをオープンにして人材流出を防ぐ
転職することが当たり前になった今、社員の育成やキャリア形成についてお悩みの管理職・リーダーの方が多いと思います。どのようにしたら優秀な社員をつなぎとめておくことができるのか、適材適所のためには組織は何をしたらよいのか。その秘策の一つである「自律的なキャリア形成」についてご存じでしょうか。人気シリーズ「人材不足への処方箋」、第2回はキャリアをオープンにして話し合うことをテーマに、NTTデータ コンサルティング&マーケティング事業部の近藤さんと島野さんが、自組織の中でキャリア形成のために取り組まれた事例をご紹介します。キャリアをオープンにすれば、キャリアへの考え方も変わります!

これらの記事は人材の流動化が意識される現代の日本社会において、示唆に富む内容となっています。

終わりに

2023年、オクトノットは「金融×デジタル」をターゲットとし、独自の視点で情報を発信してきました。今年は、コロナ禍からの回復が本格化した年でした。そのなかで生成AIへの期待と不安、量子コンピュータへの注目、キャッシュレス決済の進展、資産形成の後押し、人材不足への対策を注目すべきトレンドとして取り上げました。2024年も独自の視点で読者のみなさまのお役に立つ、世の中に先んじた情報を発信していく予定です。

※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。
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