トラックドライバーの時間外労働に対する規制が厳しくなり、運送業界の労働力不足が深刻化すると言われている「2024年問題」。配送料金の値上がりや総量規制(荷受け個数の制限)など、さまざまな問題が発生する可能性があり、EC業界への影響も懸念されています。
2024年問題が目前に迫るなか、EC事業者さまには、どのような対策が求められているのでしょうか。
今回、株式会社スクロール360の常務取締役であり、EC物流のプロフェッショナルである高山隆司さんを講師にお迎えし、2024年問題がEC業界に与える影響と対策について解説していただきました。
荷主と配送キャリアが協力し、効率的な物流体制を構築する方法などについて、スクロール360の事例を交えてお伝えします。持続可能なEC物流を実現するために、ぜひ参考にしてください。
この記事は、2023年9月に開催したオンラインセミナー『「物流2024年問題」がEC業界に与える影響と対応策とは?EC物流の最前線』をもとに構成しています
目次
2024年問題のEC業界への影響とは?
物流の2024年問題とは、2024年4月1日からトラックドライバーの時間外労働の上限が年間960時間に制限されることに伴い、運送業界の労働力不足が深刻化すると言われている問題です。
運送業界は慢性的な人手不足であり、トラックドライバーの長時間労働によって労働力不足をカバーしてきました。しかし、2024年4月以降は現在のような長時間労働が難しくなり、トラックドライバー1人あたりの労働時間が減るため、運送業界の人手不足が加速する見通しです。
高山さんは、2024年問題がEC業界に及ぼす影響について、次のような見通しを示しました。
トラックドライバーの時間外労働の上限が年間960時間に制限されると、運送業界全体で輸送力が低下し、運べる荷物の数が減ってしまう可能性があります。大手宅配会社はすでに必要な人員を配置しているようですので、宅配便の荷物をすぐに運べなくなるような事態は避けられるでしょう。
しかし、ドライバーの絶対数が不足していることに変わりはありません。Eコマースの荷物が今後も増え続ける見通しであることを踏まえると、総量規制や翌日配達エリアの縮小、運賃の値上げなど、EC業界にもさまざまな影響が出るのではないかと危惧しています
2024年4月以降に起こりうるEC物流の課題
2024年4月以降、EC物流にどのような問題が起こるのでしょうか。高山さんは将来起こりうる主な問題として次の4つを挙げました。
1.配送料金の値上げ
トラックドライバーの絶対数が不足すると賃金に上昇圧力がかかり、配送会社にとってコストアップになる。いずれ価格転嫁が進み、配送料金が値上がりする可能性がある。
2.荷物の引き取り時刻の前倒し
トラックドライバーの労働時間を短縮するために、荷物の引き取り時刻を前倒しする配送キャリアが出てくる可能性がある。
3.荷受け個数制限(総量規制)
配送キャリアの輸送キャパシティが限界を迎え、総量規制(荷受け個数の上限)が設定される可能性がある。
4.翌日配達エリアの縮小
配送キャリアが翌日到着エリアを縮小するなど、配送のリードタイムがこれまでよりも長くなる可能性がある。
高山さんは、こうした問題を乗り越えるには社会全体で物流の効率を上げていくとともに、「荷主と配送キャリアが協力してトラックドライバーの労働環境を改善していく必要がある」と指摘。配送料金の値上げをできる限り抑制し、荷物の引き取り時刻の前倒しや総量規制を回避するには、トラックドライバーの長時間労働の原因となっている商慣習を見直すために荷主側も努力することが必要だと強調しました。
これまで配送キャリアが担っていた業務の一部を物流センター側で行うなど、荷主と配送キャリアがパートナーシップをとって、トラックドライバーの労働環境を改善することが必要です(高山さん)
配送キャリアの負担を減らすEC物流の仕組み
荷主と配送キャリアがパートナーシップをとって、トラックドライバーの労働環境を改善する取り組みとは、具体的にはどのようなものなのでしょうか。高山さんは、スクロール360の物流センターの仕組みを例に挙げ、配送キャリア側の負担を減らすEC物流のあり方を解説してくださいました。
荷物サイズの計測を物流センター側で実施
荷物のサイズを計測する業務は、一般的には集荷担当のトラックドライバーが行うことが多いですが、スクロール360では荷物のサイズ計測を倉庫スタッフ(梱包スタッフ)が行っています。
まず商品を梱包する際に、段ボールに印刷されているバーコードを端末で読み取り、サイズ情報を送り状ナンバーと紐づけし、すべての荷物のサイズデータが当日中に配送キャリアに自動送信される仕組みを整えています。そのため、ドライバーは荷受け時の「荷物のサイズ計測」と「端末への入力」の必要がなくなります。
梱包フロアから積荷ターミナルまでベルトコンベアーで荷物を搬送
梱包した荷物は、梱包フロアから積荷ターミナルまでベルトコンベアーで搬送します。荷物を積んだカゴ車をトラックドライバーが運ぶ必要はなく、トラックドライバーの作業時間短縮につながっています。
配送方面別の仕分けを物流センターで実施
梱包した荷物を配送方面別(配送キャリアのハブキャリア別)に仕分けする作業は、集荷後に配送キャリアの拠点で行うことが多いですが、スクロール360の物流センターでは専用装置を使って仕分けを行っています。荷物を配送方面別に分けて、まとめて配送キャリアに渡すことで、配送キャリア側の作業時間削減に貢献しています。
高山さんは、こうした取り組みの目的について「従来は配送キャリアに任せることが多かった業務を物流センター側で行うことで、トラックドライバーの労働時間削減に貢献している」と説明。配送キャリア側の負担が軽くなるため、より良い条件で配送契約を結ぶことができると強調しました。
【配送キャリアの負担を減らすことで期待できる荷主側のメリット】
●配送キャリアの人件費を削減できるため、配送料金の抑制につながる ●配送キャリアはサイズ計測や仕分けなどの業務が不要になるため、集荷時刻を遅く設定できる ●配送キャリアの業務キャパシティに余裕が生まれ、総量規制の枠が広がる |
運送業界で進む物流改革の取り組み
このほかにも、運送業界では人手不足を解消するために、さまざまな対策が進んでいます。高山さんはモーダルシフトや中継輸送、貨物積み下ろし予約受付システムといった対策についても解説してくださいました。
モーダルシフト:トラックなど自動車で行っていた貨物輸送を、電車や船による輸送に切り替えること。トラックドライバーの人手不足解消に加え、CO2排出量を削減できる利点もある。
中継輸送:荷物の出荷地点と着荷地点の間に中継エリアを設け、中継地点でトラックを交換する輸送方法。例えば、東京・大阪間で荷物を輸送する場合、新東名高速道路の浜松サービスエリア隣接地の中継地点「コネクトエリア浜松」において、東京を出発したトラックドライバーは大阪から荷物を積んできたトラックに乗り換えて東京に戻る。一方、大阪から荷物を運んできたトラックドライバーは、東京から来たトラックに乗り換えて大阪に戻る。中継輸送を行うと、トラックドライバーは日帰りで自宅に戻ることが可能になり、労働時間の削減につながる。
貨物積み下ろし予約受付システム:物流倉庫での荷下ろしの際に、トラックバースが混雑して待ち時間が発生することがトラックドライバーの長時間労働の一因になっている。こうした課題を解決するために、スマートフォンでトラックバースの利用時刻を予約できる貨物積み下ろし予約受付システムが使われている。
物流アウトソーシングの注意点や委託先の選び方
今回のセミナーで高山さんが解説してくださったEC物流の仕組みを自社倉庫で実現することが難しい場合には、体制が整っている物流代行会社にアウトソーシングするのも選択肢の1つになります。
そういったことも踏まえ、セミナーの後半で高山さんは、物流のプロフェッショナルとしての視点から、物流アウトソーシングにおける注意点や委託先選びのポイントなどを解説してくださいました。
アウトソーシングを検討すべきタイミングや、アウトソーシングのメリット・デメリットなど、多くのEC事業者さまにとって参考になる情報です。物流に課題を感じているEC事業者さまは、ぜひ参考にしてください。
アウトソーシングを検討するタイミング
EC事業の売上高が伸びると、物流にまつわるさまざまな課題が生じます。EC・通販の物流倉庫における主な課題として、高山さんは次の4点を挙げ、「こうした課題に直面したらアウトソーシングを活用することも選択肢の1つになる」と説明しました。
●毎日の出荷業務をこなすことに四苦八苦している(人が足りない・残業が多い)
●セール期間や繁忙期など売上のピーク時に出荷が間に合わず、プロモーションを抑制せざるを得ない
●在庫数量や取扱アイテムを増やして売上を伸ばしたいが、保管スペースが足りない
●日々の出荷作業に追われ、商品開発や顧客開拓など売上を伸ばすための仕事を行う時間が取れない
物流の課題を放置していると、出荷が間に合わず納期が遅れたり、在庫が不足して受注キャンセルが生じたりするなど、さまざまなトラブルが発生します。クレームが増えてお店の評判が下がってしまうこともあるでしょう。また、物流業務にリソースを奪われて、売上を伸ばすための仕事に注力できなくなることも大きな問題です(高山さん)
アウトソーシングのメリット・デメリット
高山さんは、物流アウトソーシングのメリットとデメリットや、アウトソーシングする際の注意点などにもついて解説してくださいました。
【アウトソーシングのメリット】
●出荷量が増えても、出荷業務を気にせず販促に取り組める
●物流の波動(出荷量の増減)を吸収できる
●取扱商品の拡大や在庫の増加に伴うスペース不足を解消できる
●人員確保について心配する必要がなくなる
●土日出荷に対応している物流倉庫に委託することで、出荷リードタイムを短縮できる
●物流代行会社の安いタリフ(運賃)を利用することで、配送コストを削減できる
●顧客が多い地域の近くに出荷地を置くことで、配送コストを削減できる
●汎用的な梱包資材を使用することで、資材費を削減できる
●労務管理費や教育などの間接コストを削減できる
【アウトソーシングのデメリット】
●すべてにおいてルール化が必要(当日出荷の荷物は、正午までの受注データを13時までに倉庫側に送る 等)
●倉庫への指示を明確に行い、管理する必要がある
●全てのケースで物流費を削減できるとは限らない(例:自宅に在庫を保管し、自分で出荷している 等)
【アウトソーシングに必要な条件】
●出荷指示のデータ(CSV)を出力できる
●在庫のある受注のみを出荷指示し、在庫切れの受注をプールできる手段(システム)がある
●商品コードや品名がマスタ管理され、整備されている
●商材を外装で判断できる(商品管理バーコードなど)
●受注から出荷までのタイムチャートに無理がない
【物流倉庫選びで失敗しないためのポイント】
①アウトソーシングを活用しているショップ仲間に物流会社の評判を聞く
②マッチングサイトや比較サイトを活用し、よく調べる
③自社商品のジャンルが得意な物流会社を探す
④物流会社のホームページをしっかり確認する
⑤EC物流の実績がある物流会社を選ぶ
⑥規模の大きい物流会社を選ぶ(物流波動を吸収できる)
⑦必ず倉庫見学会に参加する
まとめ
今回のセミナーで高山さんは、持続可能なEC物流を実現するには、荷主側も努力する必要があることを強調していました。EC市場の拡大に伴い、宅配便の荷物が今後も増え続けることが予想されるなか、社会全体で物流の効率化に取り組むとともに、「荷主と配送キャリアが協力してEC物流を持続可能なものにする」という視点を持つことが重要になるでしょう。2024年問題は目前に迫っています。EC事業の競争力を高めるためにも、自社の物流体制を見直してみてください。
futureshopはEC物流サービスやWMSとも連携
株式会社フューチャーショップが提供しているSaaS型ECサイト構築プラットフォーム「futureshop」は、さまざまな物流代行サービスや倉庫管理システム(WMS)と連携しています。オプション機能を活用していただくと、futureshop側の受注データを物流倉庫側に自動的に飛ばすなど、出荷指示の効率化を図ることが可能です。詳しくは物流関連の連携サービス一覧ページをご覧ください。
また、futureshopはパートナー制度を設けており、物流支援や物流コンサルティングのパートナー企業さまもいらっしゃいます。EC物流の改善をご希望の店舗さまにパートナー企業さまをご紹介することも可能ですので、お気軽にお問い合わせください。
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