自社ECサイトの売上を安定的に伸ばすには、お店のリピーターを増やすことが欠かせません。しかし、「どのような施策を打てばリピート促進につながるのか分からない」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
そこで今回、ファンマーケティングに定評があるワイシャツ専門店「ozie(オジエ)」の柳田敏正社長をお招きし、お客さまとのつながりを生み出すSNS運営のコツや、リピート促進につながるメールマーケティングの取り組みについて解説していただきました。
自社ECサイトにおけるリピーターの注文比率が約80%を占めるなど、多くのファンに支持されている「ozie」の取り組みとは?その成功事例をお伝えします。
この記事は、株式会社フューチャーショップが2023年10月に開催したオンラインセミナー「ozieが目指すファンマーケティング ファンを生み出すサイト運営の秘訣と戦略」をもとに構成しています
株式会社柳田織物 代表取締役社長 柳田俊正(やなぎだ・としまさ)氏
目次
ワイシャツ専門のECサイト「ozie」とは?
「ozie」は1924年創業の老舗アパレル企業である株式会社柳田織物が2002年から運営しているネットショップです。生地やシャツの卸売りを手がけてきた同社は、アパレル業界のトレンドにいち早く対応し、2002年にBtoCのECサイトを立ち上げました。2014年には卸売りから撤退し、同時期に東京・六本木にショールームを開設。現在はECとショールームを組み合わせた独自のマーケティング手法でファンを増やしています。
広告費を削減してSNSやメルマガを強化
「ozie」はSNSを軸としたコンテンツマーケティングや、CRMツールを活用したメールマーケティグなど、顧客とのコミュニケーションを通じてリピーターを増やしてきました。
現在はInstagram、Facebook、X(旧Twitter)、YouTube、TikTokなどでコンテンツを発信しているほか、2022年秋にはCRMツールを導入してメルマガのシナリオ配信も開始。その結果、自社ECサイトのリピート率やLTVが向上したそうです。
弊社はECを始めた当初から、顧客との関係づくりを重視してきました。近年はその取り組みをさらに強化しています。現在、自社ECサイトの注文全体の約8割をリピーターさんが占めています(柳田社長)
「ozie」はSNS運用やメールマーケティングを強化している一方で、広告費を大幅に削減しています。2022年における自社ECサイトの広告費は、2019年比で約半分に減りました。その理由について柳田社長は「CPAが高騰している」ことや「オンライン広告の効果測定が難しくなっている」ことを上げ、広告に依存しないマーケティング手法にシフトしていると説明しました。
オンライン広告のCPAは以前と比べて高騰しています。また、サードパーティCookieに対する規制の強化や、iOSが広告ブロッキングをデフォルトにするなど、広告効果を正確に測定することも難しくなりました。こうした状況を踏まえ、広告に依存しないマーケティング手法にシフトしています(柳田社長)
SNSを軸としたコンテンツマーケティングの成功事例
ここからは、「ozie」が取り組んでいるファンマーケティングの成功事例を紹介します。その取り組みは多岐にわたりますが、今回は「SNSを軸としたコンテンツマーケティング」と「CRMツールを活用したメールマーケティング」について解説していただきました。
まずは、「ozie」が取り組んでいるコンテンツマーケティングです。「ozie」は10年以上前からブログやSNSで情報発信を行っており、ワイシャツの選び方や着こなし方、着用シーンごとのコーディネート、新着商品、お手入れのコツ、ozieのブランドストーリー、柳田社長のワイシャツへの思いまで、さまざまなコンテンツを発信しています。
現在はFacebook、Instagram、X(旧Twitter)、Pinterest、LINE、TikTok、YouTubeなど、さまざまなプラットフォームでコンテンツを発信。近年はショート動画にも力を入れており、柳田社長が出演しているショート動画をTikTokやYouTube、X、Instagramなどに頻繁に投稿しています。
「ozie」が投稿しているコンテンツについて詳しく知りたい方は、「ozie」のアカウントをご覧ください。
【ozieのSNSアカウント一覧】
Facebook / X(旧Twitter) / Instagram / YouTube / TikTok
ECサイトやショールームの集客に貢献
「ozie」がSNSの運用に力を入れている主な理由として、柳田社長は次の4点を挙げました。
①年齢・性別を問わず、情報を調べる方法がGoogle検索一辺倒ではなくなった
②見込み客(受動的なユーザー)にも「ozie」の存在を知ってもらえる
③メルマガの受信を拒否した既存顧客と接点を持つことができる
④文字よりも動画を見る方が楽というユーザーが増えている
弊社は以前からSNSや動画に取り組んでいましたが、特にコロナ禍以降、ユーザーの行動が変化し、SNSの重要性が一層高まったと感じています(柳田社長)
同社のコンテンツマーケティングは、ECサイトの集客に成果を上げています。柳田社長は「SNS経由でECサイトを訪れるユーザーの割合が高まっている」と説明した上で、その流入数は「検索エンジンや広告に迫る勢いで伸びている」と明かしました。
また、ショールームに初めて来店する顧客の大半が、来店前にYouTubeやSNSを見ていることにも言及。コンテンツを見てショールームを訪れ、試着してからECサイトで繰り返し購入するなど、LTVの向上にもつながっていると説明しました。
ショールームで試着したお客さまは、その後、ECサイトで繰り返し購入してくださることが多いです。ショールームに来てくださったお客さまのLTVは、ECのみで買うお客さまの約3倍です(柳田社長)
「フォロワーをむやみに増やさない」から濃いユーザーが多い
「ozie」のSNSアカウントのフォロワー数(または登録者数)はそれぞれ数百〜数千人います(セミナー開催時点)。フォロワーの人数について柳田社長は「むやみに増やそうとしたことはなく、フォロワーを集める目的でのキャンペーンも行っていない」と説明。ユーザーが求めている良質なコンテンツを投稿し続けることで、「ozie」の情報を求めている濃いユーザーを集めています。
膨大なコンテンツを作り続けられる仕組み
コンテンツマーケティングの課題の1つは、コンテンツ制作のリソースが不足したり、アイデアが枯渇したりしてしまうこと。コンテンツマーケティングの重要性を理解していても、こうした理由でコンテンツを作り続けることができず、アカウントの更新が止まってしまうこともあるでしょう。
「ozie」はその課題をクリアするため、1つのコンテンツを有効活用し、起点となるチャネルから他のチャネルにコンテンツを流用することで、制作にかかる手間と時間を減らしています。
(1)YouTubeからの展開
YouTubeに投稿した長尺動画をテキスト化し、ブログを制作。そのブログをLINEやFacebookに投稿してフォロワーに届けている。
(2)チャネルトークから展開
顧客からチャットで寄せられた質問を取り上げ、柳田社長が回答するショート動画を制作。TikTokやYouTube、Instagramのリールなどにアップしているほか、ショート動画のリンクをLINEやFacebookで拡散している。
(3)Instagramからの展開
Instagramに投稿したコーディネート写真をFacebookやECサイト、X(旧Twitter)、Pinterestなどにも掲載している。
(4)Live cottage(ライブコテージ)からの展開
ライブコマース配信ツール「Live cottage」によるライブ配信を、インスタライブとTikTokライブにも同時配信している。
メールマーケティングでリピート促進
ここからは「ozie」が取り組んでいるメールマーケティングについて解説します。
同社はECを開始した翌年の2003年から毎週欠かさずメルマガを送信するなど、メールマーケティングを非常に重視しています。シーズンアイテムの紹介やオススメ商品のレコメンド、人気ランキングなど、さまざまな企画のメルマガを作成。現在は、すべてのメルマガ会員を対象としたメールを週2回送信しているほか、会員の属性や行動データなどにもとづいたセグメントメールも送信しています。
柳田社長はメールマガジンを重視している理由について「パーソナルなメールボックスに情報を直接届けることができる」ことや「パーミッション(許可)を取っているから開封率が高い」といった特徴を挙げました。
メルマガのメリットについては「既存のお客さまとのコミュニケーションや、ozieのブランディングにおいて、とても重要な役割を果たしている」と説明。また、情報が溢れている現代は「商品やサービスが優れていても、ショップ側から継続的にアプローチしないと忘れられてしまう」と指摘した上で、「メルマガを送ることで、お店の存在を思い出してもらえる」と強調しました。
メルマガの受信を許可したお客さまは、情報を求めているわけですから、そういったお客さまにメールを送るのは決して迷惑なことではありません。「うちのお客さまはメール見る世代ではない」といった思い込みも捨てた方が良いでしょう。顧客の年齢層や男女比に関わらず、メルマガを試す価値はあると思います(柳田社長)
「成果」と「効率化」を両立するメルマガ配信の方法
「ozie」ではメルマガの効果改善と業務効率化を図るため、EC特化型のCRMプラットフォーム「actionlink(アクションリンク)」を2022年秋から使用しています。「アクションリンク」はECサイトの会員データベースや受注データなどを活用し、顧客ごとに最適化されたメッセージ配信(シナリオ配信)を自動化するツールです。
「ozie」はfutureshop側のデータを「アクションリンク」に連携することで、会員情報や購買データ、閲覧履歴などの行動データにもとづくワン・トゥ・ワンのシナリオ配信を実現。メルマガの効果改善と効率化の両立に成功しました。
今回のセミナーでは、「アクションリンク」を提供している株式会社ファブリカコミュニケーションズの中村高嗣さんにもご登壇いただき、柳田社長との対談形式で、メルマガで成果を出すポイントについて解説していただきました。
株式会社ファブリカコミュニケーションズ アクションリンクプロダクト責任者 中村 隆嗣 (なかむら・たかつぐ) 氏
アクションリンクでメルマガ配信を効率化
柳田社長はアクションリンクを導入した理由の1つとして「メルマガの制作や配信にかかる時間を短縮したかった」と説明しました。
メルマガの企画を考え、文章や画像を制作するには時間がかかります。セグメント配信を行うにはセグメントごとにメールを作成する必要がありますし、シナリオ配信を行うにはシナリオの分岐に合わせてさまざまなパターンのメールを作成しなくてはいけません。株式会社柳田織物はメルマガを社内で制作しているため、制作や配信設定などに相当な時間がかかっていたそうです。
柳田社長は「アクションリンク」を導入した成果について次のように説明しました。
カゴ落ち通知やレコメンド通知など、コンバージョン率の高いメルマガを自動的に生成・配信できるようになったことで、手間を増やすことなく、メルマガ経由の売上を増やすことができました。メールマーケティングの費用対効果が向上しています(柳田社長)
「鉄板シナリオ」でメルマガ配信の効果改善
「アクションリンク」は、これまでに実施してきたメールマーケティングの知見を活かし、コンバージョン効果が高いセグメント配信やステップメール配信などの「鉄板シナリオ」を提供しています。具体的には、次のようなシナリオ配信が可能です。
①顧客の行動データ(ECサイトの閲覧履歴や商品の購入履歴など)にもとづいて、顧客ごとに最適な商品をレコメンド
②ECサイトの受注データをもとにウィークリーランキングやマンスリーランキングを自動生成し、メルマガに掲載
③カゴ落ちした顧客に対して、カートに残っている商品の画像を掲載してリマインドメールを送信。2回目や3回目の配信シナリオもあらかじめ設定してオートメーション化
数千回に上るシナリオ配信のPDCAによって、効果が高いセグメントの作り方や、開封率の高い配信タイミングなど、さまざまな知見を蓄積してきました。その知見を「鉄板シナリオ」として提供しています(中村さん)
どのようなお客さまに、どういったメールを、どのタイミングで送るのがベストなのか。そういった設定まで自動的に行っていただけるので助かります。そして、「鉄板シナリオ」の開封率やクリック率、コンバージョン率などのデータを見て、効果の高さに驚きました(柳田社長)
成果が出るのは「コンテンツの質」があってこそ
セミナーの終盤、中村さんは「ozie」のメールマーケティングの成果が上がっている要因について、「コンテンツをしっかり作り込んでいるので、鉄板シナリオによってポテンシャルが引き出された」と説明しました。
ozieさんのメルマガには、商品やお客さまに対する思いが込められていますよね。コンテンツがしっかり作り込まれているので、鉄板シナリオによって、そのポテンシャルが引き出されたのだと思います(中村さん)
中村さんの指摘に対して柳田社長は「CRMツールを導入したら必ず成果が上がるわけではない」と応じた上で、メールマーケティングで成果を上げるポイントについて次のように訴えかけ、セミナーを締め括りました。
どのようなコンテンツを送れば、お客さまに喜んでいただけるか。そのことを徹底的に考え抜くことが大切だと思います(柳田社長)
まとめ
今回のセミナーでは、「ozie」が実際に行っているコンテンツマーケティングやメールマーケティングについて詳しく解説していただきました。コンテンツの作り方や、情報発信の方法など、なかなか知ることができない事例であり、ファンマーケティングのヒントを得られたのではないでしょうか。これからのEC運営に活かしていただければ幸いです。
株式会社フューチャーショップはEC事業者さまの売上アップや収益改善に役立つさまざまなセミナーを開催しています。futureshopをご利用中の店舗さまを対象としたfutureshopアカデミーのほか、店舗さま以外も参加可能なオープンセミナーも随時開催しています。今後の開催スケジュールはセミナーページに掲載していますので、そちらもぜひご覧ください。