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自動車産業を中心に〝モノづくりのメッカ〟といわれる愛知県の南西部に位置する西尾市。お茶の産地としても知られるこの地に本社を置く精密機器部品・金型部品加工の安藤木型株式会社は、モノづくり技術の変遷とともに新たな挑戦を重ね、事業を拡大してきた。社名が示す通り鋳造用木型製造で創業。その後自動車モデリング用木型から金型の一括受注生産、自動車部品や金型部品の精密加工へと事業の柱を移し、その高い技術力に裏打ちされた信頼が今日の同社を支えている。(TOP写真:第3工場に導入した5軸マシニングセンター。優秀な外国人エンジニアが使いこなしている)
社員がトヨタに5週間通ってCAD/CAMを一から学ぶ
安藤木型製作所(現安藤木型)の創業は1973年。自動車用エンジンなどの鋳物部品生産には今も欠かせない鋳造用木型製造で事業を始め、2年後には自動車のモデリングに進出した。当時はまだCAD/CAM(コンピューターによる設計・製造支援)が普及していなかったため、自動車用モデルは木型で製作されていた。
ダッシュボード、バンパー、グリルなどの木型モデルを手がけたのが、第一の挑戦だ。鋳物業界の苦境が予想されていたための事業転換だった。「当時の工場はいつも、木の香りに包まれていました」。創業者である安藤寛一代表取締役の次女で、現在は同社で総務・経理部門を統括する安藤光子取締役は、少女時代を懐かしく振り返る。
その後、トヨタのCAD/CAM開発・販売子会社が開発したCAD/CAMと、フライス加工や中ぐり、穴あけなど複数の切削加工を1台で行うマシニングセンター(MC)をセットで導入。若手社員がトヨタの社内教育に5週間ほど通ってCAD/CAMを習得。「CAD/CAMが普及すれば、やがて木型モデルの発注も減少していく」として、試作用金型に事業の核を移した。これが第二の挑戦で、金型工場が完成した1983年には法人化し、安藤木型株式会社を設立した。
「金型は中国には勝てない」。自動車部品の精密加工に事業転換
金型事業は試作から量産に広げ、設計から試作、トライ、量産までの一貫体制を整えた。しかし、一括受注だと支払サイトが長いため資金繰りが厳しく、中国などアジア勢との競争も激化。「価格競争でアジア勢には勝てない」(安藤社長)と判断し、金型の一括受注を止めて大型射出成型機など金型製造機械を売却。その資金で工作機械を揃え、自動車部品や金型部品の精密加工に事業転換したのが、第三の挑戦だ。
「社長にはいつも挑戦する気持ちが強く、はじめはわからないことばかりでも勉強して新しい仕事に挑む。自動車の産業規模も車づくりも大きく変わってきましたが、それに合わせて挑戦してきたのが当社の歴史です」。安藤取締役は父でもある社長のチャレンジ精神と事業への真摯(しんし)な姿勢に、敬服の念を隠さない。
先見の明が働き、リーマン・ショックもコロナも乗り切る
金属加工に転換したのは、2008年のリーマン・ショックの前年。リーマンの業績への影響は甚大で、「社長は『一冊の本が書ける』と言っているくらい」(安藤取締役)の苦境を味わったが、金型一括受注を止めて経営的にやや楽になったタイミングに多少は救われたのかもしれない。
コロナ禍の2021年春には第2工場横に第3工場を完成させ、5軸制御MCも導入した。機械購入には経済産業省の事業再構築補助金を活用したとはいえ、新工場建設は大型投資だった。「コロナ前に投資決定していましたので、鋼材高騰などの影響を受けないで済みました」(安藤取締役)という。ここでも社長の先見の明が働き、リーマン・ショック前は1社の系列に偏っていた受注先も複数系列に広がり、取引先の数も60社近くに拡大した。
「金属加工はなんでもやります」。単品や小ロットの多品種少量生産が武器
同社の最大の強みは、単品や小ロット品に対応した高い水準の精密加工技術力だ。MCを中心に放電加工機、グラファイト加工機、ガンドリル加工機などとともに3次元測定器も揃え、3次元加工にも対応できる。しかも、「他で断られた加工でもうちは断りません。鉄、アルミ、鋳物、銅など、どんな材料でもやります」(安藤取締役)と、「金属加工で困ったときの安藤木型」を売りにしている。
この技術力を可能にしているのは、中国とベトナム出身の外国人技術者たちだ。同社の現場技術者11人のうち9人が外国人で、皆全員が日本や現地の大学卒のエンジニアだ。17、8年前に日本の金型メーカーで働いていた中国人からの紹介がきっかけで、さらにその知人というように採用を増やし、優秀なエンジニアが集まった。
「日本語が堪能な人もいて、他の人も勉強家なので言葉で困ることはない。しかも、みんな多能工で、一人で同時に2、3台の機械を扱うことができるから、高品質で短納期の加工が可能。他社の人からは『運がよかったね』とよく言われるが、彼らの技術や能力を認めてあげれば、もともと能力のある人たちなので一生懸命やってくれます」と、安藤取締役はいう。
高性能スキャナーとNAS導入で月1,500枚の紙書類を半減へ
ICT化ではペーパーレスを目指している。多種少量の単品や小ロットの生産が主体であるだけに、FAXやメールからプリントアウトする見積書や発注書、図面、請求書などの紙書類は膨大になる。
2階事務所に複合機上で稼働する高性能スキャナーアプリケーションを搭載した最新型複合機を設置。プライベートクラウドを構築して、ファイルの保存や情報共有などを可能にするネットワーク型ハードディスクのNASも導入した。
「従来は2階のFAXに届いた見積依頼書などの紙を1階の現場にいちいち持って行っていましたが、1階の担当者と共有出来ている為、業務を効率化できている。FAX受信文書とスキャナーでデジタル化した文書は自動的にNASに保存され、社内で共有できるため、どんどん紙は不要になります」と安藤取締役。
まだ導入から間がないため具体的な効果を正確には把握していないが、安藤取締役は「これまでは1ヶ月で1,500枚くらいの紙文書を出していましたが、半減させるのは可能」と手応えを感じている様子。「書類は何でも電子保存して共有化できるようになれば、打ち合わせもパソコンを持って行けば紙文書は不要になります」として、早期のペーパーレス実現に意欲を見せる。
過去の見積書、図面などの電子保存で単価交渉など顧客対応を効率化
現在は同時に、10年分以上を保管して山積みになっている過去の見積書や図面などの書類の電子保存に取り組んでいる。まずは直近3年分くらいの電子保存を急ぎたい考えだそう。「古い書類も今までは怖くて捨てることができませんでした。それが捨てられるようになったのは大きな成果です」(安藤取締役)
工作機械の部品加工では、何年か前に受注した部品の再注文が入るケースもある。中には「何年も前の単価そのままで発注してくることもある」というが、電子保存しておけば過去の見積書や発注書、図面などの書類をすぐに取り出せるため、発注先との単価交渉にスムーズに入ることができる。「見積は今日依頼がきたら夕方には出してくれということが多いため、電子保存で情報共有ができていれば時間のロスを小さくして、効率的な顧客対応が可能になると思います」(安藤取締役)と期待する。
非自動車分野進出とICT化への次のチャレンジで経営の安定目指す
同社の取引先は、自動車部品関係が約9割近くを占め、残りは工作機械部品関係。リーマン以降、取引先の幅を広げてきたが、自動車部品主体は変わらず、自動車部品の中でもトヨタ系向けが約8割を占める。単品や小ロットの多品種少量生産が強みで小回りが利き、技術力もあるといっても、世界的趨勢である自動車の電動化が進めば、部品の種類、量ともに減少する可能性が高い。将来に向けて自動車比率を下げて経営の安定化を図るため、「社長は医療機器や半導体製造装置の部品加工を手がけることも考えているようです」(安藤取締役)。
新たな挑戦が始まろうとしている中で、安藤取締役は「社内システムのセキュリティ強化が課題になりますが、業務効率を上げるためのICTの活用を考えていく必要があります」と、ICTでも次のチャレンジに意欲を示している。
企業概要
会社名 | 安藤木型株式会社 |
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本社 | 愛知県西尾市東幡豆町鳶山1-6 |
HP | https://andokigata.co.jp/ |
電話 | 0563-62-2718 |
設立 | 1973年2月、設立1983年4月 |
従業員数 | 15人 |
事業内容 | 自動車部品・工作機械部品および金型部品の精密加工、金型製造など |