Jミルクは、「現代日本人が抱える低栄養問題『若い女性のやせ』『小中学生の栄養不足』」をテーマに、女子栄養大学栄養学部教授の上西一弘先生を招き、12月5日に第55回メディアミルクセミナーを開催した。今回のセミナーでは、「若い女性のやせ」および「小中学生の栄養不足」の最新実態やこれら課題における牛乳・乳製品の役割について、上西先生にわかりやすく解説してもらった。
セミナーの開催に先立ち、Jミルクの内橋政敏専務理事が挨拶した。「近年、若い日本女性のやせは、高齢者の低栄養とならび、解決すべき重要な健康課題となっている。Jミルクでも、今年10月に『若い女性の『やせ』と日本人の栄養問題 ~牛乳乳製品にできること~』と題したファクトブックを、上西先生の監修を受けて制作し、啓発活動に力を注いでいる。また、小中学生の栄養不足についても、『子どもたちに牛乳は必要か?』と題したファクトブックを制作したり、『土日ミルク』と銘打った啓発活動を推進している」と、今回のテーマに関するJミルクの取り組みを紹介。「牛乳・乳製品には、低栄養の課題解決に貢献できるエビデンスが多数示されており、特に、若い時代に牛乳・乳製品を欠かさずとることは、科学的に見ても合理的なことだと考えている。そこで、今回のメディミルクセミナーでは、この分野の専門家である上西先生に、低栄養問題の現状や牛乳・乳製品の役割について解説してもらうこととした」と、セミナー開催の趣旨について説明した。
そして、「現代日本人が抱える低栄養問題『若い女性のやせ』『小中学生の栄養不足』」をテーマに上西先生が講演を行った。「現在の日本の健康課題は、低栄養と過栄養が併存する状態となっている。その中で、低栄養において大きな課題となっているのが若年女性のやせの増加である。実際に、厚生労働省の国民健康・栄養調査では、20~29歳女性のエネルギー摂取量は1995年から2019年にかけて大きく減少している。また、エネルギー摂取量の減少にともない、カルシウムの摂取量も減少傾向にあり、ビタミンDの栄養状態も悪いことがわかった。さらに、最近の若年女性は運動習慣がある人の割合も少なく、身体活動レベルも低い状態になっている」と、現代の若い女性が抱える栄養課題を指摘する。
「一方で、こうした栄養課題を抱える若年女性は、見かけ上は健康であり、今の生活に不都合があるわけではない。しかし、実際に身体に影響が出てくるのは50~60年後で、最大骨量が少ないため、高齢者になってから骨粗しょう症や骨折のリスクが高くなることが懸念される。特に骨折・転倒は、要介護になる原因の第3位となっている」と、若い時代の低栄養は、将来の骨粗しょう症や骨折につながり、QOLを低下させる可能性があるのだと訴えた。「もう一つ、低栄養の若い女性の問題として、生まれる子どもに低出生体重児が多いことが挙げられる。出生時体重が2500g未満の低出生体重児は、将来、生活習慣病にかかるリスクが高くなるといわれている」と、子どもの健康状態にも影響を及ぼすことがわかってきていると話していた。
「次に、『小中学生の栄養不足』の問題としては、夏冬春の休みなど学校給食のない日に、特にカルシウムの不足傾向が強いことが指摘されている。また、痩身願望が低年齢化してきており、小中学生でダイエットをする子どもも増えてきている。しっかり骨をつくらないといけない時期にカルシウムが不足してしまうと、最大骨量の低下につながり、将来の大きな健康課題のリスク要因になりかねない」と、小中学生のカルシウム摂取量が低下している実状を紹介する。「学校給食が『ある日』と『ない日』の牛乳を飲んだ回数を調査したデータによると、学校給食が『ある日』は平均1本以上飲んでいるが、『ない日』は1本を下回る結果となった。また、学校給食が『ある日』と『ない日』の1日あたりのカルシウム摂取量についても、学校給食が『ない日』は、『ある日』の摂取量を大きく下回っていた」と、学校給食で飲む牛乳は、成長期の子どものカルシウム摂取に大きく貢献しているのだと強調した。
「今回説明した『若い女性のやせ』と『小中学生の栄養不足』の課題を踏まえて、子どもや若い女性に、牛乳・乳製品を摂ってほしい理由としては、『カルシウムの供給源』、『たんぱく質の供給源』、『その他の栄養素の供給源』、『水分補給、熱中症予防』、『バランスの良い食事』の5つが挙げられる」と、若い時代に牛乳・乳製品を積極的に摂ることは身体にとって様々なメリットがあるとのこと。「若い女性の中には、牛乳を飲むと太ると考えている人も多いが、我々が高校3年生の女子を対象に実施した調査では、牛乳を飲んでいる女子のほうが体脂肪率が低いという結果が出た」と、牛乳を飲むことで太ることはなく、栄養バランスがよくなって体脂肪率が低下する可能性が示唆されたと教えてくれた。