熱交換器開発の技術力でオンリーワンの存在。コロナ禍での劇的変化を体験し、新事業でキッチンカービジネスを始動 黒田製作所(群馬県)

目次

  1. プレス金型で創業。現在は自動車向け熱交換器が売上高の9割
  2. 設計から金型製作、量産化設備の製造までの「ワンストップ対応」は国内では黒田製作所1社だけ。しかも高精度のためオンリーワンの存在
  3. 駐在員事務所設置などで中国事業を拡大。売上の6割以上が中国系企業だったが、コロナ禍で撤退を決断
  4. コロナ後は国内需要が回復傾向。EV向け小型軽量の高機能熱交換器が求められるため、今後も同社の技術力が生かせる
  5. 新たな分野で新規事業。これまで培った金属加工技術で新タイプのキッチンカー開発。既存の小型貨物車に積載する構造で4ナンバーが可能に
  6. ハンバーガーの販売を開始。移動販売のフランチャイズ化も構想
  7. Webで個人向け情報発信強化。受け身から自社主導で能動的に
中小企業応援サイト 編集部
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自動車・家電用の熱交換器の開発では、国内で希少な存在となった有限会社黒田製作所(群馬県館林市)は、開発力では自動車部品メーカーからも頼られる存在だ。ただ、主力の中国向けビジネスから撤退したことで、曲がり角を迎えた。一つの事業に頼る経営の怖さを実感し、まったく畑が違うキッチンカーの製造と路面販売に乗り出した。一般消費者向けのビジネスのため、今後はICT活用を進めて拡大を図る計画だ。(TOP写真:第2工場内のマシニングセンター)

プレス金型で創業。現在は自動車向け熱交換器が売上高の9割

黒田製作所は、黒田正樹代表取締役社長の父親が1962年に創業した。当初は各産業向けのプレス金型を製造していたが、栃木県のアルミニウム加工会社と取引を始め、徐々に熱交換器の製造にシフトしていく。

熱交換器とは、文字通り低温と高温の温度差を利用して熱媒体により熱交換して冷却・加熱する機器で、自動車用だとカーエアコンが代表的。家電製品でもエアコンや冷蔵庫などに使われる。同社は外部から技術者を招き入れて、熱交換器用の金型の設計から製造までのノウハウを蓄積していく。自動車用ではエアコンだけでなく、エンジンの熱を冷却液で冷やすラジエーター、エンジンの吸入空気を冷却するインタークーラー、エンジンオイルを冷却するオイルクーラー、冷却水を暖房用に利用するヒーターコアなど、さまざまな熱交換器が必要だ。現在は本社工場と第2工場体制で、自動車向けの売上高は全社の9割を占めるまでになった。

設計から金型製作、量産化設備の製造までの「ワンストップ対応」は国内では黒田製作所1社だけ。しかも高精度のためオンリーワンの存在

父親の会社に入社した黒田社長は、10年以上前から事実上、会社を切り盛りしており、2020年に代表者となった。この間、外部から技術者を招き入れて熱交換器の製造ノウハウを蓄積した。自動車用熱交換器は新車開発で新規の開発が必要になる場合は、大手部品メーカーが自前で設計から製造まで行うが、中堅企業は黒田製作所のような専業に設計から金型製作、量産化設備の製造を依頼するモデルとなっている。

というのも、自動車用熱交換器は基本的な構造は変わっていないため、次第にコスト勝負となっていく。これに伴い、2000年ごろから国産メーカーが相次いで撤退したり、外資に買収されていく。製造も韓国、その後は中国に移っていった。国内で熱交換器を新規開発する場合、設計から金型製作、量産設備の製造まで「ワンストップで対応できる。これは国内では当社だけ」という希少な存在となった。

熱交換器開発の技術力でオンリーワンの存在。コロナ禍での劇的変化を体験し、新事業でキッチンカービジネスを始動 黒田製作所(群馬県)
自社の優位性を語る黒田正樹社長

海外製にシフトしていく中で、黒田製作所が生き残れた要因について、加工精度5マイクロメートル以下などの独自の技術を持っているためという。これを可能にしているのが、加工機械をどう扱うかというノウハウだ。これは「誰もまねできない技術。だから、値引き交渉には応じないと宣言している」(黒田社長)という。それでも取引先は納得しているというから、同社の優位ぶりがうかがえる。現在では全ての国内自動車メーカー向けの取引があり、熱交換器の世界では名が通っているという。

熱交換器開発の技術力でオンリーワンの存在。コロナ禍での劇的変化を体験し、新事業でキッチンカービジネスを始動 黒田製作所(群馬県)
本社工場内のボール盤
熱交換器開発の技術力でオンリーワンの存在。コロナ禍での劇的変化を体験し、新事業でキッチンカービジネスを始動 黒田製作所(群馬県)
第2工場内の研磨機

駐在員事務所設置などで中国事業を拡大。売上の6割以上が中国系企業だったが、コロナ禍で撤退を決断

しかし、優位性を持つ同社にも危機が訪れる。かつては国内のカーエアコンメーカーが主な取引先だったが、コスト競争により国産メーカーが次々と撤退したり、海外企業に買収されたりするケースが目立った。同社も中国メーカーと取引するため中国語ができる社員を採用するほか、上海に駐在員事務所を設けるなどの対応を進め、2019年ごろまでは同社の売上の約6割以上が中国系企業となった。

そんな中で、2020年から世界的に新型コロナウイルスが蔓延(まんえん)する。これを機に人の往来ができなくなり、中国向けの商談も全てストップして同社の売上高も激減する。この結果、上海の駐在員事務所を閉鎖するなど、2023年3月で中国から撤退する決断を下した。

コロナ後は国内需要が回復傾向。EV向け小型軽量の高機能熱交換器が求められるため、今後も同社の技術力が生かせる

売上高の6割以上を占める中国向けが消滅したことで、同社の経営も危機に陥るかに見られたが、現在は国内需要が戻ってきており、「利益を出せるレベルに回復」(黒田社長)し、危機的状況を脱出できているという。その理由は、同社の技術力が改めて評価されているためで、現在の国内売上高は100%という。

自動車業界では、EV(電気自動車)などの電動化が進んでいる。EVは蓄電池の容量で航続距離が決まる。このため、蓄電池を冷却する熱交換器も小型化・軽量化という高性能化が求められている。もちろん、EVでも必須のカーエアコンも高機能化が求められており、同社の出番が減ることはないと読んでいる。

自動車向けだけでなく、エアコンの高性能化、さらには省エネが最大の特徴であるヒートポンプ機器向け熱交換器も以前から手掛けており、家電や省エネ機器など自動車以外の需要も期待できる。

新たな分野で新規事業。これまで培った金属加工技術で新タイプのキッチンカー開発。既存の小型貨物車に積載する構造で4ナンバーが可能に

黒田社長は、コロナ禍を通じて、一つの事業だけで会社を運営する怖さを肌で実感した。そのためには、別の事業を持つ必要があると痛感した。中国ビジネスが消えたが幸い国内向けで持ち直した。しかし黒田社長は、次の一手としてキッチンカーという新しい事業を始めた。きっかけは、キッチンカーを製造している知人の経営者が、新たに災害時に使用する調理機能付き自動車を開発したいと同社に協力を申し入れてきたことだ。

ただ、それだけでは需要があまり見込めないため、同社がこれまで培ってきた金属加工技術を使った新しいキッチンカーを開発しようと考えた。コロナ禍では業態転換のための補助金を利用して、固定店舗から移動販売への乗り換えが増えていることも知っていた。ただ、車体に調理設備を搭載するキッチンカーの製造は、比較的多くの企業が手掛けている。後発である同社が差別化するために選んだのは、調理や営業時に幅を広くできる可変拡張機能を備えたこと。しかも、調理設備はボタン操作で足が伸びて荷台と同じ高さまで上昇し、1人で荷台を積み下ろしできる構造とした。

これでキッチン部分を不要な時は取り外す積載物として扱うことができ、小型貨物車の4ナンバーで登録でき、車検も通りやすくした。このアイデアは「モバイルショップ」という名称で、商標登録済みだ。屋号は「DIG」(かぶり付くという意味の英語)に決めた。

熱交換器開発の技術力でオンリーワンの存在。コロナ禍での劇的変化を体験し、新事業でキッチンカービジネスを始動 黒田製作所(群馬県)
開発したキッチンカーの外観。可変拡張機能が特徴
熱交換器開発の技術力でオンリーワンの存在。コロナ禍での劇的変化を体験し、新事業でキッチンカービジネスを始動 黒田製作所(群馬県)
キッチンカーの内部

ハンバーガーの販売を開始。移動販売のフランチャイズ化も構想

すでに試作車を製造しており、実際に食品の販売も始めた。料理人をしていた親類を雇い、2023年8月から館林駅近くでハンバーガーの試験販売を始めたのだ。現在は週2回の限定販売だが、いずれはこれを常態化。さらに3店舗まで増やし、営業ノウハウを蓄積していく段階だという。移動販売のための新会社「ガレージ・クロダ」も2022年に設立済みだ。

熱交換器開発の技術力でオンリーワンの存在。コロナ禍での劇的変化を体験し、新事業でキッチンカービジネスを始動 黒田製作所(群馬県)
館林駅近くで試験販売を始めたキッチンカー

黒田社長の構想は、これで収まらない。メニューを増やすとともに、セミナーなどを開いてキッチンカーによる開業希望者を募り、ハードウェアである同社製のキッチンカーを販売すると同時に、営業ノウハウなどのソフト面のコンサルタントも展開。将来的にはセントラルキッチンを作って食材を提供し、「移動販売のフランチャイズ展開を考えている」(黒田社長)と構想する。

Webで個人向け情報発信強化。受け身から自社主導で能動的に

キッチンカーというこれまでにないBtoC(一般消費者向け)事業を始めたことで、ICT化も本格化させる計画だ。熱交換器では30年以上前からCAD(コンピューター自動設計)を利用し、設計業務の効率化を図っていた。ただ、BtoC事業を始めたことで、近くカタログの作成機能を持つホームページ作成ソフトを導入して自社内でカタログを制作するほか、新会社では一般消費者向けの情報発信も強化していく考えだ。

浮沈はあったものの、熱交換器の製造では国内で希少な存在となった黒田製作所。熱交換器は外部からの依頼があって対応する受け身の仕事だったが、キッチンカーなら自社主導で能動的に展開できる。黒田社長は「熱交換器で利益が出ている間に、キッチンカー事業を軌道に乗せたい」と意欲的だ。

熱交換器開発の技術力でオンリーワンの存在。コロナ禍での劇的変化を体験し、新事業でキッチンカービジネスを始動 黒田製作所(群馬県)
「自社主導で能動的にキッチンカー事業を展開する」と語る黒田正樹社長

企業概要

会社名有限会社黒田製作所
住所群馬県館林市大谷町2923番地
HPhttps://www.kuroda-works.co.jp
電話0276-72-2163
設立1962年3月
従業員数27人
事業内容 熱交換機の開発・試作、試作用金型の製作・試作品生産、熱交換器量産化設備・金型の開発、キッチンカーの製造など