目次
- 採鉱から土木・建設事業へと転換して草津一の会社に
- 働いている人それぞれが、力を発揮できるようにデジタル化を推進。事務所内では、証憑のクラウドでの電子保存を開始
- OCRでの伝票読み取りにもチャレンジ。原価管理ソフトの導入を検討中。ICTの導入は若手採用にも重要
- 図面を電子化してサーバーに蓄積し外部から閲覧可能に。大量に撮影する現場写真の整理も、現場で行えるようになる
- 災害時等の迅速な対応のためにも社内コミュニケーション用のグループウェア導入。高い技術を持った社員の技術継承のためのビデオプログラムも必要
- 今の世代を支え、会社を活性化し、次の世代へつなげていくために働き方改革とICT導入は必須。これは従業員全員で考える問題
急斜面にロープでぶら下がるようにして張り付き、地滑りを防ぐための法枠工事をしている作業員たちを上空からとらえた映像がある。「ドローンを使って撮影したものです」と話すのは、群馬県吾妻郡草津町に本社を置く株式会社武藤組の武藤恭平代表取締役だ。ホームページにアップされたその映像を見ると、同社が絶壁と言えるような場所で作業を行う技術力と、災害の防止という大切な仕事を任される信頼を持っていることがわかる。(TOP写真:ドローンで撮影した法枠工事の現場)
採鉱から土木・建設事業へと転換して草津一の会社に
「秋田県出身の武藤鉄蔵が、太平洋戦争中に群馬県の鉱山に鉄を採りに来たのが始まりです」(武藤社長)。戦後もしばらくそうした採鉱事業を行ってきたが、鉄が枯渇して1965年に閉山となったことから、2代目となる武藤春義氏を中心に土木・建設業へと業態を転換した。高度成長期の中で道路の整備や治山といった公共工事の需要が拡大したことで、同社も土木・建設業として草津の地域で大きくなっていった。
平成に入って、自治体や国の予算が福祉などの方面に重点的に向けられるようになると、道路などに向けられる事業費も減らされたが、土木・建設事業者の数が減ったこともあって、同社も地域になくてはならないインフラ企業として活動している。現在は、道路工事と治山工事を中心に災害復旧対応や、冬の除雪などを請け負っていて、草津地区ではトップの土木・建設会社となっている。
働いている人それぞれが、力を発揮できるようにデジタル化を推進。事務所内では、証憑のクラウドでの電子保存を開始
そうした状況もあって、2019年に叔父から引き継ぐ形で社長に就任した武藤氏が、「働いている人の負担をなるべく減らして、それぞれが力を発揮できるような環境を整備するのが私の仕事」(武藤社長)と、ICTを活用した業務の効率化に取り組み始めた。そのひとつが、証憑類のクラウドでの電子保存対応だ。2022年1月に施行された改正電子帳簿法に準拠した証憑電子保存サービスを導入。「法令の改正にはいち早く対応していくというスタンスから、当社でも取り入れました」(武藤社長)
「さまざまな書類が電子化されていて、当社から出す請求書や当社が受け取る請求書、発注書などを電子データでやりとりしています」(業務部総務課の樋渡美恵さん)。これらを電子保存する場合、改ざんされていないという証明書を付けたり、取引年月日や取引金額、取引先などをファイル名に入れて整理する必要があった。「それらを1枚1枚入力していくのはとても大変でした」(樋渡さん)
ここで、電子証憑の保存サービスを使うことで、大きく作業時間を減らすことができた。「保存をする際に、保存ファイルが、いつのものなのか、どの取引先のものなのかといったことを聞いてきてくれます。そうしたガイドに従って入力していけば、簡単に法律に則った保存形式のファイルができあがります」(樋渡さん)。1枚保存するのに1分もかからず「事務的にとてもうれしいシステムでした」(樋渡さん)。
OCRでの伝票読み取りにもチャレンジ。原価管理ソフトの導入を検討中。ICTの導入は若手採用にも重要
同社では、電子化されていない請求書類の整理に、OCRを活用できないかも検討した。「当社には元請けとして、施工会社からたくさんの請求書が届きます。これを1枚1枚見て入力する作業がとても大変です。複合機のOCRで読み取って必要事項が記録されれば、とても楽になると考えました」(樋渡さん)
機能的には満足できるシステムを構築できそうだったが、届く請求書類の内容が毎回大きく変わることがなく、手入力でもソフト自体に学習機能があって、OCRを使わなくてもできそうだということで見送った。ただ、楽になる上に記入の間違いも減らせるとあって、コストと作業量を見ながら再チャレンジすることも考えている。
これは、現場の作業員が予算を策定したり、出来高を管理したりといった作業に役立つ原価管理ソフトの検討でも同様だ。現在は、それぞれの案件についてExcelにデータを入力してドキュメントを作り、管理している。少し入力を間違えると、まるで違った数字が出てきてしまうような事態が発生するという。「原価管理ソフトにデータが一元化されていれば、工事の途中でも現場から数字を確認できるようになります。過去の工事で使った材料の原価がいくらだったかも、ひと目でわかるようになります」(武藤社長)
現場の作業員の全員がコンピュータの扱いに慣れているわけではないため、今はまだ導入を検討している段階だが、いずれ世代が若返っていった時、こうしたICTへの対応が行われているかどうかが、就職先として選んでもらう上で欠かせないポイントになる。コスト管理を行って利益を確保できるようにするためにも、必要なシステムと言えるだろう。
いろいろと試していきながら、今の状況に最も必用なシステムから導入し、状況の変化に合わせて次の段階へと移る判断が、中小企業のICT化にとって大切だ。
図面を電子化してサーバーに蓄積し外部から閲覧可能に。大量に撮影する現場写真の整理も、現場で行えるようになる
工事の現場でも、デジタル対応が進んでいる。タブレットやパソコンを持ち歩いて、サーバーに蓄積されている工事の図面を確認できるようになった。「紙と違ってタブレットなら図面を拡大して確認できます。暗い場所でも見ることができます」(武藤社長)
20年ほど前から図面をネットワークでやりとりするようになり、同社ではこれをサーバーに蓄積して必要な時に必要な図面を取り出せるような体制を整えていた。ここに、「VPNを入れて、外部からでも会社のサーバーにアクセスできるようにしてもらいました」(武藤社長)。群馬県でも山間部をテリトリーにしていることもあって、工事の現場まで行くのに時間がかかることが多い。そうした時でも、外からサーバーにアクセスして必要な工事図面を見られれば、本社に立ち寄る時間を別の業務に回すことができる。
土木・建設工事の現場で大量に撮影する現場の写真の整理も、外から行えるようになる。「終わってから会社に戻って残業ということも無くせます」(武藤社長)。
災害時等の迅速な対応のためにも社内コミュニケーション用のグループウェア導入。高い技術を持った社員の技術継承のためのビデオプログラムも必要
外回りが多い従業員たちに連絡事項を伝えたり、逆に状況を伝えてもらったりするようなグループウェアがあれば、コミュニケーションを促進して業務の流れを円滑にできると考えている。問題が起こった時や災害が発生した時の迅速な対応にも効果を発揮するだろう。こちらも今後、検討の俎上(そじょう)に載せていく。
「工事に関するノウハウの共有化と継承につながるような仕組みも作っていきたいですね」(武藤社長)。ドローンを使って撮影した法枠工時の現場映像も、業界や同社を志望する人たちへのアピールと同時に、工事の記録を残して次の世代に伝える役割を担っている。「農林水産大臣の表彰を受けたり、群馬県知事から表彰されたりする立派な工事を行った社員がいます。そうしたノウハウを伝えて、会社の財産にしていきたいと思っています」(武藤社長)
今の世代を支え、会社を活性化し、次の世代へつなげていくために働き方改革とICT導入は必須。これは従業員全員で考える問題
こうした取り組みも、次代を担う人たちが入ってきてくれなければ意味がない。そのために、「社長に就任して、週休2日制にして休みが欲しい若い人たちに応えました」(武藤社長)。加えて、学校行事参加休暇という制度も作り、父親でも年に2回、授業参観のような学校行事に参加できるようにした。
その他にも、有給休暇とは違う育児休暇を作って、子供1人につき年に6日間とれるようにした。「子供が熱を出して学校を休むような時に、これを使って世話をしたり病院に連れて行ったりできます」(樋渡さん)。子供が2人いれば12日まで取得できるところも、働く母親に優しい制度だ。
ホームページを通してこうした福利厚生の充実ぶりを訴え、若い人が自分を発揮できる職場であることを示す。そしてICTを導入することで、現場で働く人が生き生きと仕事ができる会社となって、半世紀に及ぶ武藤組の歴史を次代につなげていく考えだ。これは、単に若手採用という問題だけでなく、若手が入ることで会社全体の活性化につながる。企業の活性化は企業の業績向上にもつながる。従業員全員で考える問題と言える。
企業概要
会社名 | 株式会社武藤組 |
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住所 | 群馬県吾妻郡草津町大字草津266-14 |
HP | https://www.muto3022.net/ |
電話 | 0279-88-3022 |
創業 | 1949年6月 |
設立 | 1972年 |
従業員数 | 19人 |
事業内容 | 道路工事、建築工事、治山工事、災害復旧工事、冬期の除雪等、地元の草津温泉および旧六合地区の社会基盤・社会資本の整備、維持管理 |