電子帳簿保存法とは、経理・税務関係帳簿、書類のデータ保存を可能とする法律です。経理・税務関係帳簿、書類を電子保存することで、経理業務の効率化やペーパーレス化によるコスト削減などが推進できます。
電子帳簿保存法に基づく経理業務のデジタル化にあたっては、一定の設備投資(ハードウェア、ソフトウェア等)が必要になる場合もあります。また、経理業務のデジタル化に伴って、情報セキュリティ対策の導入や高度化も必要となります。
本記事では、電子帳簿保存や情報セキュリティ対策に必要な設備やシステムについて解説します。
なお、電子帳簿保存法は、1998年に施行されましたが、その後何度かの改正がおこなわれています。直近では2021年度に改正がおこなわれ、2022年1月1日より改正法が施行されています。また、2023年3月には施行規則の改正もおこなわれており、2024年1月から施行される内容もあります。本記事では、特に断りがない限り、最新の法に則った説明をしています。
1冊あれば、電帳法の概要と対応すべき項目が分かるチェックリストをご用意しました!こちらのページから無料ダウンロードできます!
電子帳簿保存法の基本
最初に、電子帳簿保存法についての基本を確認しておきます。
(1)電子帳簿保存法の対象となる書類
電子帳簿保存法が対象としているのは、経理・税務関係の帳簿や書類です。具体的には下記になります。
▼電子帳簿保存法の対象となる書類
書類の種類 | 例 | ||
---|---|---|---|
国税関係帳簿 | ・総勘定元帳 ・仕訳帳 ・売掛帳 ・買掛帳 ・現金出納帳 ・固定資産台帳 など |
||
国税関係書類 | 決算関係書類 | ・試算表 ・貸借対照表 ・損益計算書 ・棚卸表 など |
|
取引関係書類 | 自社の発行 | 自社で作成、発行した下記書類、またはその控え。 ・見積書(控) ・納品書(控) ・請求書(控) ・領収証(控) など |
|
他社等の発行 | 取引先等から受領した下記書類。 ・見積書 ・納品書 ・請求書 ・領収証 など |
(2)経理関係の帳簿、書類を、電子データだけで保存してもよい
電子帳簿保存法の正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といいます。
この名前からもわかるように、もともと「紙」での保存が法的に義務づけられていた経理業務で発生する帳簿や書類について、「電子データのみで保存してもよい」と認める特例について定めているのが、電子帳簿保存法の柱です。
(3)電子取引で授受した取引関係書類は、電子データの保存を義務とする
「電子取引」とは、取引情報の授受を電磁的方式によりおこなう取引です。取引情報とは、注文書、契約書、送り状、領収書、見積書などに記載される情報です。具体的には、いわゆるEDI取引、インターネット取引や、電子メールで取引情報を授受する取引等です。
この電子取引については、(1)と扱いが異なります。以前は紙に出力しての保存でも認められていましたが、電子データでの保存が「義務」とされました。
ただし、この義務化は2024年1月1日以降であり、2023年12月31日までは経過措置(宥恕期間)として、紙での保存も認められています。
また、原則義務化される2024年1月1日以降についても、社内のワークフローの整備が間に合わない等といった「相当の理由」があり、かつ、税務調査等の際に、保存していた電子データをダウンロードして提出、あるいは電子データを出力して書面提示できるようにしている場合は、その他の要件を不要として、紙での記録を認める猶予措置が設けられています。
「電子取引データ保存義務化」に向けた保存ルールのポイントについてはこちらのコラムで詳しく解説しています!
電子帳簿保存のメリット
取引関係書類の電子取引をおこなっている場合、2024年1月1日以降、その書類については電子保存が原則として義務となります。法的な義務ですので、メリット、デメリットに関係なく実施する必要があります。
しかし実際、多くの企業では、電子データでやり取りをおこない、社内処理でデータをシステムに連携させることで下記に記載しているメリットが享受できます。
一方、電子取引以外の国税関係帳簿や国税関係書類については、電子帳簿保存は任意です。しかし、電子帳簿保存にも多くのメリットがあります。
業務の効率化
書類を電子化することにより、過去の帳簿や取引関係書類データの検索、加工、再利用などが容易になります。紙の書類のファイリングやタグ付けといった作業も必要なくなります。また、取引関係書類の作成、発行や経費精算をリモートでおこなうといった形でのリモートワークにも対応しやすくなります。
ペーパーレス化の推進によるコスト削減
書類や帳簿の電子保存により、ペーパーレス化を推進でき、コピー用紙やプリンタインクなど、書類に関するコストを削減することができます。また、国税関係帳簿・書類は、7年間の保管が義務づけられていますが、7年分の保管には相当のスペースが必要であり、必要に応じて運搬する際なども大変です。電子帳簿保存をして紙の書類は廃棄すれば、これらの保管、運搬コストなども不要になります。
書類の紛失、滅失等のリスク軽減
紙の書類の場合、過失による紛失、災害等による滅失といった危険があります。電子帳簿保存であれば、クラウド上に保存したり、データのバックアップをとっておいたりすることで、これらのリスクが減少します。
電子帳簿保存の注意点
電子帳簿保存には注意点もあります。
システム投資費用、維持費用が必要
電子帳簿保存のデータには、要件が定められています。対応したシステムを新規導入する場合、導入・維持の費用がかかります。
承認プロセス等の改変、整備が必要
電子帳簿保存を実施することにより、経理・税務関係の取引関係書類の作成、発行などについて、紙で作成していたときとは異なる作成、承認プロセスが必要なる場合があります。
情報セキュリティリスク
電子帳簿保存することにより、不正アクセスなどの被害を受ける可能性が生じます。セキュリティリスク対策は後でくわしく説明します。
電子帳簿保存の導入
それでは、電子帳簿保存をどのようにして導入していけばいいのかを説明します。
(1)どんな帳簿、書類を電子保存するのかを検討する
電子帳簿保存を導入するには、まず自社の経理・税務業務の現状を把握した上で、どの帳簿や書類を、どのような方法で電子保存するのかを検討します。
(例)
・国税関係帳簿を作成する会計システムのデータを電子保存する
・自社から発行した請求書や見積書などの取引書類の作成データを電子保存する
・取引先から受け取った紙の請求書などをスキャナにより電子保存する
・電子取引で用いているデータを電子保存する(2024年1月から義務化)
(2)電子帳簿保存の方法を検討する
対象とする帳簿、保存の検討とあわせて、保存方法も検討します。 電子帳簿保存は、デジタル化していれば、どんなデータでもよいわけではありません。帳簿や書類の種類ごとにどのようなデータで保存するのか、3つの区分が定められています。
保存法 | 内容 | 対象 |
---|---|---|
電子帳簿等保存 | 電子的に作成した帳簿・書類をオリジナルのデータ等のまま保存 | 国税関係帳簿、国税関係書類のうち、コンピュータで作成したもの |
スキャナ保存 | 紙で作成・受領した書類をスキャンした画像データで保存 | 国税関係書類のうち、紙の文書で授受したもの |
電子取引データ保存 | 電子的に授受した取引情報をオリジナルの電子データで保存 | 電子取引によるもの |
(3)電子帳簿保存に必要とされる要件を確認する
電子帳簿保存に際しては、そのデータに「真実性の確保」と「可視性」の2つの要件が備わっていることが求められています。
ただし、真実性と可視性を確保するための具体的な要件については、上記の3つの保存方法、また、帳簿・書類により、細かく異なっていることに注意してください。
真実性の確保
真実性とは、正当な理由がない訂正や、改ざんなどがされていない、オリジナルのデータであることが、証明できることです。具体的には、タイムスタンプの付与、訂正内容の記録などにより、真実性が確保されます。
可視性
可視性とは、必要なときに、必要なデータをすぐに見つけることができ、また、それが明瞭に読み取ることができるようになっていることです。具体的には、「検索機能」などにより、可視性が確保されます。
(4)システムや設備の導入を検討する
電子帳簿保存には、専用のシステムや設備は必ずしも必要ありません。しかし、適切な専用システムを導入・運用することで、確実に真実性の確保、可視性の確保の要件を満たすことができます。
また、すでに会計システムや取引書類の発行システム、経費精算システムなどを導入している場合、それらと連動させられるシステムを導入することで、経理業務の効率化、生産性向上を図ることも可能になるでしょう。
「JIIMA認証」を受けた電子帳簿保存システムを利用すれば安心
公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)が、市販されている電子帳簿保存システム等について、電子帳簿保存法の「真実性」「可視性」を確保する要件を満たしているかをチェックし、法的要件を満たしていると判断したものを認証しているのが「JIIMA認証」です。認証を受けた製品は、パッケージ等に認証ロゴを掲載しています。
電帳法の、システム要件を隅々まで把握していなくても、JIIMA認証を取得したソフトウェアやソフトウェアサービスを使用すれば、法令に準拠した税務処理業務をおこなうことができるため、安心です。
なお、JIIMA認証はあくまで法的要件を満たしているかどうかをチェックしているもので、JIIMAがその使用を「推奨」しているソフトウェアというわけではありません。
また、JIIMA認証は、強制ではなく任意の制度なので、JIIMA認証を受けていないソフトウェアが、法的要件を満たしていないというわけではありません。
電子帳簿保存システムの種類
電子帳簿保存システムには、様々な種類のものが発売されています。
・すべての国税関係書類を管理できるシステム
・請求書、見積書などの発行を管理するシステム
・経費精算システムと連動して領収書(経費精算)を管理するシステム
などです。
自社の、既存の会計システムなどにあわせて検討しましょう。
なお、通常、どんなシステムであっても、APIやCSVデータ等で連携できるようになっているため、会計システムと同じベンダーのシステムを使わなければならない、いわゆる「ベンダーロック」を考慮する必要はありません。
必要に応じてハードウェアの整備も
電子帳簿保存には、基本的に特別なハードウェアは必要ありません。現在使用している社内サーバやクラウドストレージに電子データを保存するだけだからです。
ただし、スキャナ保存をする場合だけは、スキャナ機能を持つ複合機等が必要になります。スキャンは、デジカメや、スマホのカメラ撮影でも大丈夫ですが、ドキュメント管理システムとの連動が可能なスキャナを導入すると、効率的なデータ処理が可能になります。
専用の設備、システムがなくても、電子帳簿保存は可能
電子取引データ保存においては、不適切な訂正や削除の防止に関する「事務処理規定」を定め、それに沿った運用をおこなうことで真実性の要件を満たすことができることとされています。
この事務処理規程については、国税庁がWebサイトでサンプルを公表していますので、それを用いれば比較的簡単に作成できます。
▼国税庁ウェブサイト
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/0021006-031.htm
また、「可視性」の検索機能については、ファイル名を、「取引年月日」「取引金額」「取引先」で検索できる状態にしておいたり、突合によって検索できる索引簿を作成したりすることで確保することができます。
つまり、必ずしも電子帳簿保存法対応の専用システムを導入する必要はないということです。
専用ソフトを導入しない場合の対応ついてこちらのコラムでも詳しく解説しています!
情報セキュリティを守るための設備投資を検討する
経理関係の帳簿・書類の電子保存化は、経理業務の利便性向上、効率化に繋がりますが、その反面、情報セキュリティリスクを高める側面もあります。
帳簿・書類がデジタルデータとして保存されている場合、不正行為によりデータへアクセスすることができれば、データをコピーして持ち出すことは容易です。
また、意図した不正アクセス以外にも、コンピュータの操作ミス、送信ミスなどによる、意図しない外部への情報漏洩リスクも生じます。
そのため、経理関係の帳簿・書類のデジタル保存を検討する際は、情報セキュリティリスクへの対策も同時に検討するべきでしょう。
情報セキュリティリスクの種類
情報セキュリティリスクには、大きくわけて、標的型メールやDDoS攻撃などを通じた社外からの不正アクセスのリスクと、過失による情報漏洩や故意の不正な情報持ち出しなど、社内の人間がおこなうリスクとに大別されます。
外部からの不正アクセスを防ぐUTM
一言で情報セキュリティのための設備といっても、その考え方や設備の種類は多岐にわたります。まず、ネットワーク上での社内と社外との「境界」において外部からの不正アクセスを防ぐ、「境界型防御」という考え方があります。
境界型防御のための設備として代表的なものが、「UTM」と呼ばれる機器です。
UTMは、「Unified Threat Management」の略で日本語では「統合脅威管理」といいます。「統合」という名の通り、ファイアウォール、マルウェア検出、アンチスパム、URLフィルタリング、IPS(Intrusion Prevention System)、IDS(Intrusion Detection System)などの通信監視・警告・遮断システム、通信ログ管理などの、各種セキュリティ機能を1台の機器にまとめたものです。
ゼロトラスト・セキュリティ
UTMのような「境界型防御」は、社外は危険だけれども、社内は安全であるという前提に立っています。しかし、昨今、テレワークなどの普及により、社員が外部で機器を操作したり、スマホなどにより外部からアクセスしたりすることも増加しています。また、社員などの内部関係者による不正も後を絶ちません。そこで、すべての通信について信用(トラスト)をしない(ゼロ)ということを前提にセキュリティシステムを考えるのが、「ゼロトラスト(ゼロトラスト・セキュリティ)」です。
ゼロトラストは、一切を信用しないということを前提にしているため、あらゆる面からセキュリティを確保しようとします。その構築のために用いられる設備やシステムも多岐にわたります。必要に応じて、下記のような製品を組み合わせて利用しながら構築します。
・IAM(アイデンティティ・アクセス管理)製品
・EDR(エンドポイントセキュリティ)製品
・セキュアWebゲートウェイ製品
・クラウドシステム監視・保護製品
社内からの情報漏洩を防ぐ設備・システム
情報セキュリティリスクは、社外の悪意ある者によってもたらされるものばかりではありません。役員、社員による不正行為(秘密情報の持ち出し)、あるいは、過失による情報漏洩なども、重大な情報セキュリティリスクです。
ネットワーク上のセキュリティが保てていたとしても、社内の人間であれば、経理担当者のパソコンや物理サーバを利用することで、データを記憶媒体にコピーして持ち出すようなことも、比較的容易です。
これらを防ぐための設備としては、ネットワーク監視のシステム以外に、下記のような設備を設けることも有効です。
・入退場管理システム
・映像監視システム
ネットワークや機器を守る、管理する設備・システム
インターネットは、公衆網とも呼ばれるように、誰でも通ることができる道のようなものです。そのため、インターネット上を流れるパケットデータは誰でも見ることができるため、(暗号化はされていますが)セキュリティリスクを伴います。
そこで、インターネットを用いず、自社専用の通信回線(Private Network)を物理的に用意して、そこで拠点間やリモートワーカーとのデータ通信をおこなえば、情報セキュリティの安全性は飛躍的に高まります。ただし、専用線の敷設や運用・利用は比較的高額な費用がかかるため、中小企業にとってはややハードルが高くなります。
そこで、ネットワーク技術によって、公衆網であるインターネットの中に、仮想的(Virtual)な専用線を構築するのが、VPN(Virtual Private Network)と呼ばれる仕組みです。
VPNの利用には、通信業者との契約の他、VPNルーター、VPNゲートウェイといった設備が必要になります。
あわせて、リモート端末を社員に利用させる場合、端末自体の、盗難、紛失、故障などの問題は必ず生じ、これも情報セキュリティリスクの要因となります。
ノートPC、タブレット、スマホなどを用いて、リモートで働く社員が多い場合は、モバイル端末を一元的に監視、管理するための「MDM」(Mobile Device Management:モバイル危機管理)と呼ばれる設備の導入も必要になるでしょう。
まとめ
電子帳簿保存への対応には、システム投資などの費用もかかります。しかし、長い目で見れば、経理・税務業務の効率化やコスト削減をもたらします。自社の状況に応じて、可能な方法で電子帳簿保存対応を進めるとよいでしょう。
1冊あれば、電帳法の概要と対応すべき項目が分かるチェックリストをご用意しました!こちらのページから無料ダウンロードできます!
中田 秀明(なかだ ひであき)
中小企業応援サイト 編集部 (リコージャパン株式会社運営)