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令和3年(2021年)度の税制改正で抜本的な見直しが行われた電子帳簿保存法では、電子取引に関する取引情報はデータで保存することが義務付けられています。現状は、実質的に紙での保存も認める猶予措置が設けられていますが、この猶予措置も令和5年(2023年)12月末で終了します。
本記事では、令和6年(2024年)1月からの「電子取引データ保存」義務化に対応するため、企業が行うべき事務処理体制やデータの保存ルール見直しのポイントについて解説します。
(2023年6月現在の情報です)
改正・電子帳簿保存法の全体感の確認
電子帳簿保存法(以下、「電帳法」といいます)、帳簿や書類を電子的に保存するにあたり、3つの保存区分を設けています。それぞれの概要を示すと下表のようになります。
保存区分 | 概要 | 具体例 | 対応 |
---|---|---|---|
①電子帳簿等保存 | 電子的に作成した帳簿・書類をデータのまま保存 | 仕訳帳、総勘定元帳、作 成した請求書の控え 等 |
任意 |
②スキャナ保存 | 紙で受領・作成した書類を画像データで保存 | 紙の請求書や領主書 等 | 任意 |
③電子取引 | 電子的に授受した取引情報をデータで保存 | 電子メール取引、電子商取引、EDI取引 等 | 義務 (注) |
(注)一定の猶予措置が設けられています。詳しくは後述します。
このうち、③の「電子取引」に関する取引情報は電子データで保存することが、義務付けられており、ほぼ全ての企業が影響を受ける法規定となっています。そこで、本記事では、この「電子取引データ保存」に関して、事務処理体制の見直しや保存ルールの制定方法などについて説明します。
なお、電帳法の全体感については、以下コラムをご参照ください。
電子帳簿保存法2022年の改正で準備するべきポイント
また、こちら↑のコラムをお手元でじっくり読んだり、社内広報で使用できる資料も以下リンクからダウンロードできます。
https://smb.ricoh.co.jp/download/001215/
電子取引データ保存に関する宥恕措置は令和5年(2023年)内で終了
次に、データ保存が義務付けられる電子取引情報について、もう少し具体的な例を挙げてみましょう。
・電子メールで送受信したPDF等の請求書や領収書など(以下、請求書等)
・Web上のホームページからダウンロードした請求書等
・クラウドサービスの共有機能を使ってやり取りした請求書等
・インターネットバンキングを利用した振込データ
・電子マネーやQRコード決済の決済データ
・複合機のFAX機能で送受信した請求書等
・EDI(Electric Data Interchange)取引データ
など
上記の例をみると、何かしら自社で行っているものがあるというのが通常でしょう。このように、「当社は電子取引とは無縁」と言い切れる会社は、現在ほとんどないといえるでしょう。
この電子取引データ保存の義務化は、実は令和4年(2022年)1月から始まっています。しかし、実際に施行時期が近付くと、中小企業を中心に「対応できない」という声がたくさん上がり、その結果、令和5年(2023年)12月31日までの間は、データ保存が困難である企業については、これまで通り出力書面(紙)での保存を認める猶予措置が設けられました。
これは、義務化の実質的な適用延期ということもできますが、この宥恕措置も間もなく期限を迎えることとなります。令和6年(2024年)1月1日からは、すべての企業は電子取引データ保存に本格対応していかなければなりません。ただし、令和5年度税制改正により、別途、新たな猶予措置等が設けられています(後述)。
電子取引データ保存は「真実性」と「検索機能」の確保がポイント
電子取引データ保存について、電帳法はいくつかの「保存要件」を満たすことを求めていますが、このうちポイントとなるのは、データの「真実性」と「検索機能」の確保に関する要件です。本記事では、この2つの要件に焦点を当てて説明します。
データの「真実性」確保のため企業が取るべき措置は大きく3つ
データの「真実性」を確保するため、企業は、以下3つの保存措置の中から、いずれかを選んで対応していく必要があります。なお、どれか一つしか選択できないという訳ではなく、電子取引の内容に応じ、適した措置を選択・対応していくことで問題ありません。
①データ授受後にデータにタイムスタンプを付与する
②訂正・削除の履歴を確認できる(または訂正・削除ができない)システムの導入
③訂正・削除に関する事務処理規程の策定とそれに沿った運用を行う
(注)上記の他、取引先からタイムスタンプが付与されたデータを送ってもらうという措置もありますが、あまり現実的ではないため割愛します。
上記①の「タイムスタンプ」とは、電子データが特定の時刻に存在していたことや、その後にデータが変更されていないことを証明するための技術的な仕組みのことです。電子データにタイムスタンプを付与することで、データの改ざんや書き換えを防止することができます。
また、②の訂正・削除履歴を確認できるシステムの導入によっても、データの改ざんや書き換えを防止することができます。
このように、①と②の措置は、システム面の投資によりデータの真実性を確保しようとするものです。自社の業務フローに合うものを見つけられれば、効率的な対応が期待できるものの、一定のコスト負担が生じることがネックです。例えば、①のタイムスタンプを利用する場合には、通常、導入コストとランニングコストがかかります。ランニングコストは、タイムスタンプ1回あたりで料金が請求される従量制プランや、月あたりのタイムスタンプ発行上限回数が設けてある定額制プランなどがあります。
一方、③の訂正・削除に関する事務処理規程の策定・運用は、システム投資が不要で小規模な企業でも対応可能です。その概要は、電子取引データの記録事項について、正当な理由のない訂正や削除を防止するための事務処理に関する規程を定めて、その規程に沿った運用を行っていくというものです。
この事務処理規程について、国税庁は「ひな形」を用意してくれており、以下の国税庁HPからダウンロード可能です。
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/0021006-031.htm
一般的には、会社の実情と運営負担等を考慮して、このひな形を自社に合わせた内容に修正していくことになります。主に3条:管理責任者、4条:電子取引の範囲、6条:対象となるデータ、7条:運用体制などを修正していく必要があるでしょう。
なお、この事務処理規程は、上記①や②の措置を導入する会社であっても、①や②では対応できない取引をカバーできるよう、原則として設けておく必要があると考えられます。
保存するデータは「検索機能」を確保しておく必要がある
次に、もう一つのポイントである「検索機能」の確保について説明します。検索機能を確保するためには、原則として以下の3つの要件を満たすことが求められます。
A)取引年月日・取引金額・取引先の3つの項目で検索できること
B)日付または金額の範囲を指定した検索ができること
C)2つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件検索ができること
ただし、税務調査の際に、税務職員からの求めに応じてデータの一括ダウンロードができるようにしている場合には、上記BとCの要件は不要とされます。
また、小規模企業への配慮から、前々年度の売上が1,000万円以下(令和6年〈2024年〉1月1日以後は5,000万円以下に拡充)の企業については、税務調査時にデータのダウンロードの求めに応じることを条件に、検索機能の確保要件が免除されます。
電子取引データ保存に関する事務処理体制や保存ルールの制定方法
ここからは、上記の真実性と検索機能の確保に関する要件を踏まえて、一般的な中小企業で想定される事務処理体制の見直しや保存ルールの制定方法等について説明します。
まずは社内の電子取引を全て洗い出す
まずすべきことは、社内の全部署から仕入先や得意先とのやり取りで電子取引に該当するものをすべて洗い出し、それをリスト化することです。リスト化しておくことで漏れをなくし、各電子取引についての対応方針等を可視化、社内共有しやすくなります。
この際、対象となる電子取引は、自社が受け手となる受信データ等だけでなく、自社が送信するデータも対象であることに注意しましょう。また、営業担当者の個人的なスマートフォンを使った取引先とのやり取りなども電子取引に当たることがありますので、こういった点にも注意が必要です。
データの保存方法を決定する
電子取引の洗い出しとリスト化を終えたら、その電子データをどのように保存していくかを決定していきましょう。
電子データの保存方法は、検索機能等の保存要件を満たす専用ソフト(文書管理ソフト)を導入するか、コスト負担等を鑑み専用ソフトを導入せずに対応するかで大きく異なってきます。
電子取引の数が膨大な企業や、リモートワークなどDX化の推進を図りたい企業などは、コストをかけてでも専用ソフトを導入すべきといえるでしょう。現在は、さまざまな専用ソフトが提供されているので、自社の業務フローと予算規模に見合う専用ソフトを探してみるとよいでしょう。
なお、専用ソフトを導入する際は、そのソフトが「JIIMA認証(注)」を得ているかどうか、以下のHPで確認しておくことを推奨します。
https://www.jiima.or.jp/certification/denshitorihiki/list/
(注)JIIMA(ジーマ)とは、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会のことで、JIIMAは、市販されているソフトウェアやソフトウェアサービスが電帳法の保存要件を満たしているかチェックし認証する役割を担っています。
専用ソフトを導入しない場合の対応
専用ソフトを導入しない場合、真実性を確保するための措置は、基本的に上記③の訂正・削除に関する事務処理規程の策定・運用によることになるでしょう。
また、検索機能の確保については、以下の①または②の方法による対応も認められており、専用ソフトを導入しない場合は、このいずれかの方法により対応することになるでしょう。
①規則的なファイル名を付す方法
②表計算ソフト等で索引簿を作成する方法
①の方法については、例えば、2023年(令和5年)5月31日付で㈱中小商事から50,000円の請求書を受け取った場合に、以下のようなファイル名(【】内)を付けて保存することが考えられます。この方法による場合、税務調査の際に、データの一括ダウンロードに応じられるようにしておく必要があります。
【20230531_㈱中小商事_50000.pdf】
②の方法については、受領した請求書等のデータのファイル名に「連番」を付して、その内容については、以下のような「索引簿」で管理することが考えられます。
ただし、この①や②の保存方法では、電子取引の数が多くなってくると事務負担が非常に重くなることが予想されます。場合によっては、対応する人員の新規雇用や残業代発生による人件費が増加することも考えられます。このため、これらの負担と専用ソフト導入にかかるコストとを天秤にかけ、自社にとってどちらが適しているかを判断する必要があると考えられます。
データの保存先や保存期間を決定する
電子データの保存方法を決定したら、データの保存先を決めておく必要があります。専用ソフトの中には、データの保存先を示してくれるものもありますが、そうでない場合には、以下のようにデータの保存場所を定めておく必要があります。
・社内サーバやNAS(Network Attached Storage)の共有フォルダ
・クラウドシステム上のフォルダ
・特定の従業員の個人用パソコン内のフォルダ
なお、電子取引に関するデータは法定の保存期間である7年間(繰越欠損金が生じた事業年度は10年間)保存しておく必要があります。この際、データの消失など万一の場合に備えて、定期的にデータのバックアップをとっておくとよいでしょう。
令和5年度税制改正の内容
令和5年度税制改正では、電子取引データ保存について、新たな猶予措置が設けられるとともに、検索機能の確保要件の緩和措置が設けられることになりました。本記事の最後に、その概略を紹介します。これらは、令和6年(2024年)1月1日以後に行われる電子取引について適用されます。
▶︎保存要件の新たな猶予措置
システム対応等が「相当の理由」により行えなかった企業について、データを出力した書面が用意されていれば保存要件を不要とする
▶︎検索機能の確保要件の緩和措置
次のいずれかに該当する企業は、検索機能の確保に関する要件を不要とする
イ) 前々年度の売上が5,000万円以下(現行:1,000万円以下)の企業
ロ) データを出力した書面(注)の提示・提出の求めに応じることができるようにしている企業
(注)取引年月日や取引先等ごとに整理されているものに限る
なお、上記はどちらも要件の緩和措置であり、電子取引データの保存自体をしなくてよいとするものではありません(あくまでも電子データの保存は必要)。また、税務調査の際には、データの一括ダウンロードに応じられるようにしておく必要がある点にもご注意ください。
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米澤潤平(よねざわ じゅんぺい)
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