冷凍設備の省エネ、ノンフロン技術をリード スピード重視のICTで業務効率化と働きやすい職場づくり目指す 八洋エンジニアリング(静岡県)

目次

  1. カツオを傷めず船の魚艙に冷凍保存する装置開発で会社設立
  2. 電気代を半分に減らし、環境にも優しい自然冷媒採用の省エネ冷凍機を世界に先駆けて実用化
  3. メンテナンス事業を強化し、安定的な収益基盤に育成
  4. デスクトップパソコンからノートパソコンを1人1台体制に切り替え、テレワーク環境構築。現場でも自宅からでも仕事ができる環境を整えた
  5. 早速効果を実感。社長が新型コロナウイルスに感染し社員全員が自宅からテレワーク。日常業務の生産性も飛躍的に向上
  6. 勤怠管理システムの導入、現金精算をデジタル化し振込に切り替え等、事務管理部門の順次ICT化を進める
  7. ICT活用し社員が気持ちよく働ける「舞台」を整える
中小企業応援サイト 編集部
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静岡県焼津市に、水産・食品業界や流通・物流業界などの冷凍冷蔵設備の省エネルギー化とノンフロン冷媒技術をリードする企業がある。冷熱設備の企画・設計・施工を行う八洋エンジニアリング株式会社だ。今や全世界で喫緊の課題となっている気候変動対策に貢献する技術開発で先行してきた。金尾章一代表取締役は、ICTの導入・活用でもスピード重視を強調する。(TOP写真:世界に先駆けて開発、実用化した自然冷媒利用の二次冷媒ループ冷凍システム)

カツオを傷めず船の魚艙に冷凍保存する装置開発で会社設立

冷凍設備の省エネ、ノンフロン技術をリード スピード重視のICTで業務効率化と働きやすい職場づくり目指す 八洋エンジニアリング(静岡県)
「会社再建の手伝いで正式入社した」と語る金尾章一社長

八洋エンジニアリングは、産業用冷凍機などを製造していた大手総合機械メーカーの技術者だった金尾社長の叔父である金尾英敏氏が、1982年に設立した。遠洋カツオ漁の基地だった焼津市で、カツオ漁の餌となるイワシを生かしたまま長期保存する冷蔵装置の開発を継続し完成させた後に、釣り上げたカツオを傷めずに形よく魚艙に冷凍保存できる装置を開発・実用化したのが会社設立のきっかけとなった。

「叔父が開発したカツオ投入器は、釣り上げたカツオが瞬間凍結する筒の中で真っすぐに凍り、投入順に魚艙の上部に貯蔵される仕組み。カツオが傷まないため、歩留まりが大幅に向上し、1隻あたりの売上は2倍に増えたそうです」。金尾社長は、「叔父は優れたアイデアマンであり、優秀な根っからの技術屋でした」という。

「技術屋社長は経営にうとい」と言われるが、同社も例外ではなかった。1996年に施工したインドネシアの超低温冷蔵庫プラント事業では、プラント完工後に現地での新事業も検討していた最中に東ティモール紛争につながる内乱が勃発。現地にいた金尾社長と当時社長だった英敏氏は急遽帰国したが、経営陣不在の日本の事業はガタガタになっていた。事務員と3人だけになった1997年に叔父から「会社を立て直すのを手伝ってくれ」と言われたのが金尾社長の正式入社だったという。

電気代を半分に減らし、環境にも優しい自然冷媒採用の省エネ冷凍機を世界に先駆けて実用化

冷凍設備の省エネ、ノンフロン技術をリード スピード重視のICTで業務効率化と働きやすい職場づくり目指す 八洋エンジニアリング(静岡県)
省エネ技術でリードする八洋エンジニアリングの冷熱設備施工現場

当時の冷熱設備はよく冷えるものがよく売れた。顧客の評価は冷凍・冷蔵能力の一点だったが、同社はそうは考えていなかった。「人がやらないことをやらなければ儲からない。そこで着目したのが省エネでした」。金尾社長は入社前、東京で省エネ機械の部品商社と環境機器メーカーに勤めていた経験があり、省エネと環境には浅からぬ縁もあった。

電気料金という運用コストを大幅に削減し、環境にも優しい冷熱設備の開発だ。電気代を従来の半分以下に抑えられる、冷媒にフロンガスを使わず自然冷媒を使う、地熱や再生可能エネルギーを利用するなど、それまでになかった省エネ特化型設備を相次ぎ企画・開発した。

その中でも同社復活への最大の技術となったのは、2003年に開発した自然冷媒利用の「アンモニア(NH3)/炭酸ガス(CO2)二次冷媒ループ冷凍システム」だ。2020年特定フロン全廃が盛り込まれた京都議定書の締結(1997年)を受けて開発に着手し、NH3とCO2を組み合わせた自然冷媒の冷凍システムを世界に先駆けて実用化。マイナス50~60度の超低温とフロン系システムに比べて30~50%の大幅な省エネを実現したことから、大手冷凍食品メーカー数社が採用し、今では冷熱業界で主流の技術となっている。

メンテナンス事業を強化し、安定的な収益基盤に育成

冷凍設備の省エネ、ノンフロン技術をリード スピード重視のICTで業務効率化と働きやすい職場づくり目指す 八洋エンジニアリング(静岡県)
メンテナンスの現場。安定した収益基盤確保への中核事業だ

数々の省エネ技術を開発し、冷熱業界をリードしてきたが、「新しい技術開発には失敗もあるし、特許係争などで裁判もやった。新技術がヒットして良い時もあったが、波も大きかった」(金尾社長)という。2013年に社長に就任し、その5年後の2018年に「サハラ砂漠を緑にする」夢を追ってタイに移住した英敏氏(当時会長)から全株式を譲り受けた金尾社長は、経営を安定化させるためメンテナンス事業に力を入れ、収益基盤を強化してきた。

「お客さまに新しい装置を入れると、そこから30年のお付き合いが始まる。冷凍機は年1回のオーバーホールが必要で、装置を導入してもらってもメンテナンスできないとお客さまに迷惑がかかる」金尾社長も正式入社したどん底の頃はメンテナンス担当で、顧客にとっても、会社の経営上も、その重要性は熟知していた。

デスクトップパソコンからノートパソコンを1人1台体制に切り替え、テレワーク環境構築。現場でも自宅からでも仕事ができる環境を整えた

冷凍設備の省エネ、ノンフロン技術をリード スピード重視のICTで業務効率化と働きやすい職場づくり目指す 八洋エンジニアリング(静岡県)
事務所ではノートパソコンを大型ディスプレイとドッキングして仕事をする

同社の設計部門は宮崎営業所にある。本社と宮崎営業所が共同で企画したシステムを宮崎にいるエンジニアが設計し、本社が装置の委託生産から施工を実践する。英敏氏のサラリーマン時代の部下で、宮崎にUターンしていた技術者が入社した1999年からの事業体制で、当時からCADソフトと高性能コンピューターで通信し、設計図面などのやり取りをしていた。

「当社は20年以上前からICTを導入していたといえるが、その間に急速に進化したのはパソコンの小型・高性能化と通信の速度・品質の高度化だ」とする金尾社長が新型コロナウイルス感染症の流行前に決断したのは、全社員を対象とするデスクトップパソコンからノートパソコンとドッキングステーション、液晶モニターのセットへの切り替えだ。全部で25セットと、専用ソフトのある電気設計用のノートパソコン2台を導入した。施工・メンテナンス部門は図面や画像のやり取りが多く、従来はデスクトップパソコンとノートパソコンの2台持ちで、現場作業の際はノートにデータを移していた。しかし、今はノートの高性能化が進み、ノート1台ですべてこなせるとの判断だ。万一の際には自宅でも事務所と同じ環境で仕事ができるようにしたいとの狙いもあった。

早速効果を実感。社長が新型コロナウイルスに感染し社員全員が自宅からテレワーク。日常業務の生産性も飛躍的に向上

このパソコン切り替えが効果を発揮する機会は、すぐに訪れた。金尾社長が新型コロナウイルス感染症に罹患(りかん)し、社員全員が濃厚接触者になってしまったのだ。しかし、「ノートパソコンに転換していたので、私は病院、社員は皆自宅で、テレワークに対応できた」と金尾社長は胸をなでおろす。

この時のテレワーク効果はもちろんだが、ノート転換の最大の効果は日常業務の生産性が高まったことだ。ノートパソコン1台を持っていけば、出先や現場でほとんどの仕事が完結するため、「デスクワークは確実に少なくなったし、社内のコミュニケーションも良くなった。まだ、数字に表してはいないが仕事が効率化され、生産性はものすごく高まったと思う」(金尾社長)と評価する。

勤怠管理システムの導入、現金精算をデジタル化し振込に切り替え等、事務管理部門の順次ICT化を進める

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デジタル化でペーパーレス、脱ハンコを目指す事務管理部門

同社がICT化で次に狙うのは、事務管理部門の効率化で、ペーパーレス、脱ハンコだ。2023年7月には勤怠管理システムを導入しており、早急に経理のシステム化を進める考え。「とにかく紙やハンコが必要な経費の現金精算をデジタル化し、口座振込に変更していきたい。最近、私だけが口座振込にしたが、今後はシステムを組んで全社員に広げていく」(金尾社長)という。

「20年前は画像をやり取りするのに何分もかかっていた。それが今は瞬時に通信できる。私もICTのことをよくわかっているわけではないし、もちろんその将来も見通せない。しかし、どんどん通信速度が早くなっていく中では、スピード勝負で新しい技術を導入していかないと遅れてしまう。現場の計器を本社でリアルタイムで見ることができれば、それだけ判断しやすくなる。これからもスピードは追いかけ続ける」。金尾社長は今後のICT活用ではスピード重視を強調する。

ICT活用し社員が気持ちよく働ける「舞台」を整える

世界的なエネルギー危機によって電気料金が大幅に上昇し、省エネニーズが高まる中で、冷凍技術の進化やライフスタイル、食生活の変化を背景に国内の冷凍冷蔵設備需要は高まっている。八洋エンジニアリングの時代が来ると思いきや、金尾社長は「技術はオープンになっているし、競合も増えてくる」と冷静だ。

しかし、「自然冷媒のアンモニアを正しく扱える冷凍機メーカーは、日本でも当社を含めて数社しかない。その中でも大手は技術者不足に悩まされている。冷凍設備の運用に欠かせないメンテナンスは需要が増えても、それに応えられるところはもっと限られてきている」。だから、同社は技術を伝承できる人材育成に力を入れる。国家資格を取得するための補助金制度も設けている。強制はしないが、名刺に国家資格の肩書があれば、顧客企業からの信頼度は上がり、仕事が増えれば給料も上がるから、社員のモチベーションも高まる。

「社長の役割とは、社員にとって魅力ある職場をつくることだと思う。言うなれば私がつくるのは舞台、そこで演じるのが社員、観客はお客さまです。社員が気持ちよく働け、お客さまに喜ばれるように努めるのが、私の責務だと考えています」

金尾社長は生産性の向上や働き方改革につながるICT導入は自身の役割と位置づけ、これからもICTを活用して、社員に気持ちよく働いてもらえる「演じやすい舞台」づくりを進めていく。

冷凍設備の省エネ、ノンフロン技術をリード スピード重視のICTで業務効率化と働きやすい職場づくり目指す 八洋エンジニアリング(静岡県)
八洋エンジニアリングの本社

企業概要

会社名八洋エンジニアリング株式会社
本社静岡県焼津市中港1-4-22
HPhttps://www.hachiyo.jp
電話054-627-7957
設立1982年7月
従業員数25人
事業内容 産業用冷凍冷蔵設備、冷凍冷蔵倉庫、水産用特殊冷熱設備など冷熱設備の企画・設計・施工、冷熱設備のメンテナンスなど