訪問看護にタブレットを活用。スタッフ全員が記録活用で効率アップとミスの低減でレベルアップ   アーチ(香川県)

目次

  1. 香川県の5市5町で約200人を訪問看護する
  2. 「高齢化社会の問題が凝縮されている」離島でも訪問看護。離島も含め認知症カフェも3ヶ所開設
  3. 健康チェックから清拭、入浴、服薬管理、点滴、人工呼吸器、リハビリまで看護は多岐にわたる
  4. 従来は手書き看護ノートを現場での業務後、施設のパソコンへ打ち込んでいた。スタッフが集中して当日作業できないことも
  5. 「もう手放せない」。タブレットで簡単に入力でき、記入ミスも減り、現場で過去データを参照できるように
  6. 増えてきた自宅での終末期医療。「看取り」が重要な訪問看護の仕事に
  7. 「AI時代となっても利用者さんと向き合う看護は人間の役目。ICT化を自らのスキルアップにどう生かすかが大切」
  8. 「今の自分を超えよう」。地元課題に目を向け、多彩な取り組み、その一方で海外も視野に
中小企業応援サイト 編集部
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人口減少、高齢化が進む中で重要度がますます増している訪問看護・訪問リハビリテーション。アーチ株式会社(藤川憲太郎代表取締役)は、在宅療養を支えながら〝医療の過疎化〟が激しい離島での在宅療養支援や認知症カフェも手掛け、地域の課題に積極的に取り組んでいる。背景には、人の健康・安心な暮らしと密接にかかわる「医療」への藤川社長の思いがある。(TOP写真:「子どもの頃から病院が好きだった」という藤川社長。人の命と安心を支える訪問看護への思いを語る)

香川県の5市5町で約200人を訪問看護する

訪問看護にタブレットを活用。スタッフ全員が記録活用で効率アップとミスの低減でレベルアップ   アーチ(香川県)
アーチ訪問看護・アーチケアマネジメント。アーチ株式会社の本社機能も持つ

「子どもの頃から病院が好きだった」という藤川代表取締役は、大学卒業後に理学療法士の資格を取得、病院勤務や理学療法士養成学校の教師などを経て、2015年夏、地元である香川県丸亀市で訪問看護・訪問リハビリテーションを行う「アーチ訪問看護」を開設。2023年春には近隣の三豊市でも「アーチ訪問看護みとよ」を開所。現在アーチ株式会社は、看護師、理学療法士、作業療法士、ケアマネジャーなど20人で香川県中部、西部の5市5町で約200人の在宅療養者を支えている。

「高齢化社会の問題が凝縮されている」離島でも訪問看護。離島も含め認知症カフェも3ヶ所開設

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さぬき広島の集落。住民のほぼ8割が高齢者だが、医療インフラは圧倒的に不足している

離島での訪問看護は2019年から始めた。住民の8割が高齢者なのに診療所以外の医療インフラが圧倒的に不足している離島の生活環境に「高齢化社会の問題が凝縮されている」とカルチャーショックを受け、瀬戸内海に浮かぶ離島、さぬき広島でスタート。現在は3つの離島に活動の場を広げ、ほぼ毎日島に渡っている。また訪問看護を通じて認知症の深刻さを実感し、丸亀市による認知症当事者や家族などが集まる認知症カフェの事業者公募に応じて2016年から市内で月1回、認知症カフェを開設。現在は離島も含め3ヶ所で認知症患者とその家族や関心のある一般市民の交流、認知症ミニ講座などを行っている。

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歩行練習をする利用者と作業療法士。訪問看護の仕事は生活全般にわたる

健康チェックから清拭、入浴、服薬管理、点滴、人工呼吸器、リハビリまで看護は多岐にわたる

訪問看護は医師と連携しながら行われるが、仕事は多岐にわたり、利用者の命にかかわることもあり気が抜けない。

例えば、脳卒中で寝たきりの利用者などでは週2~3回訪問し、体温や脈拍、血圧など健康状態のチェックから始まって、利用者の話を聞くなどして心的な状態も把握。身体を拭いたり、床ずれがあれば処置をする。入浴、洗髪、食事も必要だ。さらに薬をきちんと飲んでいるか確認、点滴をすることも。起きられるなら座ったり立ったりする練習や、硬くなった関節を柔らかくして可動域を広げる運動。重い症状の場合は人工呼吸器を装着したり、糖尿病を併発していればインスリン注射をしたりもする。

そして、利用者の状態を家族に伝えたり、かかりつけ医と相談。こうした利用者の情報をすべて記録に残し、次に訪問看護で訪れるスタッフが引き継いで状態の変化をみていく。

認知症の利用者の場合はさらに注意が必要となる。服薬などの指導が伝わらないことも多く、食事、入浴など日常生活の基本からケアしていくことになる。

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アーチ訪問看護の事務部門。かつては夕方になると看護データを打ち込むスタッフで〝混雑状態〟になっていた

従来は手書き看護ノートを現場での業務後、施設のパソコンへ打ち込んでいた。スタッフが集中して当日作業できないことも

訪問看護を行う看護師はおおむね1日6人程度を担当しているが、従来はこうした利用者の状態は現場で看護ノートに書き、業務が終わった後、施設に戻ってパソコンで打ち込んでいた。

「アーチ訪問看護」には5台のパソコンがあるが、看護師1人につき約30分かかるため、夕方はちょっとした混雑状態となる。このため、昼間、時間を見つけて施設へ戻って打ち込んだり、当日はあきらめて翌朝、訪問看護に出かける前に施設に立ち寄り打ち込んだりすることも。

手書きメモを見ながらの作業の上、パソコンに打ち込む際のコピー&ペーストの間違いなどもあって、ちょっとした記録ミスも起きる。服薬したと記録されているのに、次の看護師が行ってみると薬が残っていたり、利用者が転倒したことが記入もれで、別の看護師が体のあざを見て気づくケースもあった。

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タブレットで看護記録を入力する。どこでも可能で、音声入力で入力することも。

「もう手放せない」。タブレットで簡単に入力でき、記入ミスも減り、現場で過去データを参照できるように

藤川社長が看護・ケア記録支援ソフトの導入に踏み切ったのは、こうした二度手間作業と記入ミスの解消を期待したことと、新型コロナウイルスの感染が広がったことで施設での「密状態」をなくし、現場から直帰できるようにと思ったからだ。2021年に導入し、以前から導入していたクラウド型の介護・医療保険請求・記録ソフトと連動させた。それがちょうど、事業規模が約2倍となる拡大期と重なり、予想外の効果を発揮した。

新システムは、看護師が現場で利用者の状態をタブレットで書き込む。記録すべき項目があらかじめリストアップされているため、各項目に書き込んでいけば記入漏れを防げる。書き込んだ情報はそのままクラウドに保存され、施設のパソコンで読み取れるため、夕方にスタッフが施設のパソコン周りで混雑することがなくなった。

タブレットなのでちょっとした仕事の合間にどこでも記入でき、音声入力も可能。手書き時代と比べて作業の効率が格段にアップした。
さらに大きなメリットはタブレットで過去のデータが見られることで、「利用者さんの状態がどんなふうに変化しているか、現場ですぐ確認できてありがたい」と看護師に好評だ。
藤川社長は「もし導入していなかったらどんなことになっていたか。使い出したらもう手放せなくなった」と、笑顔を見せた。

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アーチ訪問看護みとよ。アーチ株式会社の第2拠点だ

増えてきた自宅での終末期医療。「看取り」が重要な訪問看護の仕事に

自宅で療養する利用者の高齢化が進むにつれて増えてきた訪問看護の仕事の一つが、終末期医療である「看取り」だ。肺がん末期の70歳代男性のケースでは「呼吸が悪くてしんどい」と訪問看護の依頼があり、連日のように訪問して呼吸リハビリなど、さまざまな看護を行った。2ヶ月ほどたったある日の夕方、家族から「様子がおかしい」と緊急呼び出しがあったため駆けつけて、かかりつけ医と共に手当をしていたが、とうとう男性は息を引き取った。

担当看護師は「治療の効果がなかなか現れず、日々衰えていく利用者さんの様子を記録していくのは正直つらい」と話していたが、家族から「本人は最期を自宅で過ごせてよかったと言っていた」と聞き、「救われる思いがした」という。

看護のやりがいは、利用者の状態が少しでも良くなることで、実際に体が動かせるようになり、要介護認定のランクが改善することも多い。しかし一方で、人生の終末を自宅で迎える人も年々増えており、訪問看護の大切な仕事となっている。

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訪問看護スタッフのスケジュールボードをチェックする藤川社長。スタッフと訪問先の都合を調整するのも大切な作業だ

「AI時代となっても利用者さんと向き合う看護は人間の役目。ICT化を自らのスキルアップにどう生かすかが大切」

今やAI(人工知能)の時代という。人間のようにやりとりする生成AIや、本物そっくりの声や画像をつくるデジタルクローンが話題となり、AIが人間の知性を超える「シンギュラリティ」の到来を予測する学者もいる。訪問看護という仕事は今後どう変わっていくのか。藤川社長はこうした時代の潮流を前向きにとらえる。

「多彩なセンサーや検査などで得たデータをもとに、利用者さんにとってどんな治療がいいかをAIが教えてくれ、我々はそれに基づいて動く。そんな時代になる」とみている。それでも「利用者さんと直接向き合う仕事は人間でないとできない。利用者さんの表情や感情のひだを読みとり、それらが醸し出すニュアンスを把握することはやはり日々接している看護師でないとわからない」という。「結局、最終的な意思決定や責任は人間が引き受けること。AIの進化で生まれる余裕時間を、看護スキルを高めるためにどう生かすかが大切だと思います」と話す。

「今の自分を超えよう」。地元課題に目を向け、多彩な取り組み、その一方で海外も視野に

今、藤川社長が思い描いているのは、そんな「人を看護すること」についてより広く人々に知ってもらうことだ。離島での訪問看護や認知症カフェなども含めて、さまざまな地域課題もわかってきており、認知症や看取りなど高齢化に伴う問題や対応の仕方などを学ぶ健康教室の開催や各種イベントなどを展開したいという。

その一方で、海外での事業展開も視野に入れる。形態は現地の事情に合わせて決めるが、何らかのホスピタリティ・サービスを行いたいという。すでにシンガポールとマレーシアの現地調査も実施、会社設立の手続きなども検討した上で2026年の開設を一つのめどとしている。足元の地域課題への取り組みと、遠く海の向こうへの視線。人の命と安心を支えようという藤川社長の夢は多彩だ。

「LET EXCEED THE NOW OF ONE’S OWN(今の自分を超えよう)」。これが社長自ら考え出した座右の銘だ。

企業概要

会社名アーチ株式会社
本社香川県丸亀市綾歌町栗熊東71番地1
HPhttps://arch-care.co.jp/
電話0877-57-1701
設立2015年3月23日
従業員数20人
事業内容訪問看護、訪問リハビリテーション、ケアマネジメント、認知症カフェ