目次
- テレワークできる緑豊かな場所として、都会からの移住者が増えて保育園のニーズが高まる
- 接触や混雑を極力避けるために登園や降園のチェックを自動化
- 出入り口のQRコードで入退出チェックが行われるので、即時に出欠の状況把握ができ、保護者からの欠席の連絡もアプリに登録される
- アプリで昼寝チェックにも活用、その他にも成長記録等これから徐々に利用を予定
- 保護者への一斉同報については、使い勝手の問題で従来通りのシステムを利用
- タブレットを使い園児の日常を記録して、園児や家族の思い出作りをすすめる
- 都会から移住してくる人のためにも、臼田保育園の楽しい毎日を紹介したい。そのため新たなホームページの立ち上げを検討中
- ICT化したい仕事は多い。一つひとつ取り組んでいきたい
JR小海線で小諸駅から小海駅へと向かう途中にある長野県佐久市の臼田地区は、八ヶ岳中信高原国定公園と妙義荒船佐久高原国定公園に挟まれていて、豊かな自然を間近に感じられる土地だ。北陸新幹線の佐久平駅で小海線に乗り換えられるようになり、高速道路(中部横断道)の開通により、首都圏からのアクセスが格段に良くなった。臼田で70年にわたって保育園事業を営んでいる社会福祉法人臼田保育園の仲沢ひろみ園長は、「コロナ禍で盛んになったテレワークの導入もあって、佐久市に移り住んで来られる方も相当に増えたと聞いております」と、最近の地域事情を説明する。(TOP写真:臼田保育園70周年の航空写真。)
テレワークできる緑豊かな場所として、都会からの移住者が増えて保育園のニーズが高まる
佐久平駅の周辺や、佐久市役所がある中込地区では、そうした移住者の子どもの入園希望者で保育園の定員がいっぱいになってしまうこともあるという。そのため、少し離れた臼田保育園に、「近くの保育園に通えないお子様を預かって欲しいという話が来るようになりました」(仲沢園長)。地方の多くが過疎化や少子高齢化に悩んでいる状況で、園児が少なくなって運営に支障が出る心配は、臼田保育園については今のところはなさそうだ。
1947年に児童福祉法が制定され、翌年に設置に関する規準が定められてから間もない1951年に臼田保育園は誕生した。保育園には、寺院などが広い境内を利用して始めるようなケースがあるが、同園の場合は、「医師だった父が50歳過ぎで亡くなって6人の子どもが残されてしまい、その面倒を見る場所を作ったらどうかという話になってできたものです」と田原彰人理事長は振り返る。母親が教員の免許を持っていたことや、家系に医師が多くいて施設のあてがあったことから、地元の後押しも受けて保育所として立ち上がった。
地方の場合、父母が働きに出ても祖父母が面倒を見るため、保育園のような施設は需要がないと思われがちだが、「臼田あたりは農家が多く一家が総出で働くため、子どもを預かって欲しいという家が多かったようです」と田原理事長。終戦直後ということもあり、親が出征して人手が足りない家も多かった。やがて時代が経って核家族化が進むと、さらに子どもを預かって欲しいという要望が増えていく。「ピーク時には120人ほどの園児を預かっていました。小海の方から通っていた子どももいました」と振り返る田原理事長。
接触や混雑を極力避けるために登園や降園のチェックを自動化
今は80人ほどになっているが、それでも依然として大勢の子どもたちを毎朝預かり、面倒を見ては午後になって家に送り出している。この登園や降園のチェックが、保育士たちにとって気力も体力も使う大仕事だ。「園児が登園してくると、名前や時間を紙に書いて記録していくため、一人ひとりのチェックに時間がかかっていました。保護者の方が迎えに来た時間と、こちらで降園を確認した時間との間にズレが出ることもありました」(仲沢園長)。
コロナ禍で接触や混雑は極力避けようとする動きも出てくる中で、チェックに必要な時間の短縮は急務といえた。そこで同園が目を付け、2022年に導入したのが幼稚園・保育園向け保育のアプリケーションだ。「タブレットから園児の名前をチェックするか、保護者がQRコードをかざすだけで、その日に登園したのかがしっかりと記録されます。送り出す時も同じようにチェックするだけなので、紙に名前や時間を書いていく必要がありません」(仲沢園長)。
出入り口のQRコードで入退出チェックが行われるので、即時に出欠の状況把握ができ、保護者からの欠席の連絡もアプリに登録される
その場での記録だけでも時間が短縮される上に、出欠の状況を調べる時も、毎日の記録を付き合わせていく作業をしなくても、簡単に集計して画面上に示してくれる。アプリケーションには、保護者がスマートフォンから欠席の連絡を入れる機能もあって、保育士が電話で応対する時間も簡略化できる。「登園や欠席の確認に時間をとられて、朝からへとへとになるようなことがなくなりました」(仲沢園長)。
保育園や幼稚園で、「送り届けたはず」という親の認識と、「今日はお休みしているんだろう」という保育園側の認識のすれ違いから不幸な事態が起こることもあるだけに、一人ひとりの園児について漏れなく把握できるシステムは、大きな効力を発揮している。
アプリで昼寝チェックにも活用、その他にも成長記録等これから徐々に利用を予定
また、アプリケーションには園児にとって大切な昼寝の時間をチェックする機能も付いている。同園でもこの機能を活用して、子どもたちが安全に昼寝を取っているかを確認している。
アプリケーションには他にも、園児一人ひとりの成長記録を付けていったり、指導計画書を策定したりする機能などが付いているが、「ICTシステムについて、まったく何も使っていなかったところからの導入でしたので、どのような機能があるのかを把握しきれていません。使えば有効な機能もあるとわかっていますが、まずは登降園のチェックから初めて、1年が経過したこれから他の機能も徐々に使っていこうと考えています」(仲沢園長)。
保護者への一斉同報については、使い勝手の問題で従来通りのシステムを利用
保育園側から保護者へと連絡を一斉同報する機能もあるが、「連絡が届いているのかどうかがわかりづらいという話が保護者の方からあったので、以前から使っているメッセージ配信システムを使っています」(仲沢園長)。パッケージで提供されるサービスの場合、自分たちがそれまで使ってきたワークフローと違うところがあって、運用に手間取ることも少なくない。だからといって、習熟のために時間を割いて、預かっている子どもたちの世話という保育園の重要な業務に支障が出ては本末転倒だ。今はできること、必要なことから一つひとつ進めていくことにしている。
タブレットを使い園児の日常を記録して、園児や家族の思い出作りをすすめる
保育園向け保育ICTシステムの導入に合わせて進めた、タブレットの保育士への配布はまた、日々の園内や園児たちの様子を記録していく上で役に立っている。「カメラを使って園児たちの様子を撮影して、保護者の方に見てもらうことが簡単にできますから」(仲沢園長)。園内の行事もどんどんと撮影して記録していける。「当園では、園児が和太鼓に取り組んで人前で披露することも行ってきました。コロナ禍で中断してしまいましたが、明けたら再開したいですね」(仲沢園長)。その記録もタブレットを使えば簡単に行える。
都会から移住してくる人のためにも、臼田保育園の楽しい毎日を紹介したい。そのため新たなホームページの立ち上げを検討中
次の課題は、そうやって得られた楽しげな保育園での毎日を外に向かって発信していくこと。ホームページを作った情報発信はすでに行っているが、「毎日のようにデータを更新できるようには作られていなくて、内容が古いままになっているところがあります」(仲沢園長)。ホームページのデータ更新を誰でも簡単に行えるような仕組みを取り入れることで、アクティブな情報発信ができるようになる。地域に増えている都会からの移住者にも、生き生きとした同園の様子を知ってもらえる。働きたいと志望してくる保育士の増加にもつながる。それだけに「良いシステムがあれば導入を検討していきたいですね」(仲沢園長)と前向きだ。
ICT化したい仕事は多い。一つひとつ取り組んでいきたい
安全を見守るカメラの数は足りているのか。毎日の体温チェックを紙に記録していく手間を減らすにはどうすれば良いのか。園内に保管されている厖大な紙の資料を把握・分類し、必要なものを誰でも取り出せるようにすることは可能か。ICTを活用すればほとんどこれらのことができてしまう時代だが、実際の業務に当てはめていくには準備が必要で、費用もかかる。あれもこれもと欲張るのではなく、身の丈にあったICTを専門家と相談しながら導入していくことが、ICT初心者ともいえる法人のDX化に大事なことだと言えそうだ。
企業概要
法人名 | 社会福祉法人臼田保育園 |
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住所 | 長野県佐久市臼田2126-8 |
HP | http://usuho.com/ |
電話 | 0267-82-2332 |
創立 | 1951年 |
保育士数 | 17人 |
事業内容 | 一時保育/0・1歳児保育/障がい児保育/一時預かり保育 |