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事務所の壁一面に賞状のようなものが貼り出されている。近寄って見ると、すべてが特許を取得したことを証明する特許証。日本のものが多いが、中には韓国や中国、台湾で取得したものも含まれている。一体どれだけの特許を持っているのかを尋ねると、「50以上はあるでしょうね」と答えてくれたのが、様々な装置に使われるローラーと呼ばれる部品の製造や、ロールへのコーティングを行っている株式会社都ローラー工業代表取締役の町田成司氏だ。(TOP写真:都ローラー工業の町田成司代表取締役と壁一面に貼られた特許証)
50以上の特許を持ち製品やサービスの高度化を実現
「SiOx層具備基材」「搬送ロール及び薄物材製造装置」「塗布装置」「めっきレス塗布ロール」「ウェブ平行移動方法と、ウェブ平行移動ユニットと、ウェブ搬送装置」等々の特許を持つ。「都ローラー工業 特許」で検索すると、町田社長らが発明して同社が取得した特許が続々と出てくる。古いところでは、「プリント基板、リードフレーム等の水切り用ロールとその成形方法」が1989年10月の出願。30年以上前から事業に必要な工程や、素材の取り扱い方に関する“発明”を行ってきた。
「SDカードの開発に関わるような特許も持っているんですよ」と町田社長。表面処理の平滑化に関する部分らしく、記録精度や記録容量の向上に役立つものと言える。スマートメディアやメモリースティックなどが林立したメモリーカードの分野で勝ち残ったSDカードを支える技術を持つというなら、他の特許も相当に高い技術力と、画期的なアイデアが反映されたものと言えそうだ。
これだけ多くの特許を持っていれば、特許料もたくさん入ってくるのだろうと思いきや、「特許はお客さまが安心して当社の製品を使ってもらえるようにするために取得しています。それで儲けようとは考えていません」と町田社長は話す。企業が何かを製造し始めたところ、工程の一部に関する特許接触があるとの主張で企業や人から横やりが入り、特許料を支払わなければならなくなる事態が、これまでもあちこちで起こっている。そうならないために、事前に広範囲の特許を押さえておいて顧客に安心して使ってもらうことで、結果として取引量を増やしていくポリシーだ。
ウイルスの侵入防ぐセキュリティを更新
逆に、外部のライバル企業が特許を侵害してくるような事例には、注意深く市場観察をしている。特許ごと会社を買収してしまおうという動きも出てきそうだが、発明家の町田社長がいてこそ同社の価値が発揮されるのだとしたら、買収するよりは一緒に発展していこうという取引先の方が今は多いようだ。
ただ、隙を見せて会社の評判に影響が出れば、食い散らかされてしまうのがビジネスの世界。情報が外に漏れて取引先に迷惑をかけるような事態を防ぐため、外部から侵入しようとするコンピューターウイルスを新しいウイルスソフトに更新、ネットワークの出入り口に設置した。もちろん、各端末にもウイルス対策ソフトを導入して、いち早く危険を察知できるようにした。
「導入しているソフトやパソコン内にあるファイルをAIが判別して、危険かどうかを判断するソフトも導入しました」と町田社長。自社のホームページも「https」を設定し、またクラウドにもバックアップをとるように設定し安全性を高めている。
新型コロナウイルス感染症対策を行い関連製品も開発、川口商工会議所から「川口i-mono(いいもの)ブランド製品」に認定された
武器ともいえる特許の情報については、手元には置かず弁理士事務所に預けてそちらで管理してもらっているとのこと。デジタルの利用が浸透してきたからといって、すべてをデジタルに依存することなく必要なところはアナログを残す使い分けによって、より安全で効率的なセキュリティを構築している。
一方、人の健康に関する安全にも積極的に取り組んだ。新型コロナウイルス感染症の流行に合わせ、サーマルカメラを導入して入室時に体温をチェックし、自覚を促すことで感染が広がらないようにした。「玄関や部屋の中の空気も、数分で入れ換わるようにエアコンを強化しました。入室する時に少し待ってもらうのは、体に付着したウイルスが取り払われるようにするためです」と町田社長。緊急時にどのような対応をすれば最適な効果を得られるのかを見つけ出し、実行に移す行動力は、製造に必要な技術を自分で開発してしまうところと重なる。
コロナ関連では、実際に発明も行った。コロナウイルス対策噴霧溶液「ヨーソ君α」で、噴霧すると抗ウイルス・抗菌成分が空気中の気体成分を活性させ、周囲の浮遊ウイルスなどの不活性を促進し、感染リスクを減少させる効果があるという。「基礎疾患があってワクチン接種ができない人たちや、患者や医療従事者の人たちの院内感染リスクを減らせます」。貢献が認められ、2021年12月に川口商工会議所から「川口i-mono(いいもの)ブランド製品」に認定された。
次世代高速通信技術に対応した製品開発にも取り組む
次の時代に向けた技術開発や製品開発にも余念がない。次世代高速通信技術である5Gや6Gといった分野では、配線基板の表面から発生するノイズが通信の品質に関わってくる。このため、ノイズを低減させることを目的に、配線基板専用の塗布装置を開発し「強靭(きょうじん)なインフラ構築に貢献できるような装置開発も行いました」と町田社長。街中で目にする携帯電話の基地局に、同社の技術が使われることもあるかもしれない。
こうした多種多様な発明特許の取得は、すべては「幹をしっかりと守って、枝葉を伸ばせるようにするため」と町田社長。どんなにきらびやかな発明をしても、幹と結びついていなければすぐに枯れてしまう。ローラーの製造から始まり、基材表面のコーティング技術をも開発して付加価値を上げ、やがてコーティング技術そのものを売りにしていった同社の成長も、こうしたポリシーがあってのもの。多くの企業家にとって参考となる会社の育て方だ。
「人に迷惑をかけるな、自分の器以上のことをするな」を子息にたたき込む
「人に迷惑をかけるな、自分の器以上のことをするな」と自分の子どもたちに言い聞かせ、自身もそうした信念を貫きながら、今年がちょうど創業70周年となる会社を守り育ててきた。その中で、何が必要かを見極め動くことで、次の70年を生き残る会社になっていけるのだろう。今は環境への取り組みも積極化。2021年に環境マネジメントシステム「エコステージ2」を取得し、環境と共存可能な製造業務の構築を心がけている。
こうした流れに乗って、産学官連携で「高機能性常温DLCコーティング」技術を開発。光学系フィルム分野をはじめとする先端産業分野での歩留まり向上が実現できる。不良品を減らしたり、廃棄されるだけだった余剰材料を減らしたりすることで、CO2の排出削減にも貢献できるという。
会社にあるラボでは、新開発の「縦型両面塗布装置」も稼働している。非常に薄い基板(10μm)にコーティング剤を両面同時に塗布できる装置は、毎分最大4枚に塗布できるとのこと。わかる人が見ればとてつもない技術が導入された装置が、埼玉県草加市にある町工場の一角に置かれている。このギャップが、会社も人も決して見かけによらないのだということをはっきりと証明している。
企業概要
会社名 | 株式会社都ローラー工業 |
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住所 | 埼玉県草加市両新田西町112番2 |
電話 | 048-924-1319 |
HP | https://www.miyako-roller.co.jp/ |
創業 | 1953年4月1日 |
創立 | 1971年10月1日 |
従業員数 | 24人 |
事業内容 | 印刷・工業用各種ロールの製造・販売及び各種コーティング加工/精密塗布装置の製造・販売・環境対応型塗材販売 |